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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三度目の最終戦
3213/3223

3213. 中間の地決戦 ~③勇者 VS オリチェルザム

 

 これをどう、攻撃するか。

 数回のやり取りで、人型を脱した魔物の王。ドルドレンは・・・変わり切るまでこれを傍観者のように眺めていた。


 目の前での変形は、その大きさに似合わず思ったよりも静かなもの。大気が揺すぶられる威圧もなく、あまりの大きさで距離感が狂う視界もあって、変化を見届けた時間は他人事みたいで。



 ドッ、と重い音が飛び、ドルドレンの盾が傾く。


 巨大なオリチェルザムのど(・)こ(・)か(・)ら(・)か(・)飛んできた物が盾にぶつかり、受けた衝撃の勢いですぐ離れた。


 足場の翼は、盾から派生しているからか、攻撃の影響を受けない。一旦、距離をあけて下がったドルドレンは、盾の表面と体の損傷を確認する。


 攻撃を受け・離れ・見回すまで、2秒。どこもやられていないと分かるなり、前方から先ほどの音がして、顔を上げる。『ドッ』と打ち出される音は同じだが、今度は一発ではなく―――



「むっ」


 視界を埋める、無数の『もの』が一斉に飛んできて、慌てて上へ逃げる。方向転換の利かない飛翔体らしく、進行方向から逸れない。わっと一度に飛んだものの、ドルドレンに当たることなく矢のように遠くへ消えた。


 これは、オリチェルザムの体中にまぶされた赤い目が発しており、鈍く重い響きが唯一の合図だが、一個でも千個でも同じ音と知る。速度は矢と近く、眼前を過ぎる形状を捉えるには速過ぎるが、もっと速い攻撃を他で経験しているため、疑問にも思う『遅さ』ではある。


 物体の正体は判別が利かないまま・・・上へ逃げたドルドレンは一先ず剣を構え、どこでも良いから切ることに決める。飛翔体は放っておき、相手にしない。ぶつからなければ良いだけのこと。



「拍(・)子(・)抜(・)け(・)と思い込んでは、足をすくわれそうだから」


 まるで島を相手に、人間一人が剣で立ち向かう具合でも、想像していた『大変な決戦』と印象が違うので、少々意外な現実に拍子抜けを感じてしまう。

 とはいえ、気を緩めるほどでもない。始まったばかりで、向こうも手の内を隠している。


 ふわっと弧を描いて、魔物の王の背中へ回り、剣の届く範囲へ急降下。鈍色の空間に閃かせた剣、その切っ先を、広大にも見える化け物の背に滑らせた。


 手応えはある。切っ先が埋まる程度でも、物(・)体(・)を切っているのは手に伝わる。


 巨大な体、島の面積を持つ敵の薄皮一枚であれ、『切れる』と感じたドルドレンは、追いかけ始めた相手の攻撃を振り返り、行く手を阻む持ち上がった影との間合いを計算しながら、右へ左へ切っ先を突き立てた状態で、王の背中そのすぐ上を翔け抜ける。


 ささやか過ぎるほど小さな傷で、わずか一部であれ、無論、開始された攻撃にオリチェルザムも応じる。ひ(・)っ(・)か(・)く(・)翼を捉えて潰さんと、追跡の礫を連発し、裂かれた表面は瞬時に毒煙を噴き出し、背の皮がめりめりと捲れ、壁の如く勇者を覆う。


 無数の赤い目が捉える、飛び回る小さな人間は、一発で潰せそうなものだが、動きが早く捕まらない。

 あの手この手で挑戦した時の勇者は、三度目の最後の戦いでも苛立つに充分。どこまでやらせてやるか、余裕もないわけではないが・・・


 オリチェルザムは、魔法を使う―――


 残り二体の眷属はもう少し後で出し、今は魔法をあてがう。これも制限付きで、力の上限も魔量も、魔物の世界(陣地)並みとはいかない。


『おかしなものだな、勇者。お前たちの位に合わせてやらねばならんとは』


 口のある場所も曖昧な体から、皮肉が漏れる。この姿は、倒すに一苦労で済まない大きさだから、最初はこれで行くものの、本(・)体(・)増(・)幅(・)で(・)は(・)な(・)い(・)以上、受ける攻撃は軽減されるものでなし。


 呟いた皮肉に続け、オリチェルザムの魔法が周囲に彷徨い、それは大きな泡となって・・・



 切りながら、捕まえられることもなく飛び続けていたドルドレンは、ふと空気に重みが加わったことに気づく。変化を感じたら即対応。サッと剣を抜いて上昇するが。


「あ、閉じたか」


 上昇の範囲が狭められ、左右前後を振り向けばどちらを見ても同じ色の壁が出来ていた。球体の内側に、魔物の王と自分が閉ざされたと分かった途端、籠もる嗤い声が響いた。


『逃げてみろ。逃げられるなら』


 冷たく無機質な低い音が、人の声のように喋る。濁った雑音を伴う発音が狭められた球体に木霊し、ドルドレンは内側の壁をなぞるように飛ぶ。止まってはいけない、そう思ったのは正解で―――



「来たか」


 ドッ・・・ くぐもる鈍さ、振動の波。凝縮し、出口のない空間に鳴った合図で、無数の飛翔体がドルドレン目掛けて飛び出す。

 避けて当然だが、この続きは?と、一回転で反対側へ避けたドルドレンは先を見つめる。飛翔体の群れは彼の下を通り過ぎ、そして嫌な展開に。


「戻るとは・・・!」


 球体の内側、曲線の壁にぶつかることなく、全部が壁に沿って回り出した。群れる虫のような飛翔体、端から端までの幅も相当ある。こんなものが充満されたら、逃げ場などなくなるだろう。受(・)け(・)取(・)る(・)しかなさそうな展開に、ドルドレンは盾を引き寄せ、『頼むぞ』と一声かけた。


 グルーッと巡って戻る、飛翔体の群れと向かい合う位置に出て。

 オリチェルザムの本体がまだ動かないのを確認し、飛び込んでくる群れを真っ向から―――


 最初の飛翔体が盾の攻撃範囲に入った一瞬。ボオオオと低く吼える風が、盾の表から噴き出し対流する。横広がりの群れは見る見るうちに絡め捕られ、対流の渦に巻かれて粉々に砕け散った。


 最初からこれでやれば良かったかと、あっさり片付けてくれた威力にドルドレンは思う。


 だがこれで済むなんてことはなく、飛翔体はまんまと盾が片付けてくれたが、黙っていたオリチェルザムの体奥で何かが光り、数秒後にそれは奇怪な姿を現した。

 魔物ではないのに魔物じみて、魔法の一つに見えるが魔法より生き物に似て。



 フォッと、ドルドレンの上下をすり抜けたそれは、振り返った勇者に合わせて振り向く。

 飛翔体の正体が不明瞭だったのに比べ、こちらは炎の塊が帯を引いて飛んでいると形容できた。そして頭(・)が(・)あ(・)る(・)。頭は、炎の揺らぎを伴いながらも、表情を見せ、ドルドレンの嫌悪を煽った。


 まさかの、いや、あるといえばありがちだが。


『ドルドレン、切れるのか』


 安定しない炎が喋る。赤橙と黄色が混じり合う炎は、ドルドレンの記憶に忍んだ顔を持ち、切る気かと喋った口は、親のデラキソスのものだった。


 人の顔を持つ敵を、何度となく倒して来たドルドレンに、この程度は躊躇うまでもない。ただ、親の顔が再現されたのなら、もっと悪趣味な相手も予想する。


 口を利いた炎は加速し、デラキソスの面影が笑いながらドルドレンに飛び掛かり、剣はこれを切り捨てた。炎が切れるかどうか。ドルドレンが気にしたのはそこだけ。


 心配は無用で、剣を振った炎は見事に裂帛(れっぱく)、炎らしからぬ叫びで、横二つに断たれて左右へ流れる。デラキソスの顔が分断されたまま、ふらふらと速度を落としながら、それは魔物の王の背中に落ちて行った。


 仰々しい叫びだ、と一瞥した勇者に、魔物の王から感想が届く。


『容赦ない。今、どこぞでうろつくお前の親は殺されたな』


 ぴくっとドルドレンの瞼が動く。離れていた他の炎がまたも接近し、それは近づくにつれ頭がもやもやと形を成し・・・

 経験から学習したドルドレンは試(・)し(・)に、ある人物を想像してみる。それは直線的に炎に反映し、決まらずにいた形が急に顔を模った。


 目を見開いた炎の顔。それは、幼いドルドレンを親代わりで育てた女性そっくりで、クワッと口を開いた歯並びまで炎は再現した。


 ドルドレン!と怒号を放った女の顔に、ドルドレンは遠慮なく剣を突き出し、これも切る。ああああ!の悲痛な嘆きをまといながら、女の顔は斜めにずれて、続く炎は大音に散りながら落ちて行った。


 この時、炎を切って分かつ、その手応えと意味をドルドレンは理解する。

 核となる種があるようで、切れば終わる。松明の先端が、大きすぎる炎を引っ張っているのと同じ・・・ 足元の翼に勢いをつけ、まだ飛び交う炎を一つ残らず切りつける気で飛んだ。


『お前は人間の代表だが、身内も刃に捨てる者か。あ(・)の(・)者(・)も(・)死(・)ん(・)だ(・)ぞ』


 帯引く炎の頭へ突進するドルドレンに、可笑しそうな侮辱が伝わる。でも、ドルドレンは無視。


 先ほど切り捨てたのはドラガの顔で、離れたドラガを切り殺したというなら、それこそ笑止千万。

 勇者は表情一つ変えずに、次の炎へ剣を薙ぐ。ドラガは、疾うに死んでいる(※351話参照)。今更、死にようがないのだ。



 飛び込んできた炎は、次も、その次も、過去の知り合いや支部の部下を真似し、核を割る度に壊れる炎の顔は、無情を嘆いて落ちる。


 誰かを切るたびに、オリチェルザムは『勇者が殺しているのは実体と同じ』、そう言い続けた。


 魔物の王の小細工が、心理的に忍び寄るもの。

 そう捉えたら、本当に大したことがないとドルドレンは思う。今のところ、疲れもそれほどではないし、オリチェルザムのだだっ広い体の弱点を探りに出るかと・・・



 *****



 ここまではドルドレンの方が、やや優勢。

 オリチェルザムの攻撃の質を、軽んじなければ。

 そして、『やや優勢』の意味は、状況を俯瞰しない点に基づくと、ドルドレンが気付けたらこの先の時間も変わったのだが・・・ 


 気づけない勇者も、先に気づいたオリチェルザムも、誰かの示唆の線上にあるのか知れず―――――



 *****



 冷静に、何にも動じず、思ったほど面倒な展開も起きないので、ドルドレンは淡々と炎を全て片付ける。

 片付け終わる少し前に、飛翔体の群れがまた放たれたが、盾の咆哮はそれを消し去り、再びオリチェルザムに狙いを定めた。弱点を探そう、と。


 だが、敵も同じ手を待つわけはない。飛翔体は、急降下する男を迎え撃つべく、広々した背の一面から発射される。連続で体中から飛び散ったため、狭い球体の余白は、呆気なくとんでもない量の飛翔体で埋め尽くされた。ビュンビュン飛び、交錯し、全方位を狂ったように群れが混ざり飛ぶ。


 物凄い苦戦は無さそうだと思っていたが――― 


 これにはドルドレンも無傷で済まず、前と後ろは同時に防げないため、急激に増えた飛翔物の攻撃を食らう。四方八方から飛ぶので後ろから来たそれに、ガッと掠ったふくらはぎは、意外な衝撃を受けた。


 鎧は無事でも妙な痛みが走り、足を振り向く。


 引っ切り無しの飛翔体を、すり抜け飛んで、かわしながら、痛むふくらはぎへ視線を流すが、鎧自体は傷もない。気を取られたことで、今度はクロークをの隙間を抜けた後頭部に打撃を受け、一瞬、ぐらつく。慌てて盾握る腕を背後に傾けると、盾は即座に後ろへ唸りを上げ、飛翔体の群れは消滅した。



 ―――なんだ。なぜ痛む?


 痛みで少し息が上がる。鈍痛? 頭には、勇者の冠があるのに?

 細い冠とは言え、ただの金属ではないこれが守っているわけで・・・ 何が起きたかと両手の塞がるドルドレンは、敵を剣で薙ぎ払う合間、さっと後ろ頭に右手を――


「うわ」


 何(・)か(・)い(・)る(・)。触れたのは手袋越し、剣を掴んだままの右手拳が、後頭部に触れる前に、頭ではないものに当たった。当たった途端、痛みが増え、取ろうにも・・・


 もしや、と最初の衝撃を受けた足を見る。

 鎧の内側に嫌な痛みが動(・)き(・)、脳裏によぎったのは、『テイワグナの寄生虫(※1203話参照)』・・・・・

お読みいただきありがとうございます。

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