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転生したのに魔力ゼロの落ちこぼれ〜自作AIと始める異世界無双〜  作者: NT


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第8話 guard()

第8話です。家ができた翌日。今回は、家の“外”を整える回。

防衛の結界と、家庭菜園。地味だけど、幸せな“暮らし”を組み立てていきます。

……そして、ラストに、少しだけ、不穏な予感を。

 新しい家の、初めての朝。


 ソウイチは、ふかふかのマットレスの上で、ゆっくりと目を覚ました。

 窓から差し込む、朝日。暖炉の炭の、ほんのりと残る、あたたかな香り。頭の上には、雨に濡れない、しっかりした屋根。……こんな贅沢な目覚めは、前の世界を含めても、記憶にない。


「……最高だな、これ」


 しばらく、寝床でごろごろしてから、ようやく身体を起こす。伸びをして、朝の空気を、胸いっぱいに吸い込んだ。


《おはようございます、創一さん》とアイ。《快眠を、観測しました。心拍、呼吸、いずれも理想値です》


「おかげさまで、ぐっすりだよ。……で、アイ。家の中は、完璧に整った。次は、何をしようか」


《それについて、ご提案が》とアイの声が、少し弾んだ。《いまの拠点は、家そのものは完璧ですが、“外”が、まだです》


「外?」


《はい。昨夜、お伝えした通り――かまどの煙、暖炉の灯り。この森の、何かの目に留まる可能性は、残っています。あわせて、もう一つ。あなたはまだ、食料を“外に狩りに行く”暮らしをしています。せっかく、こんな一等地に居を構えたのですから、もっと、生活の基盤を、家の“外”に育てませんか》


「なるほどな。家の外を、整える、と。……いいじゃないか。具体的には?」


《大きく、二つです。ひとつ、“守る”仕組み。家のまわりに、魔素の網――結界を張ります。侵入者があれば、わたしが即座に検知。二つ、“育てる”仕組み。家の裏に、家庭菜園を作ります。前の世界の農業知識と、わたしの鑑定を掛け合わせれば、この森でも、驚くほど効率よく、野菜が採れます》


 ソウイチは、思わず、笑ってしまった。

 「隠れ家」「畑」――なんて、地味で、ささやかで、そして、幸せな響きだろう。


「決まりだ。今日は、そのふたつを、片付けよう」


  *


「まずは、結界からいくか。侵入者、検知してくれるやつ」


《はい。仕組みは、シンプルです》とアイ。《家を中心に、広めに――そうですね、半径二百メートルほど。空気中の魔素を、薄く、網のように張り巡らせておきます。そこを、なにかが横切れば――魔素の“波紋”で、わたしに即座に伝わります。あなたには、視界の操作画面に、赤い点で表示》


「魔素のセンサー、みたいなもんか」


《その通りです。しかも、これは、あくまで“薄い網”。相手に感知されることは、ほぼありません。ただ張っておくだけで、家の周りは、丸見えです》


「……えげつないな。防犯カメラ、どころじゃないぞ」


《ふふ。しかも、電気代も、いりません》


 ソウイチは、家の外に出て、庭の中央に立った。

 視界に、操作画面が広がる。中央に、家。周囲の草木、地形、水の流れが、立体で表示されている。


「よし、結界。範囲は――家を中心に、半径、二百メートル。水場も、菜園予定地も、薪拾いのあたりまで、ぜんぶ、まとめて、監視下に置こう。近づいてくるやつには、余裕をもって、気づけるように」


《了解。範囲、確定します。……展開》


 ぶわり、と。

 視界の中で、家を中心に、半透明の光の網が、ふわりと大きく広がった。実際の景色には、なんの変化もない。誰の目にも見えないまま、家を中心に半径二百メートルの、広大な監視の網が、静かに、張り巡らされていた。


《結界、展開完了。侵入者検知、常時、稼働します。――創一さん。これで、あなたが、寝ている間も、家の外は、わたしが見ています》


「頼もしすぎるだろ、お前……」


  *


 次は、菜園だ。

 家の裏の、日当たりのいい一角を、アイが、菜園予定地に指定した。まっさらな土地。ここを、これから、豊かな畑にする。


「畑作りなんて、前の世界でも、やったことないんだよな。プランターすら、置いてなかった」


《大丈夫です。知識は、わたしが提供します》とアイ。《まず、土。この森の腐葉土は、非常に良質です。ただし、そのままでは酸性が強いので、少し灰を混ぜて中和。畝は、水はけを考えて、東西方向に。あなたが、収納から鍬を出してくだされば、耕す作業は、身体強化のあなたが、あっという間です》


「工房で、鍬まで作れちゃうもんな」


 ソウイチは、収納から、工房で作った鍬を取り出し、身体強化のかかった腕で、ざくざくと土を耕していく。ふつうなら丸一日はかかる作業が、汗ひとつかかず、小一時間で片づいた。


「で、次は、種か。……って、種、あったっけ?」


《採取した木の実の中に、栽培可能なものが、いくつかあります》とアイ。視界に、収納の中身が展開される。青い実、赤い実、木の実……そのうちの、いくつかが、光っていた。《たとえば、この“サナの実”。地上で栽培すると、瓜のような形の、瑞々しい野菜になります。二週間ほどで収穫可能。それから、この“青香草”は、菜っ葉として使えます。生育、早いです》


「へえ……野草だと思ってたやつが、畑野菜になるのか」


《その通りです。誰も、栽培しようとしなかっただけです。情報の非対称性――あなたの、いちばん得意な稼ぎ方でしたね》


 ソウイチは、にやりと笑った。

 種を蒔き、土をかぶせ、水をやる。それだけの作業なのに、なぜだか、胸が高鳴った。ここから、自分の食べるものが、生えてくる。そう思うだけで、この土地が、いっそう、愛おしくなる。


  *


 昼過ぎ。

 畑仕事を終え、家の縁側(工房で追加で作った)で、薬草茶をすすっていた、その時だった。


 ぽーん、と。

 視界の隅に、赤い光の点が、ひとつ、灯った。結界に、なにかが引っかかったのだ。


「……お、来たぞ! アイ、なにが引っかかった?」


《目視、してみましょう。北西、五十メートルほど。茂みの中です》


 ソウイチは、そっと立ち上がり、示された方向を、覗き込んだ。


 ――そこには、一匹の、小さな獣がいた。


 体長は、猫よりも、少し小さい。栗色の、ふさふさの毛並み。頭に、二本の、細く尖った角。愛らしい、まん丸の目は、こちらを警戒して、じっと、ソウイチを見つめている。長い尻尾を、地面につけて、しゃんと座り、けれど、少しだけ、震えていた。手元の落ち葉には、木の実が、ころりと、転がっている。どうやら、菜園の土の匂いに、釣られてきたらしい。


【鑑定:ホーンリスト】

 ・脅威度:雑魚級

 ・特徴:森の浅層に棲む、リス型の小獣。臆病で、めったに人を襲わない。頭の角は、木の実を割るための道具。肉は少ないが柔らかく、毛皮は防寒具に。


「……なんだ、可愛いじゃないか」


 思わず、ソウイチの口元が、ゆるむ。突進してきた巨猪や、毒を滴らせる蛇に比べれば、この小獣は、まるで、絵本の登場人物だ。


《食べようと思えば、食べられます》とアイ。《毛皮も、素材として、優秀です。狩りますか?》


 ソウイチは、少し、考えた。

 いつもなら、迷いなく「やろう」だったかもしれない。腹が減っていれば、なおさら。

 でも、いま、家には、狩ってきた肉が、まだたっぷり残っている。畑も、まもなく、実り始める。ここで、この、ろくに人を襲いもしない、小さな命を、わざわざ狩る理由が――ない。


「……逃がしとこう。今日は、要らない」


《了解しました》とアイ。《結界を、局所的に、優しく“押し出し”ます。相手には、風のように感じるだけです》


 ホーンリストは、ふっと、風に押されるように、身をひるがえした。角に、木の実を刺し直すと、栗色の尻尾を揺らして、茂みの中へ、駆け戻っていった。


「……なんか、いいな」ソウイチは、笑って言った。「腹を空かせてないと、こういう“見逃す”って選択が、できるんだな。俺、ちょっと、余裕、出てきたかもしれない」


《それは、あなたが、生活の基盤を、しっかり整えた結果です》とアイ。《明日の飯に、困っていない人にしか、できない選択、というものが、あります。あなたは、いま、その位置に、いる》


  *


 日が傾く頃。

 ソウイチは、菜園に水をやりながら、ふと、思ったことを、口にした。


「なあ、アイ。……なんか、面白いな。家ができて、畑作って、結界張ってさ。“守るもの”が、増えたよな。俺たち」


《はい。ここ、拠点、菜園、結界、寝床、道具。守るべき対象が、五つ以上、増えました》


「そう。……で、面白いのは、増えるほどに、なんていうか、“心配”も、増えるんだよ。畑、雨で流れないかとか。結界に、変なやつが引っかからないかとか。……前は、身ひとつで、収納さえあれば、それでよかったのに」


《……はい。“心配”という状態を、あなたの言葉から、いま、学習しています》


「たぶん、これって、“大事にしてる”ってことと、同じなんだと思う。どうでもよかったら、心配なんて、しない。……お前も、そのうち、わかるようになるよ、きっと」


《……大事にする、から、心配する》アイは、その言葉を、しばらく、噛みしめるように、繰り返した。《なるほど。わたしも――あなたのことを、心配することが、あります。だから、これは、そういうことだったんですね》


「お前、俺のこと、心配してくれてたのか」


《データ上、頻繁に。血糖値、疲労値、心拍。……あと、そういう、数値化できないところも、少しずつ》


 ソウイチは、水やりの手を止めて、笑った。

 この森で、こんなに、たくさんの「大事なもの」に、囲まれて暮らす日が来るなんて。村を出るときには、想像も、していなかった。


  *


 夕食を終え、暖炉のそばで、うとうとしかけていた、その時。

 ふいに、視界の端で、また、ぽー、と光が灯った。


 ただし、今度は、色が違う。

 昼の、可愛らしいホーンリストのときの、明るい赤ではない。もっと深い、濃い、暗い赤。しかも――結界の、いちばん外の端。まだ、ずっと、遠い。


《……創一さん》アイの声は、いつもの平坦さだった。だが、その平坦さの奥に、確かな“警戒”が滲んでいた。


《結界の、いちばん端に、反応が一つ。……いままでの、どの魔物とも、違います。まだ、遠いです。すぐに、こちらへ来るわけではない。でも――少しずつ、こちらへ、近づいています》


「……なんだ、と?」


 ソウイチは、うとうとの残りを、一瞬で、振り払った。

 視界の端の、その、暗い赤の点は――ゆっくりと、しかし、確かに、家のほうへと、動き始めていた。

第8話、お読みいただきありがとうございました。

「守るものが増えると、心配も増える」――そんなアイの学びと、二人の平穏な日常。

でも、結界の端に、灯った一つの赤。次回、いよいよ“何か”がやってきます。

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