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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三つの供物
3085/3126

3085. 介抱の夜・旧街道沿い魔物退治・売られた喧嘩

 

 村から相当遠い目的地。リオラヌはまず自宅へ戻り、それから炎の導きで、ナーブヤムの家がある山に辿り着いた。



 火の精霊と移動すると、物理的な距離の全てを移動せずに済むので、ゲルタス村を出てから2~3時間といったところ。長距離移動でかなりの魔力を消耗し、森の結界をくぐる一苦労で、魔力回復必須まで落ち込んだ。


 ナーブヤムの魔法は対人間用。精霊に関係なさそうな違いを見つけたので、火の精霊に絡ませて侵入を完了したが。



「まずいな。魔力が。村に戻るどころじゃないかもな」


 移動、結界侵入に魔力を注ぎ込んでしまい、帰りが気になったが、ナーブヤムを助けたらどうにかなると思い直して、小さな家の影を見上げた。


 一階建てで、小屋と言われたら影しか見えない夜中の今、小屋で納得する。壁際に木が一本、奥の草陰に見える煌めきは、湧き水の様子。周囲は森に覆われているが、家を中心にぐるりと草地で、質素なもの。


 結界内に入ったものの、火の精霊がいなくなると出されるかもしれないので、精霊を離さないよう戸口へ進み、炎に照らされた青黒い木製扉の取っ手を引いた。


 ギ・・・と静かな軋みを立て、扉は開く。一歩中に入るや、床に置きっぱなしの服が目に入った。ナーブヤムの僧衣で、脱いだままの形。僧衣の下に、ベルトごと放置された彼の携帯道具が見える。

 暖炉の薪の燃える臭いが、何となくだが、鼻に届く。しかし臭いは薄っすらで、火を使っているなら、もっと暖かさもありそうなものが、部屋は冷えていた。


「ナーブヤム」


 ()()()()()との情報だったが・・・攻撃されても困るので、先に大声で名を呼ぶ。『俺だ。リオラヌだ』と続けて名乗り、板と煉瓦の組まれた床を壁に沿って移動。


 小さい家で、探す手間はない。戸口に面した部屋は食卓と椅子と棚のみ、奥の二室は寝室と炊事場と思い、動線から考えて寝室と思しき扉を開けた。

 寝台一つで、姿なし。窓と寝台、小卓に水差しと、下に手桶、布、物入れ箱が横に置かれた部屋は隠れる場所もないので、もう一つの部屋を見に行く。


 ・・・薬剤、魔術具の制作はどこでやってるんだろう?と職業柄、同業者の質素振りに余計なことが過ったが、ナーブヤム優先。普段なら気にし続けることも、すぐ忘れた。


 玄関から見えなかったが、居間の左側は棚で影になり、近づくと少し開いた扉が揺れていた。細い扉は丁番が緩んでゆっくりと動いており、扉を開けると弱い明るさ伴う暖炉―― 消えかける暗い火に映し出された、床に伏せる人影を見て叫んだ。


「ナーブヤム!」


 リオラヌは駆け寄り、台所の床に倒れた男の肩をグッと押す。触った手に熱が伝わり、上向いた顔は苦しそうに息をしていた。


「熱?ちょ、ちょっとおい、精霊!照らせ、こいつを運ぶ」


 火の精霊が勝手に帰りかけているのに気づき、慌てて呼び戻す。用は済んだだろうと態度で示す精霊に『もう少し付き合え』と怒鳴って、リオラヌは倒れた体を抱え上げた。


 外傷はないのかと顔や頭、肌の出た腕に目を走らせたが、目立つ傷はないので熱の原因を訝しむ。寝室に運んで寝台に寝かせた時、火の精霊が真上に来て、首の痣に目が留まった。



「・・・なんだ?首を絞められたのか?一、二、三・・・ 指の跡、この太さは男か?あ、龍?龍の手」


 くっきりと痣で残った、不可思議な形の指の跡。人間にしては太すぎる指に思ったが、龍に首を絞められたなら合点がいく。これが熱の原因か!と思ったリオラヌは、龍が相手でどう治癒するべきか、焦る。


「精霊魔法じゃ利かないぞ、恐らく。龍なんかと対決した魔法使いの話は残っていない。やられて終わるもんだ。それに伝説では、龍は三度の時代しか現れない。そんな相手に受けた傷の記録などあるわけが」


 意識のないナーブヤム相手、治癒の無理を伝えるリオラヌだが、高熱で返事も出来ないのだから、すぐ何かしなければいけない状態。


 一分、悩みに悩み。

 まずは水を探し、水差しに汲んで戻り、畳んで積まれた布を棚から持ってきて―――



「情けない。魔法使い二人だってのに。()()()世話するよりないとは」


 水に浸した布を絞り、ナーブヤムの顔を拭く。火の精霊は目を離すとすぐ帰りかけるので、『帰りは呼び出せないから留まれ』の、無茶命令を与えておく。火の精霊は、付き合いの長い魔法使いだし、仕方なし付き合う。



「この野郎。何してたんだ、あんなところで・・・ ナーブヤム。目を開けろ」


 熱を拭きとるように、リオラヌの手に握られた布は、小さい顔をグッと拭う。これほど間近にしても、女にしか思えない。髭を剃っている肌でもなく、口周りも眉も額も、男とまるで違うので、途中まで強く拭いた手も力が緩んだ。


 喉仏の目立たない首に流れた視線は、痛々しい青痣に止まり、腫れをどうにかしてやりたくなる。だが、龍の刻印に手は出せない。例え出せても。


「ちっ。今は()()()()だ。お前のせいだ、ナーブヤム。お前の勝手がこんな」


 無力極まりない、魔力切れの魔法使いは悪態をつくも中途半端に窄ませ、遣る瀬なくて言葉を変える。


「何でだ。村の外にいたのは。俺の加勢に来たのか?」


 きっと、そうだ―― それしかない。俺に気を遣って、離れたところに潜んでいたのだ。


 そう思うと、自分のせいに感じる。


 苦し気に息する、()()()()()()使()()の世話をする。時々、手が止まり、その顔を見つめている自分に頭を振るも。



 *****



 旅の仲間の夜はというと、一時戻りのオーリンを迎えた午後の続き、オーリンは早速村を偵察しに出た。下調べがもう一度必要なのは、その村のみ。


 ドルドレンは『模型船の示す()西()も調べてもらうこと』を思い出し、『南西の・・・』と言いかけたが、イーアンが急いで止め、今は村に決まった次第。



 魔法使いが近くに潜んでいたし、別の魔法使いがいる可能性を探りに向かったオーリンだが。


 ガルホブラフは村の上を旋回するだけで、やはり降りようとせず、大岩のある広場にも近づかなかったので、オーリンも眺めるだけしか出来なかった。


 結局、空から村を隅々まで見たところで、『人っ子一人いない』その確認だけ。



 戻ってきたオーリンに話を聞き、ドルドレンたちは『龍が降りないことで物語っている』とした。それはロゼールも同じで、スフレトゥリクラトリが塀に触れなかったのを考える。


 大した魔法が掛かっているわけではなくても、振れると面倒なのか・・・


 皆の午後はこれで終わり、あと一日の距離にあるゲルタス村に、急ぐべきかどうかを話し合うが・・・ 道に停めたまま野営に入った。

 オーリンは夕食を共にした後、一旦ティヤーへ発つ。『バイラに、テイワグナのサブパメントゥ懸念を伝えるから』と。


 この時はまだ、魔物の気配もなかった。



 *****



 そうして。リオラヌがナーブヤムに無意識な思い寄せる、静かな森の夜。遠く離れた中部北の、旧街道はというと。



 ざあぁぁぁぁ―― 土が捲れ、風の消えた宙に渡った粉塵が、景色を塗り替える。


 旧街道と馬車を八方から囲んだ魔物の群れは、結界を張られた馬車に寄ることが出来ないが、囲まれたため、ドルドレンたちも魔物を片付けないと動けない。


 土を剥がして出てきた魔物は、ドルドレンたちに理解できる言葉を使い、何が嘘か分かりにくい惑わしを喋る。



 結界はシュンディーン。バロタータとシュンディーンは精霊なので、結界も精霊のもの。イーアンは、内側にいる分には余計な手出し無し。とはいえ。


「ドルドレン。お父さんが動きます」


「む。本当だ、ちょっと待ってくれ。シャンガマック、お父さん、待て」


 仔牛が作戦関係なく馬車の影に歩いたのを目ざとく見つけ、イーアンはドルドレンに言い、ドルドレンは仔牛に待ったをかけた。振り向く仔牛は『ちんたらしてる場合か?』と対応の遅さを指摘。


「この中で待ってる気じゃないだろうな?ドルドレン、お前も出ろ」


「そうするつもりだが」


 このやり取りでイーアンは、自分が出た方が良い、と判断。お父さんは外から魔物を倒して終わらせるつもりだから・・・ 私が出ればそれで済む話。ただ、そのために一度結界を解いてもらわないとならない。


「ホーミット。私が行きます」


「なら、早く行けよ」


 ムカつく仔牛に舌打ちしたが、仔牛は踵を返したので、半目のイーアンは伴侶に『一瞬開けてほしい』と頼む。


「開けた途端、が心配です。でも心配はそこだけ。私が外に出たら・・・閉じてもらって、で、大丈夫かな」


 ふと、イーアンは魔物全滅させても、結界は無事だろうかと気にし、近くにいたバロタータは首を横に振った(※否定)。


 目が合って、『やっぱりまずいですか?』と女龍が聞くと、犬は頷く。シュンディーンも複雑そうに『僕の結界が、イーアンの攻撃に影響受けるかどうか』と呟いた。


「では、魔物を引き離します。追い立てて移動させ、離れたところで片付けますので、こちらは残った魔物を倒して下さい。それでね、土が広範囲で壊れましたため、すぐに馬車を出すのはやめましょう。道がどこまでやられたか、私が確認しますので」


「分かった」


 結界を張った半球の底面のみ、土も無事。

 結界の外は、犇めく魔物で土の影が見えないが、イーアンは宙を濁らせる粉塵に目を凝らし、地面はボコボコと分かって溜息を吐いた。倒したら、道を広範囲で均す必要あり・・・余計なことしやがって!と思うも、今は倒すのみ。



「シュンディーン、開けて下さい。私が出るのと、魔物が襲うのと同時です。私の方が早いですが」


「いいよ。一瞬だけ」


 うん、と頷いた精霊の子に微笑み、イーアン最小限龍気の翼二枚を出す。結界内で龍気を上げるのは、破壊に繋がるので慎重に。精霊の子の青い瞳に緊張が走る。女龍の親指が天辺を指した仕草に合わせ、結界はパッと引いた。


 同時に、白い帯が空へ抜け、魔物の騒音が一気に入り込むが、間髪入れずにシュンディーンは結界を戻した。この一秒にねじ込まれた魔物は、立ち上がった結界に触れて壊れる。


 続いて、馬車の前方が爆炎に包まれ、カッと明るくなった炎の壁は、連続で生じた強風に流される。


「何が起きた?」 「火を噴いたんですか?」 「なんか仕掛けたのよ」


 前方を埋めた暴力的な炎と吹き飛ばした風に驚いた、タンクラッドとルオロフとミレイオの声が重なる。イーアン、何したんだろう?と気になるも、これにより鮮明になった視界から、魔物が減ったと知り、次の行動を開始。



「出るぞ、足場なしだ。飛べる者だけ」


 ドルドレンはムンクウォンの面を顔に当て、輝く翼に乗る。飛行道具を持つタンクラッド、ミレイオも動くが、ロゼール・ルオロフ・レムネアク、シュンディーンは馬車。


 仔牛は・・・気づいたら、もういなかった。毎度、自由に行動する彼らは、この後、意外な情報を持ち帰ってくる―――



 *****



 風無しの空気に、大量の粉塵が覆った状態をイーアンは利用。結界間際で龍気を使うわけにいかなかったので、こうした時は別の手段で臨む。


 粉塵は燃える。()()()の着火でも、塵は瞬く間に炎を広げた。火打石替わり、自分の龍の爪は、石でも何でも高速で切る。地面から突き出た岩を、すかんと切った火花は、想像以上の効果を生み、どよめいた魔物は一斉に龍から逃れた。


 動いた魔物を『適度な速度』で煽って追い立てたイーアンは、馬車から引き離したところで、魔物の殿に回り込み、龍の首に変え、向かい合う魔物を一度に消す。

 静かなもので、くわっと口を開けた左右、音打つ間もなく一つ残らず、なかったことに。


 片付けて首を戻し、馬車方面を振り返ったけれど、すぐ戻るのはやめて・・・こぼれた魔物がいないか、女龍は確認に飛んだ。



 *****



 イーアンがちらっと見たのは、馬車周りに閃く、ドルドレンやタンクラッドたちの鮮やかな光。


 ()()()退()()は見通しの良い丘陵地で問題ない。ドルドレンたちは地上に降りない状態で、魔物を見つけ倒すのだが、光に当たった魔物は、どうにも気分が悪いもので・・・ 


 ヨライデは、人の心を惑わす。前々から思っていたことに、ティヤーの魔物と似ていることが挙げられるが、幽鬼が入ると更に性質(たち)が悪かった。


 この夜の魔物は、不完全な人間の姿を持ち、共通語で喋りまくる。

 ()()()()と表現すべきか、十人・二十人が体を繋げて手足をばたつかせ、こちらと向かい合うと体が液状になって襲う。幽鬼が混ざる魔物はアイエラダハッドでも対戦したが、ヨライデのそれは陰湿に感じる。


 ドルドレンたちに振り返る顔の数、ヨライデ人ばかりなのに大声で喋る言葉は共通語で、追い詰めると支離滅裂な絶叫も出す。これらの言う内容は、『どこどこの村・町で』の地名と、どこかの犠牲者が『もう遅い・死んだ・殺される』の繰り返し。


 聞き取れるだけに無視を決め込んでも、気になってくる。魔物はドルドレンたちが地上近くに来ると、わーっと現れ、数十人が騒ぎながら溶けて覆い被さり、切られ、消されて倒されるのだが・・・



「ドルドレン。こっちはもういない」


「ミレイオは?」


「馬車付近へ移動した」


 馬車へ戻ろうとタンクラッドが伝え、ドルドレンも彼と一緒に馬車へ向かう。飛行手段を使う状態なら、幽鬼が幻を使えない。

 次からこれが無難と頷き合いながら、重なった視線は同じことを言いたげで、でも口にしなかった。


 幽鬼は嘘を言う。レムネアクは口酸っぱく教え、自分たちもその意識で挑むものの。


 やはり地名や状況などを聞くと、耳に残ってしまう。一先ず、『言葉にしない』ことだけは守り、馬車に到着――



 ドルドレンたちが戻った後に仔牛も現れ、結界を解いていいと主導権を握るお父さんの命令に、シュンディーンは結界を消した。空から見ていた女龍も戻り、周辺状況確認の報告、地面の要補修、弱いが厄介な魔物の話も少し・・・ ドルドレンたちと共有。ここに、幽鬼話を遮るようにして仔牛が割り込み、話は切り替わる。


「俺と息子が調べた。あの村から、魔物が来たようだな」


 え・・・? 

 幽鬼混じりが嫌だとか、そんなことはすっ飛ばした報告に、女龍の鳶色の目が仔牛に向く。仔牛は軽く頷いて『(けしか)けてやがるんだろ』と続けた。


「魔法使いが。(けしか)けた?」


「魔物はあの村に一度寄ってる。昨日の奴らも。集まった後の変質が、地面と空気に残っていた。俺たちは、村の中に()()()()()。魔法使いは留守のようだった、と言っておこう。戻ってくる可能性は高い。魔法を出しっ放しだ」


 ホーミットとシャンガマックは、村の塀に触れず、地下から村の内側へ上がったと言い、村に潜む魔法使いがいると教える。


「そう・・・ 」


 無表情に大きく首を揺らした女龍は、前方の暗闇に顔を向け、言うだけ言った仔牛は下がり、道の移動が出来ないにも拘わらず、馬車は。



()()()で待ちましょうか」


 振り返ったイーアンは、二度も売られた喧嘩を買う。


お読み頂きありがとうございます。

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