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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三つの供物
3061/3101

3061. 7日間中 ~五日目:レムネアク報告・龍の鱗と連絡珠・仲間として

※今回は、レムネアクの朝に焦点が当たる、静かな回です。5900文字ほどなので、お時間のある時にでも。

 

 初日に続き、危険度が増した滞在四日目を終え、翌朝。ヘズロン滞在、五日目。


 タンクラッドが戻って――― 来る、その一時間前。



 レムネアクは朝食づくりから当然外されて、明るくなってすぐ、シャンガマックとロゼール、ドルドレンに、身体のあちこちを調べられた。


 邪悪なものが残っていないか。危険はないか。属性の歪みはどうだ、後遺症はないかと、戦闘後の騎士修道会の確認同様・・・ 股に一枚布を置き(※急所は無事)レムネアクの状態を調べた。


 切られたレムネアクも気づいていなかったが、肉は切られただけではなく、削がれてもいたらしく、肩や尻の一部は()()()()()()()いたと・・・ 壮絶な痛みはそれでだったかと、教えてもらった今になり、知る。


 それは、『こっちの肩の形がちょっと平らか?』『左の臀部の一部もだ』と騎士たちの気づいた結果。

 だが、筋肉も切り落とされてしまったとはいえ、龍気で筋肉や血管の損傷も再現に近く整い、皮膚もきちんと再生して張ったので、違和感はさほどでもなかった。


 この手前で()()使()()()()()()も、もしかすると効果に一役買ったかもしれないが。



「(ド)凄まじい傷だったのだ。騎士修道会で魔物退治をしていた頃もいたが」


「(シャ)いましたね・・・肉を、切り落とされるとか、溶かされて失うとか。再起不能の怪我を負った騎士は」


「(ロ)うわ~・・・ レムネアク、本当に。本当に大変な目に遭って。もう、手洗いでもどこでも、俺がついて行きますから」


 今後は一人にしないようにします、とロゼールが項垂れ、レムネアクは情けないやら申し訳ないやら。


「騎士修道会の騎士たちは、体を張って戦っての怪我ですから、捕まっただけの私と比べては」


「怪我に流れ込んだ経緯など関係ない。レムネアクはこれほどの傷を食らいながら、鉈を離さずに死を覚悟したのだ。お前の勇敢さを、死で終わらせてはいけない。生きていてくれて、良かった」


 恐縮する僧兵の少し削れた肩に手を乗せ、ドルドレンはそっと撫でながら『今後はロゼールの言うように、一人にはしない』と約束する。シャンガマックは、レムネアクの大怪我を見ているので、大きく頷くだけ。



 この鉈を、俺が持つがために――― 何度か過る、手に余る武器の存在。


 手に余るその意味は、持ち主になった俺の弱さ。痛感した。でも『憐みの刃』は、他の人に預けるわけにもいかない。


 持ったが最後の責任もあるし、『憐みの刃』があったからこそ、狙われて殺されかけるも、()()()()()()()()()()のも確か。


 傍らに置く鉈は、銀色の金属に戻っていて、レムネアクは『死者を解放する刃』の持ち主に齎される、特別な対処を身を以て知り、今一度深く感謝した。だがそれはそれ、これはこれ。皆の足を引っ張る状況は、望まない・・・



 不甲斐なさそうな顔で悩む僧兵。ロゼールが慰めようとした時、シャンガマックたちの後ろから『具合は?』とイーアンが覗き込んだ。ドルドレンが場所を譲り、イーアンはレムネアクの側へしゃがみ、どう?と尋ねる。


 鳶色の瞳がとても心配しているのを、レムネアクはただただ嬉しく思うだけ。笑みが自然と口元に浮かぶ。ちょっと頷き、『もう問題ないです』と短く答えた。その返事でも心配そうなイーアンは、頷き返したものの『あのさ』と続ける。



「昨日、大体は聞いたけど。思い出せることがまだ他にあれば、話してくれる?魔法使いとか・・・『血の精霊』とか対処するから、情報が増えると助かる」


「あ、そうですね。分かりました。イーアンの良い時間にでも」


「今日はね、この後、シャンガマックたちが昨日の部屋を調べてくれるの。ミレイオがあっちに住んでいたことがあるから、一緒に行ってもらって。だから、ちょっと順番は前後するけど、先にあの部屋で思い出せることから教えてくれたら。昨日、少し話してくれたこと以外にあればね」


「ええと・・・ 」


 レムネアクも意識が飛んでいた状態で、情報に抜けが多すぎる。だが、調べに行くなら何が役立つか分からないので、イーアンと場所を交代したシャンガマックに『わずかなことですが』と前置きした。



 ―――昨晩は、『魔法使いに手当てを受けたこと・その魔法使いが仕組んだ』これだけを伝えた。


 殺す気はなかったらしく、痛手を受けたレムネアクに手当てをしたのも、止血が必要な状態で発見したためだった、本人曰くの話・・・・・

 何が何だか、の話だが、よくよく他の状況も聞いて流れが出来た。


『鉈を狙った魔法使い→血の精霊に生贄の首を渡して、レムネアク孤立へ→殺害に及びかねない状況で、鉈を奪われかけた』。

 ここに、魔法使いの対応を併せると、『魔法使いは殺さずに奪う予定→レムネアクを救出→処置後に雲隠れ』し、レムネアクは奇岩群の一室に残されたのだ――



 意識が戻った時は、朦朧として詳細まで記憶にない。


「部屋の状態はあまり見ていません。小さな明かりはあったと思います。魔法使いは女のような顔立ちですが、男です。声も男でした。ヨライデ語は、違和感なく話していましたけれど、ティヤー人かも知れない。顔つきに特徴が見えました。

『水を換える』と言って外へ行ったので、表に水場があるかも・・・私は、服を脱がされているのも、気づいていませんでした。

手当てとして、大きな葉を使っていました。止血しているのも何度か聞きましたが、その他のことまで覚えていないです」


 言い終えて『情報らしくない』と頭を掻く僧兵に、シャンガマックは礼を言う。


「衣服はまだあれば、持ち戻ろう。それと、魔法使いが()()()()()()、それは分からない?」


 小刻みに相槌を打っていた褐色の騎士は、部屋と異なる質問をし、僧兵は『分からない』と横に首を振る。


「了解した。手当てしてすぐ放った、と考えられなくもないが、思うに、俺たちが探していることに気づいて逃げたのかもな。それまでは側に・・・そいつは、たまたまその部屋を使ったのかどうか。周辺も併せて調べてみよう」


 シャンガマックは総長に挨拶し、ミレイオとシュンディーン、獅子と一緒に、早速調べに向かった。


 ロゼールとドルドレンも、一旦、食料馬車の外へ出て、ルオロフやバロタータに今日の行動を伝える。残ったイーアンは、寝台に体を起こす僧兵を見た。



「昨日も平気だったから、()()()()と思うんだけど。龍気であんたを治した後も、鉈に変化はないし。だからこれ、持ってて」


 喋りながらイーアンは長い尻尾を出し、ウロコを3枚取る。あ、とレムネアクが止めかけたが、既にむしった後。はいと渡され、レムネアクは受け取った。


「『血の精霊』相手にどこまで効くか・・・ 鱗だけでは心許ないけど、無いよりは」


「心強いですよ。有難うございます」


 レムネアクは、この旅に同行してから、旧教の『光の石』も『歌の波』も分けてもらっている。その上、龍の鱗も・・・ 所持する鉈は死霊のためにありながらも、龍の影響を受けない不思議な聖物で、イーアンの鱗を身に着けても問題ない。


「守れなくて、ごめん」


「守って下さっています。あんな状態でも探してくれました」


「私は見つけられなかったんだよ、シャンガマックとお父さんが見つけてくれなかったら、どうなっていたか」


 会話が止まるがレムネアクの微笑みは消えず、俯く女龍に『一緒にいられて感謝している』と伝えた。俺の今の状況は足手まとい以外、ないだろうにと思えば。


 女龍は顔を上げて、渡したばかりの三枚の鱗をそっとまた引き取り、龍の爪に変えた指先で小さな穴を鱗にあけた。


「こうして・・・ちょっと待ってて。これで、私の翼の皮は強いから、紐もこれにしてさ。首から下げたら違うかも」


 レムネアクの前で、白い片翼を出した女龍は、皮膜の一部をへろっと剥がして割き、皮ひもを作ると、鱗に通して両端を結ぶ。


 ほら、と両手に持った首飾りのお守りを輪にし、レムネアクの頭に掛けた。首にすとんと落ちた龍の皮紐、龍の鱗の首飾り。レムネアクは、ちょっと放心して鱗に指を置き、目を閉じて開く。


「絶対に、外しません。この首が落ちない限りは外さないでしょう」


「そういうこと言わない。縁起でもない」


 ニコッと笑ったレムネアクに、イーアンも少しだけ笑い返すが。昨日の状態が気の毒過ぎて、治った今も、心から笑うには届かなかった。



 ここへ―――



 表に龍気が広がり、イーアンは振り返る。『バーハラー?』気づいて荷台の外、空を見上げ、ぐんぐん近づいてくる龍の気配に、タンクラッドの帰りを理解した。


「タンクラッドが戻って・・・勇者の剣!」


「行って下さい。私は大丈夫ですから」


 パッと顔が明るくなったイーアンを、気遣う。瞬きしたイーアンは、首を横に振って『誰かと交代したらね』とまた座り直した。


 こんなに大事にしてもらったことが、人生に無かったレムネアクは・・・ 受け入れることに決めて、礼を言い、それから昨日起きた―― 井戸から始まって、切り刻まれていた時間 ――の内容を思い出せる限り伝える。


 イーアンは静かにそれを聞き、『龍の庇護を受ける』とか『鉈を置いて行け』とか『同類』とレムネアクに言ったやつに、怒りとはまた別に思うところあり。



 ―――『原初の悪』の祠だが、『原初の悪』自体が喋っていたわけではない。


 以前の森でも思ったが(※2944話参照)、あの精霊の派生、もしくは、程度の低いクローンじみたものが、親の『原初の悪』同様の対応をしている。異時空も預かっているのだ。

 どこかで繋がる・対処対応の連絡も届いている、ということはあるかもしれず、そうだったら・・・龍への恨みはまた増えそう。


 レムネアクを甚振った理由は。 

『原初の悪』が直に関わったなら、あの精霊は、『命のあるものは範囲外』(※2099話参照)。

 例え、間接的でも、『連れ込んだ先で甚振り殺す』真似はしない。それは直接、殺すのと変わらないんだから。

 

 彼を捉えるよう、悪人の首をまとめて貢いだ魔法使いの頼みに添って、『血の精霊の祠』は起動した。だが、『原初の悪』のコピー意識で龍を嫌うがため、レムネアクを()()で殺そうとしたのか。

『原初の悪』自体はまだ身動きないような。今回の件に絡んでいないだろうけど・・・ ただ―――



「・・・最後、あなたを選んだあとは、目を覚ますまで何も覚えていませんが」


 イーアンは彼に頷く。両肩の形が左右違うのも気づいて、イーアンは目を細め小さな溜息を吐くと、『レムネアク』と名を呼んだ。はい、と答える僧兵。


「鱗も渡したし、ロゼールたちも気を付けてくれることになったけど。やっぱり心配だから、連絡できるようにしよう」


「連絡・・・ですか」


「そう。私とドルドレン、どっちかに連絡が取れる道具があるの。まだあるはずだから、それを持たせる。その道具が使えない場所もないわけじゃないんだけれど」


 レムネアクは手を伸ばして、両手を組んだ女龍の拳に触れ、『充分です』と断った。

 引っ掻き回すのも、迷惑をかけるのも望まない。自分はただの同行だからと言うと、イーアンはまた溜息を吐いて『ダメ』と一蹴。


「あのね、ルオロフも断って持たないままなの。でもルオロフは、万が一でもどうにかなる。彼はあの身体能力もあるし、彼を預かる精霊もいるから、()()()。あんたは」


「はい。私には何もないですが」


()()いるでしょ。その私が守り切れないなんて、嫌なんだよ」


 少しの沈黙。馬車の外でタンクラッドの気配が動くが、イーアンは僧兵を見つめ、僧兵もその目を見つめ返しながら、言葉に詰まる。嬉しい申し出ではあるのに、迷惑だと思うと。役に立つどころか、足手まといに感じる。


「でも」 「これでいいか」


 遠慮しかけたレムネアクに、外から別の声が被る。開いた扉の表に、剣職人がゆらっと表れ、その手に小さな珠を二つ、こちらへ見せた。


「もうな。これで残りがない。丁度いいだろう。レムネアク、持っておけ」


 フフッと笑った剣職人が荷台に上がり、イーアンは挨拶。タンクラッドも女龍の角を撫でて『ドルドレンに渡したぞ』と外へ顔を向け、イーアンと交代する。


「少し聞こえていた。後は俺が」


「はい。ありがとう、タンクラッド」


 ニコッと笑った女龍は僧兵に『ちゃんと受け取って』と命令し、苦笑したレムネアクは剣職人に預けられる。どれ、と寝台脇に座ったタンクラッドは、僧兵の裸の上半身に視線を走らせて『大変だったそうだな』と労った。


「連絡珠だ。お前の分・・・ ちょっと練習するか。持つと、考えていることは筒抜けだから、気を付けろよ」


「あ。はい。あの」


「言うこと聞け、レムネアク。イーアンが本気で怒ると、国が真っ二つに割れる(←アイエラダハッド)」


 えっ、と恐れる僧兵に笑い、咳払いしたタンクラッドは握った珠の片方を使い、脳に話しかける。すぐにレムネアクも応じて、無言の荷台でやり取りを数回。連絡珠を使う時だけ、珠は光るのも知った。


「お前は飲み込みも早いし、サブパメントゥ相手に思考を閉ざすくらいだ。これもお前の武器になるかもな」


「・・・すみません、貴重なものを。タンクラッドさんは、もう用は全部済んだんですか?俺の所にいては、ドルドレンさんたちに」


「もう挨拶もしたし、剣も渡した。ヘズロン入りしてからの事件も大体聞いた。お前のことが一番衝撃的だったぞ。心臓に悪いから、これからお前は一人で動くな」


 ハハハと笑ったタンクラッドは、この勇敢で死を恐れない男を認める。皮膚の()れで分かる、傷の位置と幅。いくつか目を止めて、『お前は仲間なんだ』と呟く。


「仲間が殺されかけて、心配しないと思うか?」


 黙る僧兵に、剣職人は大きく息を吐いて『オーリンとも会ったんだってな』と話を変え、怪我の話題は終わりにした。レムネアクは、自分を仲間として受け入れる皆を想いながら―――



「その。あ、そう言えば。タンクラッドさんは、知らないままだと思うんですが。ヘズロンの地下に」


『地下道の存在なら聞いたぞ』と遮った剣職人に、レムネアクは『この地下道と、王城の地下水路が』と、オーリンのことも振り切って、仕事話に切り替える。ミレイオにも聞かれたままだからと、急いで寝台の引き出しから地図を探す。


 オーリンにも、死ぬなと言われた。友達だと、彼は言った。

 イーアンも俺を守ろうとする。ドルドレンさんも、ロゼールも、皆が。

 このまま、仲間意識を・・・それは難しく感じ、話を逸らす。



 レムネアクにとって、誰かの家族になることも、友達になることも、仲間になることも。あまりに縁遠くて、態度だけ受け止めても、心が追い付かない。



 何となく察するタンクラッドは、僧兵の慌てる動きを目で追い、彼が寝台の引き出しから取った地下水路図の話に合わせてやり、ちょっと笑った。


 表ではドルドレンたちが、新しい剣で盛り上がっていた。

お読み頂きありがとうございます。

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