3065. 7日間中 ~魔導士と情報交換・ヨライデ王城への連絡通路・二度目の旅路『決戦前』話
地下道へ出かけたイーアンたち三人は、夕方に馬車へ戻る。
遅い気がして、事件を心配していたドルドレンは、イーアンに『地下道周辺も調べたが、心配し過ぎたかも』と聞き、安堵した。
「まだ悪人がいると考えるのは、心配し過ぎではない。だが、何事もなくて良かった。命を取らねばいけないことは、あらゆる意味で決して容易くないのだから」
「はい。私も、いつ出くわそうが応じる、と決意していますが。でも、殺したいわけではないです。今日は血が流れませんでした」
変な返し方だが、至って真面目なイーアンにドルドレンも、うんと頷く。で、僧兵を見る。ミレイオはすぐにシュンディーンの元へ行った。僧兵は、胴体に白いのが巻いてあって(※尻尾)。それは?と聞こうとして、後ろに来た貴族が立ち止まった。
「なぜ。レムネアクに尾が」
不意に聞かれたイーアンは、ドルドレンの後ろで凝視するルオロフに気づき『ああ』と巻いたままのレムネアクを見る。僧兵はちょっと笑って『もう大丈夫ですので』と・・・ ルオロフの薄緑色の瞳が冷たく光った。
「母上は。なぜ、そんなにレムネアクを大事にするのですか」
母上・・・ え。誇示・・・? 振り向くドルドレン。瞬きしたイーアン。くすっと笑ったレムネアク(※やきもちに笑う)。
で、笑えないルオロフが一歩前に出たので、イーアンは尻尾をほどいて、長い尾の先を貴族に回した。
「はい、尻尾(※これでどうにかなると思う)」
「・・・尻尾を羨んだと思われては、心外です」
解放された僧兵がとばっちりに会うと気の毒と思い、ドルドレンはレムネアクを逃がし、不機嫌な貴族に『殺されかけたのだから、守るのは普通』と言い聞かせる。白い尾を撫でる貴族の目が冷たく見上げ(※でも尻尾は離さない)、イーアンは申し訳ないので伴侶も下がらせた。
ルオロフは、模型船の話をしようと思っていたのだが、それは後に回して『レムネアクばかりがと丁重に不満を訴え、イーアンはとりあえず聞いてやる。
そうねそうだねと相槌打ちつつ適度に流すイーアンと、左腕に巻いた尻尾を、小型犬よろしく撫でながらやきもちを吐露するルオロフは、さておき。
報告の詳細を聞けていないドルドレンは、レムネアクとミレイオに『詳しく話せるなら』と聞きに行き、地下水道の共通点と、記念碑の不思議な一文を教えてもらった。
「これまで多くの人間が、その記念碑に目を通しただろう。それに、古代地下水道の歴史も、遠い時代の話とは言え、町の人間たちは周知の事実に思うが、誰も、第二王城水路が持つ謎と、繋げはしないものか」
ドルドレンが不思議に感じたところは、ミレイオもレムネアクも分かる。ただ、これに関してはレムネアクの意見が尤も―― 母国の感覚が物を言う。
「ドルドレンさんの疑問は、客観的に捉えた視点かもしれません。地下水道について、ヨライデ人全員が同じとは言いませんが、ヨライデ王城の呪いが非常に古くから伝わるもので、仮に関連付けても私同様、『悪運の強さを肖る方向で、造りを映した』と考えるでしょう」
「ああ・・・本当にそれだけ、なのだな?」
「そう思います。他国の人が持つ、この国の印象は『野蛮で好戦的』だと思いますが、ヨライデ人は戦争と侵略の歴史を疎んでいないのが大多数です。特殊な宗教観が根強いので、危険や悪魔的な存在も、共存の味方に挿げ替えるため」
国民に通じる感覚は、何度も教えてもらっているが、レムネアクの淡々とした説明は説得力が高い。
過去に在住していたミレイオも頷きながら、眉間に皺。この前、シュンディーンを連れて行った博物館で再認識した事実は、ヨライデ人の特色だった。レムネアクの言葉は肯定する。
改めて聞くドルドレンも『そうだな』と地図に目をやり、ヨライデ王が呪われていようが何だろうが、強さ第一主義の国民は、肖る他の理由など気にもしなさそうに思えた。
「血の祠とか生贄とか、全面的に『普通』認識だものね。地下水道の同一は、町民の興味を引くことじゃなかったのよね。記念碑も、かしら。似たような感覚で」
「そうですね。あの一文が何を教えているかなど、さして注目しないと思いました。私は経緯の結果、記念碑の文を見たため、あれが道標の一つかもと感じましたが。普通に通りすがったら『なんだろう?』程度で終わります。
イーアンが、第二王城の不可侵領域の先と、ヘズロン遺跡群の記念碑の方角、この二つを紐づけなければ」
「イーアンは、お宝探しに長けているのだ。実績がある」
ドルドレンの一言でレムネアクが笑い、ミレイオも強張った顔が緩む。『あの子はね』と呟いて、地図上の距離を再確認。イーアンが目星をつけた距離と、ヨライデ王城と第二王城の距離。これが、現地でも大差なかったら。
「誰の目を引くこともなく、遥かな時の沈黙を経て、イーアンが見破ったかどうか。記念碑の意味深な文は、王城地下水路で分かるかもね」
荷台に腰かけて三人が話す間・・・ そのイーアンは今、魔導士に報告中。
*****
ルオロフに掴まっていたイーアンだが、不意に頭上を掠めた緑の風で気づき、ルオロフそっちのけ『後で聞きます』と翼を広げるや、空へ上がった。
夕空を抜ける風に巻かれた雲の手前、茜混じりの雲の層に緋色の魔導士が現れ、イーアンもそこで止まる。魔導士は、『剣と他の報告だ』と振り返った。
「黒い剣をどうしたか、話しそびれていたからな。それと、今後の注意事項があるから教えてやる」
「うん。私も話しておきたいことがあったし、来てくれて良かった。剣はどうしたの」
スロッピージョーの夕餉で、出なかった話題。魔導士は既に対処した後で、ヨライデ国内に7ヶ所の幻像を置いたことを話した。
「少しの間は、サブパメントゥも悪党も翻弄するだろう。本物は俺が預かっている」
「有難う・・・ 」
「俺は、レムネアクの鉈も対処が必要に思うが」
これを言いたかった魔導士。お礼を言いかけた女龍を遮って伝えると、女龍はバツが悪そうに視線を避け、その態度で何かあったと察し、聞いてみたら。
「狙われた。攫われて?殺されかけたってか」
「・・・うん」
「言わんこっちゃない。あの後か?」
あの後―― 魔導士が、遺跡群の祠に力封じをした後の出来事。馬車に戻されたレムネアクは攫われ、鉈のために殺されかけ、魔法使いに救われて一命を取り留めた(※3060話参照)。
う~・・・と言葉もなく俯く女龍の角を押し、上を向かせて『また来るぞ』と警告する。
鳶色の目が言い返したそうだが、返す言葉なし。魔導士も大きく息を吐いて『どうするんだ』と首を横に振る。
「連絡できる道具や、私の鱗は持たせたけど。身を守る術はなくても、私たちの誰かがいつも一緒にいるように、とは」
「道具はな。状況で、いくらでも使えなくなる。打開策で手っ取り早いのは、鉈を持たせないくらいだろう。何度も殺されかけて、正気でいられる人間は少ない。頻度が上がれば、そいつの精神的な揺さぶりにもなる」
「レムネアクは・・・今日も一緒に出掛けたけど、『血の祠』に行っても平気だった。精神的には強い人だから」
「今日も行った?襲われた確認か?祠を壊したのか?」
ぼそっと、苦し紛れで呟いた女龍に、魔導士は出かけた理由を尋ねる。
状況によっちゃ、祠の主から報復されかねない。手出しの範囲を理解していない女龍に、何をしたのか話すようせっつくと、女龍は一連の『地下水道と王城水路・悪党の残り確認・記念碑』まで洗い浚い喋った。
じーっと女龍を見下ろして聞いた魔導士は、感心しなさそうに眉をあげる。
「・・・俺が封じたからな。あの内側に引きずられるのはないだろうが。お前がいたって、一瞬で引っ張られる展開もあるぞ」
「今日は、なかったもの」
一々、子供臭いイーアン(※言い訳)に、魔導士は顔を寄せる。『その内、鉈を引き取ることは、レムネアクに話したんだろうな』と訊いたら、目を丸くされた。
「呆れたな。持ち主に話してないのか?」
「三つの供物の一つなのは、知ってるよ。レムネアクが本で知ったことだから。でも引き取ることまでは、すぐじゃないし」
「もう話せ。そいつの性格だと、手放すのを嫌がるってこともないだろうが」
「・・・分かってくれると思うけど」
早目に言えと魔導士は命じ、イーアンも頷く。少し心配なのは、レムネアクに伝えたら、その場で返却しそうな気がして。武器を取り上げるようで抵抗がある。ぎりぎりまで持たせてあげても、と思うところ・・・
「現状、お前が一番重視するのは、鉈だ。それは覚えておけよ。それで、だ。俺とお前が見たあの祠の願掛けで、レムネアクが襲われて、彼を介抱した魔法使い。それも厳重注意だ。襲わせて、一命を取り留める役を買って出るなんざ、精神的に壊れてる。自己中心的な連中は魔法使いに多いが、そいつの場合は、魔法が特殊で面倒臭い。そんな奴に何度も狙われると」
「精神異常の魔法使いってこと」
「常人の神経じゃない魔法使いで、使う魔法も面倒。この魔法について少し調べたから、お前に話しておく。これと、もう一つ」
「記念碑の言葉、何か分かる?」
さっき打ち明けてすぐ話が流れたので、イーアンは、記念碑の一文にヒントが欲しい。博識な魔導士は何か気づきそうで口を挟んだ途端、否定をされる。
「俺の話は、それじゃない。そんなもんは知らんが、第二王城とヨライデ王城の連絡通路のことだ」
連絡通路――? さっと東の地下迷宮が過り、それも聞きたいんだった!と口を開きかけて、ばふっと大きな手で塞がれた。眉根を寄せる魔導士は、言っても聞かない女龍を睨む。
「せっかく話してやろう、ってのに。犬になるか?」
ならねぇと、言い返す前に白黒ぶちの犬に変わったイーアンは、浮いていた体が落下しかけて魔導士に抱えられた。唸ると『手を離すぞ』と脅されて、黙る。
ぶすっとして小脇に抱えられたまま、魔導士のあれこれを聞き・・・
連絡通路は、やはり東の地下迷宮が担う、と知る――― 同時に、記念碑の一文はサミヘニの教えてくれたヒント、その可能性に絞られてきた。
記念碑に対して働いた直感は、『見張る目を塞ぐ、人の血』の在り処。
そして、魔導士の情報は最終決戦への距離を、急に縮める内容で、一言も忘れないようしっかり覚える。
「連絡通路で動けるのは、勇者以外。お前の話で思い出したから教えたまでだが、東の山中にボカッと口を開けた、そこそこ大きい洞窟がある。入って『時は来た』とでも叫べば、迎えが来る。迎えに従うと、あっという間に本拠地だ。
乗り込むと、それが魔物の王と対戦する合図になるだろう。
乗り込んだ時点で、出てる魔物の残り、全部を引き受けるわけだ。表にいた魔物も、全てがヨライデ王城に引っ張り込まれる。だが、狭い城で応戦するんでもない。城にいながら、別の時空で戦うはず。
お前たちが魔物相手に戦っている間で、勇者は対決に臨む・・・二度目と同じなら、の話だ」
真剣に見つめる犬に『もう、こんな近くまで来たんだな』と魔導士は呟き、小脇に抱えた犬の頭を、もう片手で撫でる。
「お前らの進みは早い。統一がデカいからだろうが、しかし、対決はしっかり片付けんとならん」
「バニザットの。ズィーリーの時も、そうやって乗り込んで、最後の魔物を止めたの?」
「止めたとは言えないだろうな。俺たちの時は、時間が掛かり過ぎて、退治も手が回らなかった。そのせいで、魔物はサブパメントゥにも空にも進出した」
「馬車歌で聞いたことがある」
「ふむ。ギデオンが残したかもしれんな。余りに余った魔物は、地下にも空にも行った。地下はコルステインがあっという間に叩き出したが、空では何があったか。俺が知る由もない。ただ」
じっと見ている鳶色の目の犬に、『龍族がいる空に、魔物が上がったところで』と魔導士は鼻で笑い、犬も頷く(※上がってきた魔物の数は多いと聞いてるけど)。そして、この話で毎度思ったことを、今も思った。
閉ざされていた空に魔物が来た理由―――
魔導士の時代は、魔物が溢れ返っていたために、乗り込む前で魔物は天地を襲い、その後でズィーリーたちがヨライデ城に到着。『一極集中の引き付けは、対戦条件の一つかもしれない』と魔導士は付け足したが、真相は不明。
対決合図の火蓋が切られたら、勇者の仲間は魔物全てを引き受け、勇者は王との決戦に挑む時間の開始。中間の地の代表・勇者は。
「ドルドレンなら。大丈夫だ」
「うん」
「ふー・・・ で、だ。ヨライデ王城に入る手前で、お前は三つの供物を、異世界送りにしなきゃならんぞ?俺が思うに、かなり時間が厳しい」
犬は、頷きかけて止まる。それ、私はヨライデ王城に入れないんじゃないの、と(※時間巻き過ぎ)嫌な想像をした。皆、強いから、私抜きでも大丈夫かもしれないけど。
一気に不安な面持ちに変わった犬に、魔導士がうんうん頷いて『作戦は綿密に練った方が良さそうだ』と、遠回しに協力を申し出た。イーアンは勿論、協力の手を断らなかった。
お読みいただきありがとうございます。




