3219. 悲願の空 ~②龍王 VS コルステイン、ザハージャング・魔界繋ぎを越え・ヨーマイテス到着
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広がり、一瞬で撥ね返した紫の雷―――
龍王の攻撃に、対抗できるほどとは。最下層で防御を放った、地下の最強。龍の攻撃を防いだ!と、他のサブパメントゥは一気に盛り上がる。
「お前。龍と対決する気か」
溜息と共に頭を振る、ビルガメス。コルステイン・・・そこにいたのかと、少し迷った。
コルステインの単純な思考は、非常に伝わりやすい。この状況を、嫌がっている。だが、種族に染みた哀れな質で、コルステインは出てきたのだ。
嫌がる心の方が濃い、が。これも皮肉な運命。コルステインは、サブパメントゥの頂点で、誰よりも柵の犠牲に適していた。コルステインの存在に、持ち込まれた因縁が憑りついている。
「なぜお前に、背負わせたのだろうな。イーアンに好かれ、友達として認められたお前を、俺は倒さねばならない」
コルステインの抵抗。本当は嫌で仕方ない挑戦を、勝手に動く存在意義が嗾ける。辛く悲しい心を無視する本能が、誰より強く働くコルステインは、嫌がる心にしがみつきながら、龍に歯向かうサブパメントゥを守り・・・
情けも、あるものの。龍王が大きく息を吐くと、それは再びサブパメントゥを襲う。空圧が数倍になるが、応じた『サブパメントゥの青い熱』が遮断。何が燃えたかも分からぬ煙を巻き上げたが、両者を遮った煙は暴風に流された。煙の下、空を見る顔に目を細めたビルガメス。
コルステインは攻撃こそしないが、仲間の行く道を守る。
仕方ない―― ビルガメスはイーアンの泣く姿を思い浮かべ、首を一振り。
コルステインを先に消すことにする。
すっと向けた目が途中の輩を透かし、黒い翼のコルステインに狙いを定める。が、不意に感じた存在に、ビルガメスは瞬時で移動。うっかり忘れていたザハージャングが、龍気に反応して襲い掛かった。
「邪魔を」
サブパメントゥの挑戦に従う銀色の奇獣は吼え、龍王ビルガメスへ突進する。速度も能力も大したことはないにせよ、動き回るザハージャングは鬱陶しい以外にない。
龍は、龍を殺せない。母も、この呪われた龍を殺さなかった。手にかけるわけにいかず、侵略のサブパメントゥを撃退するにも邪魔で、龍族がイヌァエル・テレンへ追い込まれた創世の話が、ビルガメスによぎる。
「そんな馬鹿なことが繰り返されては、俺が困る。大人しくしてろ、ザハージャング」
殺せなくても、止めることは出来る。傷付けず停止させるため、片手を引く仕草を取ったビルガメスの動きにつられ、ザハージャングが転がるように宙へ倒れた。包んでしまうかと龍気を広げるや――
「全く、お前ときたら」
猛烈な勢いで龍気を吸い込むザハージャングに、包み込むなど無駄と分かる。そうこうしている内に、コルステインの防御を盾にした輩が、騒めき立って上がってくる。
「梯子をひとまず」
ザハージャングに手を焼く龍王は、暴れる奇獣をかわしながら、翼二枚で風を起こす。ぐおっと打ち下ろされた龍頭の風は走り、浮かぶ無数の銀の棘から力を奪った。
ガラガラ、崩れ出す棘の梯子。足元が落ちるサブパメントゥたちは次々に落下。
ずっと離れた下の方で、この種族最強の力を持つコルステインは、抗う心で戸惑い、でも動いた。海へ落ちるサブパメントゥ。棘諸共、龍の風に噛み潰され、噛み切られ。
そのまま放っておきたい。全部終わってほしい。見つめるコルステインの気持ちは変わらないのに、自分の中に動き始めた本性のような別の何かが、『同胞の終わりを阻め』と命じる。
こんなことは今までなかった。これまで、自分以外の何かが動くことなんか、一度もなかったのに。
やれ、と言う。存在を変えるのだと。それはこの世界に居つく目的・・・・・
苦々しく、歯を食いしばるコルステインは、黒い翼を広げて煽る。抵抗が効かない、歌よりも強く圧し掛かる存在の本質に、抗うけれど勝てず項垂れる。
翼は大きく風を起こし、地下の国サブパメントゥの『気』を引き上げ、落ちてゆく同胞に力を渡らせ、海面の上に反発の炎を広げる。青白い炎は海を舐め、瞬く間にサブパメントゥの床を敷いた。
『よくやった』
周りから響く声から顔を背けたコルステインだが、称賛に応えるように炎の厚みを増やす。炎は増え、地獄の業火の如く、サブパメントゥの世界、その一部を引っ張り出した。
満ちる、サブパメントゥの瘴気。吼えるサブパメントゥたちが息を吹き返す。
離れた空で青白く燃える海を見つめたビルガメスは、邪魔して止まらない奇獣を避けながら、思いもよらなかった事態に嫌そうな顔を向けた。
「こんな技を出すとは。認める気はないが、なるほど。人間を追い回して、この世界の悪役に落ち着く力量はあったわけだ。コルステイン、お前も嫌だろうに」
頭が弱いとは聞いていた。しかし、攻撃力と備わる力はさすが頂点だけある。作戦など皆無でも、コルステインが本気で抵抗すると、中間の地にありながら、地下の世界が地面を覆うとは。
―――創世で。サブパメントゥが人間を殺した後、空へ上がる梯子を掛けた時。怒りをぶつけた母は、中間の地を大水で埋め、全てを押し流した説もある。あれは、この状況か。コルステインの親が、母の敵対に。
創世の伝説はいくつもあり、真実はどれか分からずじまいだったが、全てが真実だった可能性を、ビルガメスもこの前気づいた。
「ありえるな。これを放置していたら、サブパメントゥに置き換わった大地から、直に空へ来る。光の呪いに縛られなければ、やつらにも諦めなど思い浮かばん。中間の地を足場に、何度でもしつこく上がろうとするだろう」
呆れてものが言えないが、目の前で起きた異質な技にビルガメスは理解する。狂った輩は、落とされても何をされても、落ちたら回復するのであれば、存在を消される前に自ら落ちて力を戻し、また空を目指す。やりかねん、と呟いて龍王は、銀色の棘の塊を振り向いた。
「ちょっと、向こうへ行ってろ」
苛立ちが口を突き、ビルガメスの手から龍の風が迸る。肩から腕を伝って翔ける風は、棘の奇獣と同じ大きさに膨れ、もがくザハージャングを絡め捕り、遠くへ押し出す。
「・・・あれも龍気である以上、吸われるのも仕方ないが」
龍族が使う技は、龍気が元。吸い込み続ける性質の奇獣には、餌を与えているだけのこと。とはいえ、音より早く消え去った風に持って行かれたので、少しの間は持つ。
ビルガメスは、やはりコルステインを倒すのが先決とし、中間の地の海に広がる青白い炎、その一点へ目を走らせ、顔を顰めた。棘が、また浮いている。
落としたはずの棘は浮かんでおり、意外にも塵となり砕けた棘すら復活していた。
なんだこれは?と不可解に顔を歪め、再度、大気の圧力を変えて圧し潰す。ぎゅうううっと圧縮された、龍王と海までの距離が不自然に捻じれ、棘を上がるサブパメントゥが消滅する。棘と共に消え去ったサブパメントゥの下で、別のサブパメントゥがコルステインに頼った。
その途端、ビルガメスは怒りがこみ上げる。コルステインの反応は、サブパメントゥを蘇らせたと知って。
「存在も魂も、在ったもんじゃないのか?お前たちの仕組みは、どうなっているのやら」
言い終わる前に、怒りの龍王が腕を振り上げる。視界にある空の動きが停止するや、光ったと同時に雷撃が空の全てに渡る。広大な空を、龍王の雷が席巻した一瞬、コルステインが防げなかった・出遅れた一部は完全に消えたが。
「これは、確かに。腹立たしい」
光が引かない真っ白な空中。雷撃の名残が、龍王を包み、轟く音の中に立つビルガメスは、影すら眩くあるのに。そのビルガメスは、憎たらしそうにコルステインを睨む。
龍王の攻撃を止めた、サブパメントゥの技。青白く紫の外炎を噴いた下方は、この猛攻に合ってもサブパメントゥを守った。棘も、サブパメントゥ勢も、コルステインの力の中でしぶとく残る。
『母の気持ちが分かる』瞼を半分下げた龍王は、自分の攻撃を阻むたった一人のサブパメントゥ、その挑戦に応じた。
「付き合ってみろ、コルステイン。俺を負かせると思うなよ」
吸い込んだ息を吐く動作。伴う龍の苛立ち。それは真上と空中の攻撃ではなく、下から突き上げる。
呼び出した白い遺跡。ヨライデの遠くに眠っていた、白い遺跡を発動させたビルガメスは、遠距離でこの地を囲んだ『筒』を呼び―――
*****
「ヨーマイテス、戻れよ・・・ 」
ふらつくシャンガマックが呟くのは、一部浄化された土の上。気づいたら、オーリンとセンダラが側にいた。オーリンを見て驚いたのは、彼が横たわっていたからだった。だが目を覚ましたのは俺もそう、とセンダラに言われ・・・ センダラの姿も、一瞬誰かと分からず慌てたばかり。
驚きの連続で、ヨーマイテスがいなくなったことが一番堪えている。彼も倒れ、センダラが守ったらしいが、俺が目覚める前にここを出たという。事情があって、それはセンダラも知らない。ただ、『戻れたら戻る』と、彼は置いていく俺に伝えるよう頼んだ。
地面に座ったまま、まだ覚束ない動作に溜息を吐く。
空には白い妖精が飛び、消えたと思うと現れ、現れたと思うと別の空が雷で光る繰り返し。センダラは俺たちを守り、この場所から動くなと命じて一人、魔物を倒し続けている。
オーリンはまだ目を開けない。意識がないのではなく、龍の民だから無理して起こさないとか・・・センダラの意見。『癒した』と聞いて、オーリンが大怪我を負ったのも慌てたが。今は、怪我の跡もない。
とはいえ、治したのが妖精で、龍の民は人間に近いから属性の帳も低いだろうが、回復にかける時間は掴めない。イーアンがいたら。彼の龍ガルホブラフがいたら。もう起き上がっているのかもしれない。
ふーっとたまった息を吐いた褐色の騎士は、横に倒れた杖と剣を見る。
この二つを手放したかと心配したが、センダラは取っておいてくれた。漆黒の目で、澱んだ空に眩い妖精を見上げる。お世辞抜きに美しい種族、その姿を初めて見た。
フォラヴの変化も美しいが、妖精は本来の姿をとるとああも神々しいのかと、センダラを見て感じる。
「少し、優しくなった」
ぼそりと呟き、風に踊るように舞う妖精から視線を下ろした。ただでさえ圧倒的な強さを誇るセンダラが、あの姿にならなければいけないほど・・・ 要は、そういうことだ。俺たちは追い詰められたんだと、自覚する。
「タンクラッドさん、あなたも運命が呼んだんですね」
追い詰められ、救われ、センダラが守ると決めた後で、剣職人に迎えが。ヨーマイテスが動く前で、トゥがどこからか現れて、それを見たヨーマイテスが出かけたらしい。
何となく、繋がった。
トゥがタンクラッドさんを連れて行き、その動きでヨーマイテスが向かったのは、サブパメントゥの梯子――― きっと、それだろう。
馬車歌の12番歌が、頭の中に流れる。
タンクラッドさんのオルゴール。総長が歌った声。静かで穏やかな曲調だったけれど、ヨライデ馬車歌共通の『歌詞は暗い』。12番歌は、トゥの物語、その締めを予言していた。
回復が遅い魔力のために、体はどうにか動けるものの、戦力外で座るしかないシャンガマックは大きく溜息を吐き、大顎の剣を鞘に戻してハーアエルの杖を握る。まだ、戦えるほどではないが、せめて武器だけは手にしていたかった。
「ヨーマイテス。頑張れ。あなたなら、絶対に。絶対にやり遂げる。そして俺とまた会うんだ」
杖を握った方ではない手で、汚れた顔の土を払う。こびりついた土は、センダラの癒しのおかげで毒素が無くなっていた。燃えた服、千切れた布、散々な目に遭って翻弄され、ここまでかと無念に歯を食いしばった、地中の落下場面を思い出す。でも、俺はギリギリで助けられ、生き延びた。ヨーマイテスも、きっと。
「きっと。ヨーマイテスも大丈夫だ。俺が生き延びたということは、ヨーマイテスも」
泣く気はないから、涙は抑える。掠れた声は誰にも届かず。
その声が聞こえない場所で、獅子は―――
*****
この場所に獅子はいないので、祝福を過去に与えたヨーマイテスは倒さずに済みそうだと、ビルガメスは思う。だが、コルステインは。
応戦がまずまず。ここまで粘るとは予想外も良いところ。龍王の俺が、コルステイン一人に手こずるなど笑い話だと、何度苛ついたか。長引く襲撃で、とうとうタムズから『手を貸す』とまで言われた。
要らぬ連絡をさっさと断った後、まだ続く時間に、ニヌルタが『アオファを下ろすか?』とやら。
冗談じゃない。今の俺で苦戦していると思われるなど、迷惑甚だしい。
ニヌルタの連絡も無視したが、ニヌルタが続けて『ザハージャングの吸い込みが、これまでと違う』と話し、その言葉で、はたと気づいた。
白い筒を立ち上げたはいいものの。俺一人で二ヵ所の龍気をまとめかけて、散って仕方なかった。サブパメントゥを下と横から潰して消す予定が、変に長引いたために筒はまだ空へ上がれない。これはザハージャングのせいだった。
応援など気に食わない。白い筒は出しっ放しで放っておくことにし、うろつくザハージャングをもう一度押さえ込んだ。遠ざけようが押さえ込もうが、龍気の取り方が遠慮ない。
これに手を煩わせている間で、サブパメントゥが上がる。コルステインが防御する分、あれからさほど進まずに・・・
「ああ、面倒だ。もう俺の忍耐は限界だ」
梯子もサブパメントゥもしぶといったらなく、倒そうが堕とそうがコルステインが戻している。上空までは届いていないものの、コルステインの底力を侮ったらしいのは嫌でも認めた。
「仲間の復活は、お前だけが可能」
元通りにはならないが。消し炭の仲間すら、コルステインの炎に巻かれて再び似た姿で立ち上がる。地獄の炎は魂などの綺麗事をさっぱり無視し、『存在維持』を純粋に保つ。おかしな歌は蔓延し、ザハージャングの梯子は高く伸び、落ちても落ちても這い上がる輩がすぐそこまで来た。
ビルガメスの心にあった情は失せ、イーアンの悲しむ顔も既に効果なし。龍族に楯突き、ザハージャングという呪いの龍を武器にするこれらは、丸ごと消す。
中間の地に、人間はいない。戻るだ何だとニヌルタは言ったが、それの動きがないなら今、ここを無に帰しても文句は無いだろう。冷静に対応していた時間は無意味で、終了が合っている。
風を籠めた吐息を出し、下方で仲間を守るコルステインに告げた。
「コルステイン。サブパメントゥが空へ着くことは叶わん。お前は知っていて、罪を手伝った。そして龍とは、全てを破壊する存在であることも知っているはず」
中間の地も、サブパメントゥの世界もまとめて壊す―――
決して大声ではなかったが、ビルガメスの厳格な声は、やかましいサブパメントゥの騒ぎよりはっきりと響く。コルステインは難しい言葉を理解できないが、これで終わるのは感じた。
『もう終わりだと?叶わないと言うか。馬鹿を言うな、龍よ。お前たちが落ちる日だ!』
騒ぐ層で『呼び声』が怒鳴った。『お前らが落ちるんだ』『世界は約束した』『龍の鱗を焚け』『牙を抜け』『空は俺たちの場所だ』『終わるのは空』・・・・・ 狂ったように同じことばかり、刺激されたサブパメントゥは上空の龍に喚き散らし、ビルガメスの6翼が大きく開く。
雷を東西南北へ渡らせる空に浮かび、ザハージャングを一時的な龍気の檻へ閉ざし、吸収されながら白い筒の発動にも龍気を再び注ぎ込み、ビルガメスは大きな一頭の龍に変化した。地上の明度が限界まで上がるかのように、白く白く・・・・・
ブルッと震わせた、壮大な龍の鬣。コルステインが『消滅』を意識した横で。
ビルガメスは、不意に飛び込んできた小さな一手で止まる。
「ヨーマイテス」
何処からか、突如走り出た獅子は、サブパメントゥの青白い炎を走り抜け、騒ぐ残党たちの中へ入ったかと思いきや。
梯子の棘を駆け上がり、ぐるっと身を捻って大男の姿に変わる。焦げ茶色の金属質な肌が、白い風景にサブパメントゥらしからぬ輝きを返し、その太い腕が空中から掴み取り出したものは、奇妙な黒い箱―――
「終わりだ!」
ヨーマイテスが吼え、箱が返される。人の胴体ほどの箱から溢れた、黒い流動体は瞬く間にサブパメントゥへ広がった。
お読みいただきありがとうございます。




