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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
北伐 龍は北へ向かう

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老炎瞬終

 押し合いが続いていた…


 バロックの腕が震え始めていた。ブレストの足が、わずかにぶれていた。どちらも消耗が激しく、体力の極限が近い。しかし、どちらも目だけは死んでいなかった。


 鍔迫り合いのまま、その周りの時間が止まっているようだった。


 どちらも引けなかった…


 どちらも動けなかった…



 その時、戦場の向こうから、この静寂を打ち破る声が響いた。


「敵軍副将サナリス討死!!」


 声が上がった。


「敵軍副将ギルビン討死!!」


 また上がった。連呼された。


 ブレストが、止まった。


 ほんの一瞬だった…


 剣の力が、わずかに緩んだ。目が、はるか先の戦場の向こうへ動いた。


 その一瞬…

 バロックの目が、光った。


 大きく踏み込んだ。


 鍔迫り合いから、一気に前へ。


 右剣が振りおろされ、空を切った。ブレストが下がろうとした、左剣が振り下ろされ来た。空を切った。


 しかしブレストが体勢を立て直す前に、右剣が跳ね上がり3撃目を放った。


 ブレストが受けて流し、左剣もまた跳ね返り大剣でかろうじて4撃目を受け、そして、その剣をブレストが弾いた。


 「受け切った」とそう思った瞬間…


 5撃目が来た。


 左肩だった。


 薄く、しかし確実に、切り裂いた。


 ブレストが「……っ」と声を上げた。驚き狼狽えた初めての声だった。


 凄いと、周囲の兵たちが息を呑んだ。



 しかし、まさかの6撃目が来た。



 上からの振り下ろしだった。


 ブレストが咄嗟に剣を上げた。しかし間に合わなかった。


 バロックの剣が、ブレストの鎧を切り裂いた。


 静寂が落ちた。


 達人の剣ではなかった。


 神速の剣だった。


 70代の老将軍が神速の6連撃を放っていた。



 その瞬間。


「これでトドメだ!!」


 バロックの側近が叫んだ。弓を引いていた。狙いはブレストの頭に放たれた。


 矢が力強く、ブレストに向かった。


 ブレストが右手を上げて、防ごうとした。


 しかし矢は右手を貫通し、そのまま左目に刺さった。


 ブレストが、大きく声を上げた。


 今度は、抑えられなかった。


 その時、四方から蛮族の兵たちが駆けてきた。


 ブレストの部下たちだった。北の蛮族の精鋭、ブレストが戦って認めさせた者たちだった。誰も信じないブレストを、それでも守ろうとする者たち…


 ブレストを取り囲んで、盾になった。矢を防いで、剣を防いだ。


 救出が始まった。


 ブレストが、バロックを見た。片目から血を流しながら。矢が刺さったまま。それでも、目が生きていた。


小さな声で、「……また会おう、バロック」と言った。


「ああ」とバロックが言った。


「次は、酒でも持ってこい」


「奢られる方が好きだと言った」とブレストが言った。


「わしもだ」とバロックが言った。


 もちろんそのやり取りは周りの音にかき消され、お互いに聞こえるわけもなく、相手がそう言っているであろう推測に過ぎなかった。


 ブレストが、蛮族の部下たちに支えられて、去っていった。



 その瞬間、バロックの体が止まった。


 膝が、折れそうになった。腕の力が、抜けた。双剣を握る手が、震えていた。


 緊張の糸が、切れたのだ…


 70代の体が、限界に来ていた。


「若いの……」


 バロックが呟いた。


 声が、小さかった。


「おじじ殿!!」


 ルークが駆けてきた。バロックの体を支えた。


「おじじ殿、しっかりしてください!!」


「…うるさい」とバロックが言った。しかし声に力がなかった。「騒ぐな……」


「騒ぎます!!」とルークが言った。


 バロックが「潮時だ、こちらも退くぞ…」と言った。「殿はエドに任せ…ろ。」


「承知しました!」とルークが言った。涙をこらえていた。


 ルークが寄り添い、バロックが離脱を始めたのを確認しながら、「すぐに手当を」とエドが言った。


「しんがりは俺が、しかと引き受けます」


 側近たちがバロックを抱えた。撤退が始まった。


 エドがバロックを見た。


「お見事でした、バロック様」と言った。静かに。


 バロックが、目を細めた。


「……お前に言われるとは」と言った。「わしも老いたな」


「老いていません」とエドが言った。「6連撃を放った70代を、老いたとは言いません」


 バロックが── 小さく笑った。


「……行け、エド」と言った。「頼んだぞ」


「はい」とエドが言った。


 エドが振り返った。前を向いた。


 その目が、一騎でも刈り取ろうとする敵と戦場を見ていた。


「老いたる炎、一瞬に燃え尽きる。その一瞬こそ、最も熱し…」

ーー韓非子ーー


バロックの炎が、瞬いた。

6連撃が放たれ、ブレストが去り、バロックが倒れた。

しかしその炎は、消えていなかった。

ルークに抱えられながら、バロックの目もまだ、前を向いていた。

お読みいただき、ありがとうございます。


 老炎瞬終。


 当て字で、このタイトルを決めた瞬間から、この話の結末は決まっていました。老いた炎が、一瞬だけ燃え尽きる。その一瞬こそが、最も熱い。バロックという男を書き続けてきて、 この話が、熱くて好きです。


 6連撃…


 正直に言うと、書きながら「バロック、お前すごいな……」と思っていました。作者が一番驚いていました。4連撃を出した時点で「おっ」となり、5撃目で「まじか」となり、6撃目の振り下ろしで「やりすぎたか……」と思いましたが、いや、バロックならやる。70代でも、右目がなくても、30年のブランクがあっても…

やる男なんです、この人は…


 ブレストも今回初めて声を上げました。


 誰も信じない男が、唯一信じていたサナリスとギルビンが同時に討ち取られた報せを聞いた一瞬、その動揺を、バロックが見逃さなかった。


 そして蛮族の部下たちが救出に来る。誰も信じないブレストを、それでも守ろうとする者たちが。ブレストは気づいているのか、気づいていないのか…… その答えは、またいつか。



 バロックとブレストの最後のやり取り。


「また会おう」「次は酒でも持ってこい」「奢られる方が好きだ」「わしもだ」


 片目から血を流しながら、鎧を切り裂かれながら、この2人はこんな会話をしています。

まぁもちろんお互いに聞こえるわけがないんですけどね…


 そしてエドの「お見事でした、バロック様」。


「老いていません。6連撃を放った70代を、老いたとは言いません」


 エドがこういうことを言う男だとは、思っていなかった読者もいるかもしれません。しかし、エドはずっとそういう男でした。口数が少ないだけで。


 次話、エドの番です!


 しんがりという役割がどういうものか…

様々な歴史好きな方々は、その重さがわかると思います。


 エド、頑張れ!!


 作者も全力で書きます。


 感想・評価・ブックマーク、いただけると作者が泣いて喜びます。深夜に一人で!

特に、感想頂けると嬉しいです。

宜しくお願い致します。


 また次話でお会いしましょう。


ひょっとこ、とことこ でした…


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