3214. 中間の地決戦 ~④10の条件・勇者『悠久の剣』・速報
オリチェルザムとの決戦は、対決然としたものではなく。
動き回っているのは、結局のところドルドレンだけであり、巨大な島状になった魔物の王の方は、激しい動きは皆無、体を据えて遠隔の攻撃及び魔法で、勇者を翻弄させる。
早い話が、魔物壕の眷属倒しと、オリチェルザム相手の現状は、根本的に一緒。『一方的に動き回る勇者』対する敵は、『動かずに構えて相手の疲労を待つオリチェルザム』この位置に変わりないまま続く。
ドルドレンが気付けばいいのだが、彼は戦闘慣れが裏目に出て、気づかない。
戦闘状況の見極め・攻防に集中する意識は、客観的に全体を眺めたら『おかしい』と分かることも、妨げる。
ドルドレンは、視野を広げられずに『戦闘』に時間を費やすことで、一度二度は魔法も掻い潜ったものが、今は囚われてしまった。
記憶に強く残った『テイワグナの寄生虫』を過らせたことで、ぶつかった飛翔体が『寄生する危険な何か』と思い込む。
これは瞬く間に彼の意識を鷲掴みにし、幻は現実味を帯びて『寄生虫』らしい影響を再現、ドルドレンは蠢く感触と痛みに、これを信じて疑わなくなってしまった。
炎の顔が、記憶を適当に引っこ抜いた『嘘』で『惑わし』だったのを考えたら、すぐに気づくところだが・・・ 悲しいかな、それを指摘する仲間は側にいない。
ここに、イーアンが。タンクラッドが。レムネアクでもいい、『違う』可能性を瞬時に思える誰かがいてくれたら、ドルドレンは囚われないのに。
魔物の王オリチェルザムの攻撃は、基本が同じで見せ方が違う。たったそれだけのことでも、真っ向勝負を信じるドルドレンには、魔法も心理も二の次で想像外だった。
魔法の効いていそうな様子に気づき、オリチェルザムは勇者を追い込みにかかる。
接近しては、飛翔体の群れを蹴散らかすも叶わず、当たりながら怖れや不安を膨らませる勇者の心がジワジワと伝わり、勇者がこっちの情報を集めることも出来ず、焦りに陥っているので・・・
引き続き、魔法で戦闘の過去を引きずり出し、考える隙を与えない礫を放出する。
静かに痛め続けて、状況は良好に傾いているが、オリチェルザムとしては、勇者が呆気ないとまでは思わないのも事実。
なぜなら、この空間で呼吸が出来ているだけでも、褒めてやれる。
顔に覆いもなく、よく人間が息を続けられるものだと、内心呆れた。吸えば、口も喉も体内を刻む破片が、細かく細かく飛散しているのに。目すら開けて、飛び回っているのだから。
背を切られて出した毒煙も同じ。生きた体に致死量の焼けを引き起こすだろうに、何の影響も出ていないときた。
だからこそ、思う。よほど、あの鎧や装備が優秀なのを。
二代目、初代は、結界に守られていたのに比べたら、本体だけで突っ込んでくるこの男は結界もなく、よくぞここまでと、思わなくもない。
そして、今度の勇者の装備は『残念な』結果になりそうであるとも思う。
装備が完璧らしいために起きる、残念とは。
魔物の王に、装備として眷属が10体使用可能なように。
勇者が装備として10まで持ち込める物質がある。
一度目と二度目の勇者は、装備が雀の涙、持ち込みの道具は強力であったが、数は『10未満』で最後に『求める装備を与えられる』機会を得て、おかしなものを望んだ。
俺も勇者も、どちらかの体を貫いたら、勝ち。
その条件は勇者に告げられていないが・・・ 最終的に『求める機会』を活用した勇者は、装備として『悠久の剣』を得、その一瞬で勝負が決まった。
この身が貫かれたのは、二度も同じ武器だった。貫いた瞬間、武器は消失。
未だに、あの『悠久の剣』とやらが、何だったのかは分からないままだが。少なくとも―――
オリチェルザムは、魔法の影響に翻弄されている勇者を見て、鼻で笑う。
今回は、完璧らしい。10の装備を満たす機会は来ない。
そうして、魔法を強化する。オリチェルザムの魔力は、行き過ぎると中間の地へ滲んでしまうため、それは禁じられており、あくまでもこの中だけの使用。勇者決戦時に使える量と種類で賄うが、ドルドレンは効き始めるとなかなか楽しめる。
『どうした。俺を倒すつもりで来たのではないのか。全く近寄りもせず』
ちっぽけな勇者が、響いた侮辱に怒りを向け、それが伝わった。
『お前を吸い尽くすだろう』
もう一言添えると、勇者は急に突っ込んで来て巨魁の端に、剣を―――
『!』
剣が突き立った端は眩い光を放射し、同時に、島と等しいオリチェルザムの体を金色の太陽柱が走る。装備・最後の巻き返しに意識を向け、忘れていた『大技』を防ぐ間もなく。
『うお、ぐがぁ!』
巨大とは言え、実体を増したわけではない。呆気なく切り裂かれて焼けた島は、破裂する。オリチェルザムはすぐさま次の形態へ変化し、体の一部消失で逃げ切った。
見る見る縮んだ魔物の王が鬼のような擬態を成し・・・ 未聞の規模で太陽柱を爆ぜたドルドレンは、それを見ながら小さく頷き、ふーっと息を吐く。
「いい加減、動いたらどうだ」
重圧の増す、冷え切った文句。
寄生虫が体にいると思い込んでいようが、何だろうが。
思い込みと気づかずに、気持ち悪さや浸食される焦りもありながら、ドルドレンはドルドレン――― 恐怖も痛みも跨いで、死線を越えてきた騎士。
「その姿。やっと、らしくなったな」
騎士は、銀色の切っ先を真っ直ぐ、黒い鬼と化した魔物の王へ向ける。
*****
オリチェルザムの姿が縮まるや、明度が不安定になり、風景は移ろう。
球体はいつの間にか消え失せて、雷が空に走り、減った雨を巻き込む強風が吹きつける。
奥には、二つ連結して浮かぶ城影が見え、ドルドレンとオリチェルザムの距離、その左側に、平たい足場石が点々と宙に並んでいた。つまり、元に戻ったと解釈。
ドルドレンはふくらはぎと後頭部以外でも、嫌な痛みを感じ続けていたし、風に煽られた銀糸のクロークが千切れ、孔があいたのも気づいたが、鎧は汚れても破損はなく、肉体も疲労というほどではない。冑のない頭部、いくらか顔に傷がついても深い傷では無し。
緊張と緊迫の連続が、普段にない疲れを溜めていても、こんな精神状態だって、遠征中はよく体験したこと・・・
俺は、何ともない―――
黒髪の騎士は静かに深呼吸し、ここからが本番と、雨に濡れ始めた髪を一振り。
距離を詰めて、一気に襲ってくるかと思えば、オリチェルザムは呼吸でも整えているのか、こちらを見据えて動かない。この僅かな休憩でドルドレンも気持ちを入れ替えた時、あの耳障りな音が暴風を抜けて届く。
『魔法はお前に効果無さそうだな、勇者』
何の引っ掛けか知らない問いに答える気はない。ドルドレンは切っ先で定めた相手から目を逸らさず黙り、黒い鬼の容姿は間を置いて続けた。
『今も、血が抜かれている。代わりに毒が回る。鎧は役に立たな』
「知るか」
魔物の王の一人喋りに、冠がザワリと警戒を教え、ドルドレンは遮ってすぐ、直線状の相手に前置き無しの太陽柱を放つ。両手でなければ威力に押されかねないくらい激しい一撃を出し、黒く燻る姿を照らし呑む。
が、相手は移動し、冴え渡った黄金の光の後、城の先で黒い染みが浮かんだ。
瞬間移動はダルナでも見ているので、ドルドレンは驚かない。逃げた相手を追ってドルドレンも飛び、城ごと破壊するつもりで剣を振り上げる。目一杯、集中して振り下ろした剣は大気に弧を描き、二度目の光の攻撃を放った。
この範囲と曲線は、太陽柱の変化技。走る光の速度は瞬間と変わらず、光が覆った途端、耳を壊しかねない轟音が鳴り、続けてバリンと何かが割れた。
途端に膨れ上がったのが、城の前にいたオリチェルザムで、黒く燻る鬼が吼える。先ほどより何倍も大きく、城の半分を埋める体が、勇者を振り返る。
「城を守った・・・?」
奥にあった連結の城―― 角度で連結に見えているだけだが、手前の城の主塔が無くなった?
主塔が失せたそこだけ、切り抜かれた闇が宙に貼り付いている。割れた音は、とドルドレンの記憶が経験と直結する。あの闇は、別の時空が覗いているということか。
そして、オリチェルザムの右肩も減り、煤含む煙がもうもうと上がり・・・修復をしようとしているようだが、光に削り取られた一部は戻りかけて凹み、忙しく影が動く。
ここで初めて『魔物の王に傷を負わせた手応え』を、ドルドレンは実感。剣で切りつけるより、太陽柱が圧倒的に効きやすい・・・・・
憎々し気に光る、赤く濁った目。剣を構える勇者を睨み、失った肩から出続ける煙に、角を抱える頭部が揺らぐ。一見して、凹凸すら判別利かない黒い影そのものの鬼の輪郭は、ドルドレンの攻撃で立体感が滲んだ。
体を膨張させたのは、城を守るため。そして、太陽柱の攻撃を直接受けると、オリチェルザムは修復が―――
ドルドレンの冷笑。殴る風雨をに目を細め、城を背に守る魔物の王が振り返った腹へ、もう一発、太陽柱を打ち込む。
だが、ど真ん前から攻撃を受けるほど、相手も親切ではない。
放ったとほぼ同時に『ブウン』と耳に障る振動。周囲を照らした光量は、急に消えた。何かに呑まれた?と目を見開いた勇者に、オリチェルザムの開いた腹が映る。左右にぱっくり広がった腹部には、妙な色が渦巻いており、それが光を吸収したらしい。
「呑んだのか?光を」
瞬きして呟いた驚きに、魔物の王から返事が戻る。
『それだけがお前の特技だな、勇者。だが、馬鹿の一つ覚えとはそのことだ』
「世に邪魔な者が、何を言うか」
愚弄に愚弄で返した勇者は、言葉が終わる前に衝撃波を食らい、木の葉のように吹っ飛ばされる。だが、足元の翼も剣も鎧も、損傷無し。顔は、首に巻いた布が掛かり、澄んだ空気を気道に流し込んだ。勢いを流して方向転換し、守ってくれる装備に感謝しつつ、剣を構えたドルドレンが、城から動かない魔物の王へ、またも太陽の光を―――
魔物の王の腹が大きく広がり、渦が前に出て・・・ 太陽柱の変形、曲線は吸い込まれるように飛び込む。しかし、光一つ失せた時、真上から照らした太陽が追撃を落とした。
二重立ての攻撃に、予想していなかったオリチェルザムの頭と肩が、一瞬霧散する。仕留めた?と、早さに疑ったドルドレンは、次の瞬間、まだ仕留めていないと分かって、旋回。霧散した敵の頭は、別の時空を繋げて守られた様子で、霧が薄れると元通りに。
これで怒らせたのは確かで、オリチェルザムが魔法とは異なる呪詛を発する。旋回する勇者の体は急に熱を帯び、ギョッとしたドルドレンは増した痛みと熱に顔を歪ませた。
思い込みの産物だったものが。否定されずに認めてしまったことで少しずつ実体化を果たし、今は幼虫のようなものがドルドレンの肉に齧りつく。呪詛で動き出した幼虫の寄生は、ドルドレンの集中を邪魔する。
う、ぐ、と呻きながら、唐突な熱と痛みに震える勇者が、体中に食い込む虫を払わんと焦り出した様子に、オリチェルザムは忌々し気に吐き捨てた。
『俺の呪詛で死なないとは。結界もない人間に、何たる屈辱』
死んで当然なのに、痛がるだけ。だがドルドレンは、奇妙な認められ方など耳にも入らない苦しみにもがく。足、頭、背中、二の腕に激痛と焼き印さながらの熱を受け、剣と盾を持つ手をぎこちなく動かすしか出来ない。
逃げるわけにもいかず、引っ込むことも出来ず、ましてや倒れるなど―――
飛び続けてふらつく勇者を一思いに倒すか。オリチェルザムは、不安定な飛行で明らかに苦しんでいる男を少し眺めてから・・・ すっと、入って来た遠隔視に笑った。この状況で、とは皮肉。
ぐらついては立て直すが、一向に攻撃に入らない勇者に教えてやった。
『お前も早く倒れろ。精霊の鍵。あの妖精は死んだぞ』
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