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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
3年生 学内派閥闘争編

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雨の灯りと、盤上の見えない駒

その夜、雨が降っていた。


第七棟の一室で、シオン兄上は窓の前に立っていた。


雨粒が窓ガラスを伝って流れていた。

その向こうに、学院の灯りが点々と見えた。


その灯りの一つが、ルークの部屋のものだった。


シオン兄上は、その灯りをただ見ていた。

何も言わなかった。

動かなかった。


温度のない目が、雨の向こうのルークの部屋を見ていた。


その目の奥に、何があるのか…

怒りではない。

悲しみでもない。

誰かを待つ目でも、誰かを試す目でもなかった…


ただ…

見ていた。


他の何も見ず、ただその灯りだけを見ていた。


雨は降り続けた。灯りは消えなかった。


側近が一度、様子を見に来た。

扉を開けて、シオン兄上の背中を見た。

何も言わずに、静かに扉を閉めた。


シオン兄上が今夜ここに立っているのが何度目かを、側近は数えていなかった。

数える意味を、見つけられなかったから…


雨は、夜が明けても降り続けた。

シオン兄上は、夜が明けるまでその場を動かなかった。


その目に何があるのか。

答えを知る者は、この場にいない…


─────────


同じ夜、俺はノートを開いていた。


今回の整理。


北の討伐、四段の仕掛けで投降させた。

損害ゼロに近い。


蒼穹会の傘下入り、エルンストの不在を機に、37名を取り込んだ。


66,000枚の納金、完済した。


数字の上では、全て達成した。

しかし、ペンが止まった。


エルンストの落馬が、まだ引っかかっていた。


タイミング、場所、目撃者のなさ、管理人の不在…

全部が、都合良すぎた。


誰かが動いていた…

俺の知らないところで…


誰だ…


ミア様の情報収集能力は、俺の想定を超えている。

エドの目の奥には、まだ読めていないものがある。

シオン兄上が何を見ているのか、俺にはわからない…


この盤上には、俺の知らない動きがある…


それは俺を助ける動きか。

それとも俺を使う動きか。

あるいは、その両方か…


俺はノートの次のページに一行書いた。

「盤上には、俺の知らない駒がある」


書いた後、しばらくその一行を見た。


証拠はない。

問う理由も今はない。

しかし、覚えておく。

いつか必ず確かめる。


雨の音が窓を叩いていた。


今夜、この学院のどこかで誰かが起きていて、何かを考えているかもしれない。

あるいは俺の知らない場所で、俺に関係する何かが静かに動いているかもしれない。


それが今の、この盤上の状態だ。


廊下で足音がした。


軽い足音だった。俺には、誰かすぐわかった。


今日は、ちゃんとノックだった。


「ルーク、起きてる? お菓子もらったんだけど、一緒に食べない?」


俺は少し考えた。

「……入って」


扉が開いた。ミア様が、焼き菓子の包みを両手で抱えて立っていた。

満面の笑顔だった。


「やった!! ルーク、今日もお仕事お疲れ様! えらかったね〜!!」


俺は何も言わなかった。

ただノートを閉じて、椅子を一つ引いた。


ミア様が入ってきて、向かいに座った。

包みを開けて、俺の前に菓子を並べ始めた。

笑顔だった。いつもの笑顔だった。


「ルーク、どれが好き? これ甘いよ、これはちょっと苦い、こっちはナッツが入ってる」


「……どれでも」

「じゃあこれ! 一番おいしいから!」


ミア様が菓子を俺の前に置いた。

嬉しそうだった。本当に、ただ嬉しそうだった。


俺はその菓子を口に入れながら、その笑顔の奥にある目を少しだけ見た。


読めていない。

まだ、読めていない…


しかしこの令嬢が、俺のために動いているということだけは…

なぜか、確かだと思っていた。


理由は、わからない。

証拠も、ない。

ただ、確かだと思った。


「ルーク、おいしい?」


「……おいしい」


ミア様がぱっと輝いた。「よかった!!」


雨の音が、窓の外に続いていた。


盤上は、まだ動いている。

俺はまだ、盤の全体が見えていない。


しかし今夜は、それでいい。

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