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魔物資源活用機構  作者: Ichen
三つの供物
3054/3091

3054. 7日間中 ~僧兵の心・模型船近況『南西』・明日の予定、二班分け

 

 オーリンとレムネアクは、聖獣で空を飛びながら、たくさん話をした。



 レムネアクは、ティヤーでイーアンに救われたきっかけから始まり、二日前までの出来事を簡潔に教え・・・

 オーリンはハイザンジェルの山から出て、ティヤーで会ったニダのために、旅を離れるところまで。両者の話は、掻い摘んでも30分かかった。


 レムネアクの鉈が貴重な代物な上に、狙われる供物の一つで、『これを使うと、切られた人間の魂は死霊となり、味方に変わる』ことも聞き、オーリンはイーアンの話を掠めた。



「この前、これをまた使いました。悪人退治といいますか。何度か使っているので初めてではありませんでした。でもその後、体が異様に重く不自由になって、鉈の影響かどうか分からずに」


「俺の憶測だけどね・・・お前が自分を、()()()()で自覚しているのと、魂の置き所の変化。隔たりがデカいんだと思うよ。

 身に染みついていると、淡々と何も考えなくてもこなせるもんだ。だけど、根本の意志が違ってくるとさ。同じ行為でも、今まで同様の意識はやめないと(ひずみ)が出てくる。体の変化で知らせた、とかな」


「オーリンも、でしたか?私と一緒では失礼ですが」


「失礼じゃない。俺もそうだったかな。俺の場合は、弓を作るだけの人生でも良かったんだ。でも、イーアンと知り合ってから、どうにか一緒に動きたくなって。今まで通りの日常が、違和感を持ち始めた。

 ある日、タンクラッドが()()()を呼べるようにしてくれた。あの時、これまでを全部脱ぎ捨てて、変わる時が来たと気づいた」


 龍ってさっきのね、と空を指差したオーリンに、レムネアクは頷く。


「龍に会った以降はもう、過去を忘れた具合でしたか?」


「過去を忘れる、そんな大層なんじゃなくてもな。新しい立ち位置に、新しい意志で進むってだけのことなんだろう。お前で言えば、殺人慣れしていても、僧兵だった流れでやるんじゃなく、仲間と世界のためにやる。この違いは」


「かなり違いますね」


 そういうの受け取っていいんだよと。魂の場所が代わったら、抵抗しないで意志も変えていいんだと。オーリンは話した。聖獣の背で過ごした後、オーリンは原っぱに戻らず『ヘズロンへ送る』と言い、聖獣はゆっくり古都へ向かう。



「元気になったか」


「なりました」


「ハハハ。良かったな。お互いのことも話したし」


「はい。これで、顔見知りですね」


「友達だ」


 それを聞いたレムネアクは、ニコッと笑う。『俺に、友達はいませんでした』さらりと出てきた本当のこと。現在、ロゼールが友達のように接してくれるが、彼は良い人間で、自分の横に並べては()()()()


 オーリンは皺を刻んだ笑顔を戻すことなく『それじゃ、俺が初めての友達だな』と返した。


「有難うございます。私の友達になってくれるんですか」


「お前さ。『俺』って言ったり、『私』って言ったりするな」


「あ。すみませんうっかり」


「謝らなくていいよ。あのね、テイワグナの同行で、バイラって警護団員がいて。彼も本音の時は『俺』に切り替わるんだ。気づいてなさそうだったけど」


 笑い声が止まない、聖獣の上。レムネアクはヘズロンが見えてきて『オーリンも行くんですよね』と誘う。少し考えたオーリンが止まり、『ニダが心配ですか』と気を回すと、彼は困ったように首を傾げた。


「今、馬車に行ったら。俺は。まだ早い気がするんだ」


「そうですか。では、また会いたいです」


「会いに来るよ」


 この挨拶で、オーリンはデカい龍気に気づき、向こうから白い光が飛んでくるのを見た。聖獣は女龍が苦手で落ち着きが消え、オーリンは『イーアン来るな!』と心で呼びかけ、女龍の光が止まった。


 大急ぎで下へ降り、ヘズロン北で聖獣を返し、入れ替わりでイーアンが来る。


「一時間以上です。聖獣だったのですね」


「そうだよ。ガルホブラフで二人乗りの長時間は難しい」


「・・・レムネアク、体は?」


 俺のおかげで回復したとオーリンが口を出し、女龍の眇めた顔にレムネアクも笑って『本当です』と肯定。それからオーリンは、パヴェルからの報告を口頭で伝え、書類が揃うまでもう少し日数が要るのも教えた。


「分かりました。書類が上がったら、ロゼールに渡しますので、また来て下さい」


「そうする。それじゃな、レムネアク。イーアン」


 ぱぱっと手を振る弓職人に、イーアンも手を振り返す。笛を吹いた彼のもとに、ガルホブラフがすぐ降りてきて、龍の民は颯爽と午後の陽射しに消えた。



「私たちも帰ろう」


 町の塀の外。北側は劇場遺跡が側に在り、豊かな眺めが殺伐とした現状を薄れさせる。数秒見つめたイーアンだが、レムネアクに腕を伸ばし、僧兵は彼女の腕を握った。あれ?と顔を上げたイーアンに、微笑む。


「心配して下さって、嬉しかったです」


「具合悪かったんだもの、当たり前でしょ」


「私は僧兵でしたが。今後は、()()()()()を引きずるのはやめます。あなたも、私を信じてくれたし」


 何かオーリンに吹き込まれたなと思ったイーアンは、うん、と頷き、ちょっと笑う。


「本当に元気になったんだね。何が理由だったの?何日もだるかったのに」


「オーリンが心境の変化だと当てました。そんなことではないと思ったけれど、『魂の置き所が変わった。新しい意識で進まないと体が訴える』と」


 へぇ・・・とイーアンも、ぽかんとする。オーリンが見抜いた、心のステージの変化が理由とは。自分のことは分からないもんだけど(※この前大変だった)、人のことは分かるものねと、すっきりしたレムネアクの表情を見つめ、オーリンに感謝。


 それから僧兵の背を抱えて浮上し、『お腹空いた?』と聞いて、『回復したのでそこそこ』の返事にまた笑った。レムネアクはその声を聴き、龍族はよく笑って明るいと思った。そんな彼らの側で、俺は。



「俺はまた、()()()この鉈で殺すでしょう。でもそれは、続いていた道の延長ではなく」


「そうだよ。私たちと一緒にいるんだから」


 少し顔を傾かせた僧兵は、間近にある女龍の顔を見つめ、ニコリと笑みを貰った。


「自分が精霊に選ばれたのを、分かっていて」


「はい」



 古都の上を飛びながら、イーアンはどこに居たのかと話を変え、ほとんど海にいた(※海の上)と聞く。聖獣に乗って楽しんだようで、それは何よりだが。


「そうか。じゃ、違う」


「何かありましたか?」


「うーん。模型船が・・・あんたを教えた模型船のことね。あれが、また動いて・・・でも方角が違うなぁ」


 模型船?と聞き返したら、もう馬車の上。

 二人は馬車の横に降りて、レムネアクは体調改善を報告し、ロゼールに喜ばれ、見守るワンちゃんに頷かれた(※大したことじゃないと思ってた)。


 オーリンと話したこと。魂の舞台が変化する反動。気づいて、意志を変え、新たな道に臨む。


 レムネアクの報告で、近くまで来ていたオーリンを、皆は少し懐かしんだ。面倒見がいいのはいつも一緒・・・ こっちに顔を出せばいいのにと、彼の遠慮を笑う仲間の姿に、レムネアクは『オーリンの心配は分かる』と思った。戻ったら、今度はニダの元へ帰りづらくなりそうで。


 この間、ルオロフはイーアンに『模型船の方角が違った』と聞いて、首を捻る。模型船は南西を示しており、二人は『もう少し、何日か様子を見よう』と話していた。



 *****



 南西となると、来た方角。戻ることになるのだが。


 やり残したことがあるのか、もしかしたらずっと遠くで、タンクラッドのいるティヤーか・・・思いつくのはそれくらい。模型船は急に動き出して、舳先を南西に向け、ぷかぷか浮かんだまま。


 ルオロフに連れて来られた(?)模型船を見た皆も、彼の手を離れて南西へ向く船に『今更、あっちに何があるのだろう』と疑問しかない。


 精霊バロタータは見ているだけで質問しないので、ルオロフが模型船の役目を話した。すると精霊は、『やり残したことではないだろう』と一言。意味深なので、何か見えるか・感じるかをドルドレンも尋ねたが、精霊は『知らない』と質問を切った。


「私は馬車を守る。この道具の教えることを読み取るものでもない」


「そうだな、失礼した」


 謝った勇者に、気にしないよう精霊は言い(※上から)、模型船の示すところは分からずじまいで、話は流れる。

 そう・・・話は、ここどまりになるより、なく。


 この続きは、思わぬ場所で開くのだが、旅の仲間に直接関りが()()。それでも、模型船は『影響を大きく受ける、重要』な何かを、そこに触れるまで訴え続ける―――



 *****



 ヘズロン初日からのおさらい、三日の間にあったことは。


 旧教遺跡に修験者と幽鬼が住みつき、入れなかったこと。

 町に広がる地下道の、悪党退治。

 ヘズロン東の墓地遺跡で、魔法使い二人との対戦及び、逃亡による終了。


 精霊バロタータと、精霊ポルトカリフティグが、馬車旅に付き添うこと。

 町役場で地下道図を発見したこと。

 勇者の剣、完成の報告があったこと。

 そして、オーリンが来て、レムネアクと顔を合わせ、体調を崩したレムネアクが回復したこと・・・・・



 イーアン的には、『海底で黒い剣も入手』もあるが、魔導士が回収したのを皆に話していいものか、ちょっと控えている。シャンガマックには話してもいいだろうけれど、今はまだ伏せて。とはいえ、神様(ヂクチホス)の一件があるため、ルオロフには先に教えた。

 ルオロフも特に他言しておらず、また、皆も『言えないこと』は幾らも承知しているので、根掘り葉掘り聞かない。


 シャンガマックはと言えば、こちらもヨライデ馬車歌集の解釈をヨーマイテスと進めており、なかなか際どい深さまで進行中・・・ 

 ただ、シャンガマックもヨーマイテスも『馬車の民』自体に詳しくないため、あの兄弟の説明と、旧教の解説書を参考に、ああではないかこうではないかの推論を出ず。

 ヨーマイテスは、『ドルドレンに教えるなら、もう少し抜粋して、確実に近い解釈だけに留めるべきだ』とし、13の馬車歌が示すところと各歌の内容を、今は整えている最中。


 イーアンとシャンガマックはそれぞれに『報告前』があるものの、皆には共有しない段階。



 三日目の夜は、回復したレムネアクに、ミレイオが『王城の地下水路のことなんだけど』と相談を持ち掛け、幾つかの気になる点を確認するため、明日は町の地下道の探索を始める予定が立つ。


 ここで実はようやく『悪党を殺した部屋の状態』が、話される。


 その後に起きた魔法使い騒動ですっかり、記憶の片隅へ追いやられていたこと。地下水路との接点を~とミレイオに聞かれ、ふと思い出した僧兵は、そういえばと皆に話す。ドルドレンたちも『そうだった』と今更。


「『念』憑きがいたところの壁に文字?奥に隠し通路?」


 聞き返したイーアンは、もしかするともう、通路を伝った仲間が文字を消したかも。と考えたが・・・それならそれで仕方ないにせよ、まだある可能性も捨てきれず、気にはなる。



 地下道探索はドルドレンも同行する気でいたが、こちらはバロタータが『そろそろ、修験者のいる遺跡へ行く』と動きを伝えたので、勇者はこっち。こうなると、通訳が困る。


 馬車留守番は、明日も魔導士が来なければの話だが、シャンガマック親子が引き受けるため、彼らは動かないとして、レムネアクとミレイオが通訳するため、ミレイオは地下道探索提案者なのだが、ドルドレンたちに付き添うことになった。理由は、言わずもがなでシュンディーン・・・


 ともすればまた、一触即発で殺し合いになりかねないのが、地下道。そこへシュンディーンを伴うのは、ミレイオの悩みではあった。

 シュンディーンに馬車で待つよう頼めばいいだけでも、最近は一生懸命理解に努める彼だけに、どう扱うものか繊細なこともあり、これはレムネアクが気付いて『私だけで』と引き受けた。


 それを聞いたイーアンは、ちょっと考え、間を置いたものの。


「私もお前さんと行くか」


「え。イーアン、でも午前中は」


「・・・仕方ない。()()気になる」


 ドルドレンは、男らしい奥さんの性格を熟知しているので、『君の都合に問題ないなら、そうしてくれ』と後押しした。

 壁の文字を確認したいのもあるし、レムネアクがまた一人で殺人を担うのも嫌だしで、イーアンが同行決定。


 イーアンがこちらに決まったため、ルオロフも急遽『では私も』と挙手して(※一緒希望)、地下道探索はレムネアク・イーアン・ルオロフ、そして『俺は一緒に行く』と最初から気を引き締めていたロゼールに決定する。

 バロタータ同行の旧教遺跡には、ドルドレン・ミレイオ・シュンディーンが向かう。



()()、ですけど。魔導士が来た場合、問答無用で出かけることになりますので、その時は」


「くそっ。俺が留守番かよ」


 シャンガマックも留守番予定だが、こればかりは魔導士の授業日が読めないので、彼が留守だと、必然的に獅子のみ、留守番。

 皆も、すごい嫌がっている獅子(※見た目は今、仔牛)の悪態に、彼に任せて大丈夫だろうかと少なからず気になるけれど、早目に戻ってくるとドルドレンが宥め、仔牛はぶーたれながら集まりを離れた。


 レムネアクは今日、オーリンと出会って心が軽くなり、体のだるさも取れて、明日・また・もし・・・ を想像したが、『明日からは魂の置き所が違う』と教訓を心に刻む。



「『歌の波』の制作は、タンクラッドが戻らない内は行かない。シャンガマック、お前もピフィアに調べに出る予定だが、それもとりあえず明日以降、ヘズロンの調査が終わってからにしてくれ」


「分かりました」


 一つずつ片付けて、一つずつ抜かりなく。滞在四日目の予定は夜の会議で決まり、皆は明日に備えて早く就寝。 



 明日は初日に劣らず、とんでもない日になるなんて、予感もなく―――


お読み頂きありがとうございます。

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