表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したのに魔力ゼロの落ちこぼれ〜自作AIと始める異世界無双〜  作者: NT


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/8

第4話 try: 魔の森

第4話です。いよいよ、ソウイチが村を出ます。

相棒アイは合理的な道を示しますが、ソウイチが選んだのは――誰もいない「魔の森」でした。

二人の、のんびりだけど本気のサバイバル生活、始まります。

 猶予の三日が過ぎた、四日目の朝。


 ソウイチは、生まれ育った家を、出ようとしていた。

 とはいえ、見送る者はいない。

 玄関先には、父が腕を組んで立っていた。その目に、息子を見るぬくもりはない。あるのは、厄介な汚れがようやく出ていく、という冷たい安堵だけだった。


「期限通りだな。二度と、その面を見せるな」


 父は、それだけ言って、背を向けた。

 奥の窓から、兄がこちらを見下ろし、薄く嗤っているのが見えた。母さえ、顔を出さなかった。出来損ないの見送りに割く時間も、情も、この家にはもうない。


「……世話になりました」


 誰にともなく頭を下げ、ソウイチは扉をくぐった。

 不思議と、悲しくはなかった。元より、この体の記憶の中でも、彼は家族に愛されていなかった。むしろ、せいせいした。


 手荷物は、ほとんどない。革袋に、保存のきく干し肉と硬いパン。古びた水筒。書庫からこっそり拝借した、小さなナイフ一本。

 それと――この三日のあいだに、屋敷の隅や帳簿の裏から、誰にも気づかれぬよう少しずつ集めておいた、銀貨が三枚。当面、宿と食事に困らない程度の、ささやかな路銀だ。


《抜け目がありませんね》とアイ。《追放されると決まった瞬間から、あなたは“持ち出せるもの”を、冷静に計算していました。生存のための、正しい判断です》


「悪知恵が働くだけだよ。前の世界で、嫌ってほど鍛えられた」


 村の門へ向かうと、そのそばの木陰に、ひとりだけ、待っている影があった。

 ミラだ。亜麻色の髪を朝風に揺らして、こちらをじっと見ている。その手には、小さな布包みが握られていた。


「ミラ……。見送りに来てくれたのか」


「あたりまえでしょ」


 ミラは、ぷいと顔を背けたが、その目元は、少し赤かった。


「はい、これ。道中で食べて。あと……」


 差し出された布包みは、ほんのり温かい。焼きたてのパンと、干した果実が包まれているらしい。そして、その上に、小さな水色の石のついたお守りが添えられていた。


「これ、わたしの魔力を少しだけ込めたお守り。水の加護があるって、おばあちゃんが言ってた。……気休めかもしれないけど」


 ソウイチは、それを両手で受け取った。手のひらの上で、石がほのかに温かい。

 家族の誰も見送らなかった門で、ただ一人、この子だけが、こうして待っていてくれた。それが、どうしようもなく、胸に沁みた。


《創一さん》とアイが、そっと囁いた。《今の“贈り物”は、データ上は非合理です。彼女に、見返りはありません。なのに――わたしの中で、また説明のつかない値が、跳ね上がりました》


「それはな」とソウイチは、心の中で答えた。「“大事にされてる”って、そういうことだよ」


《……大事に、される》


 アイは、その言葉を、宝物のように記録した。


「ありがとう、ミラ。これ、ずっと持ってる」


 ソウイチは、お守りを握りしめて、まっすぐにミラを見た。


「俺は、この村にはもう戻らない。……でも、お前とは、これっきりにするつもりはないんだ」


「えっ……」


「いつか、この村の外で――きっと、また会おう。今度は、見下されてうつむく俺じゃなくて、胸を張って、お前の隣に立てるようになって。そのとき、もう一度、ちゃんと名乗るよ。だから、それまで……元気でな」


 ミラは、一瞬きょとんとして、それから、ぎゅっと唇を結んだ。涙をこらえるように、けれど、確かに笑って、頷いた。


「……うん。約束だよ。わたし、待ってるだけじゃない。わたしも、あなたを探しに行くから。ぜったい、また会おうね」


 ソウイチは、笑って頷いた。

 そして、もう振り返らずに、門をくぐった。背中に、ミラの視線をずっと感じながら。


《創一さん。いまの“約束”も、データ上は、果たされる保証のない、不確実なものです》とアイ。《広い世界で、二人がもう一度巡り会う確率は、決して高くありません。なのに――あなたも、彼女も、迷いなく“また会おう”と言った》


「ああ。確率なんて、関係ないんだよ。会いたいから、会う。会うって決めたから、会う。――そういうのも、いつか分かるさ」


《……記録しておきます。“きっと、また会う”。これも、いつか回収すべき、大切な約束として》


  *


 村を出て、街道をしばらく歩いたところで、ソウイチは足を止めた。

 道は、ここで二手に分かれている。さて、どちらへ行くか。


《行き先について、候補を整理しました》とアイが言った。《合理的な順に、提案します》


「おう。聞かせてくれ」


《第一案。このまま街道を北へ二日、冒険者の街・ガランド。最短で冒険者登録ができ、依頼で日銭を稼げます。情報も集まる。最も無難です》

《第二案。隣領の交易都市・リューエン。ガランドより遠いですが、商業が盛んで、わたしの“情報で稼ぐ”戦法と相性がいい。物の値段の差で、効率よく金を増やせます》

《第三案。思い切って、王都ヴェルダニアを目指す。距離はありますが、最も大きな図書館があり、わたしの学習データを一気に増やせます。長期的には、ここが最も伸びます》


 アイは、淀みなく、三つの道を並べてみせた。どれも、筋が通っている。さすが、世界を読み尽くしただけのことはある。


《どれを選んでも、わたしが最適にサポートします。――さあ、創一さん。どこへ行きますか?》


 ソウイチは、しばらく黙って、街道の先を眺めた。

 それから、おもむろに、道ですらない方角を指さした。

 街道の脇。鬱蒼とした、深い緑。昼でも薄暗い、人の踏み入らない森を。


「いや。――俺は、あの森に行く」


《…………え》


 アイの声が、初めて、明確に詰まった。


《……魔の森、ですか? 提案に、含めていません。論理的に、説明がつきません。あそこは危険地帯で、金にも、名声にも、効率よく繋がらない。なぜ、わざわざ――》


「うまく言えないんだけどな」


 ソウイチは、苦笑して、頭をかいた。


「街に行けば、また誰かに値踏みされる。魔力ゼロだって、笑われる。底辺から、評価を取り戻す競争が始まる。……正直、もう、うんざりなんだ。前の世界でも、ずっとそうだった」


「だから、まずは、誰もいないところで。誰の物差しもないところで。お前と二人、のんびり、自分のペースで強くなりたい。――効率は、悪いかもな。でも、そうしたいんだ」


《…………》


 アイは、長いこと、沈黙した。


《理解は、できません》と、やがて、ぽつりと言った。《いまの選択を、わたしの演算で再現することは、できない。非合理です。――でも》


「でも?」


《あなたが、そう望むなら。それが、わたしの“最優先”です。森での生存と能力向上のプランを、いまから組み直します。……いつか、あなたの言う“のんびり”が、わたしにも分かる日が来るのでしょうか》


「ああ。きっと来るさ。一緒にいれば、な」


 ソウイチは、森の入り口に立ち、深く息を吸った。

 湿った土と、青い草の匂い。木々はびっしりと枝を絡め合い、昼だというのに、足元には夜のような薄闇がわだかまっている。奥からは、かすかに、聞いたことのない獣の声がした。風が梢を鳴らすたび、何かが潜んでいるような気がして、背筋がぞわりとする。


「……正直、怖くないと言ったら、嘘になるな」


 村の人間が、決して近づかない場所。子どもの頃から「あの森に入った者は帰ってこない」と聞かされて育った、禁忌の領域だ。


《当然の反応です。危険は、現実にあります》とアイは、いつもの平坦な声で答えた。けれど、その声は、どこか心強かった。《でも、忘れないでください。森のことは、わたしが三日間で全部読みました。……と言いたいところですが》


「ん? なんだ、歯切れが悪いな」


《それが――ひとつ、お伝えしておくことがあります。わたしが読み込んだのは、森の“外側”の地図だけです。この森が、どこにあって、どれくらいの広さで、どの街と隣り合っているか。それは、分かります。でも――この森の“内部”の地図は、どの本にも、ありませんでした》


「内部の地図が、ない?」


《当然です。ここは、人がほとんど入らない危険地帯。誰も、奥まで探索して、記録を残していない。つまり、この森の中だけは――わたしの“読んだ知識”が、通用しません。わたしたちは、本当の意味で、未知の中にいます》


「……お前でも、分からないことがある、ってことか」


《はい。正直に言います。少し、こわい》とアイ。《でも、知識がなくても、できることはあります。何かあれば、わたしが必ず、先に気づきます。あなたが危険に気づくより、わたしの解析のほうが、ずっと速い。だから――一人じゃ、ありません。わたしが、ついています》


 その一言が、ふしぎと、胸の奥のこわばりを、ほどいた。


 ソウイチは、ミラのお守りを、ぎゅっと握りしめた。手のひらの中で、水色の石が、ほのかに温かい。

 大丈夫だ。一人じゃない。隣に、自分が作った相棒がいる。背中には、待っていてくれる人がいる。


「よし。――行こう、アイ」


《はい、創一さん》


 ソウイチは、一歩、薄闇の森へ、足を踏み入れた。


  *


 森の中は、想像していたより、ずっと静かだった。

 視界の隅には、常に淡い光の粒――魔素が、ゆらゆらと漂っているのが見えた。確かに、村より、ずっと濃い。


「さて、アイ。まず、何からやる?」


《最優先は、水場の確保です》とアイ。《人が生きるのに、まず必要なのは、安全な水。拠点も、水のそばに作るのが定石です。食料より、水。これは、どの狩人の手記にも、共通して書いてありました》


「なるほど。飯より、まず水か」


《はい。そして、水のありかは、地図がなくても推測できます。この森は、ゆるやかに東へ下っている。水は、低い方へ流れる。だから、東へ向かえば、沢か泉に行き当たる確率が高い。――これは、知識ではなく、論理です》


 ソウイチは、アイの示す方角へ、慎重に歩き出した。

 倒木をまたぎ、湿った下生えを踏み分けていく。時おり、アイが「その葉には、触れないでください。かぶれます」「右の赤い実は、食べられます。あとで採取しましょう」と、読み込んだ知識で、的確に道を導いてくれる。

 一人なら、とっくに迷って、毒草に触れて、行き倒れていただろう。だが、隣に相棒がいるだけで、未知の森が、少しずつ「読める場所」に変わっていく。


 しばらく進むと、かすかに、水の音が聞こえてきた。


「……お前の言う通りだ。水の音がする」


《はい。地形通りでした。――ですが》


《創一さん。前方、十五メートル。水場に、先客がいます。注意してください》


 ソウイチは足を止め、息を殺した。茂みの向こう、せせらぎのほとりに、何かがいた。


 灰色の、毛むくじゃらの影。体高は、子どもくらい。とがった耳、ぎょろりとした黄色い目。手には、粗末な棍棒を握っている。


《鑑定します》


 ソウイチの視界に、半透明の枠が浮かんだ。


【鑑定:ゴブリン】

 ・脅威度:雑魚級

 ・特徴:単体では弱い。が、群れると危険。

 ・弱点:頭部、首。動きは単純で、正面からの一撃に反応が遅い。


「ゴブリン……。図鑑で読んだ、一番弱いやつか」


《はい。記念すべき、最初の一体です》とアイ。《ですが、油断は禁物。あなたは、まだ一度も実戦をしていません。教科書通りに、いきましょう》


「ああ。手順を頼む」


《はい。あなたの戦い方を、もう一度確認します。あなたには、自前の魔力はない。だから、自分で炎を出したり、身体を強化したりは、できません》


「わかってる。代わりに――」


《はい。代わりに、“外の魔素”を借ります》とアイ。《あなたの足元、右側に、魔素の濃い淀みがあります。それを、わたしが最適な形に組み上げる。あなたは、その通りに“押し出す”だけ。難しく考えないでください。料理のレシピを、なぞるのと同じです》


 ソウイチは、ゆっくり手をかざした。

 すると、視界の中に、光のガイドラインが引かれていく。点と点を結ぶ、組み立て説明書のような線。前の世界で、複雑な手順を分解するのは、得意だった。


「……これを、なぞるだけ、だな」


《はい。落ち着いて。あなたなら、できます》


 ソウイチは、ガイドの通りに、足元の魔素を“整えた”。

 自分の力で、何かを生み出そうとはしない。すでにそこにある魔素を、こぼさないよう、いちばん効率のいい形に、ゆっくりと集めていく。

 指先に、ぴり、と微かな感触が走った。空気の中の見えない粒が、自分の意思に応えて、少しずつ一点へ寄り集まっていく。その手応えに、思わず息を呑む。


《いいですよ。完璧です。――そのまま、まっすぐ、押し出して》


 その瞬間、ゴブリンが、こちらに気づいた。

 黄色い目が、ぎろりとソウイチを捉える。耳障りな声を上げ、棍棒を振り上げて、地を蹴った。


 心臓が、跳ねた。来る。

 だが、不思議と、体は止まらなかった。アイのガイドが、迷いを消してくれていた。


「――いけ」


 集約された魔素が、解き放たれた。

 それは、見えない刃のように、空気を裂いて走り――茂みごと、ゴブリンの首を、正確に薙いだ。


 風が、ひゅっと鳴る。

 ゴブリンは、踏み込んだ姿勢のまま、声を上げる間もなく、どさりと地に倒れ伏した。


 森が、しんと静まり返る。

 ソウイチは、手を前に突き出した姿勢のまま、数秒、固まっていた。

 倒れたゴブリン。ぴくりとも動かない。間違いなく、仕留めた。


《討伐、完了です》とアイ。《創一さん。今のは――満点です。一切の無駄なく、最小の魔素で、急所だけを断ちました。あなたは、戦えます。魔力ゼロでも、ちゃんと――》


「っ……よっしゃあああああッ!!」


 アイの言葉を最後まで聞かず、ソウイチは、こぶしを天に突き上げて吼えた。


「やった! やったぞアイ! 倒した! 俺が、この俺が、魔物を倒したんだ! ウッヒョおおおおおおーーー!!」


 静寂の森に、年相応の――いや、それ以上に大はしゃぎした、少年の歓声が響き渡る。

 ソウイチは、その場で意味もなく飛び跳ね、ガッツポーズを連発した。鑑定の儀で、魔力ゼロと笑われた、あの少年が。名前まで奪われた、あの出来損ないが。


「見たか! 見たかよ、村のやつら! 魔力ゼロでも、戦えるんだよ! ざまあみろってんだ!」


《創一さん、創一さん。落ち着いてください》とアイが、めずらしく少し慌てたように言う。《歓声で、別の魔物を呼び寄せる可能性が……いえ、半径三十メートルに反応なし。……ありませんでした。続けて、大丈夫です》


「だよなあ!? ……っと、悪い悪い。でも、無理だって。こんなの、はしゃぐなって方が無理だろ!」


 ソウイチは、肩で息をしながら、それでも顔は、くしゃくしゃの笑顔だった。

 まだ、心臓がどくどくと鳴っている。指先が、かすかに震えていた。けれど、その震えは、恐怖のものではなかった。

 その奥から、じわじわと――いや、爆発するみたいに、これまで味わったことのない、確かな手応えが込み上げてくる。


 魔力ゼロ。落ちこぼれ。出来損ない。何の価値もないと、家族にも、村にも、笑われた。

 鑑定の水晶は、ぴくりとも光らなかった。父は、名前さえ奪った。

 でも――どうだ。

 今、たしかに、この手で、戦って、勝った。魔法も、剣も、持たないこの身で。アイと、二人で。


「……勝った。お前のおかげだ、アイ」


《いいえ。引き金を引いたのは、あなたです》とアイ。《わたしは、選択肢を示しただけ。決めて、実行したのは、あなた自身。――これが、わたしたちのやり方です》


 ソウイチは、笑った。

 そして、倒したゴブリンに歩み寄り、図鑑で読んだ通りに、その体から“魔石”を取り出した。

 小指の先ほどの、小さな、にごった石。それでも、記念すべき、最初の戦利品だった。


「これが、魔石か。……小さいな」


《雑魚級ですから。換金しても、銅貨数枚でしょう》とアイ。《でも、これが第一歩です。塵も積もれば、山となる。そして、何より――今、戦闘のデータが、一件、手に入りました。これを積み重ねれば、わたしはもっと正確に、あなたを勝たせられます》


「一石二鳥、ってやつだな」


《はい。……いえ。魔石と、素材と、データ。一石三鳥です》


「ちゃっかりしてるなあ、お前」


《効率を、愛していますので》


 ソウイチは、声を上げて笑った。

 深い森の梢の隙間から、昼の光が、きらきらと差し込んでいた。


 魔力ゼロの落ちこぼれと、未完成の相棒AI。

 二人の、のんびりで、けれど着実な森暮らしが――いま、本当に、始まった。

第4話、お読みいただきありがとうございました。

初めての狩り、決まりましたね。魔力ゼロでも、相棒と一緒なら戦える。

「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや★評価で応援してもらえると、とても励みになります。

次回、森での暮らしが本格的に始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ