野盗軍師ルーク
夜明け前…
ルークは松明を持って山道を1人で歩いている。護衛が後ろについてくるが、声をかけてこない。
地形を見ている。谷の入り口、斜面の角度、岩の配置、草の密度。どこに人を置けるか、どこから動かせるか、どこが死角になるか。頭の中で何度も動かしている。
「何を見てるんだ?」
後ろからランドが来る。
「地形です。あの谷は、昨夜も使いましたね?」
「あぁ。いつも使う」
「深さはどのくらいですか?」
「馬が逃げられない程度には深い」
「その両側の斜面は…、人が立てますか?」
「立てるが……、何でだ?」
「敵を谷に引き込みます。両側の斜面に人を置いて上から押し込む。150人でも、谷の中に押し込めば身動きが取れなくなります」
「……なるほどな。だが入らなければ意味がない」
「入らせます」
「どうやって?」
「逃げます」とルークが言う。「ガルさんに囮をお願いしたいです。ただし、 ただ逃げるだけじゃない」
「どういうことだ?」
「罵声を浴びせながら逃げてもらいます。とにかく相手を怒らせる。バカにして、笑いながら、しゃにむに追いかけてこさせる。怒りで頭が真っ白になった野盗は、谷に入ったことにも気づかない」
ランドが黙る。斜面を見る。谷を見る。ルークを見る。
「悪くない。だが追いつかれたら?」
「追いつきそうな奴は先頭だけ足を止めます。馬の足でも、歩兵の足でも」
「どうやって?」
ルークが荷物から…、 何かを取り出す。
連弩だ。
「これで撃ち抜きます」
ランドの目が変わる。「……それは」
「連弩です。国家最重要武器なので、壊したら大変です。ちなみにこれ1つで馬が50頭は買えます」
「なんでそんな武器を俺に渡すんだよ!!」とガルが叫ぶ。いつの間にか来ていた。
「いえいえ、差し上げます」
「差し上げる!? 正気か!?」
「注意事項をお伝えしたまでです。ねぇ、ランドさん」
ランドが連弩を受け取る。しばらく見る。それからガルを見る。
「ガル」
「なんだ兄者?」
「こいつは笑ってるが── お前これ壊したら俺がお前を殺す」
「え?」
「絶対に壊すな。それと……」
「それと?」
「……いや、あえて言わん」
「な、なんだよ!? 言いかけて止まるな!!」とガルが叫ぶ。
「兄者! 待ってくれ! やっぱり代わってくれ! 俺じゃなくていいだろ!?」
「ガル、お前が適任だ…」とランドが言う。静かに。
「兄者……」
「お前以外に、あの速さで走れる奴がいるか?」
「…………」
「ガル」
「……なんだよ」
「頼む」
「……わかったよ!!」とガルが叫ぶ。
しかし声が少し震えている。
「兄上様、目がマジなんだって……」とガルが小声で言う。
「ちょっと、ランド様……」
「早く行け!」とランドが短く言う。
「……はい!!」
ガルが走っていく。
空が白み始めた頃、斥候が戻ってくる。
「来ます!! 山道を登ってきています!!」
「わかりました。位置についてください」
全員が動く。ランドが斜面を上る。護衛が岩陰に隠れる。
静かになる。風が吹く。松明の火が揺れる。
遠くから…、怒鳴り声が聞こえ始める。
「……来ますね」とルークが呟く。
その顔が…、まるで子供のように笑っている。
「殿下、本当に大丈夫ですか?」と護衛が言う。
ランドが頭を抱えている。
護衛も頭を抱えている。
谷の入り口を見ながら、ルークだけが笑っている。




