↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台開始
3209/3224

3209. ニダの現在地・テイワグナ虐殺・コルステイン抗い・反逆の徒の夜明け

☆前回までの流れ

三つの供物を受け取ったメーヴェ、そして霊となったリオラヌは、多くの『念憑き』と共に世界の外へ排出されました。焦げた太陽はフーレソロの責務を果たし、影で操る極北のソドもまた次の出番を待ちます。同じ頃、ヨーマイテスは切り札となる物を集め、シャンガマックの戦場へ遅れて参加。今回は、『燃えた海』の理由から始まります。

 

 落雷を受け、慌てて逃げた夜が明ける。

 近づいていいものか・・・ どこから近づけば良いのだろう。入っていはいけない境界でも―――



「お父さん」


「あ。目が覚めたか」


「眠った?お父さん寝てないんじゃ」


「私は大丈夫だよ。それより明るくなってきたから・・・移動を。サブパメントゥも、ぱったり来なくなったが油断は禁物だ。出来る限りやったんだし、移動しないといけないんだけどね」


 うん、と頷いたニダは、ナーブヤムが気にするヨライデの国、その影に顔を向ける。そして海を挟んだ右横にある、この島・・・



 昨日――― すぐ近くにとんでもない大きさの島が現れ、一時的に空中へ避難した。


 近くの島を探して、お父さんが木の根を張った一瞬で、雷が落ちて焼けた。私たちを空中に持ち上げた枝は壊されなかったのに、なぜか海面へ張り巡らせた根は焼かれ、余計なことが出来ず、結局、宙に伸ばした枝と葉の覆いの内で、嵐の終わりを待った。



「お父さん、あの島」


「島って感じの大きさじゃないな」


「津波が凄かったけれど、陸地も被害があったよね?」


「距離は近いからね。大荒れしたし、いやしかし。どうしたものか。ヨライデはすぐそこでも」


 ナーブヤムは眉根を寄せて顔を摩り、何度か手を上げ下げしては、首を傾げる。その仕草が魔法を使っている時の手付きなので、ニダは前方をちらっと見てから『何か魔法を試しているか』と尋ねた。父親は頷くが、怪訝そうな顔。


「利かないんだ」


「え。魔法が?」


「そう。私たちの居場所(ここ)は保っているけれど、ここから放っても何も起きない」


 足元を指差した魔法使いは、『私の魔力は変化していないはず』と呟いて薄青い枝に座り、ニダに朝食用の木の実を少し渡す。受け取ったニダは、父親が食べないことを気にしたが、ナーブヤムは『断食は慣れている』と困る返答で木の実を断った。


「お父さんも食べようよ」


「それしかない。お前が食べなさい。樹木の魔法使いは空腹に鈍いんだ。気にしないでいいよ」


 この木の実も、数日前の島で得た。それきり、移動中に精霊の加護たる食料を受け取っていない。もう、来るべき時を迎えたのだろうと察しているが、ヨライデに入れないのでは意味がない。


 ニダはこの短期間で精霊たちの恩恵を与り、残る人々へ声を届け続けた。


 世界中の人々に届けたかどうか、調べることも出来ないが、頼らせてくれた精霊たちはその都度、『どこどこまでは届いている』と大まかに範囲を示した。


 精霊の協力は、内陸だろうが山間部だろうが、海から一番遠い場所だろうが、距離に関係なく広がる・・・本当にそんな範囲を?と仰天する連続でも、精霊だからこそ可能なのだ。



 ニダに会う前。イーアンは『声を届ける期間は、半年未満だろう』と(※3096話参照)。

 その短さでどうすれば、世界中の人々へ伝わるのか、突拍子もないと焦った。だがその突拍子もない、人間では決して超えられない壁を、いとも容易く解決するのが精霊だった。


 出発した日から数えて二十日と少しだと思うが、精霊の援助でニダはすべきことをこなせた。


 とは言え、それでも届かない・聞こえないことはあるだろうと、どの精霊も話していた。最後に手を貸してくれた精霊は、『残るは、声を理(・)解(・)す(・)る(・)気(・)の(・)な(・)い(・)者(・)かも知れない』と言い、これ以上は、尊い約束であれ、限界でもあるように仄めかした。

 だから、その言葉を以て、私たちはヨライデへ戻ったのだが―――



「動きが取れないのは、私のせいじゃなさそうなんだよな」


「行けないってことだと、ここで待(・)機(・)、かな?」


「やりようがないからね・・・ 」


 ぽりっと齧る音を立て、肩身狭そうに木の実をゆっくり食べるニダ。ナーブヤムが感じ取れるのは、『何かに待たされる・遮られている』気配で・・・ここで待つよりない。


 見えるヨライデの陸地は、どことなく虚ろで、海霧のせいか分からないが、非現実的な雰囲気が肌に伝わった。


 謎の大きな陸地の出現も度肝を抜かれたけれど、大きすぎて近く見えても数十㎞は距離をあけている。迂闊に寄らなければ大丈夫そうではある。


「この系列は、想像がつかない」


 ぼそっと呟いた不審は、ニダによく聞こえず、ニダは振り向いて『やっぱり食べよう』と齧りかけを父親の口に運び、ナーブヤムに食べさせて苦笑する。


「一口でごめん」


「ニダの分を取って、悪いと思ってる」


 譲り合う親子はちょっと笑い・・・ 近付けないヨライデと不穏な大陸の合間で、入(・)場(・)待(・)ち(・)の場外待機―――



 *****



 場外待機でも二人でいれば落ち着く親子と、正反対の状況に立つのが、テイワグナで一人、反逆のサブパメントゥを制したコルステイン。


 一人では抑えきれなかった。分かっていたことでも、コルステインは悔しく辛い。気づいた時には、古いサブパメントゥが広く及び、人間の多かったテイワグナを一度に攻撃していた。


 コルステインが自分の味方を対処し、動(・)け(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)と知ったのか。この前の比ではない速さで殺戮が行われ、テイワグナは大混乱に叩き落され、あっという間に死体の山がそこかしこに。着いた時には、多くの人里が破壊されていた。


 この状況で遠慮などするはずもなく、コルステインは古のサブパメントゥを捕えては消したのだが、『止める』ことは出来ても、人里を『直す』ことも『癒す』ことも出来ない。

 止めるコルステインもまた、混乱の最中では人々の畏怖と恐怖の対象であり、恐れの感情を受けるたび苦しくて悲しかった。



 ―――これを、ずっと繰り返してきた。

 親(・)も(・)、人間を殺し怖がらせるサブパメントゥが嫌だった。



 親の記憶を知ってから、コルステインはサブパメントゥの終わりを考え続け、頭から離れない悩みを抱え、反逆のサブパメントゥを消したのだが。


 これまで地下の世界を探し回っても、さほど捕まらなかったこ(・)れ(・)ら(・)は(・)、一体、どこに隠れていたのか。なぜ、こんなにいるのだろう。まだ、いる・・・・・



 コルステインの悲しみ、不安は膨らむ一方。世界に残っていた人間の多くは、テイワグナに集まっていたものが、地(・)面(・)を(・)落(・)と(・)さ(・)れ(・)た(・)せいで、あっという間に減ってしまった。


 もしかすると、もうサブパメントゥの方が多いかもしれない。


 そうなったら。棘が。空への梯子が。



 どこの町も村も、人の住処は抉ったように大地に沈み、その深さは生き残るに難しい。大きな町であればあるほど、地面が深く沈んでいて、水が流れ込み、土が流され、土に溺れて埋まる。


 建物や木が上から落ちてきて、人も生き物も潰してしまう。生き残った人たちも逃げ場がなかった。


 これをどうしたらいいんだろう――― コルステインが出来ることは僅かで、こんなことを起こしたサブパメントゥを見つけ次第消すくらい。誰も助けることは出来ないまま、不意に『敵と、悪い心が去った』のを感じる。


 テイワグナの人間の中から、いくつもの悪(・)い(・)も(・)の(・)が消えた。倒していた反逆のサブパメントゥも、もう感じない。


 ハッとして、コルステインは地下へ戻る。テイワグナはもう離れないとならず、次に構えないといけないことは・・・



 ぐらッと頭が揺れた。ピタリと動きを制し、地下の国で自分の状態を確認する。青い霧に戻った自分は、どこも変ではない。一つの塊にした皆はどうしているかと、集めた皆の所へ急ぐ。大きな一塊に変わった仲間に変化はなく、これにはホッとしたのだが。


 また、頭の奥が揺らいだ。コルステインは危険に気づき、自分を止めようと試みる。霧の状態で闇に馴染んでしまうのが一番・・・・・ 一番、のはずが。



 ぐら、ぐら、と、何かが動き出している。自分の心より奥に潜む何かが。

 抗おうとして、霧は薄れたり濃くなったり。点滅して闇に紛れるが、また現れては千切れるようにして、霧が広がり、縮んで、操り切れない様子は、必死の抵抗そのもの。


 そうこうしている内に、コルステインは自分が闇の国を出ていると知り、夜の表でぼんやりと『何をするべきか』途切れる意識を辿る。


 ここがどこか分からない。暗いけれど、遠くが。もうすぐ朝が。朝は困る・・・ どこかから、歌が聴こえる。頭の中にこびりつく、嫌な歌。



 コルステインの動きは、ぎこちない。

 勝手に連れて行かれる具合でも、自分がどうしているのかも判別が出来なくなっている。夜の外は嵐が続いているが、少しずつ空の端が白んでいる。


 雨も風も激しく、雷が行き来し、周囲は水浸し。歌が終わらない。歌が引(・)っ(・)張(・)る(・)。

 なぜ、朝が来るのに地上にいるのか。



 地下最強の存在でも、種族を構成する因縁が前に出る時。

 それは、魔物の王が三度挑戦する権利と同じ。サブパメントゥの三度目の挑戦は、種族全体に渡る悪神の―――



 *****



『呼び声』が歌う声は、延々と響いて途絶えない。何度もくり返し、夜が明けた鈍い明度を感じながら、歌に力が籠ってゆく。


 この時を、どのくらい待っていたか・・・思い出す気にもならない。今、自分含む仲間は、中間の地で朝を迎える。闇が薄れる時間に土の上にいる想像は、この日に現実になった。


『コルステインが追って来ないか?』


 誰かがあいつの名を出したが、他の誰かが『来たとしたら、それは仲間だろ』と答えた。そのとおりだ。コルステインは最後まで俺たちを攻撃していた。それも終わる。ここへあいつが来た時、それはただ、純粋な種族として。



 ―――許してやろう。コルステイン。お前の愚劣なこれまでを、なかった事にしてやろう。

 その代わり、共に空を取るんだ。俺たちのものだった、空を。龍を殺せ。



 ヨライデの高い崖の上で、鬱蒼とする森を背後に、高みの見物よろしく向かい合う水平線を眺める、古代サブパメントゥの集まり。水平線には巨大な陸地が現れ、そこにザハージャングの存在を感じながら、来るべき時を待つ。


 大荒れの天候でも、夜と朝は明度が違う。こうも違うもんだと、また誰かが言った。


 人間のような肉声のやり取りがない自分たちであり、荒れる風と雨に対し、多くの音は閉ざされるのだろうが、地上で朝を迎えたサブパメントゥには清(・)々(・)し(・)い(・)夜(・)明(・)け(・)でしかない。


 音たる音を持たないのに・・・『呼び声』は音から生まれ、歌から生まれ、構築する戦歌を、暴風雨よりはっきりと響かせる。空へ向ける、呪いの歌。龍を引きずり下ろす戦歌。



『呼び声』の歌だけは、サブパメントゥにしっかり届く。聴覚で捉える種族にも通用するが、サブパメントゥの心髄を揺らし意識を高め、誰もが頭上の黒雲を見ていた。


 特別な今日だから。歌は特に響き続け・・・ それは同じ大地の上に、コルステインも呼び出した。


 テイワグナで井戸抜きを二度実行し、一気に人間が減った状態。

 供物も、外の世界へ人間を連れて行った。『一枚』は戻った『馬頭』から報告を聞き、一ヵ所に集った同志にそれを伝え、もう時間の問題と、誰もが理解する。


 龍の気配はないが、もし現れても。

 コルステインが側まで来た今、何も気にすることはない。

お読みいただき有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。