表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/59

37 王子の覚悟と、黎明の光

「殿下、報告します!闇の門が開かれました!」


「内部から闇属性の青年が一名出現。現在、行方不明です!」


「魔導先遣隊は壊滅――」


「現在、第一封印隊が門の再封印に着手しています。

同時に、第三魔導騎士隊が王都全域の捜索に当たっております!」


「なお本件は最機密指定。

王都には一切公表しておりません」


王都防衛司令部の副官がレオニスの指示を待つ。


室内には守備隊や封印隊の責任者たちが張り詰めた空気で並んでいた。


「王都守備隊に伝令を。巡回を強化し、避難経路の確保を進めろ。国民にはまだ知らせるな。無用な混乱は避ける」


「闇の門周辺は完全封鎖。許可なき立ち入りを禁ずる」


「魔力観測班に通達。王都全域の闇魔力検知を最大感度に引き上げろ。微量でも異変があれば即時報告」


「先遣隊の治療に魔導研究員を同行させろ。証言が可能になり次第、最優先で報告を」


「……それと」


「王宮結界の出力を一段階引き上げろ」


的確な指示を与え、それぞれが部屋から足早に出ていく。


静寂が戻る中、レオニスは目を閉じた。


今の問題を解決するための手掛かりを求めて、禁書庫に入ったことを思い出す。



――あまりにも、上手くいきすぎていた。


光魔法で屈折を操り、誰にも気づかれず禁書庫へ侵入。


ルクシオンの手記を手に入れるところまでは、問題なかった。


だが――


禁書庫のさらに奥へ足を踏み入れた瞬間、警報が鳴った。


――魔力感知。


警備の者すら立ち入れない区域ならば、

無人でも守れる仕掛けがあるのは当然だ。


「……しくじったな」


低く呟く。


その先にこそ、真の手掛かりがあったかもしれない。

だが警備が到着する前に、撤退するしかなかった。


自国の王子が――

自分の王城の書庫すら自由に閲覧できないとは。


苦い笑みが零れる。


悪態を胸の内に押し込みながら、彼は自室へと逃げ帰ったのだった。



はぁ……。


深く、長い息がこぼれた。


ルクシオンの手記が示していた最悪の未来。

それが、現実になろうとしている。


闇の門から現れた青年は――闇の聖者で間違いないだろう。


この世界の根源たる闇。

魔導先遣隊を数秒で壊滅させた圧倒的な力。


彼が望めば、世界など瞬く間に闇に沈むのではないか。


再封印など、本当に可能なのだろうか……。


先の見えない不安が、静かに胸を締め付ける。


封印から解き放たれた今、彼は何を望むのか。


聖者が愛した循環の乙女は、もうこの世にいない。


ならば――今の循環の乙女に接触しないはずがない。


……フィリア。


もし彼が彼女を見つけたら――


胸の奥が、嫌な予感でざわついた。


ふと窓の外へ視線を向ける。


雪空にしては暗い。

昼のはずなのに、異様なほど静まり返っている。


何かがおかしい。


窓辺に、ふわりと落ちる雪。

それは、あの時の黒雨に似た――漆黒の雪。


――魔力分解の雪か。


物理的に世界を壊すのではない。

世界を支えている“魔力そのもの”を消す気なのだ。


そんなことをされたら、本当に世界は終わる。


……なんとかしなくては。


しかし、どうやって?


脳裏に浮かぶのは、ルクシオンの手記。

そこに記されていた“太陽の魔法陣”。


――闇が溢れた時に使え。


今が、その時なのだろう。


王都が滅びれば、守るべき民も、国も、未来も失われる。


王子として立つなら――今しかない。


古代語で描かれたそれは、何が起きるかわからない。


それでも。


「……やるしかないか」


レオニスは王宮最上階へと向かった。


ーー


ルクシオンの手記を見ながら、

魔法陣を描き始める。


Ὅταν σκότος τὸν κόσμον καλύπτῃ, φῶς ἀπὸ τοῦ ἡλίου καταχεῖται καὶ φωτίσει……


綴りを間違えてしまえば、発動しないか、暴発するか、あるいは……。


普段の余裕ある表情は、もうどこにもない。


一片の誤りも許されない。

瞬きすら惜しみ、一字一字を刻んでいく。


幾重にも重なる文字と幾何学。

抽象的で、どこか神聖な太陽の紋様が浮かび上がる。


あまりにも美しい魔法陣。


きっと誰かへの贈り物だったのかもしれない。


全てを描き終え、静かに息を吐いた。


降り続ける黒い雪。

頬に触れた瞬間、冷たさではなく焼けるような熱を感じる。


身体を構成する魔力が、分解されようとしている。


やはり、このままにしておけない。


無尽蔵の魔力に胡座をかき、効率を学ばなかった自分を悔いる。


これを発動すれば、どれほど魔力を失うのか。


光属性最大の利点であり、最大の弱点――太陽。


光があれば魔力は満ち続ける。

だが光を失えば、二度と満たされない。


魔力欠乏に陥れば、誰にも僕を救えない。


ゴクリと唾を飲み込む。


「今、世界を救えるのは……光属性の僕だけだ」


世界が息を潜める。


黒雪が、音もなく舞う。


陣の起点に手を置き、もう片方の手で手首を押さえる。


「Ὑπὸ τὸ ὄνομα τοῦ Λουξίωνος, τὴν εὐλογίαν τοῦ ἡλιακοῦ φωτὸς δίδωμι.」

ー光の聖者ルクシオンの名の下に、光の祝福を与えよ


魔力を流し込む。


――重い。


自然に流れ込まない。

強烈な反動が身体を揺さぶる。


魔力はゆっくりと広がり、文字が淡く輝き始める。


「……まだ足りないか」


息が苦しい。

視界が明滅し、指先が痺れる。


口内に鉄の味が広がる。

奥歯を噛み締めすぎて、歯茎が切れていた。


あと少し。

あと少しで――。


身体の隅々から魔力をかき集め、最後の一滴まで注ぎ込む。


「……世界を、壊させたりしない」


キィィィン――


魔法陣が満ち、光粒子が舞い上がる。


「Καταβαίνετω τὸ φῶς τῆς ἕω!」

ー黎明の光臨


光が、天へと撃ち上がった。


黒雲を貫いた瞬間、闇の奥から光が溢れ出す。


暗雲は静かに、白へと変わっていく。


――どさっ。


白い雪が降り注ぐ中、レオニスは崩れ落ちた。


閉じかけた視界の中、微笑む女性が見えた気がした。


「……フィリア、さん……?」


そんなわけないか。


今頃、エルヴィンとデートしているはずだから。


あの笑顔を守れたという確かな安堵とともに――


レオニスは、静かに意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ