3062. 7日間中 ~剣職人とバロタータ初見・僧院遺跡の残り物
大怪我後の回復で―― レムネアクから、朝が始まった馬車。
イーアンは、一日二日『ダルナ』お休みも許容範囲。昨日に続き今日もだが、ダルナお出かけは休もうと決めて馬車にいる。タンクラッドも帰ってきて、他、ドルドレン、ロゼール、ルオロフ、バロタータ。
先ほどタンクラッドと交代したイーアンは、剣を見て感動した後、やっぱりレムネアクの状態が気になって戻り、タンクラッドはドルドレンたちの輪に戻された。
伝説の『勇者の剣』完成で、大いに盛り上がる場。
それは結構だが、誰も紹介しない新顔を気にし、タンクラッドはちらちらと見ていた。時折、目が合うも、微動だにせずの新顔は視線を外す。
剣を作ったタンクラッドは、5秒に一度は話しかけられるけれど、後ろにいる新顔が気になって仕方ない。
―――この存在。明らかに、紹介が必要だろう。犬だけど、ただの犬じゃないのに。
一番はしゃいでいるのが総長で(※念願)少年のように喜び、新しい剣をあらゆる角度から見ては褒め、誰か剣の相手をしてくれと、せがむ顔すら笑っている・・・ので、全然『新顔』の説明に触れない。
ロゼールも騎士だし、ルオロフも母国で騎士だし、総長と絡んで新しい剣に和気藹々。
イーアンはレムネアクのところで、ミレイオたちは留守ときた。この犬、この緑色の目、精霊の気を広げる存在、誰か説明―――
「あ。バロタータにも確認してもらいましょうか!」
十数分引っ張ったようやく、ロゼールが後ろに座る大きな犬に振り返り、その名を呼んだ。
剣職人は、ハッとして『バロタータ?』と頭で繰り返す。ゆったり首を向けた犬は、よしよし撫でるロゼールに『ここからでも、充分に剣の質は分かる』と鷹揚な返事。その厳かな声に、上からの喋り方・・・・・
じっと犬を見つめる剣職人の視線で、『あ』とルオロフが出遅れながらも気遣った。
「ご紹介が遅れました。つい、素晴らしい剣に夢中になり」
前置きはいいからとタンクラッドが省き、ルオロフは犬に片手を向ける。ドルドレンも、やっと気づく。
「このお方は、モデス村の最終日からご一緒する精霊『バロタータ』で・・・っと。すみません、お名前を私から伝えてしまいましたが、失礼でしたか?」
礼儀正しい貴族がうっかりを詫び、なんだそれはと剣職人が眉根を寄せるも、犬は『構わない。どうせ教える』と許可を下す。でも自分からは挨拶する気がなさそうな犬で、タンクラッドは大きな犬の態度を観察するだけ。咳払いしたルオロフが話を続けようとしかけたところで、ドルドレンが代わった。
「剣に心を奪われて、すまないな、タンクラッド。バロタータは、ヨライデ馬車の民を専属で守っていた精霊なのだ。今や、彼らがいない状況。地上に残った最後の馬車の民が、俺である。バロタータは俺に付き添うと決めて、モデス村から一緒である」
「ふむ。そうだったのか」
頷いた顔は犬に向けたが、犬もこちらを見ているだけで口は利かない。タンクラッドは察する・・・この態度。あれだな。俺が下と見て、俺から挨拶を待っているわけだ。名前を聞かれたら伝えるが、聞かれもしない。
「タンクラッド?」
じっと見ているだけで喋らない剣職人に、どうした?とドルドレンが肩を叩き、タンクラッドは犬から目を外さず、少し首を傾げた。
「俺が名乗るのを待っているのか」
ドルドレン(※他二人も)衝撃――― 精霊相手でも態度が変わらない男とは知っていたが。不遜な男に目を見開いた勇者は、剣で歓喜した心もしぼみ、慌てて『自己紹介を』と促す。
「・・・両者、名前は外野から知るに至ったがな。しかし、俺は聞かれもせず、俺の用事があるわけでもないのに、跪いて名乗る気にはならんな」
「た。たんくらっど(※棒読み)」
サッとワンちゃんを振り返ったドルドレンが、『この男は昔からこうである』と言い訳じみたけれど、犬の目は笑っていない。
ロゼールもすぐバロタータの背中を撫でて『あっち行きましょうか?』と、どっちでもいい感じに左右を指差し、ルオロフは剣職人の変な反発にびっくりしていた(※そこ反発するとこ?の驚き)。
「勇者の剣を作ったとな。その腕は伝説に等しいが、態度も等しく。謙虚さは微塵もない。私が見た、昔の剣職人もまた、お前のように傲慢であった。人の魂は、要らぬ態度まで引き継ぐ試練を与えるものかな」
大きな後悔へ橋渡しするとすら分かっていない・・・ 詩的で流れるような捨て台詞を放ち、バロタータは失礼な剣職人に背を向ける。
ぎゅっと眉根を寄せたタンクラッドが言い返そうとして、ドルドレンに口を押さえられた。睨む職人に『やめてくれ』と溜息交じりの勇者は頼み・・・
名乗るだ、何だ。どうでもいい些細なことで、タンクラッドと精霊バロタータの初見は、歪が入った始まり―――
*****
この頃、僧院遺跡へ出かけた組は、というと。
出発後にすぐ、シュンディーンが抜けた。最近、ずっと力の補充もせずにいたため、調子が良くないと話しており、ミレイオは『水辺へ行って来たら』と送り出した。
明るい時間に、奇岩の並ぶ壮観な風景に入り込んだシャンガマックは、左右を見上げて感動しながら歩き、獅子はそんな息子を放っておく。ミレイオの説明を聞く気もなく、思考も遮断。
シャンガマックは、ミレイオにいろいろと質問し、ミレイオも分かることは答え、若い頃に住んでいた部屋の前を通りがかった際に教えたり・・・ 目的地『レムネアク介抱の部屋』がある奥へ向かう。
別行動で直接現地へ行くことも出来たが、シャンガマックが周辺も調べておくつもりでいたため、町外れ東までは速い移動、現地は徒歩移動に切り替えた。シュンディーンが抜けたのも、待ち合わせ時に了解済み。
歩きのため、そこそこの時間は使う。歩いていると、遠くの墓地遺跡が視界に入った。シャンガマックもミレイオも、少しそちらを見つめたが、『今は何の気配もない』と大樹への感想を終わらせた。
イーアンが突き止めた話では、あの大樹の根が地下道の悪人を殺し、供物として首を持ち去ったようだが。
思い浮かべたのは同じ内容で、二人は同時に『その魔法使いが』と言葉を被せて、目を見合った。
「あ、どうぞ」 「あんたも思ったのね。その魔法使いが・・・レムネアクを助けたって」
はぁ、と納得いかなさそうな騎士に、頷くミレイオ。
殺すつもりがないと強調したそうだが、レムネアクを介抱する前に、そいつは目的のために悪人20人を殺している。命を軽んじているのか、そうではないのか。
「変な話だわよ。ま、現場調べて、理解に繋がるようなものでもあれば」
「そうですね。俺も引っ掛かっていて」
魔法で運び込んだとしたら、普通に道を歩いて見つかる痕跡などないかも、だが。
あの魔法使いは、木で移動術をこなすかもしれないため、大樹も物質的な登場をしたことを思うと、現場には痕跡もありそう。
「木の魔法なんてあるのね」
ぼそっとミレイオが疑問を口にし、ちらと見た騎士に『俺も初耳で』と言われる。
「ミレイオは、そいつと対戦したんですか?」
「対戦じゃないわ。誰かいると思って近づいたら、急に木が出てきて。溢れる根っこに巻かれて、閉じ込められたの。魔法の質は分からないけど、本物みたいな感触だったわね。だから私、内部から崩して外へ出たのよ」
「普通の人間だったら・・・ 」
「そうね。終わったかも。表に出たらシュンディーンが捕まえててさ。薄くだけど、そいつの背後に『枝』が」
枝、と繰り返した褐色の騎士に、『木の本体ではない幻影も、いろんな作用するかも』とミレイオは肩を竦めた。
喋りながら、歩くこと30分。大人しかった獅子が『ここだ』と息子に教えて、日影になった岩の並びに進む。
高さ三~四階分くらいの、岩の列。下部が繋がっていて、尖塔が突き出た上部は、天然の城のよう。奇岩群の外れに位置するここは、すぐ先に、居住地終わりの敷地看板が見えた。
ミレイオは階段を探し、長い廊下の端にある階段を見つけて上がる。獅子は大きいので階段の幅が厳しく、『俺は抜ける』と・・・影に馴染んで先に上がった。
「父は部屋の階も分かっているので・・・昨日は直接、部屋に入ったから分からなかったですが、何室も並んでいる一つだったのか」
狭い階段を二階へ上がりながら、シャンガマックが内部の造りに興味を示す。ミレイオは、話から察した眺めで中三階へ入る踊り場へ案内し、少し広い踊り場から階上が見える部屋へ。
「ここです・・・あ」
あ、と視界に入った金茶の獅子に、シャンガマックは『二階と三階の間とはね』と笑い、獅子は外を見た。
「天然の岩だから、こんな場所も出来るだろうな」
「たまにあるのよ。しっかり部屋用の穴が揃ってるわけでもないし。中途半端な高さにある穴は、階段も普通の半分の高さで・・・ ねぇ。レムネアクの服、持って帰るの?」
説明しつつ部屋を見回したミレイオが、寝台の側にまるめられた衣服に近寄る。赤黒く血の臭いが強い、刻まれた衣服と、靴。強烈なそれに、ミレイオは思わず顔を歪め『可哀想』と呻く。
「一応、持って戻りましょう。置いておくと何されるか」
そうよねと、ミレイオは持ってきた袋を広げ、血で汚れた服を入れ、シャンガマックも岩の寝台や椅子を調べ始めた。髪の毛一本落ちていないようだが―――
「おい、バニザット。椅子の足を」
「ん?これか」
椅子で踏んで引きずった、くすんだ緑の跡。葉が多かった手当てで、一枚くらいは床に落ちたのか。石の床に擦った跡は乾いていたが、木の椅子をひっくり返すと、足の底に生乾きの葉の一部が砕けて残っていた。
「植生はハイザンジェルと似ていても・・・全部同じではないからな。採取して、馬車で調べるよ」
腰袋から油紙を出し、ナイフの先で砕けた葉をこそいで取ると、シャンガマックは油紙にそれを包み、また開けて反応を見る。変化はないので、これはただの葉なのかと首を傾げながら、腰袋にしまった。
「イーアンの龍気で、葉も全て消えたと言っていたんだが、なぜ残ったんだろう」
立ち上がって椅子を戻す騎士に、獅子は『直に龍気に触れなかったってだけじゃないか』と簡素な返事を戻し、そんなことで充満する龍気に影響されないものかとミレイオは思った。誰が正解を知るのでもないし、疑問はここどまり。
この部屋に、目立った証拠はなく、レムネアクが寝かされていた寝台は血の跡が残る敷布だけ。そこらへんから持ってきた印象でも、衣服と一緒にこれも回収する。
部屋を出る前に、獅子は『血が残っていると面倒かもな』と・・・口を開けて、染みついた血糊を全て消し去り、三者はまた表に出た。
水を換えたのは、近くの井戸という話。井戸など見ていないので、この裏ではないかとミレイオが岩窟の後ろへ回ると、岩が橋のように屋根を作った下、井戸を発見。
「ここにあると、知っていたのかな。だとしたら、前にも使ったと」
「あ、違うかもよ。シャンガマック。木だけが持ち技じゃないかもだけど、もし『木の魔法』を使いこなしてるなら、水って絶対、味方じゃない?」
嗅ぎ付けるのが早いとかもありそう、というミレイオに、そうした視点もある・・・と認めるシャンガマック。二人は、釣瓶やら縄やらを調べ、ここでも気になる品一つ見えないので、周囲を見回した。
この間、獅子は傍観。息子がミレイオと喋っているのは嫌だが(←ミレイオ=実の息子)、さっさと仕事が済むので、さっさと帰るために黙っていたのだが。
不意に、碧の瞳は岩壁の不自然を見つける。岩壁の亀裂の下には、内側から押し出された欠片が散らばって、亀裂幅20㎝であっても、奇妙な状態。
獅子はそこへ歩き、縦に入った岩の裂け目を見上げ、大人の拳二つ分の幅をじっと見た。ここを通って逃げた―――
散らばる欠片は、亀裂から何かが出て、欠片が飛んだ具合。
勢いは大したことなさそうだが、この幅を通るとなると。魔法とやら、どこまで可能にしているのか。移動術は、老魔導士手前くらいまで技術を上げなければ、こなせないのでは。
亀裂の内にわずかに残った、土くれ。岩の亀裂に半乾きの土があるなど、普通ではない。
獅子は二人に知らせ、ここから早く逃げたのではないかと意見が一致する。井戸周りでは証拠がなかったので、これを以て調査は終了。呆気ないが、相手が相手で。
「俺が対戦した男は、地霊を使う移動を選んでいましたが、木を出した魔法使いは、意味が分かりませんね」
獅子に跨ったシャンガマックは、証拠が小さな葉っぱの残骸だけで、少し物足りないようだが、魔法使いの痕跡はそんなに残らないものかもしれない。
ミレイオは頷くと、西を指差して『馬車でね』と挨拶し、自分はお皿ちゃんで戻る。
片腕に抱えた、衣服と敷布入りの袋。袋から漂う、血の臭いと薬草の変化した臭いの強さが鼻腔をつく。その魔法使い、殺す気はないと言ったそうだが、なぜレムネアクを助けたのかを考えていた。
助ける心境は何だったのか。そんなつもりはないと、それだけで手当てまでするもの?なんとなく歪んだ優しさを感じないわけでもない。
「あの魔法使い。女みたいな顔の。ニダに似てるのよね」
ぼそっと呟いた空を滑空し、ミレイオは馬車へ降りる。時間は昼前で、戻って驚いたのは、剣職人の帰宅と、完成した勇者の剣―――
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