北の丘の情報と王国軍への交渉
その夜、俺はノートを開いた。
課題の整理。
1、66000枚を1ヶ月以内に稼ぐ。
2、四大派閥のうち1つを壊滅させ、玄狼衆の傘下に加える。
66000枚…
学院内の通常業務では、1ヶ月で稼げる額ではない。
商業は時間がかかりすぎる。
1つだけ、答えがあった。
軍事作戦だ…
学院の地理の授業で、北の国境付近に不穏な情報が断片的に出ていた。
俺はヴィクターを呼んだ。
「北の国境付近の情勢を今すぐ調べてくれ。フォン・クラーゼンの情報網で」
「父上への報告書に含める。一晩かかる」
「頼む」
翌朝、ヴィクターが1枚の紙を持ってきた。
─北の国境線付近の丘に、武装集団が集結している。
規模、約3000。
かつて王国に反旗を翻した地方豪族の残党と、傭兵崩れが混在。
現在、丘の地形を利用して布陣を固めつつある。3週間後には南下を開始する可能性がある。
「正規軍は動いていないのか」
「動いていない」
ヴィクターが少し間を置いた。
「……正確には、動けない状態に置かれている」
「どういうことだ?」
「この規模の武装集団を、父王陛下が見過ごすはずがない。
3000規模の反乱の芽は、通常であれば即座に潰しにかかる。
それが陛下のやり方だ。と、俺の父からの報告書にも、そう書いてあった」
ヴィクターが紙を机に置いた。
「しかし軍は動いていない。予算の問題、という名目になっている。
だがフォン・クラーゼンの情報では、軍への予算凍結に、第4王子殿下の意向が入っている」
俺は止まった。
「……シオン兄上が、意図的に軍を止めている」
「そう見て間違いない。陛下もそれを知った上で、動いていない。
つまり…この3000人規模の反乱は、誰かが動くのを待つために、放置されている」
誰かが動くのを待つために…
俺はその言葉を頭の中で転がした。
父王とシオン兄上が、示し合わせて軍を止めている。
そして俺は今、「66000枚を稼げ」という命令を受けている。
これは、最初から用意されていた舞台かも知れない…
俺のために、3000人規模のの反乱分子が残されていた。
俺がそこに気づいて動くかどうかを、誰かが見ている。
ヴィクターが静かに言った。
「乗るのか?」
「乗る。乗らなければ舞台の意味がない」
丘の地形を利用して布陣を固めている。つまり高所を制している。
高所を正面から攻めれば損害が大きい。
しかし、高所に陣取る者は、補給路が限られる。
そこを断てばいい。
正面から当たらない。補給を断ち、逃げ道を塞ぎ、降伏させる。
消耗を最小にして投降させる。それが最善の絵だ。
「ヴィクター、王国軍の民間委託制度を知っているか」
「正規軍が動けない場合に使う制度だ。前金と成功報酬が出る」
「3000人規模なら前金はどれくらいだ?」
「金貨5000枚前後の支度金と、成功報酬」
「明日、王国軍の連絡官に会いに行く。手配してくれ」
「……わかった」
翌日、王国軍の連絡官が学院に来た。
30代。軍人の体格だが、目は官僚のそれだった。紙の上で動く人間の目だ。
「北の国境付近の武装集団の討伐を、受ける。前金として、金貨5000枚の支度金を要求する」
連絡官が書類を取り出した。
「玄狼衆は、第4王子殿下の派閥です。その権威での交渉ということでしょうか?」
「そうだ…」
「金貨5000枚は──」
「3000人規模の反乱集団だ。正規軍が動けないなら、その予算は余っているはずだ」
連絡官が止まった。正確な計算をしている顔だった。
「……前金5000枚。成功報酬は討伐規模に応じた定額支払い。この条件でよろしいでしょうか?」
「合意だ…」
金貨5000枚の支度金が、翌日玄狼衆に届いた。




