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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
3年生 学内派閥闘争編

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三段の策と白旗が上がるまで 戦わずして勝つということ

出陣の前夜、俺は眠れなかった。


眠れないのは恐怖ではない。策を何度も頭の中で動かしていたからだ。

地形、兵数、補給路、内部の亀裂。

一手ずつ確かめていた。


孫子の兵法にこういう言葉がある。

「勝者はまず勝ちてのち戦いを求め、敗者はまず戦いてのち勝ちを求む。」

戦う前に、勝てる状況を作ること。それが策の本義だ。

俺は今夜、すでに勝っていなければならない。


出陣の朝、空は曇っていた。


夜明け前に学院を出た。

310名…

整列した列が、朝霧の中を北へ向かって動いた。


俺は馬の上で、頭の中の地図を広げた。


丘の北斜面に本陣。

首領の天幕は最高点。

東側に前衛の主力。

西側に斥候部隊。

南側の一本道が、唯一の補給路。


相手の強みは高所と人数だ。

しかし高所に陣取る者は、補給路が限られる。人数が多い集団は、内部の統制が難しい。


強みの裏に、必ず弱みがある。


一段目。正面で目を引く。

二段目。西の目を潰す。

三段目。喉を断つ。

そして、内部を割る。


四段の仕掛けだ。最後の一手だけは、俺にも読めない変数がある。


ラウルが前夜に届けた文が、相手の隊長格に届いているかどうか。届いていたとして、その男が動くかどうか。


そこだけが、計算の外にあった。


移動しながら、俺は各部隊長を馬で呼び集めた。

「エド。第一部隊、百名を率いて正面に出ろ。ただし戦うな。圧力をかけるだけでいい。相手が南を固め始めたら、それでいい。三時間で終わらせる。深追いも禁じる。」


エドが頷いた。

その目の奥に、また何かがあった。


「ヴィクター。第三部隊、百五十名で西の高地を落とせ。相手の斥候網ごと潰してくれ。俺たちの動きを読ませるな。エドが正面に出た直後に動け。相手の目が前に向いた、その瞬間だ。」


「タイミングは合わせる。問題ない。」


「ラウル。第二部隊、二百名で東から補給路に回り込め。ヴィクターが高地を落とした後、相手は混乱する。そこが好機だ。補給路を断ったら、すぐに使者を出せ。事前に文を送った隊長格が動くはずだ。そのタイミングを逃すな。」


「わかった。必ず繋ぐ。」


「ミア様。本陣で補給と連絡を管理してくれ。各部隊からの報告を全部集めて、俺に届けてくれ。何かあれば、一秒でも早く。」


ミア様が真剣な顔で頷いた。

「わかった。絶対に守る…」

笑顔ではなかった。

この令嬢の、戦場における顔だった。


「クルト、ニコラス、マルティン、ヴォルフガング。お前たちは各部隊の連絡役と後詰めだ。伝令を一本も切らすな。切れたら全部の計算が狂う。頼む。」


クルトが珍しく真剣な顔で頷いた。

「一本も切らさない。」


「エリカ。俺の横で情報を整理してくれ。各部隊からの報告が届くたびに、地図に落として状況を教えてくれ。」


エリカが静かに頷いた。

「わかったわ。」


全員に指示を出し終えた。

夜明けの光が、丘の稜線に当たり始めていた。


作戦が始まった。

エドの第一部隊が、丘の正面に姿を現した。


丘の上の相手が動いた。鬨の声が上がった。

しかしエドは前に出なかった。じりじりと圧力をかけながら、一定の距離を保ち続けた。


エドの指揮は、静かだった。

声を荒げず、旗を派手に振らず、ただ部隊を面として前に置いた。

しかし圧力は本物だった。100名の塊が、息をするように動き続けた。


相手は判断を迫られた。

前に出れば高所の優位を失う。動かなければ正面の圧力が続く。

相手の指揮官は、南側を厚く固めることを選んだ。

想定通りだ。


その瞬間、ヴィクターの第三部隊が西の高地へ動いた。


相手の斥候部隊は、西からの動きを想定していなかった。

エドへの対応で、視線が完全に正面に引きつけられていた。

ヴィクターの部隊は声を上げず、足音を殺して高地に取り付いた。


接触から15分で、西の高地が落ちた。

相手の斥候部隊は壊滅し、西の目が完全に消えた。


ヴィクターから本陣に伝令が届いた。

ミア様が即座に俺に伝えた。「西、落ちました!」


「ラウル、動けっ!!」


伝令を飛ばした。


ラウルの第二部隊が、東から補給路に向かって走った。

南を固めていた相手の主力が、背後の異変に気づいたのは30分後だった。

しかしその時点で、補給路はすでに封鎖されていた。


相手の陣内に、混乱が走った。


兵たちは南を向き、東を向き、西を向いた。

どこを向いても、出口がなかった。


─そのタイミングを、隊長格は待っていた。


前夜にラウルが届けた文を、隊長格はずっと懐に入れていた。

配下200名を率いて、武器を地面に置いた。

静かだった。しかし決定的な動きだった。


「隊長格が離脱」という報告が、相手の首領のもとへ届いた。

それが最後の一手だった。


相手の内部が、音を立てて割れた…


本陣にいた俺には、丘の中腹で武器が地面に落ちる光景が見えた。

それを見た周囲の兵たちが、次々と動揺し始める。

一つの亀裂が、全体に広がっていく。

頭の中で描いていた絵と、ほぼ一致していた。


ラウルが使者を首領のもとへ送った。


「補給路は断った。西の退路も塞いだ。内部からも崩れている。投降すれば、武器を取り上げるが命は保証する。抵抗すれば、補給が尽きるまで待つだけだ。選ぶのはそちらだ。」


使者を受け取った首領が、丘の上から俺たちを見下ろした。


3000対310。

数の上では、まだ相手が圧倒的だった。

しかし補給路が断たれていた。

西の目が消えていた。

内部が割れていた。逃げ道がなかった…

そしてこの作戦の背後には、王国軍の討伐依頼という名分があった。


首領の視線が、ゆっくりと動いた。

崩れかけた南の守り。

武器を置いた隊長格の部隊。

それから、俺たちの本陣。


7歳の子供が、馬の上にいた。


首領がしばらく黙っていた。

俺には、その沈黙の意味がわかった。計算しているのだ。

今からでも戦えるかどうか。しかし数字は全て、俺の側にあった。


「……白旗を、出せ。」


低い声だった。それが崩れの始まりだった。


白旗が、丘の上に上がった。


武装解除の作業が続く中、エドが俺のそばに来た。


「……想定通りだったか?」

「概ね…」

「概ね…か。」


エドが丘を見た。投降した者たちが列を作って降りてくる。


「……隊長格が動いたのは、俺には読めなかった。ラウルの文が効いた。」

「人間を動かす方法が、一つではないということだ。」


エドが少し黙った、それから俺を見た。

その目に、何かが静かに変わった気がした。

何かが、一段、落ちた気がした。


クルトが遠くから走ってきた。

「全部隊、連絡確認完了! 一本も切れなかった!」

「よくやった」

「ルーク! 初めて褒めてくれた!!」

「今回だけだ!」

「また褒めてくれ!!」


ヴィクターが静かに戻ってきた。

「高地の斥候部隊、全員確保した。情報を取れる。」

「エリカに任せてくれ」

「既に動かしてある」


3000名のうち、投降が2300名。逃散が500名。

戦闘による損失は両軍合わせて100名名以下。

俺たちの損害はゼロに近かった。


武装解除が終わった頃、ミア様が本陣から走ってきた。帳簿を抱えていた。


「計算した! 成功報酬、確定!」


「いくらだ」


「金貨149,490枚!!ルークのノルマ66,000枚と、みんなのノルマ69,900枚を全部引いても──

残り13,590枚! みんなの活動資金になるよ!!」


ミア様が帳簿を掲げて、満面の笑顔だった。

さっきまでの戦場の顔が、完全に消えていた。


ラウルが座り込んだ。

「………本当に勝ったのか?」

「勝った。戦ったとは言いがたいが…」

「いや十分すごいぞ。これ全部計画通りだったのか?」

「概ね…」


クルトが笑い声を上げた。

「概ね! 概ねって言ったぞこいつ!」

ヴィクターが静かに言った。

「……実際、ほぼ想定通りだったな。隊長格が動いたタイミングが少し早かったが、誤差の範囲だ。」

エリカが言った。

「情報の精度が高かった。斥候報告のおかげだよ。」

ニコラスが続けた。

「エドが前線を崩さなかったから、こちらも動きやすかった。」


エドは何も言わなかった…

少し離れたところで、一人で丘の上を見ていた。

白旗が風に揺れていた。

その背中が、今日初めて少しだけ違って見えた。


夕暮れの中、俺たちは帰路についた。

310名の軍が、北の丘を背にして南へ歩いた。


ミア様が馬を並べてきた。

「ルーク、お腹空いてない? 途中で何か買おうよ!」

「帰ってから食べる…」

「えー! 頑張ったんだから良くない!?」

「ミア様は、戦場から帰る途中に買い食いをするつもりか?」

「だって勝ったんだもん!!」


ラウルが後ろで笑っていた。

クルトが「俺は食べたい!」と即答した。

ヴィクターが無言で前を向いた。

エドが小さく鼻を鳴らした。


俺は少し考えた。

「……もう、好きにしろ。」


ミア様が輝いた。

「やった!! みんな聞いた!? ルークがいいって言ったよ!!」


戦場からの帰り道が、なぜか少し賑やかになった。

俺は先頭で馬を進めながら、その声を聞いていた。


悪くない。

頭の中で、静かにそう思った。

なげ〜!

でも長くないと話せないので…

最後までお読みいただいた皆様…


感謝です!!

評価、感想頂けましたら、必ずお返事致します。

宜しくお願い致します。

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『善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ』 めっちゃ(*´∀`*)尸"カッコいい♪
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