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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三つの供物
3060/3100

3060. 7日間中 ~ナーブヤムと僧兵の鉈

☆前回までの流れ

雨の日、地下道を調べた後で馬車へ戻されたルオロフ・ロゼール・レムネアクは、バロタータが守る馬車にいながらも、不意を衝かれてレムネアクが攫われました。血の祠の下位精霊に殺されかけた時、救出が。

今回は、魔法使いナーブヤムから始まります。

 

 レムネアクを助けるに間に合った、魔法使いナーブヤム。

 願掛けした相手『血の精霊』の処置が危険と感じ、様子を見に来て正解。



 血の精霊の触手は、鉈持ちの男をヘズロンの外―― 黒い祠付近 ――へ連れて行ったが、祠の異時空には連れ込めず、石畳の地下止まり。そこで、男を甚振っていた。

 異時空に連れ込まれていたら、ナーブヤムも手を出せなかっただろうが、地中であれば()()使える。着いた時には、最後の問答が耳に届き、急いで男を根に巻きつけた。



 レムネアクが真下から剣で突かれたと思ったそれが、ナーブヤムの木の根。血の精霊の攻撃、一歩前。間一髪の邪魔に成功した。


 レムネアクは意識が飛び、ナーブヤムは彼を引き取って『ここまでで充分』と()()()()と動きの釣り合いを、礼に伝えて終わらせる。


 無論、止められたが、ナーブヤムは『遠ざけて待たせてほしいと願ったので』と願いを繰り返し、抱えた男のだらっと垂れた右腕・・・鉈を持つ腕をゆっくりと腹の上に乗せると、『20人の首と血に釣り合った』ことを嫌味に含めて、地中から上がった。


 血だらけ傷だらけのヨライデ人から・・・ 鉈を奪うのは何の苦労もないが。


 意識が飛んでも握った手を開かない男は、置き去りにしたら止血も間に合わずに死ぬかもしれず、ナーブヤムはヘズロンから少し離れた奇岩群の奥で、応急処置をすることにし、彼を連れて行った。


 なので、今。レムネアクとナーブヤムは、奇岩群の一室。人のいない、寝台や水場だけが残る部屋の中。



 木の葉の手当ては、勿論、治癒魔法を含む。この男に人間以外の属性がなく、魔法を拒絶しないと確認したナーブヤムは、すぐさま治癒の魔法で木の葉を切り傷にあてがい、止血を実行。傷の癒しはすぐではないが、通常に比べたら早い治り。深い傷も一晩あれば、肉が閉じる。内臓までやられたわけではないので、半日・・・丸一日かけるなら、肉から皮膚まで癒着するはず。


 赤い鉈は、男が放そうとしなければ、どうも外せないと知る。男の意思を尊重しているかのような鉈で、その()()()は手当てしていて気づいた。

 これだけ大怪我を負って、握った指を開かないのも大したものだが、鉈はこの男の血を吸い取っては戻しているらしく、吸い込んだ血を巡らせて、男を死なないように維持していると見た。



「塞がなければ、血は()()()()なんだがな」


 ナーブヤムは、一心同体の如く繋ぐ、不思議な鉈と持ち主に首を傾げ、汚れた水を替えに椅子を立つ。


「動くなよ。お前がいきり立って開いた傷。また血が出てしまったから、拭かないといけない。手を焼かせるな」


「不要だ」


「強がると死ぬぞ」


 不要と断った男は息切れ中も呻き、置き上がったために開いた、背中の傷の痛みで目を瞑り続けている。全くと呟いたナーブヤムは、血に汚れた水を水場で捨てて桶をすすぎ、井戸水を汲んで桶に新しい水を入れた。

 井戸・・・ 血の精霊が流れる水を伝うには、井戸もあるなと思う。どこで男を捕まえたか聞くこともなかったが。


 奇岩群の井戸は大きな岩の内側に造られており、共同の水場。天然の屋根付きで、外の雨に濡れることもなく、乾いた砂を踏みながら、ナーブヤムは部屋に戻る。逃げられる気はしなかったが、ちゃんと寝ていた(※動けない)。


「もう一度、手当てするから。背中を向けるぞ。我慢しろ」


「要らんと言った」


「馬鹿なやつだ」


 バカバカ言われるレムネアクが顔を背け、唸る。で、ころっと転がされて、下になった方の傷の痛みにまた呻いた。ふーふーぜーぜー、息が止まりそうなくらい荒い息で耐える男の背中に、ひやっとした布が当たる。濡れた布が血を拭いて、傷口に新しい葉を付けられ、ナーブヤムが呪文を呟き・・・ レムネアクはその声に瞼半分開ける。


「魔法使いだな」


「いかにも」


「この前の」


「それも、いかにも」


「ちくしょう」


「こら」


 こら、と叱った魔法使いの手が、背中の傷をちょっと押す。ぐわっと体を逸らした僧兵に、『立場を考えておけ』と苦笑し、横向きに寝かせた体勢を、仰向けに戻した。


「その、鉈だ。お前の傷の元は。私は鉈を求めたが、お前から奪うには一筋縄でいかない」


「殺して奪うなら」


「殺そうと()()()()()から言っているんだと、お前は分からないのか」


 ふー、ふー、と呼吸の音でよく聞こえないレムネアクが、右手に籠める力を抜かず、女の顔を見る。目が曇っていたのかと、じっと見て理解した。

 こいつは男か・・・ 顔立ちが女に似てるだけで、そう言えば男の声だなと、やっと気づく。それから、痛みで千切れ千切れの思考に、龍を過らせた。



 イーアン、すみません。 すみません―――

 一番弱い人間のために、鉈を持つがために。こんなことを引き起こした迷惑を許して下さい。イーアン・・・・・


 熱が、痛みが、邪魔する。敵の魔法使いに『殺す気はない』と言われて、手当てされる始末。すみません、足を引っ張って。俺が、人質になったら。あなたは俺を、助けに来る。そんなことしなくていいのに。



 傷が痛み、ぐっと呻き、歯を食いしばって、イーアンに許しを請うレムネアク。何度も謝り、自分を信じてくれた龍の名を呼ぶ。魔法使いが何か話している。そんな声を聞きたくもない。今は、イーアンに謝らねば。


 右手の熱だけが、自分に生命の強さを繋いでいるのが分かる。憐みの刃が、俺を認めている。この腕を切り落とされなければ、俺は生きているだろう。だが俺自体が、弱過ぎる皮肉―――



 *****



 レムネアクの呼吸が少しずつ静かになり、安定してきたのを知り、ナーブヤムは彼が眠ったのかと、そっと顔を覗き込んだ。化粧がはがれたヨライデ人。年齢は30代後半・・・? リオラヌとそう変わらない年齢にしては。


「可愛い顔しているんだな。猫みたいな輪郭だから、若く見える」


 私が言うのも変かと、ちょっと笑った魔法使いは、気概に溢れたしぶといヨライデ人に『お前の根性は、私も若い頃に覚えがある』と遠回しに褒める。死ぬ気で常に生きていた時代を、この男の態度に重ねた。


 額に手を置いて熱を感じ、もう一度呪文を唱えて、樹液を掌に満たし、それを額と喉、胸、腹、股、体の中心の線に塗った。


「人間は、根幹がないとな・・・木は、樹皮でどうにかなるが」


 ナーブヤムの手当てと独り言は、ここまで。背中に受けた衝撃、波動にサッと振り返り、魔法使いは目を見開く。


 閉ざす物のない窓の表。星のような白い光が、陽の落ちた夕闇に駆け回って―――


「まさか。お前を?」


 寝台に寝た男を見て、『お前を探している?』と魔法使いは驚く。そんなにこいつが大事か・・・あれは龍だ、とも分かる。どんどん真っ白に輝きを上げる光は、白い帯が絡まる速度で、気が狂ったかのように飛び回っている。


「まずいな。知られたら殺されかねん」


 見つかるのも時間の問題と判断したナーブヤムは、部屋に灯した光を消して、眠ったレムネアクに顔を寄せ囁いた。


「またな。死霊の鉈を持つ男。後は、運に祈れ」


 龍には私が殺す気ではなかったと言っておいてくれと・・・冗談めかした本気混じりの台詞を最後に、木々の魔法使いは階下へ走り、涸れた岩場の裂け目から根を呼んで、根を伝って奇岩群を離れた。



 その十数分後。レムネアクが一人横たわる部屋を嗅ぎつけ、闇を縫った獅子が現れる。


「レムネアク!」


 シャンガマックが急いで獅子を下り、レムネアクの寝台に駆けよって『何て姿だ』と驚く。

 葉っぱだらけだが、寝台に敷かれた布は血の黒さ。その大量に目を疑う。レムネアクは呼吸しており、とりあえずレムネアクをと、獅子を振り返る。獅子は『イーアンが近い。任せろ』と窓の向こうに顎をしゃくり、シャンガマックは窓から身を乗り出して叫んだ。


「こっちだ!イーアン!イーアン!」


 大声で呼びながら、夜に閃光を放ち続ける龍に合図を送る。精霊の礫を打ち上げ、金の礫が居所を知らせ、気づいた白い星がものすごい勢いで突っ込んできた。


 獅子はサッと隠れ、眩しさに顔を両腕で覆ったシャンガマックは、ドンっと部屋に飛び込んだ女龍に『レムネアクが』と寝台を示す。


「レムネアク!」


 目が落ちんばかりに見開いたイーアンは、満身創痍の男を頭から爪先までさッと見て、すぐさま龍気を注ぐ。


「シャンガマック、ホーミット、お疲れさまでした。先に戻って下さい。私が彼を連れます」


「頼んだ。この部屋は?後で調べた方が良いんじゃないか?」


 そうですね、と言いながら、イーアンは大急ぎ。こんな傷と血の量では死んでしまう。大量の大きな葉は何なのか。誰かが手伝ったような桶や布の位置、この辺にはない大きな葉の形は気になるも。


「帰るぞ、バニザット」


「イーアン、俺は馬車で、レムネアクを寝かせる用意をしておく」


「お願いします。傷を塞いだら、すぐに連れて行くので」


 獅子と褐色の騎士に頷いて、彼らが闇に溶けて消えたのを見送り、イーアンは白い龍気が濛々と籠る寝台に目を戻す。龍気の光に包まれるレムネアクの傷の、半端ない多さ。葉っぱを透かして見える傷の長さ。


 葉っぱ・・・あれ?と気が付く。龍気が注がれ始めて少しすると、葉は薄くなり消えてゆく。全身に付いた葉っぱは、あれよあれよという間に消え去ってしまった。


「あっ」


 慌てて側の濡れた布を引っ張り、レムネアクの腰にべちょっと投げる(※丸出し)。見てないから、と一応伝えて、ちょっと見えたけどと、すまなそうに言い足したイーアンは、咳払いしてレムネアクの顔に視線を戻す。


「なんて怪我を・・・鉈が守ってくれたのね。良かった。もう少しだからね、もう少しで傷が治るから。頑張れ」


 脈打つ鉈と握る右腕だけが、やけに生々しい生命の力に漲っている。生命と死の切り分けを司った『憐みの刃』は持ち主の血を受けて、持ち主は生命の領域に立つ者としたのだ。きっとそうだ、と感じ取れる。


「頑張って。あんた、丈夫だと思うけど。レムネアク、死ぬな」


 死ぬな、死ぬんじゃないわよ、と何度も励ましながら、イーアンは一生懸命龍気を注ぐ。変な毒とか入ってたらどうしよう。何か仕掛けられてたらと思うと、人間の肉体にどれほど辛いか、守れなかった悔しさに歯ぎしりする。


「くそっ。私は、龍なのに。ごめんね、守ってやれな」


「イーアン」


「レムネアク?」


 掠れた息に混じった声で、ハッとする。胸に手を置いたイーアンと目が合い、僧兵が少し微笑んだ。一気に安心したイーアンは、口が開いたまま喉が詰まって、こみ上げる安堵が涙になった。はー、と息を吐き出すや、イーアンの頭が垂れる。


「良かった」


「あ・・・すみません」


「謝んないで。良かった。間に合って」


 良かったと涙を落としながら、レムネアクの胸に額を付けた女龍。部屋を包む勢いの白い龍気と、涙をこぼして自分を案じた女龍に、レムネアクも涙腺が緩む。真っ白な角が輝き、胸の上に垂れた黒い巻き毛が、肌を伝う涙の温度が、安心以上の喜びと幸せをもたらしてくれた。


「俺は」


「後で聞く。馬車に連れて行くけど、動かして大丈夫かしら」


「はい。すみません」


「謝らないでって言ったでしょ。見つけたのはシャンガマックたちだから、後でお礼を」


 はい、と答えたレムネアクは、体の痛みが引いたことに気づき、ゆっくり上体を起こしてみた。腕も肩も背中も腰も尻も足も。傷跡はほんのわずかに皮膚の攣れで視認できる程度に消え、龍の恩恵にひたすら感謝。


「治りました。あなたに治してもらってばかりです」


「『頼れ』って言ったわりに、守れてない。そっちが不満だ」


 お礼を言われてむくれた女龍に、レムネアクは少し笑って首を横に振り、『守られている』と答えた。それから鉈を見て、まだ赤いのでこのまま、と断っておく。

 女龍は了解し、寝台足元に置かれたレムネアクの衣服は、後で回収することにして、自分のクロークを外すとレムネアクの身体の上にかけた。


「巻いて。裸だから」


「す、すみま」


 いいからと遮られたレムネアクは、申し訳なくもイーアンのクロークを腹から下に巻き、両腕を龍に変えた女龍は、その僧兵を抱き上げた。


「あのう。いつもみたいに、背中からでも」


「あんた怪我人だったのよ。担架でもありゃ使うけど、馬車はすぐだし」


 逞しい女龍に、女専用の抱えられ方をされて、腰布一枚。気恥ずかしいレムネアクだが。白い龍の鱗の腕に抱えられるのは嫌ではなかった。


 イーアンはレムネアクをちらっと見ると、『お前さんをここまでしたやつは』と呟いて窓の縁に足をかけ、白い翼をグッと伸ばす。女龍は、僧兵を腕に岩の部屋を飛び立って、空に滑り出た。


 夜空をゆっくり飛ぶ女龍。雨はもう上がっていて、奇岩群と反対側にある馬車へ向かう間、女龍は『ここまでしたやつ』の続きを言わなかった。


 ただ、レムネアクが見つめた彼女の顔は、冷たく凍りつくような無表情で、俺のために怒っているのかと―― 申し訳なくも、有難く胸が満ちる。



 *****



 なんてことだ、と衝撃を受けたドルドレンが迎えた、夜の馬車。


 イーアンに抱えられて戻った僧兵は、クロークを腰に巻くという不自然な姿で、満身創痍の傷だらけ状態はシャンガマックから先に伝えられており、ドルドレンはイーアンからレムネアクを引き取ると(※抱える)、大丈夫ですからと断る男を、『歩かせるわけに行かない』と問答無用で寝床へ運んだ。


 全員で自分を探してくれたのを知り、レムネアクは申し訳なくて、穴があったら入りたい。


 ロゼールは物凄い心配していて、僧兵が戻るなり走り寄り、傷が治っていても、レムネアクを食料馬車の寝台から動かそうとしなかった。着替えを選び、食事を運び、一緒に食べて、大丈夫かと何度も訊き、心配されていることに、レムネアクもすまなさを持ちつつ、礼を言った。


 レムネアクの食後は皆が集まり、何があったかをようやく報告する。


 とはいえ、大怪我で倒れた当日。龍気で傷跡すら薄れる回復を遂げても、レムネアクは早く休むよう言いつけられた。


 レムネアクの事件の詳細を聞き、ドルドレンたち側の状況、また、イーアンと魔導士の見た現場と推測も併せ、何がどうなったのかを皆は理解する。



「血の精霊は、イーアンに()()()でも持つのか」


 バロタータの一言は決定打。女龍は精霊を見て頷き、『私と、龍に』と付け加える。

 この夜はここまで。食料馬車には一人で眠っていたレムネアクだが、この日はバロタータが側に付いて、夜は更けてゆく。



 *****



 そして翌日―――


 タンクラッドが戻ってきた。手土産に、勇者の剣を携えて。

お読み頂きありがとうございます。


休みがちで申し訳ないです。薬でどうにかなるものでもなく、意識の維持が難しいため、書いては休むような期間もあると思うのですが、できるだけ間を開けないようにしたいと思っています。

いつもいらして下さって有難うございます。心から感謝して。


Ichen. 

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