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55 青い炎と、反撃の誓い

……頭が重い。


フィリアの身体に覆い被さるようにもたれ、

嫌がる彼女に無理やり自分の魔力を流す姿がフラッシュバックする。


唆されていたとはいえ、

自分にあのようなことが出来るとは……。


自分の自覚し得ない本心がそこにあったとでもいうのか?

あれは探究心だったのか。

それとも、自分でも気付いていなかった別の感情だったのか。


敬愛する殿下のために。

自分がしていることは何であれ正しいと錯覚させられていた。


抗えない精神状態にあったとは言え、

彼女にしたことはあまりにも酷い。


……自分に吐き気がする。


「……はぁ」


自然と大きなため息をついてしまう。

胸に残る気持ち悪さをどう片付けていいのかわからない。


冷静に物事を考えたくとも、

脳裏によぎる映像が心を乱す。


夢ならどんなに良かったことか。


再びため息をついたところで、

ノックの音が部屋に響いた。


その音に自分がベッドに寝かせられていたことに気づく。


……あぁ、本当に頭が働いていないな。


返事をするより先にドアが開き、


「クラウス……起きたのか。調子はどうだい?」


にこやかな笑顔を向けるレオニス殿下がそこにいた。


「殿下のお察しの通り、すこぶる悪いですよ……。

断片的な記憶しか残っていません。何があったんですか?」


自分は取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。

それでも、真相を知らないままではいられない。


「そんな怖い顔しないで大丈夫だよ。

君とフィリアさんは洗脳にかかって、何かの実験をさせられていた。そして、君はフィリアさんを救った」


「彼女を救った……?それは何かの間違いでは?」

深く思い出そうとしても、怯える彼女の顔しか出てこない。


「ほら、この鈴を覚えてるかい?君がこれで助けを呼んだんだよ?もう、やっぱり役に立ったじゃないか!」


殿下が見せたのはいつか自分の緊急用にと作った鈴だった。


「どんな音が鳴るのかと思ったら、耳心地良い音がするんだから。全く、駆けつけるのが遅れたじゃないか。緊急用の意味わかってる?今度作り直しといてね!」


そう少し怒ったような素振りを見せながら笑う殿下。


「それは、使用することがないと思ったからで……。

はぁ、殿下の言う通りでしたね。作り直しておきます」


実際それを使う日が来てしまったのだから、殿下が正しい。

自分が狙われる立場になるとは……。


「……その、彼女は無事なのですか?」


自身の魔力がほぼ空になるまで彼女に流し込んだのだ。

彼女の方も相当負荷がかかっているはずだ。


「あぁ、無事だよ。今はアステリア邸にて療養中だよ」


「……そう、ですか」

彼女の無事に安堵するも、次に会った時にどんな顔をしていいかわからず、胸は晴れないままだ。


私は殿下への信頼も裏切ってしまっていないだろうか。

実は失望されているのではないだろうか。

悪い考えが頭を埋め尽くしていく。


「殿下は……。いえ、私は……。殿下にお仕えするには力不足でしたね。ご迷惑をおかけいたしました」


幸い身体は動きそうだ。

ここにはいられない。

これ以上殿下に失望されるのは辛い。


ベッドから降りようとすると、

殿下に慌てて身体を戻される。


「ちょちょっ!なんでそうなるのさ。君の思考回路が理解できないよ。迷惑は一切かかってないし、君にはまだ安静が必要だよ?それに……」


「悔しくないのかい?精神魔法なんて、対策はとってなかっただろう?」


その言葉に身体がピクリと反応してしまう。

確かにただの攻撃だけであったなら、防衛できていたであろう。


「洗脳や魅了についての魔法は、禁忌とされている。それなのにセドリックは使用していた。王家の秘宝まで持ち出して何をしているか……当然王子である僕は、このことについて知る権利があるわけだ」


そう言ってニヤリと笑う。


「クラウス。僕には君が必要だ。また危ない目にあうかもしれないが、ついてきてくれるかい?」


どう答えるかなんて、既にわかりきったような笑顔。

本当に殿下には勝てない。


「そうですね。殿下も私も学園に行けないほど重症らしいですから……その分研究も捗りますね?」


クラウスはレオニスと同じように静かにニヤリと笑う。


「今回は後手にまわってしまいましたが、私達を怒らせたことを後悔させてあげましょう……」


眼鏡の奥に、青い炎を灯して。

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