二年越しに『ミア姉様』を勝ち取った令嬢
初日の夜、ミア様が俺の部屋に来た。
ノックもなかった。扉が開いた。振り返ると、ミア様が満面の笑顔で立っていた。
「ルーク! 同じ派閥になったね!」
「……ノックを」
「あ、ごめんごめん! でも、でも、ねえ、一緒の派閥だよ!?」
ミア様が部屋に入ってきた。椅子を引いて向かいに座った。誰の許可も求めなかった。
「ルーク、いくつだっけ」
「7歳だ」
「私は14歳! ふふ。やっと会えた」
「……やっと、とは」
ミア様が少し遠くを見た。
「ルークのお母様と私のお母様は、姉妹なんだよ。知ってる?」
「知っている。母上から聞いた」
「でしょ。だから小さい頃、よく一緒に遊んでたんだよ。お母様たち二人に連れられて、庭でお茶したり、花を摘んだり」
俺の記憶にも、その場面はある。
明るい庭。花の匂い。大人たちの笑い声。
そして…自分よりずっと背の高い少女が、俺の手を引いて走っていた記憶。
「ルークってね、小さい頃から私にずっとくっついてたんだよ」
ミア様が、懐かしそうに目を細めた。
「どこに行っても後ろをついてきて。お母様たちが話してる間も、ずっと私の手を握ってて」
「……そういう時期もあったかもしれない」
「あったんだよ! かわいかったんだよ!」
ミア様が机に両肘をついた。目が完全に輝いていた。
「でもね、父様に呼ばれて英才教育が始まってから、会えなくなっちゃって。
ルークはまだ小さかったし。私もずっと稽古稽古で。
そのうち学院に来ることになって、偽名で入って、正体も隠して…」
ミア様の声が、少しだけ静かになった。
「ルークが入学してきたとき、兄様から教えてもらった。ルーク・レギナルドは本当はルークだって。
会いたかったけど、こっちも正体がバレたら困るから、知らないふりをしてた。
二年間、ずっと」
俺は黙って聞いていた。
ミア様が顔を上げた。今度は笑顔だった。しかし目の端が、わずかに光っていた。
「でも、もう大丈夫。全部バレた。全部終わった。
だから今日から、ちゃんとルークの隣にいられる!」
「……それは」
「隣にいていい?」
真剣な顔で聞いてきた。
目の奥に、昨日の壇上で見たあの目の鋭さが静かに宿っていた。
しかし声は、純粋に問うていた。
「……好きにしろ」
ミア様がぱっと輝いた。「やった!!」
「ただし」
俺は続けた。「仕事の邪魔はするな」
「しない! 絶対しない! むしろ手伝う!!」
それから、ミア様は少し首を傾げた。
「ねえ。昔みたいに、ミア姉様って呼んでくれない?」
「……断る」
「えー!? なんで!!」
「7歳だ。それ相応の呼び方がある」
「でもルークが小さい頃、自分からそう呼んでたんだよ!?
『ミアねぇたま』って! 今はもうちょっと上手に言えるでしょ!!」
『ミアねぇたま』
その言葉に、断片的な記憶が重なった。
庭。花。大人たちの声。そして──自分がそう呼んでいた記憶が、確かにある。
「……一回だけだ」
ミア様が息を飲んだ。
「ミア、姉様」
発音した瞬間、自分でも気恥ずかしかった。7歳の体が余計に事態を悪化させていた。
ミア様が両手で口を押さえた。
目が完全に潤んでいた。今度は本物だった。
「……可愛い……ルーク可愛い……小さい頃と全然変わってない……」
「一回だけだと言った」
「もう一回!」
「断る」
「ルーク!!」
その後、30分かけてようやくミア様を部屋から出すことに成功した。
出ていく間際、ミア様は「またね! 大好きだよルーク!!」と言って走っていった。
俺は扉を閉めて、椅子に座った。
─この令嬢は、本当に油断ならない。
そして、本当に、正直な人間だ。
2年間、俺の正体を知りながら知らないふりをしていた。
昨日の壇上で、あの恐ろしい目を見せた。
今夜、7歳の俺の前で本気で目を潤ませた。
全部、本物だ。
計算と感情が、同じ人間の中で同時に存在している。
…どういう人間なんだ、ミア・フォン・ローレンツという人間は…
え〜本当に、シリアスな話だったはずなのに…
遊び心エピソード入れてしまい。
本当に申し訳ありません。
これからもミア様に振り回されて下さい。
書いてる私も振り回されてます。
本当に困ったキャラなんです、ミア姉様は…




