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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三つの供物
3086/3126

3086. ゲルタス村の夜 ~①予想外連発

 

 移動する深夜―――



 馬車は、堂々、イーアン龍によって村近くへ運ばれ、バロタータとシュンディーンは個別移動、龍に運ばれる気などさらさらない仔牛も別で移動した。


 ただでさえ真っ白い龍は目立つが、イーアンは巨大な光の塊さながらの発光で夜を照らし、馬車と馬たちを目的地の村へ移したので、誰かが見ていたら・・・ 

 それこそ、魔法使い他、仕組んだ輩が目にして逃げるのでは、とドルドレンたちは思うけれど、イーアンはお構いなしだった。


 二度も遠回しに攻撃されて放っておく気はないと女龍は言い、昨日の現場では被害者も出て、こちらを狙ってのことであれば、それに気づいた以上、あと一日馬車で進むなど・・・

『んなわけねぇだろ』歯ぎしりと一緒に女龍は吐き捨て、『逃げたきゃ逃げろ追いかけて潰してやる』と怒り沸々。


 でも本当に逃げられては、また面倒に感じるのだが、ドルドレンたちの誰も反対意見を出さず、龍は真っ向から村へ動いた次第。



 魔法使いが()()であるのは確認できた。

 村が見えてすぐ、イーアンはあの『違和感』をまた感じた。目立つに目立った龍の姿が近づくも、違和感に変化なく、留守の印はそれで十分。


 ただ、地下からサブパメントゥが見上げているとしたら・・・ そこまでは探知しようがない。地上か、地上付近ならまだしも。


 仮に、サブパメントゥも絡んでいるなら、違和感(しかけ)を放って、魔法使いは身を潜めたかもしれない。

 女顔の魔法使いは、サブパメントゥが攫った。あれは関係があるのか、それともサブパメントゥもあいつを狙ったか、分かろうはずもないが・・・ 


 いずれにしろ、魔法かけっ放しの不在状態。村で待ち、戻らないなら仕掛けを外して、道の補修をし、先へ進む。


 戻るなら、ここで()()だけのこと。



 馬車は村の裏手に置き、塀には触れないでおく。相手が裏から来たら鉢合わせるけれど、それはどこにいても同じ。とりあえず、街道に面した表入り口を避ける程度の気持ちである。


 普段眠る時間とはいえ、先ほど動いたばかりで皆の頭も冴え、臨戦態勢を崩さない。馬は神経が繊細ではあれ、移動後は眠い様子で、これはバロタータとロゼールが安眠出来るよう付き添う。


 人の姿に戻ったイーアンの角が、仄白く明るさを持つ以外、周辺は真っ暗なので、龍気は引っ込められなくても、頭にフードを被り、角を隠して待った。



 ドルドレンは、闇を睨んでいる女龍の横へ行き、自分を見上げた女龍に、『()()()()()()()()()()()()のは、どこかで止めねばな』と気持ちを汲む。女龍は『放置と取り逃がしで、巻き添えを増やしたくないです』と頷いた。


 これがヨライデの特徴。そう、改めて思う。

 人間の敵が現れると、やりにくさが増す。人真似の幽鬼などではなく、相手は人間そのもので、対戦の内容も感情が挟まりやすい。攻撃のパターンも読みにくくなる。


『対人戦』はアイエラダハッドから、徐々に増え出した。

 乗り移る、操られる、集団暴走、洗脳様々あったが、自分の意思で敵に回った者たちと対戦するのは、この国に入ってから。

 回りくどい罠を仕掛け、雑用の人間を道具として使い、人間を囮に攫う・・・など。



「俺も。テイワグナに入ってよく思った。勇者が行く先々に、魔物は出る。俺が魔物を誘引し、民の危険を増やすことに悩んだ」


「知っています。でも『違う』と皆は言いましたね?私も言ったけれど」


「そう。だがイーアンもまた、龍である己が敵を作っていると、続く国で」


「はい。私も、あなたと同じ悩みを味わいました。あなたが嘆いていた姿を思いながら、私が敵を呼び込む被害に、どう対応するべきか。辛いことです」


 沈黙を挟み、真っ暗な村影を、二人の視線が右から左へ流れる。ここは()()()()()・・・調べていないが、いないのだろうと感じている。だから、通り過ぎても良いだろうが。


 なだらかな丘陵地外れにある、小さな村。星明りの消えた、雲覆う夜中の暗さに馴染む無人の村に、守る対象はないけれど。

 旅の仲間を―― 正確には『憐みの刃』を ――狙う輩のために、次の移動先でも被害が出てはいけないと思えば、ここで討つのが妥当・・・



 ひゅう、と細い音を耳に掠めて風は流れ、イーアンのクロークが翻る。足元の雑草は波打ち、流れた空気はにおいを運び、静けさの続きを感じ取る。


 いつでも戦闘に応じる気の皆は荷台に集まっており、イーアンは馬車を振り返り呟いた。


「魔法使いは面倒、と魔導士が教えてくれました。実感します」


「そうだな。ここで倒せると良いのだが。魔物などと違って、逃がしてばかりだから」


「・・・シャンガマックには、応戦させたいと思いません。彼は」


「分かっている。シャンガマックは、レムネアクの守備を固めさせる。鏡魔法で、と魔導士が提案したらしいし」


 頷くイーアンは、街道の向こうに広がる暗い丘を見たまま、『レムネアクの守りを固めて動かないように』と頼んだ。彼が魔法使いに挑もうとする()()は、省きたい。



「もう、()()のか?」


 徐にドルドレンが尋ね、灰色の瞳は遠くの丘に据えられる。『はい』と低く答えたイーアンも同じ方を見つめ・・・風上の変化に、スッと息を吸い込んだ。


「塀は触れずにいた方が良いでしょう。何が来ても、村の外で応戦頂いて。この中に入る場合は」


「ホーミットに頼もう」


 お願いします、と軽く頭を下げた女龍は、空を見上げ『私が動くと気づくでしょうから』そう言った。出来るだけ控えめに雲の上に出て、直下で()()()()


「捕まえられるなら、そうします。大した仕掛けではないけれど、村の仕掛けも解かせ、鉈を狙う裏も押さえたいので」


 ドルドレンは彼女の出方に了解し、女龍を送り出す。

 翼を広げるだけで白い光が生れるため・・・『打ち上げ花火も考え物』と皮肉を呟き、イーアンはびゅっと飛んだ。



 ほんの一瞬。キラッと光った白い星が、射干玉の空を走る。


 イーアンの行動に心配はないドルドレンは、空ではなく前方の丘を見据え、相手がどう出るか・・・ それとも、イーアンの方が早いかを考える。

 少し見守った後、変化のない丘影に背を向け、村の裏に停めた馬車へ戻った。


 長方形の短辺が村の左右で、丘終わりの平坦地に幅を広げた村は、裏手に回るまで10分未満。雑草踏み分け、歩く間・・・ 状況が変わらないかと、度々振り返り確認したが、目につくものはないままに馬車へ着く。


 シャンガマックを探すと、彼は既に仔牛から出ており、レムネアクの隣にいたので、念を押して『彼を守ることに尽力を』と伝えた。褐色の騎士は当然とばかり、自信に満ちた表情で頷く。


「総長、イーアンは」


()()を感じたから、先ほど空に上がった」


 変化? 荷馬車に集まった皆の視線が集まり、ドルドレンも剣の柄に触れる。


 馬車沿う塀を見て『これには触らないように』と強調し、村の中で何かあればホーミットが行ってほしい、とシャンガマックにお願いした。シャンガマックは、すぐ獅子に伝えに場を離れる。



「それで、お前だ。レムネアク。魔法の対処は、もう施したのか」


「いや、どうでしょうね。術を掛けたりの素振りは見ていないので」


 ドルドレンの質問に、レムネアクは『保護状態か自覚がない』と答え、隣にいたロゼールが『まだじゃないですか』と褐色の騎士が消えた方を指差した。


「シャンガマックは話していただけです。鏡魔法を使うならレムネアクの護衛みたいに側にいるって、解釈かもですね」


「それは困る・・・お前に言うのも違うな。()()レムネアクが一人になろうが、一瞬たりとも敵に触れさせないようせねば」


 聞いているレムネアクは、保護か護衛かどちらにせよ、手間を掛けさせ気にさせ、で申し訳ない。すみませんと囁くように謝って、ドルドレンとロゼールに『謝ることじゃない』と同時に言われ黙った。



「とりあえず、イーアンが出たなら、私たち、何もしないで終わることもあるじゃない。私も見てるから、大丈夫よ」


 心配する総長にミレイオが往なし、でもねと言いかけたドルドレンの後ろ、シャンガマックが戻る。『父に伝えた』と荷台の集まりに入り、レムネアクと目が合ってニコッと笑った。


「俺は離れないから、襲われることはない。安心してくれ」


「む。シャンガマック、そういう話ではないのだ。鏡魔法で―― 」


 ドルドレンが部下に注意しようとし・・・ 

 振り返ったシャンガマックが返答しかけ、

 レムネアクの目が街道側の一瞬の閃きを拾い、ミレイオも温度の差を視覚で捉えた、その時。



 バッと何かが散った―― 


 前方の黒い丘が輪郭線も失う眩さに一瞬消えて、弾けた光に皆が顔を伏せる。

 始まった!と感じ、シャンガマックは杖にすぐ呪文一つ与え、薄張の覆いに僧兵を隠す。ミレイオとタンクラッドは、それぞれ飛行道具を片手に掴んで、光静まる前に目を据えた。


 今のは? 誰かの発した質問に、風がびゅおっと被る。その一吹き、勇者の身体が強張る()()を掠めて。


『 』


 全員の耳に滑り抜けた、不可思議な歌。

 聴いた瞬間、ミレイオが地面に顔を向け、ドルドレンは剣を抜き、ロゼールの紺の瞳は急いで闇を見回す。


「サブパメントゥの歌?」


 理解したのは、ミレイオ。だが、サブパメントゥの言葉としてではない。多分、の直感が告げた。


 驚いている暇は与えられない。

 不穏な歌に続いて、前方の丘が突然べっこり沈み、圧が届く。そして驚きの声を上げるより早く、光の柱が空から落ちた。

 何が起きたか察する獅子の咆哮が背後に響き、重なったこの一秒で、慌ただしく交わす視線を見計らうように・・・


「レムネアク、鉈が」


 薄張の覆い越し、僧兵の腰にある鉈が赤く曇る。ここに目を止めろと言わんばかりに。


 ハッとして鉈に顔を向けたレムネアクと、指摘したシャンガマックの一声で皆が振り返り、何にも触れていない鉈の変化に目を奪われた。これと同時、劈く悲鳴が遠く響く。


「悲鳴?どこから」


 横は、塀と馬車。見回す周囲に遮蔽はあるが、辺りに異常が出たかと目は探す。でも何もなく、闇を見通すロゼールも『異常は特に』と緊張しながら首を横に振った。


「痺れや、鉈の影響はあるか。レムネアク」


「ありません。無事です」


 レムネアクにも影響なし。今のは何?と、鉈に視線が釘付けになるが、赤さを増して悲鳴が聞こえた理由は、持ち主のレムネアクも分からない。()()()()()()()()()()()、鉈はいつも赤く染まったのだ。


『サブパメントゥの歌の後で、鉈が赤くなり、悲鳴が聞こえたのはつまり』と誰もが繋げたところで、今度はバロタータが吠える。思考と驚きに、休む暇なし。


「バロタータ?」


 馬車と馬に付き添う犬は、空を流れる遠吠えを繰り返し始めた。

 犬の場合は味方に告げる遠吠えだが、バロタータのこれは()()。『ここへ来たら倒す』と警告する遠吠えを理解したのは、シュンディーンだけ。


 皆は連発する奇妙に、何が何だか・・・蚊帳の外状態、展開を掴めず戸惑うドルドレンたちに、シュンディーンが遠吠えの意味を教えようと、口を開きかけたが。



 待ったなしの次が起きる。


 無音に光――― 光の激震、八方へ弾ける暴風。勢いに千切れた雑草が、礫のように宙を走り、皆の腹と馬車を風が押し、ぐっと足を踏ん張る。今度は何かと思いきや。


 ここで、タンクラッドが動きに出る。

 顔に白い面を当て、足元に出した龍気にひらりと乗ると、背中の鞘から抜き払った金色の大剣が、参戦を告げる残光を撥ねた。


「ドルドレン、馬車を守れ」


「お前は?」


 急いで尋ねたドルドレンに、剣職人はあいている手を前へ一振り。


()()()()()()()だ」


 ドルドレンに馬車を任せ、タンクラッドは夜空に上がりながらそう伝え、右手に握った剣を水平に持ち、落ちた丘へ飛んだ。夜に一筋引いた白線の先は、彼が辿り着く前に再び閃光に照らされ、タンクラッドの影も呑まれた。


 その光に続いて、ゴォ、と音滲む揺さぶる大気に、異常の極みを感じたバロタータとシュンディーンが同時に結界を出す。ふわっと広がった薄緑色が、馬車も馬も二重結界で包んだ途端、黒い空に大きな白い龍が浮かび上がった。


 龍は真下に顔を向け、巨大な口をかっぴろげ――― ドルドレンたちが凝視したのは次の一秒まで。

 消えた丘は更に影を落とし、地面は抉れ、おかしな影が空に伸びて消えた。梯子のような影、と分かったのはそれだけ。


お読み頂きありがとうございます。

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