父王からの手紙
正体が明かされた日の夜だった。
学院の廊下は、まだ静まっていなかった。
第5王子殿下、近衛最高位・ハイルベルク侯爵令嬢。
その二つが同じ日に明かされた。
150名以上が、今夜その事実を抱えて眠れない夜を過ごしている。
シオン兄上が俺を第七棟に呼んだ。
部屋に入ると、シオン兄上は机の前に座っていた。
書類を見ていた。振り返らなかった。
しばらくして、筆を置いた。
そのまま、机の上の一点を指差した。
そこに、一通の封筒があった。
何も言わなかった。
ただ指差したまま、また書類に目を落とした。
俺は封筒を取った。
封蝋に王国の金印が押されていた。
父王の筆跡。流れるような、しかし一字一字に重さのある文字。
「世に頭角を表せ」
七文字だった。俺はその七文字を、三度読んだ。
今まで父王のやってきたことと、真逆の言葉だ。
体力試験の結果をBに変えた。
入学試験の総合順位を三位に下げた。
序列決定試験でマイナス100点を課して、序列順位を二十位にした。
二年間、目立たない位置で動かせてきた。
それが今、「表せ」に変わった…
基礎学習の二年間が終わった。派閥の時代に入る。
潜んでいるだけでは動けない。
潜む期間は、糧を溜める期間だった。
今、その糧を使う段階に入る。
俺は手紙を折り、胸に仕舞った。
シオン兄上は、ずっと書類を見ていた。
俺が何も言わなかったので、俺の方も見なかった。
しばらくして、視線だけが一瞬こちらに向いた。
温度のない目が、俺を見た。
それから書類に戻った。
それが「行っていい」の合図だった。
俺は部屋を出て、廊下を歩きながら、頭の中で整理した。
今日の壇上でのそれぞれの反応。
ラウルが足元をふらつかせた。
クルトが口を開けたまま固まった。
ヴィクターはルークについては読んでいた。
しかしミア様には驚かされた。
エドは…
驚いているように見えた。
しかし「見えた」だけだ。
エドが何かを隠している。
それはまだ、確かめられていない。




