静かな秋と、派閥という名の生き物(前)
といとうエピソードも50まで来ました。
合わせて、新章突入です。
これも拙い文集を我慢強く読んで下さる皆さんの応援のおかげです。
ありがとうございます。
まだまだ頑張りますので、宜しくお願い致します。
では、新章をお楽しみ下さい。
ひょっとこ、とことこ
「衆を治むること寡を治むるが如くす。分数是れなり」
ーー韓非子ーー
多を治めることを少を治めるがごとくせよ。
それは仕組みの問題である。
北の討伐から6週間が経った。
学院の秋は、静かだった。
朝の空気が少し冷えるようになった。廊下に差し込む光の角度が変わった。
それだけが、季節の変化を告げていた。
俺は毎朝、ノートを開いた。
玄狼衆の現状…
傘下メンバー
旧玄狼衆三年生9名、蒼穹会吸収37名、北討伐協力者の学内協力者12名。
合計58名。
これを一つの組織として動かすことが、今の課題だ…
数が増えた組織には、必ず摩擦が生まれる。
蒼穹会からの37名は、エルンストの下で動いていた人間たちだ。
やり方が違う…
判断の基準が違う…
俺たちの文化を、まだ持っていない。
ーー仕組みで解決する。感情ではなく。ーー
俺が最初に手をつけたのは、情報の共有経路だった。
「ヴィクター。旧蒼穹会のメンバーの中で、情報収集の経験がある者を三名選んでくれ。お前の情報網の末端に加える。フォン・クラーゼンの名は出さなくていい。但し、報告の様式はお前が決めたものに統一しろ!」
「わかった。三日で選ぶ。」
「ラウル。旧蒼穹会の財務省系の人間たちと、一度集まって話をしてくれ。やり方を押しつけるな。まず聞け。どういう仕事をしてきたか、どこに強みがあるか。そこから、どう使えるかを報告してくれ!」
「……つまり、俺が聞き役か。」
「お前が一番向いている。」
ラウルが少し照れた顔をした。
「クルト。合同の訓練を週一回入れてくれ。旧蒼穹会の体を持った人間が何人かいる。鍛え方を揃えておきたい。但し、剣術の優劣は関係ない。チームで動く練習だけでいい!」
「わかった。楽しくやる!」
「楽しさの定義を間違えるな…」
「大丈夫だ! たぶん!」
エリカが静かに報告書を出してきた。
「これ、旧蒼穹会の記録。活動記録と財務記録と、構成員の情報が全部入ってる。使う?」
「全部使う。まずお前が読んで、要約してくれ。俺が読むのは、お前が重要と判断したものだけでいい!」
「……うん。」
エリカが頷いた。
その目が、少し嬉しそうだった。
仕事を与えられることが、この人間には力になる。
「法は貴賤を分かたず、縄は曲直に応ず」
ーー韓非子ーー
法は高貴も卑賤も区別しない。
縄墨は曲がりと直線に正直に反応する…
旧蒼穹会のメンバーとの、最初の全体集会を開いた。
37名が集会室に集まった。
俺たちとは顔つきが違う…
服の着こなしが違う…
立ち方が違う…
エルンストの派閥は、選民意識が強かった。
財務省・外交府と繋がる家柄の人間が多い。
それが文化として染みついていた…
俺は全員の前に立った。
「玄狼衆のやり方を1つだけ伝える。約束は守る。俺たちが破れば、俺たちが罰を受ける。お前たちが破れば、お前たちが罰を受ける。それだけだ…」
室内がざわついた。
1人が手を挙げた。旧蒼穹会の副代表格だった男だ。
「……それだけ、ですか?」
「それだけだ。」
「規則は?序列は?報告のやり方は?」
「ヴィクターから伝わる。エリカから伝わる。ラウルから伝わる。俺から直接全部を聞く必要はない。」
男がまた口を開きかけた。
その瞬間、ミア様が横から口を挟んだ。
「フォン・ブロッカー君、でしたよね。旧蒼穹会の記録、私も読みました。財務省への情報ルートの管理、すごく丁寧だった。ちゃんと見てるよ!」
フォン・ブロッカーが止まった。
ミア様の名前を、今更ながら認識した顔だった。
ハイルベルク侯爵令嬢。近衛最高位の娘。
「……ありがとう、ございます」
「これからもよろしくね!」
ミア様がにっこり笑った。
その笑顔の後ろ側に何があるかを、フォン・ブロッカーはまだ知らない。
知った頃には、もう組織に馴染んでいるだろう…
それでいい。
集会の後、ラウルが俺の隣に来た。
「……ミア様、うまいな…」
「タイミングが抜群だ…」
「あれは天然か、計算か?」
「両方だ…」
ラウルが少し黙った。
「……怖いな。」
「慣れる」
三週間後、旧蒼穹会のメンバーが報告書を出してきた。
ヴィクターの様式に合わせた、整った書式で。
組織は、静かに融合し始めていた…
50エピソードに至りました。
感激です。
ありがとうございます。
皆様からの温かい感想や激励、お待ちしています。
頑張る糧になりますので、宜しくお願い致します。
ひょっとこ、とことこ




