3066. 7日間中 ~夜『鉈の守り・木の魔法・壁の文エハリディオ他』・六日目:馬車歌7番歌『王の解釈』
魔導士との情報交換により・・・
二度目の旅路の最終決戦話に触れ、イーアンはこの夜、なかなか寝付けなかった。
他にも、大切な情報はあったけれど、とにかく決戦に臨んだ話はインパクトが強くて、そればかりに意識が行く。
魔導士との話を終えて戻ってから、ずっと―――
犬の姿で戻された後、魔法が解けるまで犬状態で、バロタータに『親近感が湧く』と言ってもらえた。それは、まぁ良いとして。犬の姿で魔導士から受け取った情報を、優先順に話した。
共有する情報は一通り報告したが、『二度目の旅路・決戦前』の話は、ドルドレンにも皆にも、話すに躊躇って一人で抱えている。
ドルドレンには・・・ 今すぐ言うのも、気が引けてしまった。
横に眠るドルドレンは、寝息も穏やか。彼は冷静だから、決戦の話をしても気を引き締めるだけかもしれない。でも、勇者の剣を思いがけず手に入れ、直後に決戦話が続いたら、もう最終地・・・
話せなかったのは、私の心の準備のためかなぁと、眠れないイーアンはドルドレンと反対に体を向けて考える。気が昂る。まだ北部でもないのに、血が騒ぐ自分がいる。落ち着けと、自分に言う。
―――鉈については、シャンガマックの鏡魔法で、一先ず守りを固める提案が出たので、戻ってすぐ、レムネアクとシャンガマック(※獅子付き)に伝えた。
レムネアクには、『三つの供物を集める』話もした。
旧教予言書フーレソロに書かれている、供物と黒い扉の話をおさらいしたところで、話の早い彼は『憐みの刃を持たせるんですね?』とピンときた。
思った通り、彼はその場で鉈を渡そうとしたから、今はまだ持っているようにと止めた。
そしてシャンガマックに、黒い剣も魔導士が対処済みである報告を添えてから、『憐みの刃狙い』でレムネアクに危険が及ばないよう、鏡魔法推奨の相談をしたら、魔導士任命というのもあって、シャンガマックは大真面目に引き受けた。
具体的に、魔法でどう守るのか分からない。でもシャンガマックは了解したし、レムネアクも『鉈を渡す時まで気を抜かない』と強い決意をした。
これに続けて、木の魔法使い情報もシャンガマックに共有。
ホーミットも一緒に聞いていたが、古来の風変わりな魔法を知っているのか・・・獅子の表情は歪んでいた。
木の魔法使いは、寿命がとても長い。習得している場合は、想像以上の規模を一瞬で壊す。神出鬼没で精霊の力を頼らず関係もなく、似たような力を使う。
現代に蘇った一風独特な魔法は、この前の巨木の様子から、『習得した魔法使いによる』と判断。
寿命の長さに含まれるのは、回復や生命力の強さもあり、簡単に倒せない印象。
それと・・・精神異常者設定もある。
レムネアクを痛めつけ、救い出して介抱した行為は、いたぶって癒す趣味の変態ではないかと魔導士の言葉を伝えると、シャンガマックは『変態?』と嫌そうだった。
もう一つ、大きな情報。地下道部屋の壁にあった文章を、魔導士は解読した。
あの字はどこの国か・・・イーアンたちの世界の文字だから、魔導士も分かるわけがないけれど、凡その条件で魔法陣を介し、解読が叶った。ちなみに、ラファルも知らなかったそうで。
内容は、イソロピアモがヘズロンに来て、集まっている輩と移動する計画。
行き先は北部の海で、灯火台がある島。経由地・灯火台の島と思しき名称はあったが、前後の並びに判別しづらく、『エハリディオ』『ミカトゥス』『ファタス』と三つの地名は、どれがどれだか。
魔導士は地名で調べたが、ある一帯に『ミカトゥス』は見つけたものの、エハリディオとファタスは探せず、レムネアクに聞いても『知らない』と首を傾げていた。
もしかすると、解読した言葉の読み方が違うかもしれず・・・イーアンはそう思っても、手伝ってくれた魔導士に言うのは控えて、とりあえず浮上した地名を、仲間内で記憶に留めるのみ。
灯火台の島が、目的地。異次元へ行く黒い扉を呼び、三つの供物を渡す儀式の場。その可能性は高く、イソロピアモが指定した日、道程、日程、目的地が、壁には書かれていた――
「寝なければ」
もそっと体の向きを変え、イーアンは目を瞑る。
ヘズロンから先は、このまま東方面を通過しながら北部へ入る予定だったが、北部の海が行き先候補にも挙がったので、馬車の道は中西部ヘズロンを北上する。
明日明後日で、ドルドレンたちは『歌の波』を増やす予定で、それが終われば、ヘズロンを出発。
目が冴えてしまって眠れないものの、イーアンは決戦の想像を一生懸命かき消して、就寝・・・
*****
滞在六日目の朝。
ピフィア図書館の書も参考に馬車歌を探ったシャンガマックは、調べた一つをドルドレンに伝えた。
7番歌が印象的で、『ヨライデ王城には、最上級の死者が眠る(王)。世界への最後の生贄で、魔物の手に握られており、死者を起こすと魔物が怒り、溢れる血を精霊が止める』・・・そう言っているのではないかと話した。
図書館の書は旧教の派生も多くあり、片っ端から読んだ親子は、ピランデルたち兄弟の改訳を試みた。
旅の仲間の視点だからこそ、別の見方もある。
兄弟の家で、一度は歌全部を聞いているドルドレンだが、一切、魔物退治に関わらない馬車歌の認識から外れた意訳でも、シャンガマックの目の付け所は悪くない気がした。彼の訳は、概念性な喩えから離れ、身近に感じられる。
「これまで、ヨライデ馬車歌には『魔物』も『勇者』も、旅路ですら触れた印象はなかったが。お前の言うように当て嵌めると、他の歌も触れていたのではないかと思えてくる」
「曲解や意訳は気を付けますが、俺たちの面している現状を持ち込んでも、そう無理もせずに繋がってゆくので、この解釈が実は必要なのかと感じもしました。今までも『予言』と称して、なぜこんなに現実と重なるのか不思議なくらい近い予言は、いくつもありましたし」
ネストル・ピランデル兄弟が書いた7番歌を、改訳と共に別の紙に書いたシャンガマックは、これを総長に見せる。ドルドレンは、兄弟の書きとめた方―― 最初に彼らの家で教わった7番歌 ――を読み上げた。
『やまぬ風巻く、石の塔。敷かれた褥に最後の宝。亜の徒でさえ、寄れん者。篝火、油薬、かけ鎖。鉄の冠、血に染む栄光。惑乱の夢に欺かれ、徒な契りの果て知らず。巨魁の拳に取極めらるが、破片を運ばれ醒める夢。呪う血砕きぬ曲者は、巨魁の怒りを焚きつけて、消え失せかねん赤い金。塵界去るも容赦は参らん。黄金の霞が預かりぬ』
ドルドレンの声でなぞった馬車歌は、手元の紙にシャンガマックの視線を引く。褐色の騎士の指が、改訳で縮めた分に置かれ、目を合わせた。
「遠くない訳、ですよね?『石の塔』は『ヨライデ王城』、散々褒めていそうに聞こえて愚かな誰かは『最上級の死者』でヨライデ王のこと・・・ 『亜の徒』は魔物の意味でも通じます。ヨライデ王は、魔物が襲う対象ではないでしょう?
その王は『死んでいるに等しいが、眠っている』わけで、思うに『世界で最後の生贄』です。魔物の王に命運を握られており、俺が訳した『死者を起こすと魔物が怒り、溢れる血を精霊が止める』は」
「『破片を運ばれて醒める夢』は、何者かがヨライデ王の一部を盗んで・・・これは『血』とお前は解釈しているのだな。血を取られると、王に意識が戻るため、魔物の王が怒る、と。だが殺される前にヨライデ王は、『黄金の霞=精霊』によって、まだ完全な死を受け取れない」
そうです、とシャンガマックが頷き、ドルドレンも『有り得る』と肯定。そして、シャンガマックに質問。
「お前は『血』としたが、もしや、心臓ではないのか。三つの供物の」
「・・・そうかな、と思いましたね。とりあえず、原文の歌では『赤い金』とか『破片』とあるので、血にしてみましたが」
ここで両者はまた目を合わせ、三つの供物に意識が向く。
シャンガマックは、昨晩『イーアンが回収する、黒い剣・鉈・心臓』の話を少し聞いた。レムネアクに言われていたことを横で聞いていたのだが、総長は知っているのかどうか。
片や、ドルドレンも、魔導士が協力している剣だとか何とか。イーアンがちらほら話しているので(※全体ではなく)薄々は見当をつけていること。
朝食の会話。ミレイオと食べていたイーアンは、止まった二人の様子に気づいて近くに来た。
何の話をしていたかは聞かないが、『歌の波』を作るなら段取りを決めようと。イーアンに振り返った二人は、今の話題をイーアンにも掻い摘んで話し、イーアンは興味深そうに目を大きくした。
「面白いです。シャンガマックの訳だと、ぴったりくる感じ」
「だろう?『王』とも『城』とも、歌には無いんだが、当て嵌めていくと正しく思えるんだ」
で、褐色の騎士はちらっとイーアンを見る。歌が書かれた紙を見つめるイーアンは、無論、読めない(※見てるだけ)。すっと上がった視線を受け止め、シャンガマックが両眉を上げて意見を促す。すると、勘の良い女龍は、伴侶の期待を込めた目つきも見て、フフッと笑った。
「二人とも、同じことを考えているのですね。心臓を引っ手繰る『曲者』は、私かと思ってるでしょう?」
「引っ手繰るとまでは言っていない。血や心臓を、体の破片と見做すなら、こんなことが出来るのはイーアンくらいである。引っ手繰るの?」
思っていたことを伝えて、すぐに聞き返した伴侶に笑い、イーアンは『そうなるかもしれない』とやんわり肯定した。
はっきり、もう話してもいい頃だろうし、皆も何となく分かっているはず、でも。まだ『作戦』を口にするのをイーアンは避けた。
ガッチリ作戦を話さないといけない日は、必ず来る。それを伝えるのは、今じゃなくてもいいと、話題を変えた。
「そうか。この前も君が石を集めてからだったな」
「はい。要領は覚えましたので、もう作る準備万端でしたら、素材になる石を採りに出かけます。戻って来て研磨して」
「む。忘れていたが、研磨はかなり時間が掛かるな」
「それは私がどうにかします。そんなにツルっとしてなくて良いならですけれど」
それでもいいと思うとドルドレンは了解し、イーアンも了解。
イーアンは、採石場へ行っている間に、伴侶に歌を決めておいてとお願いし、早々と飛んで行った。彼女を見送った騎士二人は、片づけで回ってきたロゼールに食器を渡し、思うところ同じの気持ちを同時に呟く。
「俺は7番目の歌を」 「先ほどのお前の訳を」
被った声で互いを見て、頷く。もしも、今後。金輪際ない、と言い切りたいが。
後の世に歌い継がないとしても、『魔物の王とヨライデ王が壊れる時が来る』ことを、歌に入れたらどうだろう―――
灰色の瞳に、信念が煌めく。シャンガマックは総長に、『俺の訳で良いですか』と訊き、ドルドレンは『それを歌詞に使ってみては』と答える。
「仮に違っても、だ。希望がある。誰かが悪を阻み、精霊が介入すると、お前の訳なら伝わる」
「俺の訳から、総長が歌詞を起こすんですね」
ニコッと笑った部下に、ドルドレンも笑顔を返す。騎士修道会を離れて最後の国まで来た。魔物を追い詰め、根絶やし目標に辿り着いた、ヨライデの国。
僅かに残る人々を助けながら、最後の敵を倒すため進む道で、『現実になった伝説』を救う道具に託す。
「最初に作った『歌の波』も、ハイザンジェル馬車歌を土台に、俺の気持ちを入れたのだ。民を助けたい思いを、勇者として込めた。お前の訳も、歌に変えよう。俺たちが戦い続けた証であり、民のため、世界のために希望を持つ歌だ」
「有難うございます」
褐色の頬を緩め、誇らしそうに礼を言うシャンガマックは、不機嫌丸出しで近くへ来た仔牛に笑い、後は総長に任せる。部下の書いた紙を手に、ドルドレンはすぐ歌詞を考え始めた。
お読みいただきありがとうございます。




