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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
3年生 学内派閥闘争編

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ルークの知らない夜 二人が動いた理由

俺が北の討伐を進めていた間、俺の知らないところで、別の動きがあった。


それを、俺はずっと後になるまで知らなかった。


─────────


ミア様とエドが最初に話したのは、討伐の準備が始まって三日目の夜だという。


場所は学院の西棟の廊下。

人の気配がない時間を選んだ、意図的な接触だった。


先に声をかけたのは、ミア様だった。


「エド君…」


夜の廊下に2人きり。

ミア様は笑顔だった。

しかしその笑顔の奥に、あの目があった。

天然の令嬢ではない。近衛最高位の娘の目だった。


エドは止まった。振り返った。

「……なんだ、ミア様?」


「ルークのこと、好き?」


エドが止まった。

「……唐突だな。」


「答えて…」


エドがミア様を見た。その目を見た。

笑顔の奥にある目を、ちゃんと見た。

「……嫌いじゃない。」


ミア様が頷いた。

「そうだよね。エド君はそういう人だと思った…」


「何が言いたい?」


「ルークのお仕事、うまくいくといいよね…討伐が終わったら、次は四大派閥の壊滅に動くと思う。あの子は絶対そうする…」


「……そうだろうな。」


ミア様が少し首を傾けた。


「蒼穹会のエルンスト・フォン・ヴァイスベルクが、一番狙い目だと思う。知ってる?」


「知っている。最大派閥の代表だ…」

「そう。でもね、蒼穹会って、エルンスト一人に権限が集中しすぎてるんだよ。エルンストが抜けたら、残りは方向を失う。そこにルークが入れば、一気に取り込める…」


「……正しい分析だ。」

「でしょ!」


ミア様が、廊下の暗がりをしばらく見た。

その横顔が、いつもの笑顔の令嬢とは別の顔だった。


「エルンスト、最近馬の扱いが荒いんだって…馬術の練習場で、よく一人で遅い時間に練習してるって聞いてる。管理人は、その時間帯に離れていることが多いらしい…」


エドは、何も言わなかった。


ただ、その目が一瞬だけ動いた。

計算していた。

ミア様が何を言おうとしているのかを、確認していた。


「続けてくれ…」


ミア様が静かに言った。


「ルークは、私たちが動いたことを知らなくていい…あの子は自分の力で全部やり遂げたと思っていい。それが、ルークにとって一番いいことだから…」


エドが、しばらく沈黙した。


廊下に、何も聞こえなかった。


「……なぜ俺に声をかけた?」


エドが言った。

「他にやりようはあったはずだ。なぜ俺だ?」


ミア様が、少し考えるように間を置いた。


「エド君、施設出身なんでしょう?」


エドが止まった。


「……なぜそれを?」

「兄様から…ちゃんと調べてある。施設で育った人は、誰かの命令でも誰かの感情でも動かない。自分が決めた理由でしか動かない…。だから聞いたの、ルークのこと、好きかって…」


エドが黙った。


ミア様が続けた。

「好きな理由は関係ない。嫌いじゃないなら、それで十分…エド君が動くなら、絶対にやり遂げると思った。中途半端な人間を巻き込む気はなかったから…」


長い沈黙があった。


「……あんたは?」

エドが口を開いた。


「ルークのために動いている。本気で…」

ミア様が笑った。今度は、天然の笑顔だった。


「当たり前じゃない。大事な弟みたいなものだもん。小さい頃から知ってる。ずっと可愛かった。今も可愛い…あの子が誰かに潰されるのは、絶対に嫌だ…」


最後の一言だけ、声が少し低くなった。

笑顔のまま、しかし眼の温度だけが変わった。


エドはその目を、少しの間見ていた。


「……わかった。」


それだけだった。


─────────


北の討伐が終わって二週間後…


蒼穹会の代表、エルンスト・フォン・ヴァイスベルクが、馬術の練習中に落馬した。


夜の練習場だった。

いつも通りの1人練習で、管理人はその時間帯に場を離れていた…

馬が突然暴れた、と翌朝の報告書に書かれた。

目撃者は…いなかった。


エルンストは怪我こそしたが、命に別状はなかった。

しかし…全治一ヶ月以上という診断が出た。

その間、蒼穹会の指揮を執ることはできない。


蒼穹会は、代表不在の状態になった…


その報告を、俺は翌朝に聞いた。


代表不在の蒼穹会。

43名の派閥団員が、方向を失っている。

今なら、入れる…


俺は即座に動いた。


まずヴィクターを呼んだ。

「蒼穹会の内部を洗ってくれ。エルンストに不満を持っている人間を特定する。代表代行が誰になるかも調べてくれ…」


「一日もらえるか…」

翌朝、ヴィクターが名前の書かれた紙を持ってきた。

不満を持つ者が7名。代表代行の候補が2名。


ラウルを呼んだ。

「この7名に接触できる人間を、蒼穹会の中から見つけてくれ。直接ではなく、人間関係を辿って繋いでくれ。俺の名前はまだ出すな…」

「わかった。二日もらえるか?」

「わかった、宜しく頼む…」


三日目、ラウルが代表代行と接触できる人間を見つけてきた。

蒼穹会の中で財務省系の仕事を担っていた男だった。

エルンストのやり方に不満を持ち、変化を望んでいた。


その男を経由して、俺は代表代行に会った。


相手は20代の男だった。

エルンストの側近上がりで、実務はできる。

しかし方向を示す力がなかった。

それが俺の読みだった…


「蒼穹会の持つ財務省・外交府との連携ルートは、そのまま活かせる。玄狼衆の傘下に入っても、実務は変わらない。ただし窓口は一本化する。あなたの立場は保証する。やっていることは今と同じだ。」


代表代行が俺を見た。

7歳の子供を見る目だった。

しかしすぐに、その目が変わった。

「……第5王子殿下が、直接ですか?」

「直接来た。それだけの話だ…」


代表代行は三日間考えた。

四日目に、承認した。


43名のうち37名が、玄狼衆の影響下に入った。

残り6名は去った。…

それでいい。無理に引き留める必要はない。


シオン兄上への報告をしに行った。俺はそれを自分の仕事の成果として報告した。


シオン兄上は何も言わなかった。

書類をめくる手が、一瞬だけ止まった。

それだけだった…


俺は部屋を出た。


廊下を歩きながら、頭の中に引っかかりがあった。


エルンストの落馬。タイミングが良すぎた。

暗い練習場。

目撃者なし。

管理人の不在。

俺が蒼穹会に動こうとしていた、ちょうどその前夜…


誰かが、動いていたのかもしれない…


しかし俺には証拠がなかった。

問う理由も…

なかった。


俺は廊下を歩き続けた。

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