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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
富国強兵

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未来の治世

 謁見の準備中だった…


 正装に着替えていた。側近が帯を締めてくれている。父上に呼ばれていた。9国の現状について、直接報告を求められていた。


 その途中だった…


 目の前が、暗くなる。


 床が消える…

 声が消える…

 側近が何かを叫んでいる…

 声が、綿の向こうから聞こえる…


 それきりだった。



 気がつくと、どこでもない場所にいた。


 床もない…

 壁もない…

 ただ暗い…

 しかし俺は立っている…


「ほう…」


 声がした。


 振り返ると、老人がいた。痩せているが背筋が伸びている。目が鋭い。しかし怖くない。悠々として、凛として、その目の奥に、長い年月を見てきた深さがある、


「韓非子、と申す」と老人が言う。


「……韓非子殿」


「知っているか?」


「知っています。何度も引用させていただいています」


「引用か…」と韓非子が言う。少し笑いながら、「使い方は悪くなかったと存じます。しかし…、まだわかっていないことがあるかと思いまして…」


「何ですか、それは?」


「治世のことでございます…」



 いつの間にか、俺たちは歩いていた。


 どこかわからない。ただ歩いている。韓非子が前を歩き、俺がついていく。


「国とは何だと思いますか?」


「民が暮らす場所です…」


「それだけでございましょうか?」


「……王が治める場所です」


「王がいなければ国ではない、とお思いですか?」


 俺が黙る。


「国とは……、仕組み、と申せましょうか…」と韓非子が言う。「王がいなくても回る仕組み。民が安んじて暮らせる仕組み。その仕組みを丁寧に作っていくことが、治世の本質ではないかと思うのでございます…」


「仕組み、とは?」


「法、と申しましょうか…」と韓非子が言う。「感情ではございません。情でもない。法が正しく機能すれば、王が凡庸であっても国は動きます。しかし法が歪めば、王がいかに賢くとも国は腐っていくものでございます…」


「法を作るべきですか?」


「作っていただきたいと思います。しかし…、法はあくまで道具に過ぎませぬ。道具を正しく使うには、目的が必要でございます…」


「目的?」


「そなたの国の目的は何でしょうか?」



 俺が止まる…


「民を守るために、動きます…」


「それだけですか?」


「……足りませんか?」


「少し足りないかもしれませぬ…」と韓非子が言う。厳しくはない。道を示すように言う…

「民を守ることは、手段でございましょう。目的ではない…。民を守って、その先に何があるのかを、考えていただけますか…」


「民が豊かに暮らせる国です…」


「では、そのためには?」


「富国強兵が必要です。税を整え、農業を立て直し、商業を育て、軍を強くする…」


「そのためには?」とまた韓非子が言う。穏やかに…


「……時間が必要です」と俺が言う。「9国との戦うには盤石にする時間が必要です。2.3の国を取れても意味がない。全部を飲み込む為の準備期間が…」


「左様でございます…」と韓非子が言う。「お前様はすでにおわかりになっている。でも、頭でわかっているだけでは足りませぬ。なぜ時間が必要なのかを、心で理解していただけますでしょうか?」


「心で、とは?」


「焦らずにいていただけますか?」と韓非子が言う。「10歳の王子が、9国を前にして焦っておられる。その焦りが、お前様を焦らせ倒しにかかってきたのでございます」


「……そうかもしれません」


「急いで作った法は歪みます。急いで固めた軍は崩れます。急いで結んだ同盟は裏切られます」と韓非子が言う。「しかし、時間をかけて丁寧に作ったものは、必ず残るものでございます…」


「治世の極意を教えてくださいますか?」


「極意などというものは、わたくしにもわかりませぬ…」と韓非子が言う。「ただ一つだけ申し上げられることがございます…」


「何ですか?」


「民の声を聞いていただきたい…」と韓非子が言う。「法を作る前に、軍を動かす前に、外交をする前に、まず、民の声を聞いてください。王は民のために存在するものでございます。民のない王は、ただの男に過ぎませぬ…」


「……銅貨の首飾り」と俺が呟く。


「何でしょう?」


「俺は銅貨の首飾りを持っています。金貨は王から…、銀貨は王妃から。そして銅貨は── 街の民から」


「ほう…」と韓非子が言って目が細くなる。「ということは、あなたはすでにご存じだったのですね。その銅貨が全ての根本であると…」


「しかし忘れかけていました…。北伐で、謀反で、9国の擁立で…」


「どうか忘れないでいただきたい…」と韓非子が言う。「何があっても。銅貨を忘れた王は民を忘れた王でございます。そして民を忘れた王には、国は守れませぬ…」


 韓非子が、少し遠くを見る…


「もう一人、あなたのところに来る…」


「誰ですか?」


「あなたに…、別のことを教える者です。私が教えられるのは治世と法についてまで…その先は…あの方の領分です」


「あの方、とは…」


 韓非子が答えない。ただ前を向く。


「もう一度だけ言います。覚えておいていただけますか?」と言う。「民の声を聞くこと。銅貨の事を忘れないこと。そして、焦らないこと…」


 その言葉が暗闇の中に響く。


「……はい」と俺が言う。


 韓非子の姿が遠くなる。暗闇が深くなる。


 そして俺は次を待った…

お読みいただき、ありがとうございます。


 新章「富国強兵編」、始まりました。


 北伐の前章が47話という長い旅になりまして、正直なところ作者自身が「やっと終わった…」とへたり込んでいました。

ちょっと更新もなかなかうまくいかず、へたり込んでいる間もルークは動いていたようです。

今回は謁見の準備中に倒れてしまいました。


 倒れている間に、ルークの言葉で語られる章になります。

戦い好きの方には、もしかするとあまり刺さらないかもしれません。

「富国強兵」、内から国を作る話になります。


そして夢の中に、韓非子が登場しました。


 悠々として凛として、丁寧に道を示す老人として書きました。「焦らずにいていただけますか?」「どうか忘れないでいただきたい…」

この口調が気に入っています。北伐で何度も引用させていただいた韓非子が、こういう形で登場してくれるとは、ありがたい次第です。


 次話では、予想通り孫武が登場します!


 韓非子が治世を語るなら、孫武は軍略を語る。2人がルークに何を語るのか、作者も楽しみながら書いています。


 新章は9カ国とどの様に戦うかの前の場面…


 話が進むと、ランブルグという新キャラが登場します。30代、劇場型の強者。イーレン公国の代表として、ルークと言葉で戦います。


 10歳のルーク対30代の強者。どちらが言葉で場を制するか…

続きをお楽しみに。


 感想・評価・ブックマーク、いただけると作者が、1人でガッツポーズします。


 また次話でお会いしましょう!


ひょっとこ、とことこ でした。

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