↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/78

36 闇の邂逅と、器

空を黒く染め上げたあと――

懐かしい魔力の波長を感じた。


「……ルルティア?」


ノクトは手を止め、静かに目を細める。

その出所を辿るたび、胸の奥がわずかに高鳴った。


ルルティアがいるかもしれない。


逸る気持ちのまま辿り――


「……見つけた」


そこにいたのは、ルルティアによく似た少女。


だが――。


その内側は、風の聖者エアリオの魔力残滓で醜く汚されていた。


ーー風の聖者エアリオ。


軽薄で享楽的な男。


ヒトを魔力酔いさせては、

ルルティアを困らせていた。


「ルルティアが遅いから、彼女達はこうなったんだよ」


あの男は、いつもそうやって

ルルティアの罪悪感を煽った。


色香を纏い、無遠慮に距離を詰める姿。

思い出すだけで腹立たしい。


ふと少女の隣へ視線を向ける。


風の魔力を纏う青年が、幸福そうな顔で少女を見つめていた。


――なるほど。


あれが、魔力を満たしたのか。


……私のルルティアに、触れたのか。


◆


風にほどける漆黒の長い髪。

雪のように白い肌。

そして、すべてを呑み込むような――静謐な闇を宿した、紅黒曜の双眸。


「……っ」


見てはいけない。


本能が最大級の警鐘を鳴らしているのに、視線は絡め取られたように動かない。


黒い雪が、音もなく絶望のように降り積もる。


「フィー……逃げ……て……」


エルヴィンの掠れた声に、正気を取り戻す。


彼は黒い手に絡め取られ、地に伏していた。


「エルっ!?」


駆け寄ろうとした瞬間――


「……っ!」


冷たい手が腕を引いた。


「ルルティア。いつも言っただろう?

魔力を受け止めすぎると苦しくなるって」


「いけないな。こんな汚い魔力を奥まで溜め込んで」


耳元で囁かれる、感情の欠落した声。


紅黒曜の瞳からは何も読み取れない。


だけど。


身体に溜まったエルヴィンの魔力を不快に思っていることだけは、はっきりとわかる。


「……離して!」


必死に振り解こうとするが、腕は空間に固定されたようにびくともしない。


エルヴィンが苦しそうに喘いでいる。


「エルっ……エルっ!」


このままでは彼が死んでしまう。


必死になってエルヴィンに手を伸ばす。


そのとき。


「どうして、私を見てくれないのかな?」


背後から落ちた声に、全身が凍りつく。


心臓が激しく脈打ち、振り向いたら最後、

永遠の闇に閉じ込められる予感に身体が震える。


「ねぇ、ティア……こっちを向いて」


……どうにかしないと。


震える手で、密かに風の魔法陣を構築する。


今ならまだ離れられるかもしれない。


「……ルルティア?」


「私は……フィリアですっ!」


叫びとともに魔法陣を起動させる。


だが――。


魔法陣は光ったまま、沈黙した。


どうして発動しないの!?


白く細い手が魔法陣に触れると、

それは光を失い、脆く崩れ去った。


「そうだね。私のルルティアは、こんな悪いことをしない」


ふっと、慈しむように笑った。


「この魔力が悪いことを教えたのかな?」


空気が凍る。


先程より冷たく、息が吸えない。


捕まれた手から、漆黒の粒子が侵入してくる。


「あぁ、本当にいけない子だ。

こんな濁った魔力で中を汚して」


「……大丈夫だよ。跡形もなく綺麗に掃除してあげるから」


身体の隅々が、泡立つように沸き立つ。


優しい風の魔力が絡めとられて、消えていく。


エルヴィンとの大切な思い出、

指先を舐めとられた時の熱、

あの甘い「好き」という言葉……。


それらが一つずつ黒く塗り潰されていく。


身体の中に空白が増えていく。


「……やめて……っ、お願い……!」


灰青の瞳から涙が零れる。


満たされていたはずの幸福が、

指の隙間からこぼれ落ちる砂のように消えていく。


「あなたは……誰なんですか」


どうして、こんなことをするの?


「ノクトだよ。忘れてしまった?」


紅黒曜の瞳が、悲しげに揺れた。


その響きには、拒絶された子供のような純粋な絶望が混じっていた。


「……ノクト」


どこかで聞いた名前。


夢の中で、ルルティアを待っていると言っていた少年。


漆黒の髪に、吸い込まれるような紅い瞳。


あの時よりも成長しているが、間違いない。


彼だ。


「やはりルルティアと違うのかな?」


「……少し覗かせてもらうね」


視界が闇に塗りつぶされる。


生まれてからのすべてを、冷たい指先でかき回されるような不快感。


やがて手が離れ、光が戻る。


「なるほど。君は器なんだね」


ノクトは、壊れ物を扱うような手つきでフィリアの頭を撫でた。


「ルルティアが身を移すまで、その身体を大切にして」


「君の泣き顔は見たくないから、お友達は助けてあげるよ」


嵐が去るように、彼は雪の中に溶けていった。


そして、二人が残された。


「……エル?」


呼びかけると、エルヴィンはゆっくりと目を開いた。


その瞳が一瞬、深い夜の色に沈んだ気がした。


◆


――器があるなら、ルルティアは存在する。


世界を壊すのは、それからでいい。


空を見上げ、苦々しく呟く。


「空から魔力を降らせるなんて、ルクシオンらしい」


自らを調停者と名乗り、聖者を管理する側に立った男。

その在り方が、どうにも気に入らなかった。


まるで――

ルルティアを側に置くのが当然であるかのような、その態度が。


「……それとも、ルルティアは空にいるのか」


黒い雪は、いつの間にか白へと変わっていた。


まだ本来の力を取り戻していないとはいえ、

ルクシオンの魔力残滓に浄化されるとは。


――もう少し様子を見よう。


次は。

ルルティアを、確実に手に入れるために。


綺麗な赤い瞳のノクトさんに吸い込まれそうです。

ノクトとフィリアのイメージイラストを置いておきます。

※AIが画像を作成してくれました。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。