3057. 7日間中 ~20の首
※残酷な場面があります。長く続きませんが、苦手な方はご注意ください。
☆前回までの流れ
ヘズロン滞在四日目。ドルドレンたちは修験者のいる遺跡へ、イーアンたちは地下道調べに出かけました。隠し通路の確認の後、殺戮の部屋へ行き、『壁に書かれた文』を確認。そして奥の扉、閉じていたはずの扉が開いているのも発見・・・
今回は、開いた扉から始まります。
地下の現場で見た、開いた扉―――
イーアンはすぐレムネアクを呼び、『ここは開いてた?』と聞く。死体の消えた部屋に来た彼は、『いいえ』と即答。
「ここにいた者たちを殺すきっかけは、戸を開けられそうだったからです。あの時点で、誰も開けてないと思うんですが」
「その後に誰かが来たのね」
「奥へ行きますか?」
レムネアクは開いた小さい扉を指差し、イーアンは勿論頷く。ルオロフ、ロゼールも呼んで、家具で隠されるように覆われた、扉の先へ進んだ。
部屋から伸びる隠し通路は、5の水から入った通路より狭く、大柄な人間は通れなさそうで、行き来するなら小柄な体格が無難。
とすると、誰もが使える通路ではないのも・・・ なんとなく、イーアンは引っ掛かった。
今回のメンバーで一番背が低いのはイーアンだが、他三人も身長は180㎝未満。体格も細身な彼らなので、『狭い』『歩きにくい』とぼやくものの、進んでいる。
硬い灰色の煉瓦の壁は、自然に手をついてしまうため、表面にざらつきが少なく、角の明かりで照らす天井の煉瓦は、同じ煉瓦でも表面がざらついた影を持ち、通路は頻繁に使われていた気がする。
床も、壁際より真ん中の減りが分かりやすい。古代から続くここは、現代でも人が通り・・・ それは、大柄ではない人。
そんなことを考えながら、数分後。通路を出る。
*****
通路の行き止まりで、小さい板を外して出た部屋。出たところから反対側の壁まで、死体が床を埋めていた。
「うわ」
ロゼールが顔を顰め、ルオロフも視線を外したその光景は、首のない身体が並ぶ。
首は取られているが、切った感じではない。皮や髪の一部が残るため、ちぎったように見える。
「首がない、もしくは首を使う儀式・・・何か、ある?」
イーアンは儀式的な印象を受けたので、レムネアクに聞く。
20畳くらいの部屋から、向こうの扉に血が続いているので、そちらも見ることにする。死体の血の乾き方や色、臭いは、昨日今日の状態ではないが、ここには虫一匹いないのも不自然だった。
首だけ持って行った、誰かがいる。律儀に並べられた数列の死体。その数は、ざっと20体。男だけ。女も子供も老人もいなかった。ここにも『念』憑きはいたのだろうか。
レムネアクの返答は『肉はあるが(※2941話参照)、特に首だけを用意するのは思い当たらない』らしく、旧教の儀式だとすれば、知らない方が多いとのこと。
了解したイーアンは、三人にその場で待ってもらい、死体の上を飛んで、地下通路側の扉を開けた。鍵はなくて、押したら開いた。
『何者かが・頭を集めて・死体を並べ・頭を通路へ運び出し・また扉を閉めた』この皮肉な律義さも意味不明。血はどこへ続くのか・・・通路床に目を走らせたら。
「何があったの?」
暗い通路の先に、目を疑う。思わず零れた一言と共に、イーアンは破壊された天井下へ急いだ。
血は、床から壁、壁を上がって・・・通路の天井に開いた、孔。上から壊された具合で、落ちた煉瓦が通路の先にまで散らばり、大量の血を垂らした続きは、天井の孔に消えていた。
上からは、何も気配を感じない。残った気配もない。イーアンはゆっくり浮かんで、角の光が照らす煉瓦の汚れ方を観察し、孔に入ってまた驚く。『天井は、二重構造?』ぴたっと浮かんで止まった。
天井の上には、空間が広がる。空調でもあるまいし、かまぼこ型のトンネル地下道の天井裏が空間を持つなんて、ちょっと考えられない。
天井裏なので、上がった床部分は煉瓦だが・・・だだっ広い、狭く暗い空間のすぐ上は土だった。この土の層、厚さはどれほどか?地下道の上、つまり地上は建物がある。基部は地中に打ち込んでいるはずだが、こんな空間が地下に在っては、建物も危険だろうに。
ふと、頭上の土に触れて『新しい』と気づく。ごく最近、掘られたのか。何かがここを通過した?
「もしかして、あの部屋の人間を殺すためだけに」
通ったものは何者か。土の天井に顔を寄せ、指先で触れ、考えても出てこない。
触れた指に湿った土が付き、ポロポロと落ちる中に植物の細い根が入っていたり、土中の虫が混じっていたり、特にヒントはなく、イーアンは手を離す。
土が付いた指を合わせてこすり――― 思い出した。
「巨木」
やっと気づいた女龍は、巨木の方角から現在地、地下道の地図と、魔法使いがいた東の端とを重ねて『有り得る』と呟いた。
「あれだ・・・ 根があったのね。広がるなら広範囲かもと、思ったんだっけ。木の根が残っていて・・・、魔法使いの指令を遂行する武器としたら、この」
言いかけて口を閉じ、開いた穴に視線を落とす。地下道は煉瓦だから血が付いたままだが、引っ張り上げられた土の天井裏は、染みこんだ血の判別が付かない。
「ここに人間がいると分かっていて、根っこを伸ばして首を引きちぎって、どこかへ持って行った」
栄養?と禍々しい魔法設定で考えもしたが、何か違う気がする。今朝の振動も関連しているのか。でも、並んだ死体は、今朝の事件ではないだろう――
このまま飛び回って調べることも出来るが、変に横にも広い場所。風が吹いてくる感じもないので、閉じた可能性もある。
「そうよ。だって。部屋の扉だって閉められていたんだもの・・・ 」
何かが。律儀に実行して、ここにいた人間たちを殺し、どこかへ首を持って行った。それが魔法使いの木の仕業なら、魔法使いはレムネアクの鉈と別に、異なる目的を定めていたと思えた。
―――イーアンの推理は、当たらずとも遠からず。『鉈と別』ではなく、『鉈目的だった』と・・・もう少し後に知る。
*****
イーアンは地下道に降り、この場で魔導士に呼びかけた。
待って一分。地下道に淡い火円輪がポッと現れる。開口一番、『どこにいるんだお前は』と火円輪越し、魔導士は女龍の背景に眉を寄せた。
イーアンが急いで状況を話すと、彼は間を置かず『他三人を馬車へ帰しておけ』と言った。
『俺が行くまで、龍の結界で守ってろ』
『分かった』
そうして、イーアンは急いでルオロフたちに行動を教え、部屋に結界を張り、三人を連れて物質置換で真上に出る。
ルオロフはロゼールを、レムネアクはイーアンが付き添い、その場から飛んで馬車へ戻った。地図はイーアンが持ったままにし、また現地へとんぼ返り。
龍気の結界の反応で、迷うことなく辿り着いたイーアンは、あの死体陳列の部屋へ入って間もなく、現れた魔導士に肩を叩かれた。
「バニザット。あのね」
「調べながらな」
時間が惜しいとよく言う魔導士は現場を見るなり、『ああ』と何かを察したよう。ここに『念』はいないと先に言い、イーアンも隠し通路繋がりの一室で起きた、『念』憑き死亡の話をした。
並んだ死体の上に浮かび、魔導士はイーアンの話を聞きながら、20体の様子をザーッと見て、部屋から地下道へ出る扉の先も確認し、土天井も見た後、ここまでの話も理解した。女龍の腕を掴み『ドルドレンたちが対処した部屋へ』と・・・魔導士は女龍を伴い、あっさり壁を抜けて移動。
本当にこの人何でもありだ、と最初の現場に来たイーアンが思うや否や、『余計なことを考える暇はない』と注意される。
レムネアクが殺した数十人の部屋、壁に書かれた文章。言わずもがなで、魔導士は向かい合って魔法陣を出す。緑色の蛍光色を放った魔法陣は、一文字も漏らさず写し、くるっと回転して消えた。
「持って帰る」
「読める?」
「調べるんだ。何が書かれているか」
「・・・私の、以前の世界の文字だと思うよ」
「お前は、俺が誰だと思ってるんだ」
この一言でイーアンは黙る。お決まりのセリフなので、これ以上は聞かない。でも、それをバニザットが読んでいいのかを忘れていた。バニザットに振ってしまった件が迷惑にならないか、と目を泳がせると、魔導士は女龍の角を押す(※押→上を向く)。
「言葉の研究をするわけでもない。現場の状況に合わせた範囲で解読するってだけだ。だから完璧な解読だと思うな。俺もとばっちりは要らん」
頷いた女龍に『ちょっと見てろ』と下がらせ、魔導士は早速、残留思念を呼び起こし、時間を近い過去まで引っ張った。
薄く浮かぶホログラムの思念は、ここにいた悪人の会話、雑談、なんでも拾う。早送りして聞き取る魔導士が、ピタリと止めた場面は、壁に手を向けた男の仕草だった。
「仲間内で、この文章を話題に出している。イソロピアモが来る予定だった」
「・・・予定って、いつ?」
「さぁな。何度もすっぽかされているようだが・・・移動には、サブパメントゥが絡んでそうな言い方だ。どこも似たようなもんだから、壁の詳細はあとで調べよう。
死霊がどうと、騒いでいたのもある。死霊が来ないと。こいつらの連絡手段は、死霊に任せていたようだな。さて・・・ 」
魔導士は、またイーアンの腕を掴み、後から見つけた部屋へ移動する。何かが繋がったらしく、イーアンは魔導士が調べるのを見守る。
死体が並んだ部屋に入り、イーアンの推測含めた話も念頭に、浮かんだ魔導士は死体をそれぞれ見て回ると、ある一体の上で止まった。
それは痩せた男で、他より体が小さかった。並びにも似たような服装の者があり、二人を見比べた魔導士は『こいつらは兄弟だ』と教える。
「このどっちかが、レムネアクが殺した奴らの部屋へ確認に出た」
「え?」
「あの部屋で殺された『念』憑きは、こっちに来たんだ。こっちに人間がいるから。『念』を新しく受け取ったのがこの二人・・・だな。で、どちらかの男が、通路を使って状況を見に行った。一人も生きていない修羅場を知って、こっちにいる仲間に報告した。
こっちの連中に、『念』憑きはいなかったのかもしれん。どう出るか、仲間を殺した奴ら―― お前たちだな。お前たちを片付ける相談でもしていたと思うが、その後」
これは一部ずつ、思念を読み取った上で、合わせた推測。魔導士が短い呪文を唱えるや、イーアンは目の前に立ち上がったホログラムで、何が起きたかを知った。
―――ここにいた20人は敵(※私たち)を倒す相談か、怒鳴り散らして・・・いた。そのすぐ後、地下道の扉が開く。
勢い良く開いた扉から、トカゲの舌のような大きなものが突っ込んで、振り返った人間の頭を次々に落とす。剣を振るおうが、逃げようが、舌の先は切られても何をされても止まることなく部屋を動き、舌の表面から無数に伸びる細い糸状のうねりが、落ちた頭を集め・・・ 全員殺した後、か。ホログラムは半端な状態で止まった―――
「最後の一人が死んだ。だからここまでだ」
最後の一人の目に映った惨劇。ホログラムの再現で知り、イーアンは魔導士を見上げる。
「あの、舌みたいの」
「根だろうな。お前があたりを付けた、それが正解だ」
「・・・でも、なんでこの男たちを狙ったのかな。私たちの方にレムネアクがいるのに」
「お前たちに手を出す気があれば、巨木の魔法など回りくどいこともしない。裏を掻いたかもしれんぞ。この並べ方は、埋葬とも違う。生贄だ」
生贄――― 儀式的と思ったが。魔導士に聞いて、目を丸くする。
「く、首は?首が生贄じゃなくて」
「貢物は、首だ。古い習慣に、こんなのもある。俺も詳しくはないが、過去に見たことが。血の首を貢いで願掛けする。死者の身体に敬意もある。だから」
「敬意で、並べてるってこと?」
「生贄にしたわけだから、そうだな。だがイーアン、注意はそこじゃない。血の首を持って行った先だ。根っこのバケモンが、わざわざ生贄を作ってまで、首20を持参で頼むのは・・・魔法使いの手を放れる頼みだ」
お読み頂きありがとうございます。
明日も投稿できたらと思うのですが、意識が途切れることで、書くのも考えるのも、また、読み直しの確認も、連続が負担になっていまして、間に合わなければ明日は休むかもしれません。
いつ落ち着くか分からず不安定な状態ですが、出せる時に投稿を、と思います。
先天性の障害が、年齢を重ねて顕著になり始め、治しようがないのもあり、いつまで物語を書けるかも考えます。私自身は、どうにもならなくなるまで続けたいので、こうして日が空く時もあるけれど、どうぞ一緒に旅してもらえたら感謝の限りです。
いつもいらして下さって、付き合って下さって有難うございます。皆さんに、心から感謝して。
Ichen.




