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魔物資源活用機構  作者: Ichen
前舞台開始
3206/3222

3206. 『4番歌』世界の枷・馬頭引き上げ・リオラヌの霊・獅子より供物を

※明日9/1~9/6までお休みします。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 心臓を受け取った獅子は、狭間空間を走る。

 馬車歌4番『宝石の貝』(※3035話参照)を思いながら。



 ―――『・・・それが狙うは、別の品。時の揺らぐを待ちかねる。要らぬ土産を手放して、貴い碧の永遠も、貝の担った双眼も、高き空より晴れ行きぬ。一踏み千の糸動く、踏板等しき、世の枷すらも追いやった』



「要らぬ土産を手放して、世(・)の(・)枷(・)すらも追いやるか」


 これから自分が渡す、その行為は。ここまで来たら、誰に邪魔される気もしない。歌に予言じみて遺されたくらい、起(・)こ(・)ら(・)ね(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)こと。


 宝石の貝。白虹の面。そして、『闇間にいる金色』・・・俺の未来は定まっていた。だとすれば、世界に許されるのも期待して良いのかもしれない。


 先に預かっていた剣と鉈は、狭間空間に保管していた。ここに、粗末な布に包まれた心臓が揃い、鉈を巻いた帯で一つにまとめて口に咥え―― あとは、海岸の人間に渡すのみ。


 自分だけの異時空を走り抜け、城との距離で見当をつけた地上へ出て、天候が荒れ始めた夜に『そろそろ』を感じながら海岸沿いを進んだ先。獅子は、視界に入った二つの影に、急いで身を隠した。


 向こうに感づかれる前に隠れたが、闇ではない。岩陰に潜み、様子を窺う。サブパメントゥがいるとは・・・ 闇の中に入ったら、その方が気付かれかねない。


「なんだ?一緒に待ってるのか?」


 怪訝に思う。人間の横にいるサブパメントゥは、どうしてか居座っており、あの人間に問題でもあるのか、それが気になる。馬のような首を持つサブパメントゥで、見張りのつもりかもしれない。


「ちっ。いなけりゃ、すぐのもんが」


 こんなところで待たされる予定ではなかったヨーマイテスだが、もう少し待ち、サブパメントゥが消えなければ手を打とうと考える。何か仕掛けて気を逸らした隙に、人間へこれを渡せば良い。


「俺に気づいてないのは良いが」


 供物を口に咥えたまま呟き、獅子は先ほど受け取った場面を思い出す。気づいていないと言えば、イーアンもそうだ。


 イーアンの後ろに、『あの精霊』がいた。精霊は、気づかれないように近づいたのか。王の心臓を持つ女龍を・・・あいつが罪(・)を(・)犯(・)す(・)まで待った?


 ふと、『女龍が心臓を取ると罪』の構図が、頭に浮かぶ。そんなことを考える気はなかったのに、なぜかイーアンは罪を作った気がした。


「イーアンは・・・ 人間と魔物の戦いに『首を突っ込み過ぎた』ことになるのか?」


 心臓を見事、持ち帰った女龍。

 城がどうなっていたか、文字を読んで回避したことがあったか、報告などしている暇はなかったものの。手筈を整えて成功した心臓奪取は、旅の仲間であっても、龍が手を付けて良かったのか・・・


 なぜ気になるのだろうと、ヨーマイテスは頭を振る。

 微塵も考えなかったイーアンの役目。

 龍なら、手出しは問われない立場と、遺跡にあった言葉は解釈できた。間違えていない。それでも面倒を避けるため、城内の文字を読めるように教えてやった。結果はついてきたんだから、それで良い、ものが。


 獅子は、自分だけが救われる道を歩いていることに、妙な後ろめたさを覚える。


 イーアンが囚(・)わ(・)れ(・)た(・)のは、心臓の―――



 不意に、海岸の気配が変わり、岩から覗くとサブパメントゥは消え、人間一人だけになった。ザッカリアは『待つのは女』と教えたが、言われなければ『女』の判別はつかない。


 海(・)岸(・)に(・)立(・)つ(・)人間は、毛皮を体に巻き付け、体型が膨れて見える。横に荷袋を置き、供物を待っているとみた。


 あのサブパメントゥは一時的に消えたと思えなくもないが、獅子はこの機会で行動に移す。『何も言わずに置いてくる』だけのことで。なるほど、俺の運命は、順調。


 そう思うも・・・後ろめたさは消えず、激しくなる稲光と嵐の中、躊躇いを含む足を進ませた。



 *****



 獅子が来る前の、出来事。


 馬頭のニアバートゥテと、海岸で時を待つ占術師のメーヴェは、起き上がり、自分の足で立てる状態に変わった。それは、空が荒れ始め、風向きが変わり厚い雲が流れてきたくらいの時だった。


『傷は』


 立ち上がった女に少し手を傾け、馬頭が覗き込む。ニアバートゥテの片手は、ふらついたメーヴェを支えるために出されたが、触れて邪魔をするまではいかない。

 慎重に両足で立つメーヴェは、彼の手を見ながら『開いたとは思えないです』と、傷のある腹の感覚を答えた。


『今(・)は(・)傷に影響していないとも言える。座れ』


『はい・・・ 』


 女がぎこちなくしゃがむのを見届ける、ニアバートゥテ。こんな切羽詰まった状況で、傷を開かせるような動きはと、正直思うところだが、自分で動けなければ、メーヴェは異世界へ行けないのも事実で、そのために―― 



『リオラヌが、塞いでくれているかも』


 地面に座ったメーヴェがゆっくり息を吐き出し、毛皮の上から腹部に手を当てる。その名に、馬頭は首を傾げ『憑いたわけじゃないだろ』と一蹴した。


 メーヴェを支えるために、あの魔法使いが戻ったこと。

 一言二言のやり取りが済むと、リオラヌは喋らなくなった。喋らないというよりも、喋(・)れ(・)な(・)い(・)方が近いのか。


 カリヤのような取り憑く思念とは違い、リオラヌは、制限が多そうな様子ではあった。今もその辺にいるのだろうが、気配やその他存在を示す要素は、ほぼ感じ取れない。


『俺は、そろそろ行くが・・・ 』


『はい。あのう、有難うございました』


 ニアバートゥテを呼び戻す声は聴こえない。迎えもない。しかし、サブパメントゥに変わった体は、嫌でも種族の反応を強め、それは馬頭の男に『空』を意識させる。


 もうじき行かないとならない。

 従っても従わなくても、サブパメントゥが供(・)物(・)に(・)関(・)わ(・)る(・)のはここまでだろうと思えば。

 地面に落ちた雨粒が染みを作る。ぽつっと勢いつけて水が染みると、磯の岩は黒さを増した。真夜中の黒い磯で、こんな変化を見分けるサブパメントゥの目を・・・ 馬頭は、今だけ後悔する。


『行け。傷を抱えた女よ。別の世界で宝に埋もれろ』


『ニアバートゥテは、そのために支えてくれたんですか。サブパメントゥが供物を探す意味は、別にもあ』


『そのためだけだ。俺の続きを、お前が叶える』


 遮ったニアバートゥテは、サブパメントゥではなく、個人的な目的を肯定し、雨が降り始めた磯に小さな結界を作る。風の音が上がり、大粒の雨がバラバラと落ちてくる。ここで待つメーヴェを冷やさないよう、結界を―――



『あなたの、続き』


 頭の中に響く、メーヴェの繰り返した言葉。馬頭は彫刻のような頭を向けて、じっと女を見てから影に消えた。


 一部だけ、雨に濡れない磯。雷光が雲を走り、波飛沫を飛ばす風の下で、メーヴェは待つだけが今の仕事。一旦は座ったものの・・・立って、供物を待つことにする。


 別れの挨拶すら、素っ気なく終わってしまったサブパメントゥを思う。彼らの謎の目的のために、供物を集めるのだと思い込んでいたものが、直前で身を引いた意味を。ニアバートゥテが最後に伝えた思いを。


 嵐の始まりに、雨に打たれることなく風景を眺める。


 カリヤはなぜか大人しいままで、話しかけても返答はない。

 先ほど急に現れたリ(・)オ(・)ラ(・)ヌ(・)の(・)霊(・)は、どこにいるのか。


「また、一人ぼっちになったのね。でも、ニアバートゥテの願った続きなら。しっかりしなきゃ・・・ ん。んん?」


 傷は何ともない。なぜか体にくすぐったい感触が走り、不審に思ったメーヴェは毛皮を巻いた胴体ではなく、手足へ目を近付ける。暗過ぎて見えないのだが、稲光が増えた一瞬で気づいた。


「絵が。何これ」


 膝の上に何かの絵が。黒い炭で線を引いたような、動物の絵が付いている。もう一度、稲光の照らした時、腕にも手の甲にも同じような絵があり、驚く。


「どうして、何で?これ」


 驚くも束の間で、不意にリオラヌの顔が目の前に見えた。真正面で見た顔はすぐに消えてしまい、リオラヌの仕業であるのを理解する。それと同時に『動物の絵に守られる』と聞こえた。


「このこと?あなたが描いたの?」


 返事はないが、手のひら大の線画が唐突に手足へ現れたのは、リオラヌくらいしか出来そうにないと思う。背中や胸あたりもくすぐったく感じたので、全身に・・・ 


「供物を運ぶ人間は、動物の絵に守られるということなのかしら。異世界に行く、送り出しみたいなものかな」


 くすぐったさは止まり、メーヴェはしばし、分からない現象に意識を持って行かれたものの。



 雨が吹き込んだ。ニアバートゥテの結界が消える・・・ 濡れる、と思ったその時。足元の荷を持とうとして、すぐ側に来た大きな獣を見た。



 *****



『大きな獅子が現れ、咥えている荷物を地面に置いた。それは、黒ずんだ剣と死体を割る鉈、中身の入った袋で、袋に心臓があると気づく』(※3195話参照)―――


 ギョッとするほど獅子が接近していたなんて、全く気付かず悲鳴を上げかけたが、口に咥えた物体に視線が止まり、メーヴェは慌てて悲鳴を呑み込む。


 そ、そうだった。獅子が来るのは分かってたのに!こんなに大きな動物がいるなんて。


 刺激しないよう、ごくりと唾を飲みこんだメーヴェが、凝視をそのままに一歩前に出ると、獅子は頭を地面へ下げて口を開いた。供物と思しき長さのある布の包みは、ごとりと落ちた印象だが、周囲の音に消されて現実味がない。


 恐る恐る、もう一歩を前に出す。獅子の碧の目は一秒だけ視線を重ねたが、それきり。サッと背中を向けたと思いきや、横殴りの雨の中に走り去ってしまった。



 布に巻かれた、品。容赦なく被る雨に、布は艶を持つ。メーヴェの手が伸び、結び目を解くと、布の内側に黒くざらついた剣と、旧教の鉈、そして・・・さらに布に包まれた丸っぽいものが入っていた。


『心臓』。心の中で呟く。雨の流れる磯に膝をつき、広げた布から剣と鉈の柄を左手に持つ。右手で心臓の入った布を掴むと、思ったよりも軽く感じた。

 これらをまとめていた布は、置いていく。心臓は袋入りのまま運ぶことにし・・・三つの供物を、占術師メーヴェは受け取る。



 持ち前の荷を肩に掛けようと、振り向いた時、突如足元が揺れた。前屈みに倒れかけ、急いで踏み堪える。傷は問題ないかとそれも焦ったが、腹も腰も痛まなかった。


 がちゃっと、左手の剣と鉈が擦られ、これも気を遣う。地震は一度で終わらず、続けてグラグラと縦に地面を振り、持参荷袋を取る余裕が消えたメーヴェは、足元の悪い場所を十数歩分下がる。


 立っていられない揺れで下がっただけだが、これが偶然の重なり。急に黒くなった左側―― 持ち上がった高波を避けられた。

 ザバーッ!と磯に被った、波の塊、その分厚さ。持って来た荷物を一瞬で失うも、波はメーヴェだけを避け、前後に水を走らせる。


 目を見開き、慄く占術師。次の波が来ると気づいて沖を見た目に、想像もしていない影が映った。そこには、海しかなかったのに。


 再び波が高く持ち上がり、メーヴェはどこに逃げていいか、慌てて左右を見回す。波が迫った磯から離れるしか思いつかずに供物を掴んで、海際の磯をもっと離れた。高波はまたも落ち、磯と土の地面の境まで海水が流れてゆく。


 脛を押す量の水でも、踏ん張ることは出来た。流されずに済んで、占術師は再び沖へ顔を向ける。


「陸地?」


 どう見ても、陸にしか思えない。空を走り続ける紫電を背景に、巨大な陸地が沖に現れていた。



 幻の大陸。アスクンス・タイネレが出現―――

お読みいただきありがとうございます。

明日から6日までお休みします。7日から投稿予定です。

入院に伴い、少し長くあけてしまうのですが、分かりにくくならないよう、前書きにてあらすじを書くなど工夫しますので、どうぞよろしくお願いいたします。


いつも来て下さる皆さんに心より感謝して。有難うございます。


Ichen.

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