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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
三年の刃、静かに研がれる

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研がれる理由

王都での修行が始まって4ヶ月


ルークは、10歳になっていた。


誰も祝う暇がなかった。

フリッツが「おめでとうございます」と言った。

エドが「……そうか」と言った。

ミア姉様が「おめでとう!今夜お祝いしよう!!」と言って、夜に黒パンとスープを出してくれた。それで十分だった。



王都の修行は変わっていた。

変わったのは、密度だ。


朝 公務

昼 公務

夕 幻の訓練場

夜 情報整理と翌日の準備


それは最初から同じだった。

しかし、3ヶ月で、中身が別物になっていた。


エルゼ卿が渡してくる条文の量が、最初の5倍になっていた。

しかし読む速さも5倍になっていた。

ハーゲン卿の兵站計算が、複数の戦場を同時に動かす規模になっていた。

俺は、同時に3つまで頭の中で動かせるようになっていた。


幻の訓練場では、フリッツとの仮想演習が、毎回「前回の反省」を反映した形になっていた。

一手遅れる癖が、ほぼ消えていた。


ほぼであって完全ではない。

でも、確実に変わっていた。



エドの変化が一番、目に見えた。


6日目に三合持てるようになったエドは、3ヶ月で、別の剣を持っていた。


ヴァイス卿が言った。

「……お前、攻めが変わったな。」


エドが「どう変わった?」と聞いた。


「……前は受けるだけだった。今は受けながら、次を作っている。」


「……そうか」


「……何が変わった?」


エドが少し考えた。

「……わからない。しかし、前より、動く理由がある気がする。」


ヴァイス卿が黙った。

それから「……明日も来い」と言った。

毎日そう言っていた…


グレン卿は、エドを見る目が、最初から変わっていた。


「剣に目的がない」と言っていたグレン卿が33ヶ月目に入ってから、そう言わなくなっていた…。


代わりに、こう言っていた。

「……お前の剣、少し重くなった!」


エドが「重い、とは?」と聞いた。


「……守るものが見えかけている剣は、こういう重さになる。まだ見えていないが、見えかけている」


「……わかりません。」


「……わからなくていい。今は…」

グレン卿が、そう言った。


俺は、その話をエドから夜に聞いた。



幻の訓練場の体術修行が終わった後、フリッツが「今日は個別課題にします」と言った。


ミア姉様は体幹の修正へ。

俺はフリッツと戦場読みの問答へ…


エドは、1人で剣を振っていた。


俺は、エドを見ていた。

フリッツとの問答の合間に、視線だけ向けていた。


エドの剣が、変わっていた。


速さは。最初からあった。

しかし3ヶ月前の速さは「薄い」速さだった。紙を切るような速さだった。


今は…違った。


重さがあった。

速いのに重い。

矛盾しているように聞こえるが、そうだった。

何かを断ち切るような、何かを守るような…

そういう重さが、剣の軌跡に出ていた。


「……殿下」とフリッツが言った。

「集中してください…」


「……はい。すみません。」


「……エドのことが気になりますか?」


「……変わっていると思って。」


「……どう変わって見えますか?」


俺は、少し考えた。

「……剣に、理由が生まれかけている気がします。」


「……そうですね」とフリッツが静かに言った。

「しかし、まだ、生まれていない。」


「……違いますか?」


「……生まれかけているのと、生まれているのは、全く違います…。今のエドは理由の入り口に立っています。しかし。まだ中に入っていない。」


フリッツが、エドを見た。


「……入り口に立ったまま長くいると、人は迷います。迷った剣は、一番もろい…」


俺はそれを聞いて、少し黙った…


「……俺に何かできますか?」


「……殿下にしかできないことがあります」とフリッツが言った。

「しかし。それは私が言うことではありません。」



その夜…

宿に戻るとエドが中庭で素振りをしていた。


夜の素振りは、いつものことだった。

3ヶ月、毎晩続いていた。


俺は中庭に出た。

エドの隣に、石に腰かけた。


エドが、素振りを続けた。

止めなかった。


しばらく、黙っていた。…


俺が「……エド」と言った。


「……何だ?」


「……1つ聞いていいか?」


エドが、素振りを止めた。

剣を下ろして、俺を見た。


「……お前は、何のために強くなっている?」


エドが少し黙った。

「……聞いていいか?」


「……聞いていい」

また、黙った…


「……わからない」とエドが言った。


「強くなりたいから、強くなっている。しかし何のために、というのは….まだわからない。」


「テッセン街で、リナが手を繋いできた時…」


「……覚えている。」


「どう思った…?」


エドが剣を鞘に収めた。

それから石に腰かけて、俺の隣に…


「……困った」とエドが言った。


「……なぜ?」


「……どうすればいいか、わからなかった。あの子が、俺の手を掴んできた理由が…、わからなかった…」


「……怖くなかったから、だろ?」


「……そうらしい。しかし、俺は怖い顔をしていたはずだ?!」


エドが。根付を触った。

鞘についている根付を…


「……この根付を、ヴァイス卿に見られた時、受けが変わったと言われた。俺には、なぜ変わったかわからなかった…」


「……わかるか、今は?」


「……少しだけ!」


エドが、根付を見た。


「……これを見た時、誰かの顔が浮かんだ。施設にいた頃の。小さい子の顔だ。名前は覚えていない。顔もはっきり覚えていない。しかし、何か、あった気がした。」


俺は、黙って聞いていた。


「……その子が、どうなったかは知らない。俺が施設を出た後のことは。何も知らない。」


エドが根付から手を離した。


「……お前は」とエドが言った。


「なぜそれを聞く?」


「……お前の剣が、変わりかけているからだ。」


「……変わりかけている。」


「ああ。フリッツも気づいている。グレン卿も気づいている。しかし、入り口に立ったままだと言っていた。」


「入り口…」


「……理由の入り口だ。」

エドが少し間を置いた。


「……お前には、理由があるのか?」


「ある…」


「何だ…?」

俺は、夜の王都の灯りを見た。


「……守りたい者がいる。国がある。しかし1番最初の理由は、もっと単純だった…」


「……何だ?」


「……隣にいる者を失いたくなかった。それだけだった……」


エドが、俺を見た。

「……それが── 理由になるのか?」


「……なった。俺にとっては…」


しばらく、沈黙が続いた。

夜風が吹いた。根付が揺れた。


エドが「……そうか」と言った。

それだけだった。


しかし、その「そうか」は、三ヶ月前の「そうか」とは、重さが違った…


「明主の道は、一を守りて以て万に応ず」

ーー韓非子ーー


明君の道は、一つの軸を守りながら万の局面に応じることだ。

エドの剣は、エド自身を探していた。

3ヶ月、探し続けていた。


そしてその夜、軸の輪郭が、少しだけ見えた。

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