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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
三年の刃、静かに研がれる

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二手の夜

「善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり」

ーー孫子ーー


勝てる状況を作ってから戦え。

戦う前に、すでに勝っていなければならない。



廃坑の討伐から二ヶ月が経った頃、フリッツが地図を広げた。


王都と学院の中間に位置する街、テッセンだった。

小さな交易の街だ。街道沿いにあり、商人と旅人が行き交う。しかし、裏がある。


「この街には、表と裏があります。」

フリッツが言った。全員が地図を見た。


「表は領主のグレーヴェ卿が治めています。しかし、実質的な支配者は、「赤牙」という裏組織です。商人への用心棒代、宿への上納金、市場の利権。

街の収益の四割が、赤牙に流れています。」


「……今回の課題は何ですか」とラウルが聞いた。

「赤牙の制圧と 街の実権を玄狼衆の管理下に置くことです」


沈黙が、少し長かった…


盗賊の討伐ではない。街を動かす。


「……領主は?」とヴィクターが静かに聞いた。


「グレーヴェ卿はそのまま置きます。但し、実権は別の者が持つ算段です。」


「誰が持つのですか?」


「それは、皆さんが決めてください。」


フリッツが答えを出さなかった。これが第二の到達任務だ。


その前日、俺とヴィクターとエリカで、テッセンの街を歩いた。


普通の旅人として入った。

武器は隠した。目的は、下見だ。


市場は活気があった。

しかし、商人たちの顔が、どこか暗かった。

笑顔はあるが、目が笑っていなかった。


俺は屋台で串焼きを買った。店主に話しかけた。

「……この街、活気がありますね…。」


「まあ……そうですね…」


「何か問題でも?」


「……いや、何も。」


言葉を選んでいた。

怖がっている。


エリカが俺の隣を歩きながら小声で言った。

「……宿の主人、目が違う」


「違うとは?」


「……赤牙を、嫌っている目だ。話せる?」


エリカの目は、正確だった。

翌日、エリカが単独で宿に入った。

翌々日の作戦会議で、「昨日、俺が話した」という報告になった。


作戦会議は、三時間かかった。


地図の上に石を置いて、赤牙のアジト、街の入口、市場、宿を確認した。

ヴィクターが事前に集めた情報を並べた。


「赤牙の頭目はドラクという男。元傭兵。剣が立ち、直属が6名、末端が20名前後。」


「アジトは市場の裏手にある倉庫。昼は商人に偽装、夜に動く。」


「グレーヴェ卿は赤牙に脅されている。本人は逃げ出したがっている。


エリカが静かに補足した。

「……宿の主人は赤牙を嫌っている。協力が取れる…」


「確認が取れてるか?」


「……昨日、私が話した。」


全員がエリカを見た。


エリカが、独自に動いていた。いつの間に。


「よくやった」

エリカが小さく頷いた。


二手に分かれることにした。


「討伐班 エド、クルト、ラウル、ニコラス、マルティン、ヴォルフ。アジトに直接入って赤牙を制圧する。頭目のドラクは生け捕りが条件だ」


エドが頷いた。

クルトが「わかった」と言った。

ラウルが「生け捕りか、難しいな」と言いながら腕を鳴らした。

ヴォルフガングが右腕をゆっくり回した。

「……動く。問題ない。」


「工作班、ミア姉様、ヴィクター、エリカ。

グレーヴェ卿を保護して、赤牙制圧後の街の体制を整える。」


ミア姉様が手を挙げた。

「……私、何をすればいいの?」


「ミア姉様には、赤牙を引き継いでもらいます。」


「……引き継ぐって、どういうこと?」


「赤牙の金の流れをそのまま玄狼衆の収益に変える。ミア姉様が新しいボスになれば、一番早い!」


ミア姉様が、もう一度止まった。「……ボス?!」


「はい。」


「……私が?!」


「はい…」


ミア姉様が少し考えた。それから言った。

「……わかった! やってみる!!」


……了承が速かった。少し心配になった。


フリッツが、静かに全員を見渡した。


「……一つだけ言います。今回の任務は、討伐で終わりではありません。街が動いた後にどう維持するか。そこまでが任務です。戦うだけが「集」の力ではない。それを今回で知ってください」


……戦うだけが「集」の力ではない。

……その言葉が、頭の中に残った。


夜、動いた。


月が雲に隠れた。討伐班が 市場の裏手に向かった。

エドが先頭だった。音がなかった。6名が、影のように動いた。


宿の主人が、裏口の鍵を開けておいてくれていた。

エリカの根回しが生きた。


アジトの裏口をニコラスとマルティンが塞いだ。

表口をクルトとヴォルフガングが塞いだ。

中に残るのは、エドとラウルだった。


「……入るぞ」とエドが言った。

「おう」とラウルが言った。


扉が、蹴り開けられた。


中に5名いた。

エドが、最初の男をすぐに制した。

2人目が剣を抜いた。

エドが流して、壁に叩きつけた。

3人目がラウルに向かった。

ラウルが笑いながら受けた。

「悪いな、俺けっこう強いんだ」

一撃で、男が膝をついた。


4人目、5人目が後退しようとした。

裏口からニコラスとマルティンが入ってきた。

逃げ場がなかった。


3程分で5名を制した。

練習ではない。本物の連携だった。


しかし、ドラクがいなかった。

「……いない」とラウルが言った。

「上だ!」とエドが言った。


2階に足音があった。


エドが階段を上がった。

扉の向こうに大柄な男が立っていた。

ドラクだった…

剣を構えて部屋の奥に、窓があった。


「……逃げるつもりか?」

エドが言った。


ドラクが、少し笑った。

「試してみるか?坊ちゃんよ…」


踏み込んできた。重い一撃だった。力がある。

エドが受けず、流した。

ドラクの体が前に出た。

エドが背後に回った。

首に腕をかけた。

ドラクが、動かなくなった。


生け捕り、完了。


外に出ると空が白み始めていた。


ニコラスとマルティンが、末端の20名あまりを、広場に集めていた。

全員、武装解除していた。


クルトが俺の隣に来た。

「……全員、制圧完了だ!」


「怪我は?」


「ヴォルフが右腕を少し打った。それだけだ。」


「動けるか?」


「動ける。本人が「問題ない」って言ってる。」


俺は広場の中央に立った。集まった20名を見た。


全員が俺を見た。

怖い顔をしていた。

逃げる気配はなかった。


「……赤牙は、今日から玄狼衆の管理下に入ります。街の人たちからの上納は、今日から止めます。あなたたちに選択肢を出します。残るか、去るか。残る者には── 新しいボスの下で働いてもらいます。」


一人が聞いた。「……新しいボスって、誰だ?」


ミア姉様が、手を挙げた。

「私です!」


広場が、少し静かになった。

誰もが、同じ顔をしていた。

この人が、ボスか……


最終的に、20名全員が残った。


ラウルが俺に小声で言った。「……まさかの全員残ったな…」


「ミア姉様の顔を見たら、逃げにくくなるだろ?」


「……なんでだ?」


「怖くないから…」


「……それは理由になるのか?」


「なるよ…」


ドラクの言った「試してみるか?」は、本気だったかもしれない。

しかしエドには、通じなかった。


「勝ちて後に戦いを求める」

ーー韓非子ーー


勝てる状況を作ってから動け。

夜の制圧は三分で終わった。

しかし本当の戦いは、ここからだった。

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― 新着の感想 ―
>『「ミア姉様の顔を見たら、逃げにくくなるだろ?」 「……なんでだ?」 「怖くないから…」』 !!!……(*`´)*。_。)*`´)*
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