3212. 中間の地決戦 ~②勇者 VS 『魔物壕』・時代の勇者とその勝利・オリチェルザム再入場
ドルドレンの試合場は、もっぱら海の上、空中―――
そもそも孤島に渡る手前で巨獣が現れたので、先へ進むにも一苦労。倒した!と思ったら、すぐに孤島の城へ飛ぶが、バッと前を塞ぐ敵にまた旋回して、立て直し。
どう倒すべきかなど・・・魔法も使えないドルドレンには剣の一択しかないが、切って海へ落とせば『勝ち』と見做されるようで、一旦、荒波に潜った敵は浮上しなかった。
だが、分かりやすいのはそこだけで、倒しても倒しても別のが現れるのはどうにもならない。
イーアンがいたら。タンクラッドがいたら。仲間が、いたら・・・・・
ドルドレンの体力は、遠征や一人の退治で培ってきた。現在、数頭倒しているが、まだ何ともないにせよ、終わらない『巨獣種』の出現は、いい加減、他に理由でもありそうな気がしてくる。
その理由を探る、賢い仲間の鋭い視点が欲しいと、心から思う。彼らなら、寸時で見抜くかもしれない。そして英断を下すのだ。俺は無駄に戦っていそうにも。
「オリチェルザムは逃げないだろうが、こっちを疲労させるつもりか?」
ぐるっと宙で回転して、斑岩のような巨獣種の攻撃前を横切る。これは長い首の喉に、いくつも亀裂が入っており、亀裂から無数の石を飛ばす。一方向でもなく、首の前も横も同時に亀裂が開くため、照準の域に入ってしまった時、何度か当たった。鎧のおかげで体は問題ないが、頭に当たったらと思うと。
風を切り、振り向いて、弾礫を発した巨獣に、すかさず盾を出す。盾は吼え、轟音が大気を揺すり、礫は全て砕け落ちてゆく。
孤独な挑戦の今、唯一の味方『盾』の存在は、非常に頼もしい。
魔法に似た効果を出してくれる上、盾の攻撃はドルドレンの体力も使わないため、もう一人、味方がいる具合。自分の攻撃も『剣』一本に絞り、太陽柱などの大型の技は出さずに、淡々と切る。
魔物の王に辿り着かないというのに、大技を出すなど・・・ こんなところで消耗したくないので、出来るだけ剣と盾で攻防するだけ。
「この連続。止める手立てがあるかもしれないが」
呟いては横殴りの風に声は消され、しつこく無限に礫を飛ばす巨獣に追い回される。
見た目や大きさは、ダルナの大型と近いが、これらの技はダルナと比べることもない。ダルナのような、豊富で危険な強さを持たないから、どうにか一人でも勝てている。
―――盾と飛行があること。強い鎧と剣があること。この装備で、俺は『切る』に集中出来る。
額の冠は熱を帯びるが、鼓舞するように意識を冴えさせ、敵が来る方へ気づきを促す。首に巻いた男龍ビルガメスの毛は、どんな澱んだ風も関係なく呼吸を楽にして、旅の道の数々で精霊たちに受けた恩は、魂を支えてくれる―――
「俺は、一人ではない」
グォッと声とも唸りともつかない音が掠め、小屋ほどある頭が、ドルドレンのクロークを叩く。布の端にぶつかっただけでも、風圧は強い。翻って圧をかわし、上へ回り込んで後頭部の付け根に剣を貫き、突き立てたまま左へ剣をはじいて頭部を落とした、
落下する頭部を無視する長い首が、ブンと振られて皮膚の亀裂が開き、また弾礫が飛ばされる。これも盾で塵に変え、一回転で巨獣の翼より高く上がり、直下して背中へ剣を薙いだ。
盾の威力は、巨獣を壊すほどではないのか。礫は消えるが、巨獣には届かない。これも何が条件とも分からず・・・イーアンなら、すんなり理由でも考えつくだろうにと思いながら、ドルドレンは右手の剣を水平に持ち、旋回して巨獣の翼を狙った。
剣に重みはない。無敵の切れ味は、岩の翼を小枝同様に切り払い、巨獣は片翼がズレて落下。つり合いを失った巨体も、残った翼で支えきれずに海へ落ちてゆく。
「ふーーーー」
何体目だか。もう数える気にもなれない。
ボシャと飛沫に包まれて消えた巨獣から視線を空へ戻し、そびえる孤島の黒い影、雷に打たれ続けて明暗を見せつける古城へ・・・ キリがないので、一気に加速。したのだが。
「このっ」
孤島の崖すれすれで、今度は真下から槍の柵が上がる。間一髪で体を捻って、串刺しを避けるドルドレン。城は、崖のすぐそこにあるのに・・・!
突き出した高い槍の柵は、嵐の暴風を裂く勢いで幾百と立て続けに現れ、穂先を空に向けた槍が島を囲むに、数秒しか掛からなかった。
ドルドレンは、良くも悪くも真面目な男で。
彼が奮闘する巨獣種は、魔物の王の眷属。さほど強くなく、一頭ずつ現れているにも理由がある。魔物の王と対決する際、『王の攻撃補佐で就く』ことが許されており、それは装備と変わらない。
挑む勇者が装備着用するのと同じで、魔物の王にも持ち前の能力及び『装備』としての眷属がある。この場に控える頭数は、制限内の10頭まで。槍の柵は装備の限りではないが、機能として看過される。
眷属のくせに、ドルドレンの剣のみで倒されて、ドルドレンにも『あまり強くない』と判断されているのだが、これはドルドレンの装備が完璧で、彼の戦闘能力が極めて高いことと、秀でた抜かりない攻撃を備えているからであり、地上で眷属の魔物が暴れた場合、被害はもっと大きく出る。
まがりなりにも『最終戦の補佐』で、これについては魔物の王も不満気に見ていた。
巨獣種を律儀に倒すドルドレンは、もう数えてもいないが・・・ そろそろ眷属も残りがない。
過去、これらの阻害と勇者が渡り合ったかと言うと―――
*****
よそでは『原初の悪』が女龍を捕まえ、高みの見物を決め込んでいるが、それはオリチェルザムも同じ。
こちらは、死骸と似たり寄ったりの老王を同席させ、古城奥に位置する、仮初のヨライデ城で、『戦い続ける勇者』を眺めていた。
『お前が城に入ってしまうと、俺も出なくてはいけない』
槍の柵を免れた勇者が、『魔物壕』でまた魔物に襲われる。飛び回っていても、苦労していそうでも、体力に問題なく動き続けている。そして、強い。人間のくせに。
あの柵を抜け、城へ一歩入り込めば魔物壕は越え、その時こそ、自分と決戦。
だが、この勇者は突っ切ってこない。魔物壕は頭打ちがある分、決戦を差しで行なうために倒しているのか。どこかに、魔物壕記録が残されていた・・・?
『人間の記録で、ここの情報も遺ったかもしれん。しかし奥義の太陽柱は、まだ使わんな』
三度目の勇者は、これまでと質が違う。目つきや滲む威圧感は、初回も二度目も同じだが、こいつは強さそこそこでも慎重で、無理をしない。
魔物壕を空にして、奥義も使わず、俺と対戦する気らしい。少しも疲れた様子がないのは癪に障る。壕は、片付けられて良いものではないが、もう少し引き延ばすと・・・こちらの不利になりかねない。
『勇者が来て、俺が対応しない状態は不戦選択にされる。煩わしい決まりだ』
呟いた魔物の王は、ヨライデ王の白髪頭に手を乗せ、乾いた目玉の上に指を被せる。ただの肘掛けのように、動かない王を掴み、城の外で巨獣を倒す勇者を赤い目で見つめ、挑んできた過去の勇者と比べた。
忌々しいことに、奴らは俺との対戦で勝利を得たが―――
―――勇者は初回の男も二度目の男も、俺以外を標的にしなかった。
魔物壕もすり抜け、一時的使用可能な奇妙な技で、ここへ乗り込んだ。魔法の類と思うが、『装備が緩い勇者』は、一時しのぎの道具を携え、それがやつらを完全に助けていた。
道具技で決戦に持ち込み、眷属を寄せ付けない『結界』を味方にした勇者。俺に形態を変えさせたが、最後の最後、勇者が勝利した状況は、初代二代目共に下された同じ条件による。勝敗は、どうでも良い判断でついて―――
じっと、濁った赤い光を据えた先。
大層、手の込んだ鎧に包まれた男は、吼える盾と『代々の剣』、飛行術を操り、とうとう魔物壕の残りを2頭まで追い込む。
『仕方ない。大技を出す気は無さそうだ。ここらで戦ってやる』
オリチェルザムは、暗い部屋を滑るように移動する。背後の玉座から動けない死骸に似た王を、振り向くこともなく。
俺はここで、今日、勝つ。
三度の戦いの末に勝ち、中間の地の主導権を受け取り、この王は地に待たせ、世界統一の代表へ進むのだ。
『ドルドレン。お前との戦いは、邪魔が入らないだろう。それだけの代物を持ち込んでいるからな』
骨ばった腕が前に動き、隙間のない石材の壁に歪む穴を開ける。ゆらりと広がった穴は嵐の表へ通じ、巨獣種を倒したばかりのドルドレンが、槍の柵越しにこちらを見た目と、視線が重なった。
勇者の、灰色の瞳。顔に細かな傷をつけた程度、分厚く堅固な鎧と盾に守られた男は、その目つきに疲労の影一つ滲ませず、柵を抜け出てきた魔物の王、その正面に浮かび上がった。
「茶でも飲んできたのか」
『お前の終わりが、世界の始まり』
「そのまま返してやろう」
一度は姿を見せ、あっさり引っ込んだ魔物の王に、ドルドレンは今度こそ逃がすまいと切っ先を傾ける。魔と自分の間を裂く風が走り、銀糸の刺繍のクロークが背中で翻る。敵が片腕を後ろへ振った瞬間。
黒と赤の入り混じる実体怪しい姿が、急に横へ広がり、骨と赤い目を不揃いに塗す異様な生き物に変わる。
大きさは島と等しく、平たい体の左右に無数の骨が突き出て、それは足のように動く。ぐらりと持ち上がった裏側は、絡み合う血管を張り巡らせた、太い骨の連続。垂れ下がる数え切れない血管は、触手状に蠢いていた。
そこかしこが赤く点滅し、気づくと風が消え、煤のような霧が満ち、魔の背後にある古城は支える島を失い、ポツンと・・・連結した二つの城が奥に浮かぶ光景。
足場の平石は変わりないが、ドルドレンが立った崖はどこにもない。あるのは、宙に点々と並ぶ足場石、魔物の王、自分、そして奥の城だけとなった。
『中間の地に巣食う弱者、ここに潰える』
濁る空気を伝い、耳障りなジリジリとした音が宣告する。ドルドレンは静かに深呼吸して・・・奇妙に巨大化する魔物の王の変化を見届ける。
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