大会という名の罠 強き者①
会場に着いた瞬間、ラウルが叫んだ。
「すっご!! 人がいっぱいいる!!」
「静かにしてください…」とエリカが言う。
「でもすごくない!? こんなに人が来るとは思わなかったよ!!」
「思っていたより多いですね…」とルークが言う。馬上から会場全体を見渡している。「しかし…、多い方がいい」
広場に人が溢れている。受付には長い列ができている。王国の兵が整列して誘導している。国境近くの会場とは思えないほどの賑わいだ。様々な言葉が飛び交っている。王国の言葉だけではない。他国の言葉も混じっている。
「ラウル…」とルークが言う。
「なに!?」
「あの列の中に、王国の人間ではない者が何人いますか?」
ラウルが列を見る。首を傾ける。また見る。
「……わかんないな」と言う。
「エリカ…」
「15人から20人ほどです…」とエリカが即答する。
「言葉、目線、立ち方。全部で判断していますが、おそらくは…」
「ラウル、エリカを見習って下さい…」とルークが言う。
「習えるかな、それ!!」
受付が始まる。
参加者が名前と出身地を申告していく。しかし、全員が正直に答えているわけではない。ヴィクターが受付の後ろに立って、全員の顔を確認している。
「殿下…」とヴィクターが小声で言う。
「東の受付に気になる者がおります…」
「どんな者ですか?」
「商人と名乗っていますが…、手に剣ダコがあります…」
「イーレン公国の斥候ですかね…」とルークが言う。
「断言できますか?」
「まぁ、できませんが…、しかし、泳がせておいてください。とりあえず今は…」
ヴィクターが頷く。
ラウルが「斥候って、ほんとに来るもんなんだね!」と言う。
「そりゃ来ますよ。むしろ、来なければおかしいかな…」とルークが言う。
「9国全てが気になっているはずです。王国が突然大会を開いた…、何が目的か?どのくらいの力が今あるか?直接見に来るのは当然ですかね…」
「じゃあ、普通は追い出さないの?」
「なぜ追い出すんですか? 呼んだら来ないのに来てくれたんです。せっかくだから王国の力を存分に見てもらいましょう!」
ラウルが「……なんか怖いこと言ってない?」と言う。
「褒めてますか?」
「ほ、褒めてないよ!!」
予選が始まる。第一試合。大柄な男が相手を一撃で吹き飛ばす。広場が沸く。
「凄い!!」とラウルが叫ぶ。
「あれは、ただ力があるだけです」とルークが言う。
「え、強くないの?」
「突っ込みすぎています。戦場で複数を相手にしたら囲まれて終わりですね…」
「俺には同じに見えるんだけど…」とラウルが言う。
「見え方が変わるまで、しっかり修行してください」とルークが言う。
「また修行の話!!」
試合が続く。勝者が上がり、敗者が去る。ルークは全員の動きを見ている。強さではなく癖を見ている。戦場での生き残り方を見ている。
その中で…、一人だけ、空気が違う者がいる。
見た目は普通だ。背が高いわけでも、体が大きいわけでもない。しかし広場に入った瞬間、周囲がその男を避けるように間隔を空ける。本人は何もしていない。ただ立っているだけだ。それでも周りが動く。
「あの人なんか変じゃない?」とラウルが言う。
「変ではありません」とルークが言う。
「ただ…、他の者とは違いますね。」
「どう違うの?」
「あの目を見てください…」
ラウルがじっと見る。
「……なんか、怖い目してるね」とラウルが言う。
「そうです…」とルークが言う、静かに…
「あれは何かを失った目です…」
ラウルがその男に近づいていく。
「ちょっと止めてください」とエリカが言う。
「なんで!? 気になるじゃん!!」
「面倒なことになります」
「なんで面倒になるの!? 話しかけるだけだって!!」
エリカが止める間もなく、ラウルが男の隣に立つ。
「よ!! どこから来たの!? 名前は!? 強そうだね!!」
男が……、無言だ。
ラウルを見ていない。前を向いたまま、微動だにしない。
「……あれ?」とラウルが言う。「聞こえてる?」
無言。
「俺、何か失礼なこと言った?」
無言。
ラウルが戻ってくる。「エリカ、俺何かした?」
「何もしてないです」とエリカが言う。
「じゃあなんで無視されてるの!?」
「あなたが悪いんじゃないです。あの人が…、誰にも反応しないんです」
「……怖っ」とラウルが言う。
ルークがその男をずっと見ている。
「名前を教えてもらえますか?」と名無しの男に聞く。
男がルークを見る。初めて視線が動く。しかし何も言わない。
「……明日、試合で会いましょう」とルークが言う。
男が…、前を向く。まるで、最初から誰もいなかったかのように。
「……ルーク、あの人と知り合い?」とラウルが言う。
「違います」とルークが言う。
「じゃあなんであの人だけ反応したの?」
「さぁ」とルークが言う。「わかりません」
夜、各会場から最初の報告が上がってくる。
「北東会場…、 ラングリア連合国側から強者が数名。蛮族の血が混じった体つきをしています」
「東会場…、イーレン公国側から来た者の中に、昼間確認した商人風の男以外にさらに2名の斥候と思われる者がいます」
「北部中央会場…、ノーザンランド連合国側から来た者が多い。ブレストの名前を出す者もいます」
「東南部会場…、キングマリン海洋連合から使者が来ました。『うちの強者を何人か送る。存分に使え』との言葉です」
「海賊王らしい…」とルークが言う。少し笑う。「ありがたい…」
「全会場合計で……、本日の参加者は1247名です」とヴィクターが言う。
「1247人!!」とラウルが叫ぶ。「多すぎじゃない!?」
「多い方がいいです」とルークが言う。
「なんで?」
「多ければ多いほど…、網にかかる魚が増えます」
「……やっぱり怖いこと言ってる」とラウルが言う。
「褒めてますか?」
「褒めてない!!」
ルークが少し笑う。明日、名無しの男の試合がある。それが楽しみだ。




