3064. 7日間中 ~ヘズロンと王都地下水の共通②『ヒント』
懸念と不穏は、血の精霊が絡んだことから結び付けた。
ヘズロン戦争の歴史、『呼びかけの室』の存在、死霊や魔物を繋ぐ要素が、ここにずっと残っていそう。
あちこちにある血の祠は、利用も古くから続くため、古都の外れにあった祠自体は珍しくないが、ヘズロンで使うと、他で使った時より威力が増すなども考えられる。
南東の祠の位置は、これもレムネアクが接点を見つけ、ヨライデ王城と第二王城の位置関係に等しい。
方角的な向きは違うものの、回転させた図を並べてみると、『ヨライデ王城=ヘズロンの血の祠』『第二王城の地下水路口=ヘズロン古代地下水門』が等間隔。
ヘズロンがかつて、戦争で陥落したことのない都市だけに、中部の拠点として同じように造られた可能性は高いと感じた。
同じにした意味は、宗教的背景や、肖る祈願的意味合いで、魔性ヨライデ王の力を引き込む解釈も変ではないと、レムネアクは地図を前に話していた。
*****
地下道へ入り、イーアンとレムネアクとミレイオは、『地下道図:93~100』に載る95区を歩き、広い行き止まりに立った。昔はここが、水路の入り口に使われていた。上は町の塀であり、道幅は他の三倍ある。
壁が遮った行き止まりは、向こうに続く道を塞ぐ壁で、塀向こうも埋めてあるはず。ここで水を引いた時代が終わり、別の水源から引っ張ってきた際、こちらからの水量を調整しづらくて閉じたのかもしれない。
「別から安定する水が運べて、古くから使ってた方が安定しないなら、管理しにくいし閉じた方が良い、とは思うわね」
立ちはだかる硬い煉瓦に手を伸ばしたミレイオは、『この先に水の匂いなんてとっくに無いのね』と目地を指でなぞる。地下水が来ないよう、結構な量の土や岩を詰めたのだろう。
ミレイオの横に並び、イーアンは上下左右を見回してから『ここが第二王城の、水の入り口と例えると』の一言。レムネアクと目が合い、彼は頷く。
「第二王城の『水の入り口』は、つい立てを挟み、出口でもあります。海近くに沿う川に面して造ったから、自然の水の流れに丁字で水路を組んだんですね。小型船は入れますし、荷物を下ろすのも積んで出すのも、そこです」
荷物が何かを・・・ふと想像したイーアンとミレイオは、『そう』と頷くに留め(※死体系)深く聞かないが、とりあえず水の出入り口を確認したので、ここはこれで終わり。
地下水道図・レムネアクが書いた王城水路図の、重なる通路に線を引いた個所を見直し、イーアンは紙面に滑らせた指を次の行き先で止めた。
「細かい道は地下道に多いけど、第二王城水路の奥『ヨライデ王城連絡通路』・・・と思しき地点までの道は、角度も距離も一緒」
「誰かが、仕組んだみたい」
二人の視線が向いたミレイオは、くすっと笑って歩き出す。イーアンも地図を丸めて手に持ち、今のどういう意味です?と尋ねた。
「大した意味じゃないわよ。力を貰うとか、宗教的な意味合いがあるにしたって、何でこんな大事そうなところを同じにしたかね、ってさ。
第二王城水路は奥まで辿り着けないのに、ヘズロンで再現したら道を教えている感じだわ。ねぇ、レムネアク。あんたが思い出しながら書き足した、第二王城の水路図って、『封印の奥』までの道も想像なんでしょ?」
「そうですね。私は地図で言うと、ここまでなら入ったことがあるんですが」
イーアンがもう一回開いた地図に、レムネアクが指を置いた水路図の一点。
レムネアクは、『上階の部屋、廊下の面積と柱の位置で、想像を付けた』と、正確さ重視で描いたと言う。
出発前も聞いたが、イーアンは、レムネアクの細かな視点と注意にも、大した記憶力と思った。
城の柱や壁の位置で、階下の地下水路に、相応の角度や距離まで割り出す感覚。
『ものを作るのが好き』と出会った最初の頃に話していた彼の、優れた一面に今、見えなかった水路の奥が想像で描かれているわけで。
ミレイオも同じように感じたらしく、『あんた、再現とか想像力の才能、あるのよね』と褒めていた。褒められたレムネアクは、少し照れて首を掻き、話を変える。
「あの。地下道の『水』と添えられた所は、どこまで調べますか?」
「ん?私は、向かう道すがらで近いところは全部、のつもりだけど」
ミレイオも地図で確認したかった地点に、サッと目を走らせる。
『水の入り口』から『血の祠』の距離は、順路に従うと普通に歩いて二時間くらいが目途で、途中に『〇の水』と書かれた地区へ続く道を跨ぐ。
そこから少々寄り道し、古代の水路として使われていたか、調べておこうと話していた。
懸念と不穏は、『血の祠』近い区。
供え物を渡せば動き、攻撃も行う精霊が近いと。
ヘズロンの地下道を知っている人間で、悪いことを考える輩なら、都合良い近場に身を潜めているかもしれない。既に二ヵ所が使われていたので、他にいる可能性もある。『呼びかけの室』とイソロピアモの件で、まだ残っている人間を探してみる。
調べると言っても、100迄の限定地区なので、通りすがる区に続く道は、両手の数に満たない。さして時間も使わないので、遠くなければ行こうと話を戻した。
レムネアクが暗がりへ指を向け、『先の道で、94の水へ行ける』と地図に合わせ、三人はどんな違いがあるか見に行った。それは、気づいてしまえば、分かりやすい違いで。
「目地が新しいんですね。こっちの煉瓦の色も変わります」
「補強した具合かしら。水で脆くなったところを新しく埋めたのよ」
壁や床の状態に、修繕跡や補強の名残りがある。造られた時代が古過ぎることと、水路活用をやめた時代が遠くないことで、材質の違いが顕著。この後、通りすがる『〇の水』がどこも、第二王城水路の角度や距離とほどなく同じなのも分かった。
「本当にそっくり、王城と同じに造ったんですね」
「誰の意図でしょう」
確認し終わり、イーアンは胡散臭そうに首を傾げ、出口である遺跡群下へ歩く。イーアンの疑問は、ミレイオたちも一緒。肖るためだとしても・・・知れば知るほどおかしく思う。肖る以外の理由もありそうで。
その勘繰りは、正しく―――
不穏だ懸念だと、『血の祠』方面を歩き回った三人だが、人の気配は全くなし、隠し通路も隠し部屋もなし、他の祠もなしで、調べる目的その①は、当て外れで終わった。
レムネアクを引きずり込んだ井戸は、地下道の『水』が付く区だったから、敵は、昔の地下水道を辿ったのではないかと・・・それくらい。
でも確認出来て無駄足ではない調査に認め合い、出口である『血の祠』、遺跡群地下に到着した。
「着いたわね。この階段を上がったら」
腰に両手を当てて、少し高く造られた天井を見上げるミレイオ。レムネアクも側の階段を見て、他に出口がないからここで間違いないと思う。
「天井の板の上は、遺跡群でしょう」
「第二王城なら、本拠地への連絡通路、『決戦開始』・・・」
イーアンの思うところはあの手記にあり(※263話参照)。
もしかして、もしかしたら。東山脈の地下迷宮(※3024話参照)と関係が。でもこれは、ミレイオとレムネアクに言う必要はないので口を噤んで、今は行動。
「・・・出ましょう」
女龍に続き、ミレイオたちも階段を上がる。イーアンは天井に嵌った板を取り外し、外へ出た。
*****
血の祠は、数日前に来た。
魔導士が力の取り込みを封じた上に、『レムネアクを捕まえる仕事』も終えたためか、祠の扉は薄く開いているものの、奥の光は消え、階段に積まれたシャレコウベも見当たらない。この場にレムネアクが来ても、祠は無反応だった。
「イーアン。あんた」
「はい」
「大丈夫じゃないの?」
「え?」
じっと見たミレイオが、女龍の肩をポンと叩き、白い尻尾に巻かれた男を指差す。
嬉し気な表情を抑えるレムネアクは黙って尻尾に巻かれており、イーアンは『何かあっても困るので』とミレイオに返す。
「心配なのは私もだけど・・・ 祠、今は変じゃないわ。妙な気迫はあるけど、それは通常でしょ?レムネアクに危害はなさそうだわよ?」
笑ったミレイオが顎を祠に向け、イーアンもそれはそうだと思う。だが『原初の悪』経由、信用などすまいと疑ってかかる女龍は、レムネアク保護で尻尾に巻き付け、安全確保。
「まぁ、あんたが良いならいいけどさ。鉈は?龍の尾に触れても平気?」
白い巻き毛に隠れた鉈を、ちょっと覗いたミレイオに、レムネアクも自分の腰に視線を落とし『問題ないですね』と頷く。どうも本当に、龍に何されても鉈に影響はないと、今回も思う。
僧兵は女龍に守られ、鉈も別に問題なし。目の前には黒い祠、周囲は遺跡群。ざぁっと吹いた風の先を、何気なく目で追ったら、太陽は夕方前の傾き方。ミレイオは、祠から離れる。
「それじゃ、調べよう。祠に近寄り過ぎないように気を付けて、周辺だけね」
はい、と返事したイーアンは、ミレイオと反対側へ歩き、祠を挟んで左と右へ分かれた。
ここは遺跡群だが、一つ一つが離れているため、近いなら見通しも良い。互いの様子をチラチラ確認しながら、イーアンは祠の左奥へ進む。
第二王城地下水路の『血の祠』から先は、ヘズロンの『血の祠』を背にして、この方向。何かあるかなと、見落とさないよう気を付ける。
尻尾付きのレムネアクは、必然的にイーアンと一緒。過度に大事にされている感じがひしひし伝わり、抑えようにも顔は緩むが、フツーに真面目な女龍と目が合うと、さっと顔を戻し、一緒に調べた。
「特に何も、無いかな」
「そう思いますが、気になりますよね」
立ち止まった僧兵は、腰に一巻きされた白い尻尾に片手を添えて(※手の置き場)、もう片手で地図をパッと開き、女龍に見せる。
「私が描き足したのは、『血の祠』までですが。この先はヨライデ王城方面でも・・・ もしも直線なら、城の裏を抜けて侵入不可の小川に出ます」
「小川があるのは、周知の事実?」
「そうです。小川自体は第二王城側にも流れが来ますので。でもヨライデ王城の敷地内は、見ることも入ることも禁止されています。入ろうにも何かで閉ざされる噂もありますし、死霊を使っても無駄と聞いていますね」
小川に出る? なんだか、川や水の流れが示唆を強める気がして、イーアンは乾いた石畳に視線を投げる。ここで例えたら・・・?
「レムネアク。ヨライデ王城裏の小川の位置は、知らないんだろうけど」
「知りません」
「ここ、真っ直ぐ行ってみよう。あっちで言う小川に当たるところで、何かあるかも」
「どうすると、そういう発想が出るんです」
ハハッと笑ったイーアンは、尻尾を引き寄せて僧兵と並んで歩く。
宝探しじゃないけれど、ただ似せただけの地下水道に思えなかった。何かを伝えるために、この造りを遺している可能性もある。
当時は、『肖るため』『ヨライデ王の力の恩恵』と称して造ったにせよ。その実、裏を掻けと願った人がいたかもしれない。アラフィンツ海底遺跡のように(※3039話参照)・・・・・
「イーアン」
右から声が掛かり、イーアンはミレイオに手を振る。こっちは何もなさそう、と戻ってきたミレイオに、ヨライデ王城の侵入不可の話をすると、ミレイオも『あ、何か隠してるかもね』と同意し、三人で直進。
遺跡群は、それぞれがかなり大きく敷地を取ってあるが、不思議なことに『血の祠』から直進で歩くこの方向は遮るものがない。
「どの辺?」
「もう、この辺りで。ヨライデ王城の敷地に入っているはずです」
小川はもうちょっとかな、と知らないなりにアタリを付ける僧兵。ヨライデ王城敷地内、それだけでもイーアンとミレイオはちょっと強張った。本番前の予行練習のようで。
「あれ。ねぇ、イーアン見える?」
不意にミレイオが声を上げ、前方の斜め右に体を向ける。直進から外れるが、この距離まで来たら。ミレイオが見つけたのは記念碑で、崩れた塀と大きな常緑樹の間にそれはあった。
高さは人の胸くらいまで、幅はせいぜい1mくらいの、小さな切り出し石・・・上部に刻まれた文字は離れていても何となく識別できる。ささやかな装飾が台を飾っているが、他に目移りしている観光客はきっと気づきもしないだろうと思うくらい、小さく質素な印象だった。
近くへ行き、イーアンは記念碑らしき石を、くるっと一周してみる。尻尾はそのままなので、レムネアクも引っ張られて動く具合だが。ミレイオは記念碑の文字を読み、じーっと考える。
「これ自体には、目立つものがないですね」
レムネアクがそう言い、イーアンも『仕掛けがあるわけでもないね』とミレイオの立つ横へ並ぶ。ミレイオは二人に頷きながら、刻まれた文字から目を離さず、イーアンに尋ねた。
「ねぇ。『西を臨む。東より。海を越えゆ。最も高潔なる御身の水』って何かしら?」
*****
ミレイオも、遺跡群に来たことは何度かある。だが、記念碑に立ち止まったことはない。過去、ここには風景の粗描に来たくらい。ヘズロンはどこもかしこも遺跡の雰囲気で、この指定公園に拘りはしなかった。
ここの記念碑に、意味も通じない奇妙な一文があると知っていたら、もう少し記憶に残ったかもしれない―――
イーアンもレムネアクも、質問に対し、すぐにはピンと来ない。ミレイオは『書くものある?』と、二人に聞き、イーアンが出した炭棒と粗紙に、この言葉を書きつけた。
それから周囲をもう一度見回して、レムネアクに『地図にこの位置も書いて』と炭棒を渡す。了解した僧兵は、広げた地図と方角を確認し、距離はイーアンが大体掴んだ歩数で見当を付けた。
「祠からは遠いのね。でもそうか、王城の裏に例えたら、ヨライデ王城と第二王城の距離はあるわけだから」
ミレイオは、振り返っても見えない祠の方へ目を細め、イーアンもそちらに顔を向ける。
「そう考えると・・・近いのかな?」
「あんた、行ったことあるんだっけ」
「はい。第二王城は裏の施設に降りたことがあります。ヨライデ王城は降りたことがないですが、空から両方の城を確認していますので、距離は大まかに。二つは近いと言えば近いけど、歩くなると(※2922話参照)」
「歩いたら、距離はありますね」
地図に描き込んだ炭棒を戻すレムネアクが遮り、『戻ったらペンで修正する』と、地図を畳む。
小川繋がりだとすれば。 そう、仮定して歩いた先に、意味深な記念碑一つ。
すぐに理解は出来ないけれど、イーアンにはこれがメッセージに思えてならなかった。
『西を臨む。東より。海を越えゆ。最も高潔なる御身の水』―――
最も高潔な御身・・・もしかして、ヨライデ王のことだろうか。
西を臨む、東より。 あの地下迷宮に被っていたら。
海を越えゆ。 ヨライデ王は、ヨライデ王城にいないはず。仮初の城ではない、異次元にでも入り込んでいると思う。海を越えるところに、ヨライデ王の―― 御身の水、体液だとしたら『血がある』のでは。
サミヘニが教えてくれた『人の血をかけると、魔物の王の目は見えない(※3040話参照)』あの一言が同時に思い起こされた。
お読みいただきありがとうございます。




