大会という名の罠 強き者⑤ 決着
朝、フリッツから急報が届く。
内容を読んで俺は立ち上がる。
「エリカ、王都に戻ります。今すぐ」
「何があったんですか?」
「フリッツから…、拘束した者の中から重大な情報が出ました。直接聞かないとわかりません…」
「わかりました」
「ラウル、後を頼みます…」
「え!? 俺が!?」とラウルが言う。
「36名の確認と各会場の最終報告を受け取ってください。ヴィクターを残していきますから」
「わかった!! 任せて!!」
「一つだけ約束してください…」と俺が言う。「名無しの男には話しかけないで下さい」
「うん、わかった!!」
馬に乗りかけた時、学院から何名かが駆けつけてくる。
「殿下、学院より参りました!」
「ちょうどいい」と俺が言う。「ラウルのサポートをお願いします。ラウルの言う通りに動いて下さい。ただし…、ラウルが余計なことをしそうになったら止めて下さい。やってしまった後はうまく処理して下さい。目立ちすぎている時は前に出て隠れ蓑になって下さい」
学院生たちが「は、はい!!」と言う。顔が少し引きつっている。
「俺、そんなに余計なことする?」とラウルが言う。
「します」と俺が言う。即答で。
「……」
「期待してみます。頼みましたよ…」
馬が走り出す。
学院生の1人がラウルを見る。「あの…、ラウル殿って普段どんな感じの方ですか?」
「俺?楽しい人だよ!!」とラウルが言う。
「殿下が即答で余計なことをすると言った方が楽しい人…」と学院生が言う。隣の学院生と目を合わせる。
「覚悟が必要そうですね…」
「失礼な!!」
ラウルは最初、ちゃんとしている。各会場からの報告を受け取り、ヴィクターに渡す。学院生たちが補佐していて、順調だ。
「次の報告はどこからですか?」とラウルが聞く。
「東会場から来るはずです」と学院生の1人が答える。
「わかった!! 待ってよう!!」
学院生同士が目を合わせる。
「意外とちゃんとしてますね…」
「殿下の言いつけを守ってますね…」
「思ったより大丈夫かもしれません…」
「杞憂でしたね…」
「俺の悪口言ってる?」とラウルが言う。
「言ってません!!」と全員が言う。
「褒めてたよね?」
「…、はい、ある意味、褒めていました」
「だよね!!」
報告が続々と入ってくる。北会場、東会場、南会場。ラウルが真剣にメモを取っている。学院生たちが補佐する。思った以上にちゃんとしている。
「ラウル殿、このまま順調にいけば今日中に全部終わりますね」と学院生の1人が言う。
「そうだね!! ルークに褒めてもらえるかも!!」
学院生たちが少し安心した顔になっている。
しかし昼過ぎ、会場の端で名無しの男が1人で座っているのを見つけた時、ラウルの足が止まる。
「ラウル殿」と学院生の1人が言う。「殿下に話しかけないよう言われていましたが…」
「わかってるよ」とラウルが言う。しかし足が動いていた。
「ラウル殿!!」
「ちょっとだけ!!」
「ちょっとだけって言う人が一番長くなるんですよ!!」
「大丈夫!! すぐ終わる!!」
「信用できません!!てか、話しては、いけません!」
しかしラウルはもう歩いている。
学院生たちが顔を見合わせる。
「どうしますか?」
「止められませんでした」
「尻拭いの時間ですかね…」
「早すぎませんか?!」
「さっきまで、殿下に褒めてもらえるって言ってたのに…、」
「一瞬でしたね崩壊が…、」
ラウルが男の隣に座る。
「お疲れ様で〜す!」
男が見る。無言だ。
「今日の試合、強かったね…」
無言。
「昨日より動き良かったんじゃない? 俺、全部見てたよ!!」
無言。
「ちゃんと見てたんだよ? 無視しないでよ!!」
無言。
「ねぇ」とラウルが言う。
「あんた…、帰りたい場所ってある?」
男が止まる。今まで何にも反応しなかった男が、初めて動きを止めてラウルを見ている。
「なんとなく聞いてみただけなんだけど」とラウルが言う。
「俺さ、旅してると帰りたくなる時あるんだよね、みんなのとこに。ルークんとこっていうか、黎明義軍っていうか、あの場所に…。なんかこう、ほっとする場所があるって大事じゃないですか…」
「…、ない」と男が言う。
「ない?」
「もう、ない…」
「そっか…」とラウルが言う。何も聞かずに、何も言わずにただそう言った。
2人が並んで座っている。試合の歓声が遠くで聞こえていて、風が吹いていて、それだけだ。
「俺さ…」とラウルが言う。
「帰りたい場所がない人って…、すごく疲れてると思う。毎日戦って、疲れて、帰るとこもなかったら…、それって何のために戦ってるんだろって思わない?」
男が黙っている。
しかし今日は違う、ちゃんと聞いている。
「だから」とラウルが続ける。
「帰りたい場所になれる場所を作ればいいんじゃないかな。俺たちみたいに。うちは変な人ばっかりだけど、なんかあったかいんだよね…」
男がラウルを見る。
今まで見たことのない目で、何かが動いている。
「お前は…」と男が言う。
「ラウルだよ!」
「バカか…」
「あ〜、それよく言われる!!」とラウルが言う。
男の口元が少しだけ動く。笑ったのか、笑おうとしたのか、どちらかわからない。しかし確かに何かが動いている。
後ろで学院生たちが、青ざめている。
「どどど、どうしましょう!! 殿下に話しかけるなと言われてたのに!!」
「でも…、止められなかったし…、」
「俺たちが止めに行けばよかったんでは!?」
「あの目で見られたら近づけないでしょ!!」
「それはそうですが!!」
「尻拭いってレベルじゃないですよ、これ!!」
「と、とりあえず報告を…、」
「誰が報告するんですか!!」
「あ、お前ら、ちょっと声でかいよ!」とラウルが言う。
「うるさいっす!!」と学院生全員が言う。
名無しの男がその騒ぎを一瞥する。また前を向く。
しかし口元が…、また少し動いた気がする。
夜、ヴィクターから報告が来る。
「全9会場の予選が終わりました。36名確定です。他国出身と思われる者が14名います」
「わかった、メモしとく」とラウルが言う。しっかりメモを取っている。
「ラウル殿、今日の報告管理は完璧でしたよ」とヴィクターが言う。
「でしょ!!」とラウルが言う。胸を張っている。
「名無しの男に話しかけた件を除いては…」
「あっ…、それは別の話」
「別じゃないですよ!!」と学院生全員が言う。
「落ち着いて」とヴィクターが言う。
「殿下に報告しなければなりませんが…、名無しの男と話しましたね?」
「…、うん」とラウルが言う。
「怒られると思います…、多分…」
「だよね」とラウルが言う。
しかし顔が笑っている。
「でもいいや。あの人…、笑いそうになってたから。それだけでいいんだよ、俺は…」
学院生たちが「誰が殿下に報告するんですか…?」と言う。
「そうだ、じゃんけんで決めよう!」とラウルが言う。
「ラウル殿が報告してください!!」と全員が言う。
「えー!! 俺が怒られるの!?」
「当たり前です!! ラウル殿がやったんですから!!」
「でも俺、あの人のために良いことしたんだよ?」
「それはそうかもしれませんが、殿下との約束を破ったのも事実です!!」
「…、わかった」とラウルが言う。少し間を置いて。
「でもあの人、笑いそうになってたのは本当だから…、それだけは信じてよ」
学院生たちが黙る。
「それは、信じます」と1人が言う。少し表情が和らいでいた。
「ありがとう!!」とラウルが言う。
「じゃあ、明日一緒に怒られに行こう!」
「なんで、私たちまで!?」
「仲間でしょ!」
「いや、仲間になった覚えはないです!!」
「えー!!」




