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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三度目の最終戦
3220/3223

3220. 約束の最期を・トゥ参戦・『呼び声』終了・双頭龍対決

 

「終わりだ!」―――



 叫んだヨーマイテスは、体中に帯びるガドゥグ・ィッダンの刺青に光を伴い、黒い箱を振り上げる。


 溢れた黒い中身は、箱を出るなりヘビのように宙を走り、凝視するビルガメスの下で、次々にサブパメントゥへ貼り付いては溶かしているらしい。

 黒く艶めく流動体が、下方に犇(ひし)めいた地下の住人に食らいつく様は、砂地に落ちた雫が、砂を分けて八方へ散るよう。


 サブパメントゥの世界を持ち込んだ炎に落ちても、もう再生しない・・・・・


 勢い、速度、どこにこんな武器を持っていたかと、突拍子もない参戦者の行動を、龍王は見守る。



 無論、やられっぱなしなわけがなく、裏切り者ヨーマイテスに怒り狂うサブパメントゥは術を出し、反撃し、戦歌も混ぜて、とんでもないものを持ち込んだ彼を倒そうとしたが、ヨーマイテスの強さは他のサブパメントゥより遥かに上。


 ぶち壊す男を止めに、梯子から飛び降りるサブパメントゥも、大技で殺そうとするサブパメントゥもごったになり、『空取り』は一気に大混乱へ突入する。


 黒い流動体は垂れ落ちるだけではなく、サブパメントゥの世界を敷く炎の上で蛇体となって走り、箱を持つ手以外のサブパメントゥに飛び掛かっては溶かしてゆく。

 ここへ来て本性を出した存在、奥の手として秘匿だった正体を見せつける。これに立ち向かえる者もおらず、操るヨーマイテスにもまた、誰一人近づくことすらできなかった。


 主犯格の『呼び声』や『一枚』たちは、邪魔者を排除せんと乗り出すも、黒い流動体に本(・)能(・)的(・)な拒否が起き、あっさり逃げる方へ行動を変える。


 唖然としたコルステインもまたこれを止めず、動きかける体を押さえ、『あの武器』を約束通り持って来たホーミットを見つめ、期(・)待(・)した。

 ここで、終(・)わ(・)ら(・)せ(・)て(・)くれる約束を―――



 ヨーマイテスは棘の上を跳躍し、誰の手にもかからず、溢れ続ける中身を撒いて、仲間を殺し続けた。


 逃げた輩は『コルステイン、落とせ!』と、残っている頂点のサブパメントゥを嗾けたが、コルステインは懸命に抗いながら、何も―― 動こうともせず ――その場で立ち尽くす。


 黒い蛇体と化したそれは、古代サブパメントゥを容赦なく倒すが、奇獣の棘はその範囲ではないのか。サブパメントゥのみに反応して走り回る。ぶつかる・蹴られるなどでも、ザハージャングの棘はぐらつきながら落下しない。


 ただ、ヨーマイテスは棘なんて眼中になく、とにかく一匹でも多く殺すことだけに絞り、それは瞬く間に『遥かな空取りの悲願』を打ちのめす。最後まで、約束の心を示すために(※1549話参照)。


 機嫌を直して笑った、ビルガメスに気づく暇もなく・・・


 空に赦された、最初の一人。『サブパメントゥの知恵の宝庫』と知られた金茶の獅子は、強烈な武器を味方に、たった一人で愚行の仲間を倒し続け、そして結末―― ずっと、これを見ていたコルステインが急に飛んだ。



「コルステイン!」


 名を怒鳴ったヨーマイテスに、突っ込むコルステインの涙が散る。

 ヨーマイテスの振り上げた黒い液体へ突っ込む、悔しそうな泣き顔。自ら、浴びに翼を広げたサブパメントゥの頂点。終わる気だと気づいた、ヨーマイテスの目が開く。


 ハッとしたビルガメス。覚悟を決めるヨーマイテス。黒い液体の真下へ飛んだコルステイン。


 悪神を背負った、悲しみのサブパメントゥの顔が、魂にこびりつく悪神と重なる。コルステインは自我より奥に巣食う違(・)和(・)を押さえつけ・・・黒い流動体を頭から被った。コルステインの頭が消えた、と同時。



 びゅっと一閃した銀の翼が、弾き飛ばす。


 吹っ飛ばされたコルステインは陸に消え、ヨーマイテスが見上げた影は、二本の首を揺する異界の精霊、その姿。瞬間移動―――



「間(・)に(・)合(・)っ(・)た(・)んじゃないか?」 「引っ叩くやつがあるか!」


「俺で何よりだと思えよ」


 ふっ、と二つの頭から息が漏れ、首元に跨り怒った男が『行くぞ、トゥ!』と命じる。


 上空から眺める龍は面白げに笑みを浮かばせ、檻に閉ざした奇獣へ顎をしゃくって、ザハージャングを檻から出す。骨だらけの奇獣は、龍気を漲らせた存在(ビルガメス)よりも、現れた二つ首―― その背に乗る男タンクラッドに反応して瞬発的に飛んだ。


 こうなるのかと・・・『時の剣を持つ男』・彼のダルナ、そして対面したザハージャングの行く末を観戦することにし、あとを任せるビルガメス。

 ここからは『空争奪』ではなく、『銀色の双頭決定』へ移行・・・



 ビルガメスを見もしないトゥの口から、炎がひゅるひゅると上がる。憎しみをぶつける、赤と水色の混じる四つの目は、因縁のザハージャングを見据えた。


「決着だ。俺(・)の(・)影(・)」


 瞬きする目が、大きく開いた両翼で光る―――



 *****



 両翼は炎を迸(ほとばし)らせ、大火に巻かれる翼を大振りに羽ばたく。


 瞼を開き切った目は、視線を因縁の奇獣に固定し、二つ首が口を開け、ぐわっと広がる熱に膨張した圧力が気爆し、朱と黄金が散る一瞬で、これをまともに食らったザハージャングが飛ばされる。


 トゥは一気に畳み込むかと思いきや、背の主に『倒せ』と声を張り上げ、時の剣を振りかざしたタンクラッドが『どこからでも』の返事をし、倒す矛先―― 下をサッと見渡した。


「あ(・)の(・)辺(・)からだな」


「トゥは、棘を消せよ」


「言われるまでもない」


 ザハージャングを倒すのは当然。そのために戻ってきたトゥだが、棘も残党も残らず一掃する気満々。



 精霊が『行きなさい』と参戦を示した時―― 


 ト(・)ゥ(・)な(・)ら(・)可(・)能(・)なことも教えた。それは、トゥが背負う因果の繋がりを断ち切るにふさわしく、世界の誰が行うよりトゥが適役、との言葉。


 サブパメントゥに盗られた卵は、混沌の海から出て、龍にして龍に非ずのザハージャング出現となった。元は龍であるために、龍族が始末できない。


 創世では、『時の剣を持つ男』に倒されたが、抹消ではなく幽閉された。

 しかし空への挑戦が実行されると、ザハージャングは地下の国に加担する。この時、ト(・)ゥ(・)が(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ら(・)、時の剣で制するのみが対決の手段だった。


 だが。始祖の龍は、創世に迎えたダルナたちを、三度目の旅路まで世界の表に出さず、巌に閉ざして時代を越えさせた。

 始祖の龍が直に閉ざしたトゥも、この時代に現れ、存在の肯定と世界への貢献を以て、龍族では倒せない龍・ザハージャングとの対戦を叶えた。


 もつれ絡まる輪廻と因果、分身ではないが代用として、トゥが隠された後で、サブパメントゥの創り出したザハージャングは、トゥの手にかかるのであれば倒せる。

 同じ役割を求められた存在は、二つ要らない。一つに絞り、その一つも返答次第で―――



「俺は、俺だ」


 トゥは主の側を離れる気もない。ザハージャングの欠片も残す気はない。身代わりだろうが、代用だろうが、因縁をややこしくしただけの奇獣に、同情も考慮の余地も不要。


「今日ここで片付ける」


 この時を待っていたトゥは、嵐の空に浮かぶ奇妙な棘の列へ口を広げて音波を発し、棘を崩し始めた。鼓膜や皮膚をざわつかせる音波は、風に構わず、棘を崩壊させ塵に変える。


 コルステインが出した戦場、『海面を覆う疑似サブパメントゥ』が棘を再生させていたが、そのコルステインがいなくなって維持はされない。海を舐める青白い炎は弱まり、棘は跡形も残さず、引っ切り無しの風に浚われる。


 すっ飛ばしたザハージャングが戻るまで、ダルナは大きく翼を打って戦場を飛び、棘の破片一つ見逃さないよう、音波を当てて破壊。


 飛び回る銀色のダルナの背で、タンクラッドも残るサブパメントゥに狙いをつけ、剣で切り、光の鎌を飛ばして倒す。


 これらが剣で切れるか疑問だったが、効く相手と効かない相手がいるのを早々に知った。サブパメントゥは、体を消したり縮めて変化したり、多様な逃げ口を使う。でも、これで慌てるタンクラッドではない。



「ホーミットはどこだ」


「ちょっと待ってろ」


 焦げ茶色の大男を求め、トゥの首一本が後ろを見る。ホーミットから離れた空を旋回し、後片付けを続ける姿に接近。気づいた顔に、タンクラッドは剣を向けて叫んだ。


「そ(・)れ(・)を掛けろ!」


 金色の大剣が風を薙ぎ、言わんとすることを秒で察した大男は、飛翔するダルナの背から、わずかに突き出た剣の影を目掛けて箱を振る。

 黒い蛇が箱を躍り出た途端、示し合わせたように、黒い帯は剣に巻き付き・・・



「さぁ。食ってこい」


 ニヤッと笑った剣職人が、剣身に巻いた黒蛇を勢いよく放る。


 その先には、振り返った紺の巨漢。消えて現れた続き、鼓舞する戦歌を止めた顔が固まり、目が合った―― タンクラッドと『呼び声』。

 次の一秒、『呼び声』の頭に、黒蛇が絡んで貼り付き、呻き一つすら間に合わず、角の頭を溶かした。


 もがいた紺の体を蝕む、黒い流れ。被せた頭から下へ下へ溶けて落ち、乗られたサブパメントゥは上から順に消えてゆく。音に変わる暇もなく、『呼び声』はこの世界から消滅した。


 呆気ないほど、哀れにも映るほど、瞬く間の最期。

 その数十秒を目に焼き付けたタンクラッドは、『あの黒いのは一回使いきりか?』と考える。サブパメントゥを溶かし切ると、蛇状のそれは色失せて飽和した。


「もらえ」


 前方を見据えたトゥが、主の思考を読んで促し、タンクラッドは『一回分ずつってのもな』と首を傾げる。ただ、目前にザハージャングの影があり、あれが戻ったら戦いを邪魔できないとよぎった。同じく、加速する棘の龍を見据え、トゥが呟く。


「サブパメントゥの倒し方が定まらないと、ザハージャング(あれ)と一騎打ちも出来ん」


「箱ごと受け取れと?俺に扱える代物じゃないだろ」


 迫る奇獣の直進を、フッと避けたトゥは翼を仰いで炎風を起こし、相手の横っ腹に突き出た銀の棘を焼き、身を捻じって距離を取る。頭一つ、主に向け『毎回一瞬で巻き取れ』と・・・ 求められる行動の勢いに眉根を寄せたタンクラッドを無視し、瞬間移動でトゥはホーミットの横へ。



 ―――箱を受け取れ、とは言ってない。


 瞬間移動は魔力を使うが、今のトゥには『長すぎる期間を回復に使った』状態。

 魔力は充実、自分が何をすべきか・何が正解か、それもタンクラッドに聞いた以上、逆算で使える魔力くらい見当は付いている。

 近距離で一瞬伝いに、黒い物体を受け取る繰り返し程度、数十回でも問題ない―――



 突然のダルナに若干驚くホーミットだが、こちらも豪胆。

 さっと出された時の剣へ箱を振り、飛び出た黒い蛇体は金の剣に絡む。絡んだ直後に一頭と一人は消え、ホーミットは次へ走る。


「手分けでサブパメントゥ駆逐。俺もサブパメントゥだが、この手で種族を根絶する日が来るとは」


 もう、あの汚い歌も消えた。さっき、タンクラッドが倒したのだろう。この黒(・)い(・)の(・)は冗談抜きでサブパメントゥ最後の宝だった。これが救いか・・・


 タンクラッドが、いや、ト(・)ゥ(・)が(・)古の奇獣を追い払ったら、サブパメントゥも因果が切れて終わるのか。



 その時、俺はどうなる。

 コルステインが一塊にした、無害なサブパメントゥたちは、今頃。

 これが全部終わった時、俺も、あいつらも。コルステインも・・・あいつはまだ、在(・)る(・)だろうか。


 金属質な焦げ茶の肌に、空の遺跡の模様を光らせるヨーマイテスは、やるだけやると決めて動きを止めず。ちらほらとしかいなくなった狂った同胞を探し、殺し、ひたすら『古代サブパメントゥ根絶』を目指す。


 数分も置かない内にまたダルナが出て、こっちが箱の中身を投げ、タンクラッドが受け取って消える、これもくり返し。


 トゥは棘だらけの龍とぶつかり、炎が落ち、海面を噴出させ、波は垂直に上がり、振動が大気をかき混ぜる。底知れぬダルナの攻撃は、何でもありに見えた。


 そして、傀儡の奇獣はやられっぱなしの印象であれ、腐っても龍。


 龍気の蓄えは半端なく、トゥにどれほど攻撃され飛ばされようが、細切(こまぎ)れにでもされない限りは突進が続く。

『考えて動く』など、程遠い傀儡の龍の攻撃は、棘を飛ばすか、本体が突っ込むか。他に吼えるような音を喉から出すが、具体的な衝撃は起きないため、トゥには効かないのかも知れない。



 ゴオオン!と揺さぶられた海の上、落ちたザハージャングが海底へ直撃し、水が割れ、上がってくるや、トゥに棘を飛ばす。

 龍気の塊に守られた無限再生の棘は、瞬間移動するダルナの体をわずかに掻くようで、意外だが、よく見るとトゥも傷を負っていた。


 命も体力も関係なく、ダルナを襲い続けるザハージャング。ただ、棘は無限再生であれ、生やす体の再生はないらしく、トゥに壊された腕や尾は欠損したまま。


 元々、二つの体の胴体だけが融合しているので、一体分の手足が失せても、ザハージャングに不都合はないし、これといった攻撃がなくとも、生まれは空。

 龍気を吸い込み続ける存在だけに、どこからか集める龍気源(※放置された白い筒)で、トゥの烈しい仕打ちに、耐久力で戦いを引き延ばしている印象が強い。


 一方、トゥは翼にも攻撃用の目があるため、陸を削る勢いの火焔噴射を連発、浴びせかける高温の熱と膨張圧でザハージャングを翻弄する。それでも倒し切れず、怒涛の勢いで攻めるだけだった。


 フォッと重みが加わった空。その一瞬、ザハージャングが極端な変形を遂げたのは、ヨーマイテスも目を丸くした。


 どんな技か見当もつかないダルナの魔法で、べしゃりと伸された奇獣は宙に傾く。しかし、これもほんの少しのことで、龍気の白さがザハージャングを包むと変形は戻り、再びトゥに立ち向かった。



 呆れているのか、鬱陶しいのか。

 苛立っていそうなトゥの攻撃は過激になる。背に乗るタンクラッドが残党サブパメントゥを倒すため、黒い流動体を取りに通(・)う(・)。こっちに来れば、あっちに出る、忙しさをこなし・・・ 


 よくあいつも耐えられるもんだと、終わらないザハージャングのしぶとさに、ヨーマイテスが首を傾げた時・・・ ふと、二頭の戦いに変化を見た。



「なんだ?ザハージャングは、時の剣に反応するが」


 少し前から、流動物を取りに来なくなったと思ったら。

 タンクラッドが剣を構え、渦巻く風を起こし始めた。あれは二つの種族の気を中和させて、力を奪う技だが。これまで、タンクラッドは出していなかったことに気づく。全く終止符が打てない戦いに痺れでも切らしたような、この技だが。


「おかしい。ザハージャングが。あ!」


 ヨーマイテスの碧の瞳が捉えた一秒。

 時の剣が旋風を引き起こした直後、ザハージャングの様子が変わり、グラグラと揺れ出して、その二つの頭を打ち付けた。

お読みいただきありがとうございます。

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