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53 幸せな眠りと、ずっとこのままで

「お帰りなさいませ、エルヴィン様、フィリア様」


公爵家の扉が開かれると、

いつからそこにいたのだろうか?

メイド達が頭を下げて迎えてくれた。

お姫様抱っこでの登場なのに、眉ひとつ動かさず温かく見守ってくれている空気に恥ずかしくなる。


「お姫様抱っこは、ここまでかな?」

くすっと笑いながら、エルヴィンは私を降ろしてくれた。


……絶対わざとだ。

羞恥心から顔が俯いてしまう。


ここで降ろすなら、皆さんに見られる前に。

扉が開く前に降ろして欲しかった。


でも降ろしてと言ったところで、

きっと彼は聞いてくれなかったと思うけど。


メイドに連れられて階段を上ろうとすると後ろから声をかけられた。


「フィー……また後でね」


公爵家の中で何が起きるわけでもないのに。

少しでも私から離れるのが不安なのか、

寂しさを我慢するようなエルヴィンがいた。


ーーまた後で。


次に会えるまでの時間が切なく感じる。

すぐに会えるはずなのに。

エルヴィンが切ない顔をしているから?

本当は……私がもっと一緒にいたいから?


「えぇ、また後で」

エルが少しでも心配しないように精一杯の笑顔を作る。

疲れを滲ませないように。


◆


フィリアが部屋へ案内されるのを見届けて、

エルヴィンは使用人達へ振り返る。

執事長のセバスチャンはすぐに報告を始める。


「フィリア様がこちらで生活する手筈は全て整っております。また、フィリア様の寮には、しばらくこちらで療養される話をしております。王家の方から今のところアプローチはありません。こちらでの長期療養が必要ということにする予定でございます」


エルヴィンは満足そうに頷き、

「ありがとう、セバス。いつもながら僕が望んでいることを完璧にこなしてくれるね」

笑顔で感謝を伝える。


「あと、今日のフィリアとの夕食だけど、きっと疲れているだろうから軽めのもので。それと、部屋に小さめのテーブルで二人だけでゆっくり過ごしたいな」


そう続けると、

「仰せのままに」

と、セバスが言う頃には、使用人達はそれぞれ必要な準備に取り掛かっていた。


◆


「わぁ……素敵な香り……」


トパーズ色のお風呂からは、

カモミールを基調とした甘く優しい香りが立ち込めている。


窓からは翠色の優しい光が明滅を繰り返す庭園が見え、まるで妖精がそこで踊っているかのような幻想的な風景があった。


「こんなに贅沢していいのかしら……さっきも……」


……さっきは驚いたな。

お風呂に入るために着替えをしようとした時に、

メイドさんがずっと控えていて。

なんでかなって思ったら、

「お怪我をされていますので、お背中をお流しいたします」って。

慌てて断っちゃったけど、貴族の方ってそういうものなのかなぁ……。


顔を半分埋めながら物思いに浸る。


……今日一日で色々あったなぁ。


転移魔法陣の発動。

レオニス殿下との魔力共有。

怖い人に何かの実験をされそうになって、

エルに守ってもらって。


恋人に……なって……?


そう思うと、急に恥ずかしくなる。


「あ、あれは、エルが勝手に言ってるだけで。私のことからかっているだけで……」


独り言が勝手に出てしまう。

エルはきっと本気なのだと思う。

本当はわかっているけど、

どうしても逃げ道を探そうとしてしまう。


「……どんな顔して会えばいいの?」


そのまま身体を深く沈めながら、

フィリアは心が落ち着くまで静かに浸っていた。


◆


「……フィー、聞こえる?風邪ひいちゃうから、ベッドに行こうか?」


身体の隅々まで血が巡っているような感覚と、

全体的に脱力していて動かせないけど、

ふわふわしている感じが心地よい。


私を心配する優しい声も、

そのまま頷かなければずっと聞いていられるのかな。


「無防備にも程があるよ……」


吐息が混じる悩ましい声。

髪、頬、肩へと触れられていくところに熱が帯びていく。

くすぐったいけど、もっと触れられていたい。


気持ちいいお風呂に入って、

エルと二人で美味しい夕食を食べて。

食後のデザートを食べ終わったあたりに、

急に眠気がきて。


それからはずっとふわふわしたままで。


……天国ってここにあったのかもしれない。


だって、薄目を開けると、

銀髪が光を受けて輝く綺麗な人がいて、

私をすごく愛してくれていて……。


自然に笑みが溢れてしまう。


「フィー……?」


銀髪の天使様から戸惑うような声が聞こえる。


「……今、幸せなんです。ずっとこのままでいられたらいいのに……」


……あぁ、もう意識が遠のいていく。

もっと幸せに浸っていたかったのに。


「……ずっとこのままいようね」


遠くから聞こえる優しい声。

頬を撫でてくれる心地よい感触。


そのまま甘えるように、

深い眠りに落ちるのを許すようにまぶたを閉じた。

お話をお読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)

気づけばこんなに長く書いていたんだなと自分でもびっくりです。

最期に向けて頑張って書いていきますので、是非お付き合いくださいませ。

また、ブクマしてくださった方ありがとうございます。すごく励みになります。゜(゜´ω`゜)゜。

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