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騎士道活人奇譚  作者: 千興志乃
12/12

12 交渉

「今日のメニューは主食・主菜・副菜!うん、栄養満点ですね。」


夕飯を作り終えたウリエルは、栄養学の本を手に取りチェックしている。


「夕飯出来たんですか!?どれどれー...。」


オルウェンが何の気なしに手を伸ばすと、ウリエルにピシャリと払われた。


「ダメよ?これはみんなの栄養バランスを考えて作った夕飯なんだから、一緒に食べるの。」

「ええー!?少しだけ!味見だけでもーー!」

「貴女の味見は一口で終わらないからダメ、食欲を抑えてとは言わないけど、せめて食事の時間だけは守りなさいな。」

「うぅー...でもお腹空いたんですよぅ...。」

「ふぅ...相変わらずね、じゃあお口を開けなさい。」


そう言うと、ポケットに忍ばせておいた飴玉を包みから取り出し、オルウェンの口に入れた。


「あ、甘い!」

「今はこれで我慢しなさい、噛まずに舐めるのよ?もう少しで夕飯だから、貴女も掃除済ませておいてね。」

「ふぁーい。」


口をもごもごさせて返事をしたオルウェンは頬を両手で覆い、先ほどの表情とは打って変わって満足気だ。


「そういえばアリス姉様の戻りは何時になるの?」

「今日は十八時前には戻られるっておっしゃってましたよー。」

「そう、大丈夫そうね、じゃあ夕飯の時間まで頑張ってね。」


頭をポンポンとされたオルウェンはまたも表情を変える。


「もぉー、私子供じゃありませんよー。」

「私達にとってはまだまだ子供よ、さ、いってらっしゃい。」

「はーい...ウリエル姉様と四つしか変わらないのに。」


ぶつぶつと小言を発しながら部屋を後にしたオルウェンを見て、クスクスと笑ってしまう。


「夕飯も後は温めなおすだけでいいし、エストちゃん喜んでくれるかなぁ。」


ウリエルは調理台に置いていた本を手に取り、キッチンを後にするのだった。





「ニード!」

「おお!兄ちゃん無事だったか!...って、そ、そいつぁ!?」

「おう、今朝も会ったな。」


ドラコスの姿を見たニードは明らかに顔が強張っている。


「ニード、ちょっと聞きたいんだが...。」

「あ...ああ。」

「奪われたって言ってた金、お前達から出したそうじゃないか。」

「そ、そりゃあ我が身可愛さってやつだよ、命は金に換えられないだろ?」

「俺はお前に、ドラコスから奪われたって聞いたんだがなぁ。」

「だ、だから奪われたことには変わりないだろ!」

「はぁ...あのなニード、物事ってのは正確に伝えろよ...お前達からドラコスを襲ったって情報が入ってるぞ。」

「うっ...。」

「今回の件、情報を精査するとドラコスは正当防衛だ、お前達を捕縛する必要すらある事件だぞ...。」

「そ、そりゃねぇよ!俺達は怪我もして金も取られてんだぞ!」

「自業自得だ、ドラコスに取られたと主張している金は銀貨三枚で間違いないな?」

「...ああ。」

「ドラコスは降りかかってきた火の粉を振り払っただけだ、そのまま金を受け取ったことは褒められたことではないが、俺が渡した大銀貨で両成敗ってことにしておけ、その金は俺に返す必要はない、だがドラコスに渡した金も返さない、いいな?」

「わ...わかったよ。」

「あともう一つ、さっきお前達に襲われた時に元々物取りなんかしなかったって言ってたが、正直信用できなくなってきたぞ?あの時は俺が襲われた訳だしな。」

「い、いや、もう二度としねぇ!」

「ああ、次行えば間違いなく捕縛する、俺がここから戻ったらまた元の無法地帯になるとは思わない事だ、検問所にも指摘して改善をすることはもちろんだが、これからはこのドラコスが街の治安を守っていく。」

「な、なんだって、そりゃ他の住民も納得しないだろ!?あの家の老夫婦だって絶対に反対するはずだ!」

「それならもう本人に理解は得ている、あの家の事も解決済みだ。」


ポカーンと口を開けているニードを見てドラコスはまた頭を掻いている、癖だな。


「依頼された以上、手は抜かないつもりだ、よろしくな。」


ドラコスが手を上げて挨拶すると、ニードは落胆しているようだ。


「ま、まじか...。」

「まぁ、過分に脅したりと少し行き違いがあったけどな、ドラコスは信用出来る、俺が保証する。」

「クレモール...。」

「ところでニード達は定職にはついていないのか?」

「この街で定職っていうのは中々酷だぜ、日雇いばかりで仕事のない日も多い、食えない日が続くって言っていたのも嘘じゃない、そんな時は少しばかり拝借をな...だが女子供からは絶対にしてねぇ!それにいつも金がないわけじゃないからな!」

「ふむ...実際に襲っている相手は俺やドラコスだからな、弱き者を食い物しているわけではないということか。」

「なんだかんだ言っても俺はこの貧民街に愛着があるからな、流れ者相手に複数だったり刃物をチラつかせたりはしたが、この街の人間には手を出さねぇよ。」

「そうか...ニード、さっきの二人も定職についてなく、三人とももう悪さをしないってことなら、一つ提案がある。」

「なんだ?」

「ドラコスと一緒にこの街の治安維持だ、ドラコスを長とし、呼称はそうだな...警邏隊とでもしておこうか、現状は俺が陛下に掛け合い、お前達の人件費を警備名目で王宮から金策を得られないか交渉してみる、もともとドラコス一人ではこの街全体を見回るのは不可能だからな、それに俺はこの街に知り合いがいない、これも何かの縁と思いたい。」

「な、い、いや、願ってもないことだが、いいのか?」

「金策の目途が立ってない今、報酬の話を確約はできないが、月の支給額で一人当たり大銀貨八枚は少なくとも確保する、もちろん金策の目途が付けば昇給も用意する。」

「やる!絶対にやるよ!あいつらも絶対に嫌とは言わないはずだ!」

「わかった、じゃあ明日の十三時に中央広場に集合して、ドラコスを隊長とし指示を仰いでくれ、ドラコスには事前に俺から指示を出しておく...あとニード、検問所へのドラコスの捕縛の話はどうなってる?」

「あっ、じ...実はまだ行ってない...」

「はぁ...まぁ今回は面倒事が減ったと前向きに捉えておくが、言った言葉には責任を持ってくれよ?組織っていうのは簡潔明瞭、報連相だ!これからは責任を持って行動するように!」

「りょ、了解!」


ピシッと敬礼をしたものの、反面、自分の取った愚行にすぐに職を失ったかとヒヤヒヤものだったニードだが、ホッとしている。


「じゃあ明日から頼む、他の二人にも話して三人で明日ドラコスと合流してくれ。」

「了解です!ドラコス隊長も宜しくお願いします!」

「あ、ああ、宜しく頼む。」


ニードはダダッと駆けて行った。


「ヒャッホゥ」


訂正、駆けて叫んで行った。


「なぁ、よかったのか?あんな約束をして。」

「賃金の話か?」

「そうだ。」

「金策を練れない場合は、俺の賃金から与えるつもりだったからな、だから一人当たり大銀貨八枚最低限度として支給できる、もちろんドラコスにはもっと出すからな?だが、賠償金のこともあるからそこは少し大目に見てくれな?」

「ああ、マノが食っていけるなら俺は文句はないさ。」

「これからの事を話しておく、課題は三つ。」

「...。」


コクンと頷き、クレモールの指に注目している。


「明日俺はこの街に立ち会えないから、一つ目はニード達と共にこの街の警備だ、どのように安全を守るかはドラコスの意思を尊重する、この街の事は俺よりも詳しいだろ?二手に分かれるか、他の三人を斥候役にし、ドラコスへ報告して対処でも方法は任せる、治安維持が出来ればそれでよし。」

「わかった。」

「二つ目、ドラコスの武術は言うまでもないが、ハンマーを武器にしているらしいな?そしてその体躯だ、騎士時代に槍術も経験済みだろう?」

「ああ、剣術に槍術、斧術に武術、一通りはやっているな。」

「やはりな、本題だがニード達に武術を教授してやってほしい、そして今アレクダール王国では陛下が推進している棒術というものがある、ドラコスもいずれ経験してもらいたいと思っている。」

「そうか、エスリーヌ陛下は棒術を推進なさっているのか、嬉しい限りだな。」

「え?嬉しい?どういうことだ?」

「八年ほど前にエスリーヌ陛下が親交の為、我が国へ訪れた時の晩餐でモルティーノ殿下...ドルティア第一王子殿下がエスリーヌ陛下に人を死なせずに武力を行使したいなら、白刃じゃない武器にするべきだと嬉々として話していたんだ、元々モルティーノ殿下は俺が剣術を指南していたんだが、剣術が嫌いでな、手を焼いたもんさ。」

「じゃあ、アレクダールで推進している棒術の起因はドルティアだったのか!」

「おそらくはそうだろう、剣術が嫌という理由で木刀、槍術のかわりに六尺棒、これがモルティーノ殿下の修練には合ってたみたいでな、メキメキと上達したよ、そしてエスリーヌ陛下も殿下の話にとても興味を持っておられた。」


基盤はここにあったか、しかもドラコスは陛下に一度お会いしている、こいつは重畳だ。


「じゃあ棒術は既に会得しているってことだな!すまないが、ニード達に武術と棒術を指南してほしい、これが二つ目だ。」

「承知した、俺も一人より練度の高い信頼のおける人間と行動をしたいしな、望むところだ。」

「ああ!そして最後、三つ目だ。」


コクン


「先の話だがドラコスはアレクダール王国に仕官してもらいたい。」

「は、はぁ!?い、いや待てマノはどうするんだ!」

「マノは陛下に事情を話し、臣下として、陛下の身の回りのお世話をする職についてもらい、同時に帝王学を学べる環境を整える。」

「なっ!?」

「事情は先々話すが、信用のできる人間が少しでも多く今の王宮に必要なんだ、それにマノにとっても悪い話じゃない、ドルティアは陥落したが王族の生き残りだ、ドルティアを再建することだってできるかもしれない。」

「!!」

「陛下はドルティア陥落に心を痛めていた、それに国を作るのは土地じゃない、旗印となる人に集まり国は成り立つ、先の為にもマノの教育は必要だろ?」

「それは...そうだが。」

「陛下を信じてほしい、あの方は民の事を考え、人の死を少しでも無くそうと考えておられる、その意志にドラコスも協力してほしい、もちろん俺も出来る限りドルティア再建に協力する。」

「わかった、そこまで言われて断るわけにもいかん、先でエスリーヌ陛下へのお目通りを願う。」

「ああ!ありがとう!それと賃金は先払いしておく、金貨一枚だ、賠償金と一月分の家賃についても俺が払っておくから心配するな、賠償金は後々返してくれればいい。」

「すまない。」

「婆さんから言われただろう?こういう時は感謝の言葉だよ。」

「あ、ああ、ありがとう。」

「後、一月分の家賃の理由だが、その期間までにドラコスを仕官させるっていう自分へのプレッシャーって意味だからな。」

「そういうことか...わかった、それまでにあの三人を鍛え上げよう!」

「いい返事だ!ありがとな!」


お互いに手を取り合った。

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