31.5 偽りの恋人と、見破られた幻影〜レオニスの悪戯〜
これはおまけ話です。
本編とは少し離れたお話のため、
飛ばしていただいても大丈夫です(*´꒳`*)
レオニス殿下のお茶目なイタズラ。
おまけエピソード書いてみました。
目を開けた瞬間――
エルヴィンは椅子に縛り付けられていた。
「ここは……?」
暗闇の中、目を凝らす。
数メートル先。
椅子に腰掛け、こちらを眺めている男がいる。
「殿下……?」
レオニスは口の端を吊り上げた。
「今からエルヴィンには、耐えてもらうよ」
その背後から、すっと影が現れる。
ピンクブロンドの髪がふわりと揺れ、
灰青の瞳が穏やかな笑みをたたえたまま近づいてくる。
そして――レオニスの隣に立った。
「フィリア!」
なぜここに?
そして、これは何だ?
肩を揺らす。だが縄はびくともしない。
胸の奥に、嫌な予感が広がる。
耐える……とは?
フィリアと呼ばれた少女は、
ゆっくりとエルヴィンに微笑んだ後――
腰を落とし、レオニスの肩に寄り添った。
愛しげな眼差しを、彼へ向けて。
「なっ……!」
衝動的に腕が動き、縄に阻まれる。
「フィリアっ!」
気づいてほしいと叫ぶが――
彼女は一度もこちらを見ない。
悪い夢か!?
頬の内側を強く噛む。
滲む鉄の味が、現実だと告げていた。
「君は彼女を大切に思うあまり、
自分が望む結果しか受け入れられない」
レオニスは、そっとフィリアの髪を撫でる。
恥ずかしそうに俯く彼女。
けれどその表情には、確かな喜びが浮かんでいる。
「彼女が――僕のものになることを望んでいたら?」
星空の瞳から余裕のある声が聞こえる。
自然と腕に力がこもる。
フィリアが、誰かのものになる?
そんなこと――絶対にさせない。
必死に身体をよじる。縄が軋む。
その間にも、レオニスは彼女を愛で続ける。
そして。
頬に手を添え、見つめ合い――
そのまま口づけた。
視界が、暗く染まりそうになる。
フィリアの瞳が星空色に染まっていく。
肩を抱き寄せ、さらに深く――
……?
違和感を感じるエルヴィン。
僕が贈った指輪をつけていない。
ヴェルナとのお揃いのチャームもない。
………。
僕のフィリアは――
肌はもっと透き通っていて、
髪はもっと艶やかで、
触れれば熱を帯びそうな、やわらかな薄桃色の唇で。
何より――
そんなはしたないこと、絶対にしない。
「僕のフィリアは、もっと可愛いです」
ジト目でレオニスを見る。
「っはははは、やっぱダメか〜」
レオニスは楽しそうに笑った。
「どこで気づいた?結構完璧だったと思うんだけどなぁ。やっぱ、声がないとダメかな?」
なんてすぐに改良点を探し出す。
冷静になったエルヴィンは、
すぐさま風魔法で縄を切り、手首を確かめる。
ーー結構痕が残ってるな。
フィリアに心配されるだろうか。
慌てる姿を想像し、ふっと笑みが漏れる。
……このまま残しておこう。
レオニスに向き直る。
「次は、ないですよ?……殿下」
黒い風が殿下をそっと撫でる。
次の瞬間、エルヴィンは闇に溶けて消えた。
ーー
「レイン、失敗しちゃったな〜」
と笑いながら、何もない空間に声をかける。
エルヴィンの闇の魔力の制御について、
軽く暴走させたところで、
教えようと思っていた。
「ってか、もう魔力制御できてない?」
レオニスが煽っても、暴走の片鱗は全く出なかった上に、
自分が出したい時にだけ威力も調整して出している。
さっき、黒い風に撫でられた頬がまだひやっとする。
「そうですね。私にまで魔法が来ました。
彼は私がいることも見破っていたみたいです」
完璧に闇に溶けていると思っていたレインは、少し悔しそうに言った。
「だよね〜。じゃあ見守るだけでいいかな」
レオニスはそう結論づける。
そして。
「今回の幻影魔法、よく出来たと思わない?
かなりしっかりイメージが出来たんだよ!」
「でも、エルヴィンに気づかれちゃったなぁ。
どこが悪かったんだろ?後でちゃんと教えてもらおうかな?」
あれやこれやと楽しげに考察を重ねるレオニス。
その隣で小さくため息をつく。
今日もまた、主君の暴走に頭を抱えるレイン。
ふと外を見ると、綺麗な星空が広がり始めていた。
◆
フィリアはお風呂から上がり、
のんびりと読書を楽しんでいた。
トントンっ
窓を叩く音が聞こえる。
風の音かな?と窓を見ると、
明らかな人影が見える。
ひっ!?
突然の影にびくりと身体が震える。
寮の3階の窓の外に、誰かいる……。
トントンっ
再び窓を叩く音が聞こえる。
その音はなんだか遠慮がちで、
知ってる人……かな?
そっと、窓に近づいて見ると、
窓の外にふわりと浮いているエルヴィンがいた。
「え、エルヴィン様、どうしたんですか!?」
急な来訪に驚くフィリア。
窓を開け、エルヴィンに近づく。
「……急に、顔が見たくなって」
どこか疲れた微笑。
「これ!?どうしたんですか!」
手首を見て慌てるフィリア。
「痛く……ないですか?」
そっと傷跡を撫でながら、心配そうに聞く。
その様子に胸が締め付けられる。
(僕のフィリアは、なんて可愛いんだ)
先程の幻影とまるで違う。
「……フィリア」
傷跡を撫でる指にそっと手を重ねる。
「はい、なんでしょう?」
フィリアはじっとエルヴィンを見つめる。
お風呂上がりであろう上気した頬に、
髪から桃と石鹸の香りがふわっと香る。
薄桃色の唇も、ぷっくりしており、
危うく抱き寄せそうになる衝動を飲み込む。
(あぁ……会いにきてよかった)
ふと、髪の毛が濡れているのが目に入った。
「髪、乾かさないと、風邪ひいちゃうよ?」
あたかい風がふわりとフィリアを包み、
髪の毛を浮かせるように優しく乾かす。
エルヴィンは、その手に持っている本とフィリアを交互に見て微笑む。
その視線だけで、フィリアは気づく。
本が楽しみすぎて、
髪の毛を乾かさないでいたの、バレちゃった。
恥ずかしくて、さらに顔が赤くなる。
そんな様子を見て、エルヴィンは幸せそうに笑った。
「フィリアの可愛い顔が見れて、安心した」
「パジャマ姿、可愛いね」
そう言って、風を纏い始めるエルヴィン。
「おやすみなさい、いい夢を……」
あたたかい風がそっとフィリアの頬を撫でると、
エルヴィンはその場からいなくなっていた。
「おやすみなさい、エルヴィン様」
フィリアは小さく呟いた。
見上げると、綺麗な星空が広がっていた。




