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34.5 初めての贈り物と、恋するチョコレート〜フィリアのお買い物〜

これはおまけ話です。

本編とは少し離れたお話のため、

飛ばしていただいても大丈夫です(*´꒳`*)


ノリノリで書いたら、今までで一番文が長くなっちゃった。

フィリアのお買い物。

おまけエピソードを書いてみました。

(……エルヴィン様の、誕生日)


「エルヴィン様のこと、もっと知りたいんです!」


あの夜から、何も変わっていない気がする。


好きな食べ物はもちろん、

好きな色も、好きな本も――

私はまだ、何ひとつ知らない。


誕生日でさえ、知らなかった。

こんなにも一緒にいるのに。


私はまだ、エルヴィン様のことをほとんど知らない。


(……お誕生日プレゼント、どうしよう)


欲しいものがわからない。

仮に思いついたとしても、公爵家で手に入らない物なんてあるのだろうか。


どんな贈り物なら喜んでくれるかな。


本を読むから、しおり?

日常で使える時計?


想像の中では、どんな物でも嬉しそうに微笑んでくれる。

けれどそれは――贈り物そのものではなく、

“私が贈ったこと”に対して喜んでくれている気がしてしまう。


きっと大切にしてくれる。

でも、既に持っている物と比べてしまいそうで。


何を贈ればいいのか、わからない。


唯一、はっきりと思い出せるのは――

私の魔力を注いだ魔石を、とても喜んでくれたこと。


エルヴィン様に内緒で、

誰かから魔力を分けてもらって魔石に込めてみる?


ふと、そんな考えがよぎる。


「僕以外に魔力を満たさないで」


その約束が、頭の中に響いた。


エルヴィン様のためとはいえ、

渡した瞬間にきっと気づかれてしまう。


――誰から魔力をもらったの?


優しく、逃げ場を与えない声で問いかけられる姿が目に浮かぶ。


“おしおき”という言葉とともに、

捕食者のような鋭い瞳を思い出した。


次は、本当に食べられてしまう。


ぶんぶんと首を振る。


やってはいけない。絶対に。


……考えすぎて、頭が回らない。

約束の日はどんどん近づいているのに。


気分転換に甘いものでも、と

チョコレートに手を伸ばして――はっとする。


(エルヴィン様、実は甘いもの好きなのでは?)


初めて会った時、キャンディをくれた。

桃の甘い香りも好きだと言っていた。


――もしかして、これは光明かもしれない。


胸の奥が、ぱっと明るくなる。


既製品ではきっと敵わない。

なら、少し驚いてもらえるようなお菓子にしよう。


高級感があって、失敗しにくくて。

それでいて可愛らしくて、冬にぴったりの――


トリュフチョコレート。


……やっぱり、それだけだと少し寂しい。

ハンカチのような実用的な贈り物も見てみようかな。


そうと決まれば。


チョコレートの材料と、

ささやかな誕生日プレゼントを探しに――


フィリアは商業区へ向かった。


ーー


(……あぁ、この空間がたまらない!)


チョコレートだけで、大きな棚が何台も並んでいる。

カカオ含有量ごとに整然と並ぶ製菓用シリーズ。ダーク、ホワイト、ルビー、さらにブロンドチョコまで取り扱っている。

飾りに使うカラースプレーチョコの種類も豊富で、なんと全三十二色。圧巻である。


お玉ひとつとっても形はさまざまで、壁一面を埋め尽くすほど。

何に使うのか想像もつかない専門器具たちが、光を受けてきらきらと輝いている。


この、知る人ぞ知る世界。

知的好奇心をくすぐられて、たまらなく楽しい。


王都最大の製菓材料&器具専門店――

メゾン・ド・パティスリー。


ここで手に入らないものはない――そう言われるのも納得だった。


楽しすぎて、何をしに来たのか忘れてしまいそうになる。


いけない。トリュフチョコの材料を探さないと。


あちこちに引き寄せられそうになる視線を必死に抑え、フィリアはチョコレートコーナーへ突き進む。


トリュフの材料は……

クーベルチョコレートに、生クリーム。

リキュールはどうしよう……。


魔力酔いを起こしたエルヴィンの姿がよみがえり、恥ずかしさを振り払うように首を振る。

あれは魔力酔いで、お酒ではない。

……でも、お酒にも弱かったらどうしよう?


いや、香り付け程度ならきっと大丈夫。


そう自分に言い聞かせ、オレンジキュラソーとラム酒を籠に入れた。


そのとき、ふと視線の端に文字が飛び込んでくる。

『簡単!溶かしたチョコを入れるだけ!』


わぁ、なにこれ。トリュフボール!?


穴の開いた型にチョコレートを流し込むだけで、綺麗な丸いトリュフが完成するなんて、夢のようだ。


思わず手が伸び――けれど、触れる寸前でぴたりと止まった。


きっとこちらの方が、綺麗に作れる。

でも――それでは意味がない気がした。


やっぱり、最初から最後まで手作りにこだわりたい。


名残惜しさを胸に、その場を離れる。


デコレーションはどうしようかな。

ドライフルーツのフレークもいいかもしれない。


トリュフの上に載せる飾りを考えながら歩いていると、完成品の模型が並ぶ棚が目に入った。


花がたっぷり閉じ込められた、透き通るように綺麗なゼリー。


薬を飲むのが苦手だった私に、母が作ってくれたっけ。


――あっ。


いいこと、思いついたかも。


フィリアは会計を済ませ、店の外へ出た。


ーー


昼頃に出かけたはずなのに、

もう夕刻が近い。


製菓材料店ではしゃぎすぎたかも……。


目的の花屋へ向かって、少し早足で歩く。


ふと横を見ると、星とうさぎが散りばめられた看板が目に入った。


アトリエ・ラパン・デトワール

〜星うさぎのあとりえ〜


シンプルで洗練されたものから、可愛らしいものまで幅広く扱う魔石アクセサリー雑貨店だ。


ヴェルナとお揃いのうさぎのチャームも、

エルヴィンから贈られたクローバーの指輪も、ここで作られたもの。


まだ少し時間はあるし、

プレゼントに良いものが見つかるかもしれない。


可愛らしい丸い木の扉をそっと開ける。


「これ可愛い〜!」


楽しそうに買い物をする声が店内に響いている。


フィリアはまっすぐ、クローバーの指輪が置かれていた場所へ向かう。


……あった。


自分の指輪と、並べられた商品をじっと見比べる。


やっぱり、売られているものとは魔石が違う。


(……これ、一体いくらしたんだろう)


想像しただけで身震いする。


そのとき。


「あらっ」


明るい声とともに店員が近づいてきた。


「そのクローバーの指輪、もしかしてアステリア公爵様からいただいたものかしら?」


「えっと、そうです。どうしてわかるんですか?」


不思議そうに首をかしげる。

魔石が違うとはいえ、それだけで分かるものだろうか。


「すぐ分かりますよ。魔銀を使って、魔石の効率を最大限まで高めた特注品ですから」


店員は懐かしそうに続ける。


「さらに、ひとつひとつの魔石に――魔力増幅・守護魔法・魔力安定化・共鳴の四重付与を、短期間で終わらせるオーダーでしたもの。あれは人生で一番大変でしたわ」


遠い目だった。


「待ってください! 四重付与!? 魔石は一つしかついてないですよ?」


慌てて自分の指にはめた指輪を見る。

エルヴィンの瞳と同じ翠の魔石が、ひとつ、きらきらと輝いている。

残りの三つの葉は、光沢のある銀色だ。


……まさか。


胸の奥が、ひやりと冷えた。


「他の三つの魔石は、すべて魔銀で覆われております」


やっぱり、だった。


頭がくらくらする。


なんてものを贈られたのだろう。

文字通り、頭が痛い。


額を押さえるフィリアに、店員が心配そうに声をかける。


「大丈夫ですか?」


「……大丈夫です。お礼を考えたら、眩暈がしてしまって……」


困ったように笑う。

釣り合う贈り物など、本当に存在するのだろうか。


その言葉に、店員はにっこり微笑んだ。


「それでしたら、お揃いのデザインを贈られてはいかがでしょう?」


お揃いの、指輪……?


「い、いえいえいえ! 指輪なんて恐れ多いですし、そんなお金用意できません!」


慌てて手をぶんぶん振る。


店員はくすっと笑った。


「指輪でなくても、ネクタイピンやカフス、ラペルピンなどもお作りできますよ」


「実は、こちらの指輪を制作した際に魔石と魔銀が余っておりまして」


「さらに、公爵様から余分にいただいておりますので――」


小さくウインクする。


「魔石と魔銀はサービス、ということで。ぜひいかがでしょう?」


提示された金額を見て、フィリアは目を見開いた。


安すぎる。


これでは、元が取れないのでは――と視線を上げると。


「もし公爵様とご婚約なさったら、指輪はぜひ当店でお作りくださいね」


店員はにこやかに微笑んだ。


フィリアは――

返事ができなかった。


ーー


街灯がぽつぽつと灯り始める。


夕空は綺麗だけれど、店が閉まる前に急がないと。


目的は――エディブルフラワー。

つまり、食べられる花だ。


サラダに添えるのが一般的だけれど、

ケーキやチョコに飾れば、特別な日の贈り物にぴったりになる。


お目当てのハーブ専門店へ向かうと、

扉には “Closed” の札が揺れていた。


一足遅かったみたい。


調合や料理に使えるハーブやエディブルフラワーが豊富に揃うと聞いていたのに。


また日を改めるべきかな……。

練習も考えると、時間が欲しいのだけれど。


どうしよう、と周囲を見回す。


ちょうど店じまいをしようとしている花屋が目に入った。


「あのっ、まだお花を見ても大丈夫ですか?」


慌てて駆け込むフィリアに、


「おう、好きなだけ見ていきな!」


無骨な店主がにっと笑った。


ポインセチア。可愛いけれど毒があるから却下。

ヒヤシンスもシクラメンも食用には向かない。

カレンデュラは……少し花が大きいな。


ビオラは悪くないけど……。

でも、これだという決め手がない。


ひとつひとつ真剣に見つめていると、


「嬢ちゃん、何探してるんだい?」


店主が不思議そうに声をかけてきた。


「あの、毒がなくて食用にできる、小ぶりのお花を探していて……」


「食べられる花!? そりゃ面白い発想だな!」


店主は豪快に笑った。


「いいのがある。ちょっと待ってな!」


店の奥から取り出されたのは――


小さな花が花冠のように集まり、

一枚一枚がハートの形をした愛らしい花。


バーベナ。


儀式にも使われる神聖な花で、古くから安眠や魔力安定の薬にも使われている。


「ほんのり柑橘の味がしてな。サラダにも菓子にも合う」


「どうだい?探してた花だろ?」


フィリアは何度も頷いた。


「すごく素敵です!ありがとうございます!」


赤、白、ピンク、紫――すべて選ぼうとすると、


「贈り物だろ? 紫はやめときな」


困ったように店主が言う。


「“後悔”って花言葉があってな。気にするこたぁねえが、一応な」


「教えてくださってありがとうございます!」


花言葉まで考えていなかった。

失礼な贈り物にならずに済んだことにほっとする。


「嬢ちゃん、頑張んなよ!」


店主は笑って送り出した。


冷たい空気の中、フィリアは花を胸に抱く。


小さな花びらが揺れるたび、

甘い香りが胸の奥までふわりと広がった。


(これで、準備は整ったかな)


まだ何も形になっていないのに、

胸の奥がほんのり温かい。


喜んでくれるだろうか。

驚いてくれるだろうか。


それとも――

いつものように、優しく微笑んでくれるのだろうか。


想像するだけで、頬がゆるんでしまう。


フィリアは小さく笑い、夜へと歩き出した。


エルヴィンの誕生日は、もうすぐそこまで近づいている。

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