閉幕と、その夜
表彰式の司会は、俺がやることになっていた。
クルトが「俺がやる!」と言っていたが、決勝でルークに負けてからずっと一人で壁を見ていたので、俺が代わりに立候補した。
「……本当に大丈夫か?」とクルトが言った。
「任せてよ、盛り上げるのは得意だから!」
「それが心配なんだが……」
「大丈夫、大丈夫!!」
ヴィクターが「……過去に、大丈夫と言って大丈夫だったことが1度もない。そもそもこの武闘大会にしろそうだ…」と静かに言った。
それは聞こえなかったことにした。
「えー、それでは、第一回学院武術大会!!閉幕の言葉を述べたいと思います。司会はこの俺、ラウルです!!」
歓声と共に拍手が起きた。
いい滑り出しだった。
「まずは、体術トーナメント優勝!! ルーク殿下!!」
ルーク殿下が前に出た。
「剣術トーナメント優勝!! エド!!」
エドが前に出た。
「最後に、女子選抜体術トーナメント優勝!! ミア様!!」
ミア様が前に出た。
一番大きい拍手が起きた。
ミア様が満面の笑みで手を振り、さらに大きくなった。
「3名とも、おめでとうございます!さて、ここで一言、俺たち7名、今日全員負けてしまいました…悔しいです!!でもこの7人、絶対に諦めませんので、次は勝ちます!!以上です!!」
どっ、と笑いが起きた。拍手も起きた。
「……それだけか?」とクルトが後ろから言った。
「十分でしょ!!」
「……もう少し内容があってもよかったのでは?」
「短くてわかりやすい方がいいんだよ!!」
アウアー副総長が、立ち上がった。
全員が静かになった。
「……大変に良い大会でした。」
それだけだった。
それだけで、会場全員が嬉しそうな顔をした。
ニコラスが「良かったですかね?!良かったですね!!」と泣きそうになっていた。
ヴォルフガングが「…アウアー副総長、笑ってた」と言った。
全員が副総長を見た。
副総長はすでに書類を読んでいた。
「……気のせいじゃないか」とヴィクターが言った。
「笑ってた」とヴォルフガングが言った。
「絶対笑ってた」
それについては、誰も否定できなかった。
夜、10名で宴会をやった。
食堂を借りた。
クルトが「俺が全部仕切る」と言い出した。
「料理もか?」と俺は聞いた。
「当然だ!」
「クルト、料理できるの?」
「俺がやる以上、手は抜かない!」
30.分後、食堂にとんでもない量の料理が並んだ。
「……クルト」とミア様が言った。
「これ、十人で食べきれる量じゃないよ…」
「食べきれる…」
「なんで言い切れるの?」
「……俺が作った量は、俺が計算した量だ。余ったことはない。」
実際……余らなかった。
全員が黙々と食べた。
クルトの飯が美味すぎて、しばらく会話が止まった。
マルティンが、最初の一口を食べた瞬間から別人になった。
「……クルト。この肉、どこで仕入れた?」
「街の西の肉屋だ!」
「あそこか。あそこの牛は赤身と脂の比率が……」
「マルティン喋った!!」と俺は言った。
「……脂が多すぎると口が重くなる。でもこれはちょうどいい。それに火の入れ方が…… 」
「マルティンが止まらない!!」
「……表面だけ強火で焼いて、中は余熱で。そうすると肉汁が…… 」
「マルティン?!」
マルティンが、ぱっと口を閉じた。
「……すまん」
クルトが「正しい」と言った。
「その通りだ…」
二人が、真顔で頷き合った。
他の全員が置いてかれた。
しばらくして、クルトが箸を置いた。
全員が食べ終わる前にクルトだけ終わっていた。
「……クルト、もう食べ終わったの?」とミア様が言った。
「早くない?」
「俺は食べるのが速い…」
「なんで?」
「……食事は情報だ。」とクルトが言った。
真顔で…
全員が止まった。
「食べるのが遅い奴は、決断が遅いが慎重。食べるのが速い奴は行動が速い。食べる順番を見れば、優先順位の付け方がわかる。食べる量を見れば、胆力がわかるかな?!」
静かになった。
「……本気で言ってるのか」とヴィクターが言った。
「本気だ!」
「……根拠は?」
「経験だ。俺は今まで一緒に飯を食った人間の、食べ方を全員分析してきた。」
俺は、少し怖くなってきた。
「……例えば」とクルトが続けた。
「ラウルは、好きなものを最初に食べる。目先の利益を優先するタイプだ。しかし、最後に一番好きなものを残す癖もある。つまり、本命は別に持っている。」
「……当たってる」とヴィクターが言った。
「俺のことか?!」と俺は言った。
「当たってるけど!!」
「エドは、全部均等に食べる。好き嫌いで順番を変えない。神経質で感情で動かないタイプだ。」
「……当たってる」とエリカが静かに言った。
「ミア様は、食べながら喋る。同時進行が得意で、注意が複数に向く。しかし、喋りすぎて食べるのを忘れることがある。」
「あるある!!」とミア様が言った。
「ルーク殿下は、全員が食べ始めるのを確認してから自分が食べる。全体を見てから動く、将の食い方だな。」
ルークが、少し黙った。
「……分析されていたとは知らなかった。
」
「ずっとしていた」とクルトが真顔で言った。
全員が、クルトを見た。
ニコラスが「……クルト、俺の食べ方は何ですかね……」と恐る恐る聞いた。
「ニコラスは、おかずを食べる前に必ず一度見る。確認してから食べる。慎重で丁寧だ。しかし本番では、確認する前に動ける。食べ方と本番がずれているのが面白い。」
ニコラスが「……大丈夫ですかね俺……」と言った。
「褒められてますかね?あれ…」
「褒めている。」とクルトが言った。
「マルティンは、食べるのが遅い。一口が小さい。しかし、味を全部拾っている。情報収集が丁寧なタイプだ。料理の話になると止まらないのも同じ理由だ。」
マルティンが「……そうかもしれない」と静かに言った。なぜか少し嬉しそうだった。
「ヴォルフガングは……」
クルトが少し間を置いた。
「……一番最後まで食べている。全員が食べ終わるまで、自分のペースを変えない。誰かに合わせない。しかし、誰かの皿が空になると、さりげなく補充している。気づいていない者もいるだろうが…」
全員が、ヴォルフガングを見た。
ヴォルフガングが「えっ?!」と言った。
「俺の飯がいつも多かったのはお前か!!」とラウルが言った。
「腹減ってそうだったから」とヴォルフガングが言った。
何でもないことのように…
ニコラスが「……ヴォルフガング、それ今言う?」と言った。
「え、言わない方がよかったか?!」
全員が、笑った。
ラウルが「クルト! クルト自身の食べ方は何なんだよ!!」と言った。
クルトが、少し止まった。
「……俺は」
「早いんだろ!で、何がわかるんだよ!」
「……早いのは、仕切りたいからだ。全部終わらせて、次に行きたい。」
「それだけか!!」
「……あと」
クルトが珍しく、少し言いにくそうにした。
「……美味い飯を食う時は、早くなる。早く全部食べたいから…」
全員が少し間を置いた。
「……それって単純に食いしん坊では?!」とヴィクターが言った。
どっ、と笑いが起きた。
「違う!!」とクルトが言った。
「食いしん坊じゃない!!俺の場合は分析的な…… 」
「食いしん坊だろ!!」と俺は言った。
「違う!!!」
「クルトも食いしん坊なんだ!!」とミア様が言った。
「違う!!!!!」
クルトが、真っ赤になった。
10名で、ひとしきり笑った。
クルトだけ「違う違う」と言い続けてい
笑いが落ち着いた頃、ルークが静かに言った。
「……みんな、ありがとう。」
全員が、静かになった。
「今日は、こんな大会をやってくれた。全員が本気でぶつかってきた。それが嬉しかった。」
誰も何も言わなかった。
ラウルが「俺負けたんですけど!!」と言って、また笑いが起きた。
エドが「……次は負けないんだろ?」と静かに言った。
「いやいや無理でしょ!!」と俺は言った。
「……次は負けないんだろ?」
「同じこと二回言った!!!」
エドが少し目を細めた。
笑ったのかもしれない。
よくわからなかった。
クルトが「第二回もやろう!」と言った。
「早いよ、今日終わったばかりじゃないですか!!」
「次は負けない。だから早くやりたい。」
「……俺も」とヴィクターが言った。
「……私も」とエリカが言った。
ヴォルフガングが「みんな悔しかったんだな」と言った。
「そりゃそうだろ!!」と俺は言った。
ヴォルフガングが「うん、俺も」と言った。静かに。でも1番重かった。
宴会が終わって、俺は一人で中庭に出た。
夜の学院は静かだった。
星が出ていた。
3名が帰ってきて、ボロボロで、クマがあって、疲れてた…
でも、俺たちとは、別のところにいた。
1ヶ月で、そこまで変わった。
このままじゃ置いてかれる。
そう思った…
半年後、1年後、あの3名は、もっと遠くにいる。
怖かった…
あいつら、俺たちを見放しちまうんじゃないか?
でも、ルーク殿下が、「ありがとう」と言った。
見放す奴の目じゃなかった。
だから、俺たちがついていくしかない。
もっと真剣…、もっと本気で…
3名が「将」になる。
俺たちは、その将を支える「軍」に、まずなる。
学院にいる時間は、まだある。
その間に将を支えられる強さを作る。
俺は、拳を握った。
中庭の奥に灯りが1つ、また1つ、ついていった。
クルトの部屋。
エリカの部屋。
ヴィクターの部屋。
ニコラス、マルティン、ヴォルフガング…
全員が、まだ起きてた。
言わなくても全員、同じことを考えてた。
「……絶対ついていくから!」
誰にも聞こえない声で、言った。
星が、明るかった。
「それぞれの頂点」、「閉幕と、その夜」続けて読んでくださりありがとうございます。
今回の2話、いかがでしたでしょうか?!
クルトの「飯で人を見抜く」理論、書いていて楽しかった場面です。真顔で全員を分析して、最後に自分が「食いしん坊」とヴィクターに一言で言い切られて真っ赤になる。
あそこは書きながら笑いが止まりませんでした。ルークの「全員が食べ始めるのを確認してから自分が食べる。将の食い方だ」というくだりは、本編でも活きてくる話なので覚えておいていただけると嬉しいです。
ヴォルフガングが「根付、だよな、たぶん」とさらりと言った場面も書いていて好きでした。普段は寡黙で優しいだけに見えるのに、たまにこういう核心をド直球で言う。本人は全く悪気がない。このキャラクター、今後も要所要所で出てきます。
そしてニコラスの「大丈夫ですかね……!!」、マルティンの肉トーク、エリカの「うるさい」、ヴォルフガングのラウルへの皿の補充…
この七人がこれだけキャラとして立ってきたのも、ここまで読み続けてくださった皆さんがいてくれたからです。
本当にありがとうございます。
さて、この番外編「銅貨一枚の用心棒」と「第一回学院武術大会」── この二つのエピソードは、単なる番外編ではありません。
テッセン街でガッツが銅貨1枚を両手で受け取った場面、リナがエドの手を掴んだ場面、あの記憶は、エドの中に確実に残っています。
「誰かのために剣を振ったことがあるのか」というミア姉様の問いの答えが、少しずつ形になっていく過程で、あの街の記憶がどう動くか。本編で必ず回収します。
武術大会でラウルが中庭に一人残って「絶対ついていくから」と言った夜、あの七7人の灯りは、本編で必ず意味を持ちます。
3名が成長していく過程で、七人が「軍」として将来、「将」として、何をするのか。
クルトの仕切り、ヴィクターの分析、エリカの情報、ラウルの交渉、そしてニコラス・マルティン・ヴォルフガングそれぞれの力が、1つに束になる日が来ます。
まだまだ先は長いです。
ルークの「一手遅れる」欠け…
エドの「守るものを知らない剣」
ミアの「暴走のリスク」
3名それぞれの修行の物語は、ここからが本番です。
次回からはメインストーリーに戻ります。
王都での修行の続き、そしてハルト商会の影が動き始めます。
宜しければ、ブックマーク・評価・感想をいただけると大変励みになります。
「クルトの飯理論が好き」「ヴォルフガングのド直球が刺さった」「ラウルの最後が泣けた」「7人全員好きになった」など、一言でも嬉しいです。これからもお付き合いいただけると幸いです。
毎度まいどーの、ひょっとこ、とことこ でした。




