王都帰還」
「将、帰りて国に入れば、士卒を労わり、民を安んぜよ…これ王者の道なり…」
ーー孫子ーー
将が帰国すれば、兵を労わり、民を安んじよ。
それが王者の道だ。
ルークが、王都に帰る…
王都の城門が見えた時…
ルークは馬を止めた…
しばらくその風景を眺めていた。
城壁があり、
旗があり、
門番がいて、街の音が聞こえてきた。
出発した時と、同じ城門だったはず…
はずか、見え方が違った。
出発した時は、大きすぎて、怖かった。
今は、大きいが、怖くない…
「帰ってきたな…」とルークが呟いた。
城門をくぐった。
街の人間が振り返った。黒い甲冑の軍が来る。銅貨の首飾りが揺れている。そして、黒い旗が風に揺れている…
「黎明義軍だ!」と誰かが言った。
その声が広がった。
「帰ってきた…」「北伐から帰ってきた!」「黎明義軍が帰ってきた!!」
声が重なる。人が集まってくる…
ルークが前を向いたまま進んだ。
しかし、端で子供が叫んだ。「殿下!!」
ルークが少し振り向いた。子供が手を振っていた。ルークが、手を振り返した。
それだけだったが、その一瞬で街が、少し沸いた。
城に入った…
父王エドワード・フォン・レギナルド三世が、待っていた。
王が待っていたのは、謁見の間だった。
明らかにその顔に疲れがあった。
北伐の長期化…
アルベルトの死…
各地の謀反や建国…
そして息子達の離 離反と建国…
3ヶ月で、父上も変わっていた…
ルークが膝をついて、「只今帰還しました、父上…」
父王が、立ち上がった…
謁見の礼ではなかった。ただ立ち上がって、ルークの前に来た。
「よく帰った…、ルークよ。」と言った。
声が、震えていた。
「……ルーク」と言った。「よく帰ったな…」
ルークが「…はい、ただいま、帰りました…」と、言った、
父王が、ルークの肩に手を置いた。
何も言わなかったが、しかしその手が、全てを語っていた。
謁見の後、父王とルークと2人きりになった。
「アルベルトのことは…、聞いては、いる…」と父王が言った。
「はい…」
「ルークよ、悲しかったか?」
ルークが「はい…、とても…」と言った。
「わしもだ…」と父王が言った。
「あいつは、臆病で周りに気を張れる… 長男として、いや、長男を1番理解して振る舞えていたと思っておった。国が何もなければ1番向いていた王子だったと思う。ともあれ乱世の世においては、あやつは良い奴すぎたのかもしれん… 、そして油断とは言わないまでも、あいつは正直過ぎた…」、父王が肩を落としていた。
「しかし、泣いている暇がない。今の王国には…、それをしてやれる余裕はない…」
「わかっています」とルークが言った。
「9国の状況は把握しています。王国がすべきことを考えながら帰ってきました。」
父王がルークを見た。「10歳のお前が、またそういうことを言う…」
「すみません…」
「謝るな…」と父王が言った。
「……嬉しいんだ。お前が帰ってきてくれて」
ルークが「……父上」と言った。
「お前を北伐に行かせた時、いや行ってくれた時、無事に帰ってきて欲しいと思ったと同時に、帰ってこないかもしれないと思っていた」と父王が言った。「しかし帰ってきた。北伐の活躍、4400名を連れて帰ってきた」
「全員ではありません」とルークが言った。「失った者もいます…」
「それでも」と父王が言った。「お前は帰ってきた。それだけで今は十分だ…」
2人が、少し黙った。
「父上…」とルークが言った。
「なんだ?」
「アルベルト兄上の暗殺、調査を続けています。必ず突き止めます」
父王が「……頼む」と言った、静かに…
「はい」
「無理をするな…」と父王が言った。
「ミア姉様にも言われました」とルークが言った。
「賢い子だ、ミアは…」と父王が言った。
「あやつの言うことは、聞いておけ」
ルークが「……はい」と言った。
その夜。
ルークが自分の部屋に戻った。
久しぶりだった。北伐に出る前の部屋が、そのままであった…
机があら、本があった。窓から王都の夜景が見えた。
ルークが窓を開けた。夜風が入ってきた。
3連の首飾りを握った。金貨。銀貨。銅貨。
「……帰ってきました」と呟いた。
誰にでもなく、王に…、王妃に…、街の民に…
それから、バロックに、エドに、アルベルト兄上に…
「まだ足りないものがあります」とルークが言った。「でも、必ず見つけます…」
夜風が吹いた…
王都の夜景が、広がっていた。
「智者は必ず利害を雑えて慮る……」
ーー孫子ーー
智者は必ず利と害の両面を考える。
王都に帰ったルークの前に利も害も、山積みになっていた。
9国の戦国時代。
アルベルト兄上の暗殺の真相。
足りないものの答え…
しかし、ルークは帰ってきた。
それが、全ての始まりだった。




