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魔物資源活用機構  作者: Ichen
整い
3116/3121

3116. 追放の古クノキアの里 ~労い・占い『城と心臓、エハリディオとファタス』

 

 バロタータが呼ばれ、案内で先導していた割には、ヨライデ馬車歌を正確に歌わないと、迎えは現れなかった。


 現れた後も不鮮明な人々や家畜の姿は、夕の斜陽に紛れて分かりづらく、生活や往来の雰囲気は里に見られたものの、屋内にて鮮明にされた正体は、全く表の雰囲気とは異なった人々。

 

 招かれるままに通された部屋で、やっとまともに会話を交わすが。




『ご用は』―――



 円形の部屋に通され、何もないそこで振り返った人に、用を尋ねられたドルドレンは聞き返す。


「用?」


 用があると立ち寄る?なんのことだろうと、ドルドレンがバロタータを見ると、犬も勇者を見上げて『休み、話を求め、行く道を知りたい』と言った。


 ピンとくる。『呼ばれた』けれど招待とは違う。

『用がある=困っている→寄っていけ』は、寄ったからには何に困っているか・用は何か?なのだと理解した。


 バロタータの物言いは常に詩的で、つまり『そう言いなさい』と。ドルドレンはすぐ繰り返す。


「休み、話を求め、行く道を知りたい」


 落ち着いたドルドレンの要求が、円形の間に響く。すると三人の住人は、意思を確認するように目を合わせてから『分かりました』と答えた。


 答えた途端、円い空間に風が走り、変化が生まれる。風が通った床に、華やかな絨毯が敷き詰められ、石の床は見えなくなった。

 急に渡った食べ物の匂いと共に、数々の料理を乗せた盆が床に並び、客人の座る座布団が花びらのように壁際を縁どる。 


 馥郁とした香りが鼻腔をつくや、麦色の壁に大量の花が咲く。色とりどりの鮮やかな花は壁から直接咲き、風が櫓の上を旋回すると、大きな古い紙が一枚、ばさりと波打って落ちてきた。


 右へ左へ揺れながら、毛足の長い絨毯にばふっと落ちた幅1mほどありそうな紙に、濃茶の線・・・それはヨライデの地図で、非常に細かく記されている様子。


 繊細な線と装飾の絵柄に、目を凝らしたルオロフが背を屈めたら、彼の側の線が明るく光った。目を丸くするルオロフ。横から顔を出したロゼールが『反応したんだ』と自分も側へ行き、近寄ったところがまた光る。


 わぁ、と皆が驚いたが、地図への答えより、三人の人は紹介を先にした。



「私たちは、()()()()()里の生き残り。太陽の御者に連れ添う精霊と、共に現れた客人よ。火の近くへ座り、食べて、休んで下さい」


 よく通る女の声が厳かな響きを伴い、ドルドレンたちは礼を言って従う。

 戸惑うことばかりだが・・・ バロタータの知り合いだから警戒しないものの。不思議極まりない『追放の里の住人』を、誰もがちらちらと見た。


 タンクラッドは『サドゥ』との繋がりが頭から離れず、レムネアクはヨライデと関係なさそうな彼らが『追放』と言ったことに興味を持ち、オーリンはテイワグナで訪れた『アリンダオ集落(※1267話参照)』を思い出す。


 そして、ずっと一緒にいるのだが、誰にも気にかけられることなく――― シュンディーンはこの場所をじっと見ていた。赤子の姿で(※ミレイオの抱っこベルト入り)。


 彼は赤ん坊になると喋らないため、ミレイオも独り言状態で『不思議ね』と呟くだけだった。


 シュンディーンは若者姿で魔物退治した後、疲れてしまい、回復に水辺へ行こうと思ったものの、馬車は動き出し、機を逃がしたため、赤子状態で現状維持していた具合・・・ 一人、この場所の真実を見続けていた。



 ―――精霊の領域ではないが、守られているの分かっていた。


 バロタータと一緒にいるから道が伸ばされ、入ることが出来た里。表の家は二重に見えて、一つは、皆も目にした簡素な色の建物。その内側は、大きな石積みの平たい遺跡だった。


 石の表面は、テイワグナのカロッカンに似た、聖獣と植物の絵が描かれていた。

 乾いた土や風は、ここの標高が()()()()()から。馬車は平らな道を進んだ状態でも、急傾斜の山頂へ上がっていたのを、皆は知らない。


 遺跡の内庭に連れて行った馬車と馬。馬たちは逃げないけど、絶壁が囲むここから逃げる気もないのだ。

 草の向こうは崖で、遺跡の柱が立ち並んでいるだけ。


 そして案内された家は、遺跡奥の祈祷所。馬車の民が頼る場所だったのかもしれない―――



 壁際にある座布団を取りに行ったロゼール、ドルドレン、シャンガマックは人数分を持ってきて配る。


 仔牛は、仔牛のままで止められなかったので、ここまで来ており、シャンガマックの横に座った。無論、ヨーマイテスもシュンディーンと()()()()を見ている。


 地図は、少し離れた絨毯に落ちた状態で、今は話題に掠らず放置。

 全員が座ると、迎えた一人が料理の盆をそれぞれの前に出し・・・ 軽く手を振ると、客人の前に料理の盆が宙を伝って届けられた。


「食べて下さい。乾きを癒して下さい。ここは古のクノキア。潰えた過去に生きた、祈祷師たちの里」



 *****



  入り口と焚火間に座る、招いた三人。

 そちらへ体を向ける形で座った皆は、勧められた食事をもらう。ドルドレンは三人に一番近い場所に座り、バロタータも横に落ち着く。


 ドルドレンの向かいにタンクラッドがいるが、彼は三人から少し離れていた。ドルドレン、タンクラッドを左右の端として、皆は半円の弧を描く具合。食べて良いと言われ、疲れもあった全員が遠慮なく口にする。


 盆に乗った料理は四品で、どれも一見して材料が分からない。型抜きした淡い色の塊・・・ 穀粒くらいは分かるが、他三品は潰して整えた料理であり、手の込み方が祝い料理にも感じた。


 レムネアクの両隣はオーリンとロゼールで、レムネアクに感想を尋ね、彼は『ヨライデは点々としたが、こうした料理は見たことがない』と言ったが、でも地方で違うだろうとも添える。そして一口、淡い緑色と白に分かれた花模様の料理を食べ、『川魚?』と眉根を寄せた。


 まるで魚の要素がない見た目でも、食べると魚の味。擂り潰されて匙で掬う食べやすさ、色の付け方は野菜の緑色と判断。他の料理も根菜、豆が材料で、香りに海藻、茸が寄り添う。

 不思議な料理にロゼールは感心し、主食の黄色に卵と花が使われていることには、ルオロフが『実に素晴らしい』と褒めていた。


 盆も食器も、衣服の植物模様と同じ柄で飾られて、座る絨毯、座布団の布も同じ文化。あの麦色素朴な外観は仮初なのだろうかと誰もが思い、穏やかで繊細な味を楽しむ間・・・


 クノキアの住人は、客人の反応構わず、耳を傾け目を見て頷く勇者に、自己紹介を続けていた。



 聞けば、ヨライデの昔々にあった追放の里。


 シュンディーンの予想は当たっており、彼らは全員が祈祷師だった。それは今も同じだが、潜んで続くようになってからは、訪れる者が限られて、たまに祈祷師として働いていた。


 未来を占い、原因を占い、祈りによって精霊と会話し、祈りを通じて頼みを任せる。


 閉鎖していても辿り着く者が来ると、まず用を尋ねて応じ、無駄な時間は取らない。これは誰かからの命令や制限ではなく、こうして切り離した生活を守っている。


 遥かな過去のことだが、宗教に染まらなかった独自の信仰を尊ぶ人々の集いで、どこにも属さない集団として国から相手にされなくなり、地味な嫌がらせにより住処を奪われた。


 だが、気づけば煙たがられる『従わないことで有名』になってしまった彼らは、共同体として居場所を山中に移そうが、森林に変えようが、一年もしない内に国から立ち退きを命じられるほど目をつけられ、ヨライデを出て行くしか無い最後、精霊の取り計らいで住まう地を得た。


 それが現在の場所と、他いくつかあり。

 仲間は分かれ、各地に定住が叶う。この時以降、面立ちも体も、精霊を()()()()()変わった。


 安住の地へ到着できる者は限られており、勿論それは、()()()()()()馬車の民―― 太陽の御者 ――のこと。

 太陽の御者以外にも、ごくたまに招かれることはあるが、滅多にない。


 太陽の御者は、迷信も占いも大切にする。必要な時に立ち寄り、尊重するのも、クノキアの里では好まれていた。


 大体は精霊が橋渡しになり、馬車の民が近くへ訪れ、その際に寄った方が良い状況にあれば、ここへ精霊が導く。今回。太陽の御者でないにせよ、精霊付きの訪問だったから、招かれた話だった。


 ちなみに・・・過去の勇者は来たかどうかというと、『ない』。


 だからバロタータを連れたドルドレンは、勇者として初来訪の名誉(?)を感じ、感謝した。



「様子は見ていました。精霊とありながら、別種が共にいるため」


 三人の一人が、旅の仲間の中の別種に目を止める。頷くドルドレンと、別種の数名。シュンディーンはミレイオの胸元にベルト収まり。仔牛は褐色の騎士の横。


 見て分かる違いはこの二名だが、ミレイオもロゼールもサブパメントゥ、オーリンは龍の民で空属性、ルオロフは人間でも少し異質な在り方だし、『そうね。人間の数が少ないもの』とミレイオが少し笑った。


 ここでタンクラッドが、気になっていたことを挟む。


「サドゥという種族を知っているか?」


 遠慮して小声で尋ねたのだが、三人が一斉に顔を向け『知りません』と返したので、質問終わり・・・触れてはいけない気配もあり、目の合ったドルドレンが横に首を振り、タンクラッドも了解する。


 弾かれたタンクラッドの質問は、この後、別の形で受け取れる・・・が、今は流れる話。


 積極的に会話するのは、バロタータを挟んだドルドレン。

 他の者は質問しづらい空気感で、『馬車歌の道』と先に言われている分、生粋の馬車生まれに任せ、飲食を続けた。


 天井の煙を逃す穴は、差し込む表の光を取り込むが、相変わらず青空が見え、時間が分からない。


 ドルドレンはバロタータに言われるまま伝えて休憩を得たが、『話を求め行く道を知りたい』これはどうかと、大きな地図について話を頼む。すると祈祷師の一人が立ち上がり、地図を引きずり持ってきた。


 焚火近くへ運んだ地図の、一ヵ所を指差し、ガラス玉のような目を勇者に向ける。


「行く道はここから」


 地図を指差した人が呟くと、隣の人が続けて『どちらが望みか』と尋ね、え?と返したドルドレンに、最後の人が『()()()()()』と訊いた。食事と会話をしていた皆も、ハッとする。


「それは。城か、心臓・・・のどちらかを選ぶという、道?」


 たどたどしく確認したドルドレンの伺う灰色の瞳に、最後の人が『先にどちらへ行くか』と言い直した。


「占ってもらいなさい、それで決めると良い」


 戸惑う勇者に精霊の犬が教え、犬を見たドルドレンは助言に感謝。『それぞれ、先に行った場合の未来を占ってもらえるだろうか』とお願いして、食事の場は占いに移行する。


 食べている席はそのまま、クノキアの住人は三人共立ち、焚火を囲う櫓の裏、左右に分かれた。何が始まるかと思いきや、急に奥に人が増え、同じ服を着た数十人が円形の半分に並ぶ。


 驚いた皆の側には来ない人々。現れた数十人が声を揃えて、どこの言葉か知れない言葉で歌い出し、それと共に櫓天辺が煙に霞んで見えなくなる。



 煙は円錐型の天井を覆い、充満して―――


「あれ、道じゃないの」


 見上げたミレイオが真っ先に気づいた。

 煙に映し出されたどこかの道は、海へ伸びて、海の先に灯台の如く教える光が待つ。



 *****



 手を止めた全員が天井を見上げる中、クノキアの歌は流れ、歌に合わせて道を進む風景が、砂浜を越えた島へ続き、ある島に上陸して止まる。


「あの灯台はどこにあるんだろう」


 ぼそっとルオロフが呟くと、歌声がそれを拾う。


『光を投げる。光を操る。光を受け止める者が知る。この世にいながら、この世と半ばの鍵が開ける』


 不思議な返答だが、シャンガマックは覚えておく。ルオロフはちんぷんかんぷん。答えの間も歌は流れ、煙に映る島の風景は進んだ。


 島の海辺は砂浜と磯が半々で、木のない丘へ続く。丘には古い石板が横倒れになっており、草に埋もれる幾つかのそれらは砕けていた。その一つに焦点が当たり、石板が動く。


 石板には経年劣化で彫刻線が崩れた文字があるが、それは判別利かない。

 なんて書いてあるんだろう?と目を細めて読もうとする皆が囁き合うと、クノキアの声が『今は()()エハリディオへ続く』と答えた。


「エハリディオ」


『棺の守り人。エハリディオ。ファタスをくぐり挑む手を打つ。心臓はそこにない。眠る守り人を欺くなら、ファタスが動く』


 シャンガマックがハッとする。仔牛の黒い目はじっと上を見ていた。



 ―――ヨーマイテスは、正解を予測。偽の心臓置き場を守るやつがいる。そいつを起こして、空っぽの棺に用があると見せかける。その隙に心臓が入る本物の棺桶へ行け、と教えられた―――


 だが、こう捉えたのはヨーマイテスだけ。他の者は分かりにくい。

 レムネアクは、イーアンに聞かれた三つの地名(※3066話参照)『ミカトゥス・エハリディオ・ファタス』をすぐ思い出し、地名ではない様子を過らせたが、それのみ。



 ざわッとした場に構わず、島の風景は煙に薄れて無くなり、歌が止まり、占いは終わる。ドルドレンが『心臓を先にした場合か』と聞くと、櫓の左に立つ人が頷いた。


 尋ねたものの、ドルドレンにはまだピンと来ない。

 先に心臓がある場所へ行ったとして、島へ上がる?・・・ 何者かを欺くようだが、その後は?と、解釈を考えるも、煙は再び揺れ始め、歌が始まり、質問の時間もなく次の占いが現れた。



 *****



 次の歌は、荘厳だった。最初の歌よりも合唱が差し迫る。煙に映る風景を見ていた皆は、押しつけるような迫力を、ただただ見つめた。


 城が映るかと思えば、どこかの洞窟が映り、進む視点で暗闇を抜ける。抜けると、石造りの暗い建物の中で、急に荒野が広がった。どことも似ていない荒野は魔物だらけ。


 魔物がいる!と皆が目を奪われたすぐ、煙が揺れて岩礁が映り、荒れる海を臨む岩礁から壊れた石畳が伸びた。伸びる先はくすむ黒い影・・・


 そしてこれも長く続かずに切り替わり、石造りの暗い一室が映る。そこはまた違う先ほどと異なり、静まり返った墓室と思しき、石室だけ。

 何も起こらない。ただ、奥の壁に沿って置かれた石棺前に、()()()があった。


 目の横にやはり気になる文字があり、『あれは何か意味があるのか?』とタンクラッドが呟くと、歌は答えた



『棺の守り人。エハリディオ。二つの棺に、目は一つ』

お読み頂きありがとうございます。

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