↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
三度目の最終戦
3210/3222

3210. 魔界繋ぎの異時空・動く奇獣・イーアンの怖れ

 

 一対一で、ドルドレンとオリチェルザムが対面した時(※3205話参照)。



 オリチェルザムが気付いても、放っておく異時空。ここに到着したタンクラッドたちは、入った途端、この世のものではない空気と圧力を全身に浴び、襲い掛かる魔物尽くしに剣を抜いた。


 イーアンが話していた、『二度目』を思い出すタンクラッド。魔導士の時代は、ここに補佐(俺たち)が辿り着いたら、勇者も対戦が始まるんだったか(※3065話参照)。


 ぐぉっと唸った金色の大剣から風が吹き上がり、見る見るうちに広がるそれは、犇(ひし)めいた魔物を飲み始める。

 いるわいるわ。どこから出てるんだと、左右の風景へ目を走らせるが、恐ろしく広い荒野で、見える範囲に魔物の通路も扉も、それらしいものはない。



 到着したのは城の中でも、気づいたら洞窟から人工物の壁に囲まれていて、降りた地下水路の壁向こうが、ここだった。扉も入り口も関係なし。水路に舟が止まって、暗い二重壁の隙間を入ったら、もう。


 読み返すこともなかったが、僧院から持って来た手記の道順を辿ったのは確か(※263話参照)。


 周囲の仲間の様子を見ようとし、近くにいないのを確認。

 広すぎる場所に入った途端、センダラはあっという間にどこかへ飛んで行ったし、青い聖獣を呼び出したオーリンも空へ上がった(※3166話参照)。バニザットは声をかける余裕があったが、彼も、俺の剣の影響を受けないよう離れた。


 一緒に戦う気が俺たちにはないと、改めて感じる。分担で個別に戦うのが合ってるんだろう。


 八方を魔物に囲まれ、足元のみ手出しされない一ヵ所に立ち、タンクラッドは頭上と前後左右の魔物を、時の大渦に巻き込み続ける。


 城内であれ、城内とは言えない。魔物の世界と繋がった、云わば、『魔物の世界の延長』に踏み込んだ形で、延(・)長(・)となれば、本当に全部倒し切れるのか、首を傾げる。


 何度も対処した『魔物の門』の感想は、奴らの世界は牢屋のそれであり、生まれるも終わるも関係ない気がした。世界とは称しても、詰め込まれているだけの印象。この場所も然りで、刑務所で例えたら中庭みたいなもの。


 剣の向きを変えたタンクラッドは、吸い込みが悪い後ろの魔物も、大渦に引っ張り込みながら考える。



 ・・・一度目も、同じことがあったとして。二度目の旅路でも、魔導士やズィーリー、ヘルレンドフ、アレハミィがここで戦い続けたわけだ。

 魔導士以外の、彼らの力を想像しようもないが、魔導士であ(・)れ(・)だ。彼が本気で対応しても、ここは今も使(・)え(・)て(・)い(・)る(・)のに。俺たちで、どうにかなると思いにくい。



 タンクラッドの思考は、吸い込み消滅する魔物の様々な姿を見、声を聞きながら、さして考えなかった素朴な疑問に届く。魔物の発生はどうなっているのか―――


 考えても仕方ないこと。考えたところで、倒すだけ。そう思っていたから、気にも留めなかった。


 だが、魔物が湧く世界を繋げたこの場で、ドルドレンが魔物の王に完勝するまで戦う意味は?この異時空以外には、もう魔物がいない話も出ていた。集中させる理由があるのでは。


 魔物の王をよそへ締め出すなり、滅ぼすなりして、魔物たち(こいつら)も一緒に消えるのか?こいつらの世界は・・・ 終わりがあるのだろうか。


 悪に途切れることはないと、悟ったように口にした後。どうせ手に負える相手ではないからと、ここを乗り切るのが正解・・・?


 ドルドレンが倒すのは、世界の一部に執着した魔物の王だが、勇者はそいつを叩きのめす役で手一杯だろう。

 俺たちは、永遠に増え続ける雑魚掃除を、制限時間まで続けるだけ?そもそも、一ヵ所に集めた魔物を退治する意味は。他にも何かあるのでは――



「タンクラッド!!」


 空からオーリンの大声が降ってくる。見上げると、時の渦から距離を置いた後ろの空に青い聖獣がいて、続けて聞こえたのは。


「あっちにデカいのが!」


 剣職人は応じ、攻撃の渦をすぐに引っ込める。縮小した竜巻を隙と感じた魔物が飛び掛かり、タンクラッドが剣で切りつけようとした腕は、ぐっと引っ張られた。タンクラッドは浮かび上がり、襲う魔物を聖獣が弾き飛ばす。


 旋回した聖獣の背に放られ、青い背中へ急いでしがみつくタンクラッド。前を指差した龍の民の、『あっちだ』と振り返ったその顔が楽しそうで・・・


「お前を連れてきて正解だな」


「そうだろ?飛べるとやっぱり助かる」


 オーリンらしい返事に、タンクラッドは少し笑う。この男が一緒だと、懸念も不安もどこ吹く風。締まっていた心に余裕が生まれ、タンクラッドは空から地上を見渡し、一時考え事をやめた。


「でかいのとは、何だ。どこもでかいのは、そこそこいるんじゃないか?」


「もう見えてくるよ。あんたがイーアンとよく入った、入(・)り(・)口(・)みたいなのがある」


「通路?」


 そう、と軽く答えたオーリンは、前方の一点に視線を固定。


 地面にごった返す魔物の群れと、それらの垂れ流す影響、酷い臭いやへばりつく空気はどこまでも続くが、こいつらの出る場所を突き止めたオーリンに、『どうするんだ』と聞くと、彼はちらっと視線だけ後ろへ流した。


「タンクラッドが行けるなら、入って片付けようぜ」


「・・・軽く言うがな」


「大丈夫だろ。あんたは経験者で、俺は聖獣付き。何とかなりそうだし」


 ケロッとしたオーリンに、そんな簡単ではないことを言い返そうにも、まぁそれもそうかと頷いた。

 出口を見つけたなら壊すのが正解で、飛べる状態でなければ不可能・・・と思ったところで、オーリンが核心を口にする。



「思うに。世界もこ(・)れ(・)で(・)最(・)後(・)にしたいだろうから。魔物の王はドルドレンが引き受けたけど、残りも二度と出ないよう、俺たちが撲滅する感じじゃないか?やるだけやろうぜ」


 だから、こ(・)の(・)時(・)だ(・)け(・)繋(・)が(・)っ(・)て(・)ん(・)だ(・)ろ(・)う(・)し、と。猫のようなつり目で、黄色い瞳に龍の光を宿した男は、口端を上げた。


 さらりと言ってのける龍の民は、時々、呆気なく核に触れる気がして。

 剣職人はじっと彼を見つめてから『かもな』と、疑問に与えられた答えを認めた。


 そうして、魔物の密度が上がった地面と空が、二人の視界に入った頃―――



 現実味のない荒野の一部が、陥没。

 真緑の結界が一瞬でばらされ、シャンガマックは足元を失いかけて、慌てて鏡魔法の『反射』を出す。魔物が地面を一斉に砕いた衝撃で、危うく砂塵と土砂に呑まれかけたが、魔法で空が映った足場は、褐色の騎士を救った。


 のも、束の間・・・ 空を映す鏡盤が捉えた、水色の光――― ハッとしたシャンガマックが振り返ると同時に『反射』を傾けた次の一秒で、シュッと光の粒に混じって、鏡盤の半分と魔物が消えた。


「センダラ!」


「当たってないでしょ?」


 真上に妖精の女が浮かび、危険承知で放った攻撃と知り、思わず怒鳴ったシャンガマックだが、金髪の妖精は鬱陶しそう。


「気をつけろ!飛べるなら向こうで―― 」


「あなたがその程度の奴らに手(・)こ(・)ず(・)っ(・)て(・)そうだから、助けたのよ」


「ぐっ・・・!手こずってない!」


「じゃ、頑張れば」


 憎まれ口を叩き、さっさと消えた妖精に、シャンガマックは歯ぎしり。手こずってなんかないと吐き捨て、持ち分の大地へ目を戻す。陥没した黒い穴奥、ざわざわ出てくる魔物が・・・


「この程度!俺に倒せないわけないだろ!」


 土砂は深く呑まれ、鏡魔法の板一枚で足場を確保するシャンガマックに、姿形様々な魔物がまた湧いてくる。苛立つシャンガマックは、連発の掛け合わせ魔法でこれらを潰しにかかった。


 魔物は、ハイザンジェルからヨライデまで『どこかで見たことがある』ものから、新種かと思うような違和感満載の姿まで。攻撃も動きも当然、一辺倒などあり得なく、混ざり合うこれらが同時に来られると、魔法の隙をつかれることも。


 だから、悔しい――― センダラの力は認めているが、ああもあっさり・・・ 自分は魔法の隙を狙われて、足元をすくわれるのに、妖精センダラはそれが無い。強さの差を、いざ見せつけられると。



「全く!」


 舌打ちする褐色の騎士は、声を張り上げて大型魔法の呪文を唱え、双輪の精霊魔法陣を鏡で増やす。


 シャンガマックの足場を支える、真緑と金字の連なる魔法陣が、暗い穴と溢れる魔物を照らし出し、背中に背負う如く9枚の魔法陣が立ち上がるや、陥没の奥まで金礫の雨が降り注いだ。


 何千何万の火矢を打ち込むより、明るく。大地の一部は精霊の礫を食らい続け、魔物はおろか土が削れ、穴は拡大し、結果。


「んん?あっ!これは―― 」


「何やってんのよ!」


 シャンガマックの魔法は採掘同様、仮初の異時空が作る壁を壊し、もわっと上がった魔物の世界、その気配に驚く間もなく、頭上から妖精が怒鳴る。振り返ったシャンガマックは、カッと光った空に驚き、『どきなさい』の一声を浴びるより早く、恐ろしい規模の光に逃げた。


 ガガッガガガガ、ガガン!! 劈く強烈な轟音が落ち、センダラの雷の槍は立て続けに穴へ飛び込む。


 精霊魔法の金礫、これの比ではなし。巨大な槍は、無制限に空から地面を貫いていく。

 圧巻の強さに魂消ながら・・・シャンガマックは離れた場所で、妖精の攻撃が終わるのを待つよりなかった。


 センダラの猛攻は、魔物の世界へ身を飛び込ませもせず、魔物の門の一つをぶち壊し・・・

 唖然とした騎士を振り向いた妖精が、『あなたねぇ!手(・)に(・)負(・)え(・)も(・)し(・)な(・)い(・)くせに』と叱りつけた頃―――



 *****



 イーアンは『原初の悪』に腕を握られ、どうにも動きが取れずにいた。


 360度見回しても色や明度が同じで、感覚の狂う場所。のっぺりした鼠色のここに、自分たちは浮かんでいる。連れ込まれた一大事なのに、始(・)祖(・)の(・)龍(・)の(・)鱗(・)が(・)無(・)反(・)応(・)、アウマンネルも静かで不安。


 初回もこの精霊に隙をつかれ、龍気を封じられたが、今も同じ状態らしく翼も尾も消えている。

 腕を掴まれ浮かんでいるので、この精霊が手を放したら落ちるのか。無重力のような空間に思えて、どうなるのか見当もつかなかった。 



 掴まえた女龍の前腕をガッチリつかんだ、青鈍色の指。もう片手を何やら忙しく動かして、変化のない空間で精霊は何か見聞きしている印象だったが、空間に風景の映像が現れると口端をつり上げた。


『原初の悪』は女龍と同じ顔、同じ角・・・黒い捻れ角を抱える頭を寄せて、白目のない目で覗き込む。


『見ろ・・・あ(・)れ(・)が動いたな』


 精霊の一掻きした宙に映し出された、ヨライデの海。そこに巨大な大陸があり、『あれは』とイーアンは目を丸くした。驚く横顔に、精霊は仰々しく首を横に振る。


『なんだ?気づいていなさそうだと思ったが、あ(・)れ(・)が来たことすら知らなかったのか?俺が今『動いた』と言ったのは、あの陸地のことじゃないぞ』


「え。え?」


『本当に・・・ 頭の弱いやつだと分かってるものの。呆れるな。お前の』


「侮辱は許さない」


『強気で結構だ、ほざいておけ。教えてやるかな、よく見ろよ。あれはお(・)前(・)の(・)と(・)こ(・)ろ(・)の(・)化(・)け(・)物(・)じゃないのか?』


 侮辱三昧の中に、不穏が混じる。ハッとしたイーアンが目を凝らすと、大陸の一ヵ所に銀色の何かが揺れていた。一目見て『ザハージャング』と判別して焦る。


「な、なんで。あの仔は門番で」


『んん?門番?ああ~・・・そうか。そうだったようだな。経緯はどうでもいいが、あれが動くとどうなるんだっけな』


 ザハージャングが龍とサブパメントゥの対戦に一役買うのを、『原初の悪』は分かっていて、そして自身の不在時―― 膠着(※2839話後半参照) ――の出来事だったため、門番に決定したことは知らない。

 ただ、あの大陸にいる双頭の龍が動き出す意味を、引きつる女龍の横顔に囁いた。


『面白そうだな?我関せず、を決め込んだ空が騒ぐのは』



 イーアンの記憶にザっと慌ただしく走る、ザハージャングと異世界の門の関係。馬車の民が率いた世界中の人たち。そして・・・



『おっと。ちょっと鬱(・)陶(・)し(・)い(・)な。ここにいろよ・・・』


 記憶の遡りを遮る精霊の声。『原初の悪』を見ると、青鈍色の顔が面白くなさそうに歪み、少し上を睨んでいた。



 *****



 精霊は、掴んでいた手を離すや、瞬く間に消える。パッと手を放されても浮かんだままで、重力関係なしに安心したものの、かといって動きは取れない。


 何か起きたのかも知れないが、うっかり探った記憶を読まれずに済んで、顔を拭う。つい、意識が恐れに向いてしまった。『原初の悪』も思考を読むのだから、気をつけないと。


 思い出しかけたのは、ドルドレンが教えたティヤー馬車歌の十番歌(※2722話参照)。


 私とエサイとラファルの三人は、あの大陸に行くと教えたのは馬車歌だった。そして、『鍵』と告げられた。あの意味は何だったのか・・・隠された危険だとしたら、どうなるのか。



 イーアンは、三本柱で揺れていたザハージャングの異変に、物事の変化その早さを感じる。ザハージャングが動くのは、サブパメントゥに呼ばれることと、表へ出された民が戻されることを意味している。


 いくら何でも、もう・・・? 

 状況を追い越す、焦る誰かの速度に巻き込まれるような。



『大人しくしていたか。まぁな、すぐに出られんが』


 耳に届いた声に、イーアンはそちらへ顔を向け、曖昧に歪む空間へ現れた『原初の悪』を睨んだ。精霊は余裕な足運びで宙を歩き、浮かんだままの女龍に顔を寄せ、にたりと口元を歪ませる。


『最近、やけに大きくなった龍が』


 ビルガメス――― 瞬きした女龍の反応に、精霊は鼻で笑って『追い返しておいたぞ』と合間を端折り、前へ腕を伸ばして、地上の映像を広げた。


『さぁ。見ておけ。反(・)則(・)で(・)引(・)っ(・)込(・)ん(・)だ(・)お(・)前(・)のいない中間の地の変動を。俺と一緒に、特等席で高みの見物と行こうぜ』


「何のために、あなたが私を拘束出来るの」


 掴まえられた理由、そのものが釈然としない女龍。柵(しがらみ)があっても、この状態を・この精霊が・裁く、私を捕える権利など・・・ そう、苛ついた呻きに『原初の悪』の冷えた視線が注ぐ。


『何のため?お前は俺より上だとでも思ってるのか?』


「あなたに権限があるわけでは」


『一瞬で暴走する力任せな種族は、な。違反した時、手を出せる誰(・)か(・)が(・)止めないと世界が狂う・・・俺が引き受けてやっただけ』


「答えになってい」


『生意気な。ああ、疲れるやつめ。純粋なこの世界育ちでもないお前が、横から首突っ込んだのも理解出来んのか。イーアン、この世界に来る前のお前は、確か立場もない弱(・)者(・)だったな?』


 睨んだ女龍に、遮った精霊の目が据わる。揶揄いは止まり、目に憎しみを宿す精霊は、女龍の腕を引っ張り、間近に寄せた顔に鼻先を合わせた。イーアンの真ん前、青鈍色の同じ顔が凄む。


『ただの人間でも、腹立たしいのに。その中ですら弱者だったお前の見境ない行為に、一つの世界が狂わされていいとでも言うか?』


「私は、女龍だ」


『何言ってんだ、ろ(・)く(・)で(・)も(・)な(・)い(・)人(・)間(・)に(・)虐(・)げ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)奴(・)が』


 ぐらっとした、意識。こんな場所で、蒸し返される過去。イーアンの目に薄っすら涙が張る。怒りがこみ上げ、歯を食いしばった女龍に、鼻の頭が付く近さで『原初の悪』は口から火花を散らして呟いた。



『帰ることも出来そうだよな・・・ アスクンス・タイネレが開いたら』


お読みいただき有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。