最初の命令と、あの足音はまずい予感
玄狼衆に入って三日目の朝。
集会室に全員が集められた。シオン兄上の姿はなかった。
代わりに、黒い詰め襟の側近が一人、前に立っていた。
「シオン殿下よりの下知を伝える」
「三年生全員への課題だ。各自の入札落札額の3倍を、1ヶ月以内に派閥に納めよ」
室内が、微かにざわついた。
三倍。
ラウルは3300枚で落とされた。三倍で9900枚。
クルトは2300枚、三倍で6900枚。
ヴィクターは4200枚、三倍で12600枚。
エリカは2700枚、ニコラスは2300枚、エドは6000枚、マルティンは1500枚、ヴォルフガングは1000枚。
8名のノルマ合計、69900枚。
「手段は問わない。質問は受け付けない」
「ルーク・フォン・エドヴァルト殿下には、別途命令がある」
側近の視線が、俺に向いた。
「落札額の10倍を、1ヶ月以内に納めよ。66000枚だ」
「さらに、その過程において四大派閥のうち1つを壊滅させ、玄狼衆の傘下に加えよ。以上だ」
室内が完全に沈黙した。
ラウルが俺を見た。「……ルーク、66000枚と、四大派閥の壊滅って」
「わかっている…」
その瞬間だった。
バン、と扉が開いた。
ミア様が飛び出していった。
文字通り、全速力で…
「ちょっと待ってて〜!」という声だけが廊下に流れていった。
全員が、開いたままの扉を見た。
ラウルが俺に言った。「……何?」
「…わからない」
30分が経った。
ミア様が戻ってきた。息を切らしていた。しかし笑顔だった。
「表に金貨があるから、取りに来て!」
表に出ると、革袋が積まれていた。
台の上に…床の上に…
袋を整列させた使用人が3名、一礼して退いた。
「数えて。30000枚あるから」
俺は一瞬止まった。「……いつ用意した」
「ずっと前からあったよ。三倍返しにして兄様に返すつもりだったから」
最初から用意していた。
下知が来る前から、この結末を読んでいた。
ミア様が、にこにこしていた。
「もう隠すものないから、自分の力使えるし! 一番乗り!」
ラウルが放心した顔で袋の山を見ていた。
クルトが口の閉じ方を忘れていた。
ヴィクターが、わずかに眉を動かした。
またミア様に先を読まれた…その顔だった。
ミア様が俺を見た。
「ルークの分も、私が払ってあげる!」
「断る」
「え、でも六万六千枚だよ? 派閥の壊滅まで言われてるじゃない」
「だからこそ、自分でやる」
「でも!」
「断る」
ミア様がしゅんとした。しかし1秒後、目が輝いた。
「じゃあ手伝うのは?!」
「……それも」
「やだ! 絶対手伝う! 駄目って言っても手伝う!!」
ミア様が仁王立ちになった。
十四歳の少女が、真剣な顔で仁王立ちになっていた。
その目の奥に、昨日の壇上で見たあの目の鋭さが、一瞬だけ宿った。
俺は数秒、考えた。
「……足を引っ張らない、という条件で」
「引っ張らない! 絶対! むしろルークの邪魔を全部片付けてあげる!」
「その言葉、覚えておく」
ミア様が満面の笑みになった。
「やった! ルークとお仕事する!!」
ラウルが俺に小声で言った。「……大丈夫か?」
正直に答えた。「わからない…」




