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31 聖者の過ちと、赦されぬ愛

私は愚かなことをした。


ルルティア、許してくれ。


ーー


神はヒトを作った。


そのヒトのために、我々聖者は作られた。


神とヒトの間。


我々は世界のために、己が役割を果たした。


六聖者と循環の乙女により、等しく世界は廻っていた。


しかし、歯車が合わなくなっていった……。


ヒトは聖者を愛した。


そして、等しい愛の見返りを求めた。


愛に差などない。


しかし、ヒトは“特別”を限りなく求めていた。


聖者に感情というものが生まれた。


ヒトと接するうちに新しく芽生えたもの。


それは聖者の心を満たし、時に苦しくさせた。


ある時ヒトは私に囁いた。


ーー貴方を苦しくさせるその感情は、

闇の聖者が生み出しているもの


その感情は嫉妬。


等しく循環のために聖者を巡る、循環の乙女


――ルルティア


彼女が他の聖者の元に行くたびに、

この感情が湧き起こる。


なんと醜いものだろう。


その感情は私だけでなく、

他の聖者の感情も強くなっていった。


ある時から、

循環の乙女は闇の聖者の元へ行く頻度が増えた。


ノクト


聖者の中で一番幼く、

守ってやるべき存在だった。


しかし。


ヒトの声を思い出す。


この感情を起こしているのが、

闇の聖者“ノクト”のせいだとしたら?


疑念と怒りが、胸の奥で膨れ上がる。


他の聖者も同じ気持ちだった。


我々はノクトを神殿から追い出した。


思えば、そこで取り返しがつかなくなったのかもしれない。


ルルティアはノクトから離れられなくなった。


そして、醜い感情はより一層深まった。


世界が闇に覆われ始める。


これでは世界の均衡を保てない。


我々は決断した。


ノクトを封印することを。

――ルルティアには何も告げずに。


闇の力は巨大に膨れ上がっており、

封印は困難を極めた。


その時、ルルティアがノクトの闇を吸収した。


闇の力が弱まったことで、

ノクトは封印された。


そして――


世界に放つことすら許されぬ闇を抱え、

ルルティアは自らを空へと封印した。


「いつか――」


「世界が闇を正しく受け入れられるその時、再び巡りは整うでしょう」


と残して。


ーー


乙女なくして、六柱の力は巡らない。

均衡は、静かに失われていった。


残された五柱――

光のルクシオン、火のイグナス、水のネレウス、風のエアリオ、土のグラナスは悟る。


もはや我々のみでは、

世界を循環させることはできぬのだと。


ゆえに我らは、ヒトと契りを結んだ。


己が力の欠片を人の身に宿し、

ヒトの営みと共に力を巡らせることで、

世界の均衡を保たせたのである。


ーー


私は愚かなことをした。


ヒトの甘言に耳を貸し、

君の声を聞かなかった。


ノクトが邪魔だった。


君を独り占めする彼が。


誰のものでもないのに。


誰かのものにも、なれないのに。


ルルティア、許してくれ。


私の半分は、世界のためにヒトへ。


そしてもう半分は……


君が起きた時に、

受け取ってもらえるように空へ、太陽へ託そう。


いつでも君を見守っている。


もう二度と、届かないと分かっていても。


ルルティア、


私は君を――


愛してる。





全てを読み終えて、レオニスは頭を抱えた。


これは……父様は、陛下は知っているのか?


再封印をすることができるものなのか?


とめどもなく沸いてくる疑問に、

答えるものは誰もいなかった。


――だが。


一つだけ、確かなことがある。


レオニスはゆっくりと、手帳を閉じた。


革の表紙に触れた指先に、

微かに残る、温もりのようなもの。


(……六聖者は、ルルティアを愛していた)


そこに刻まれていたのは、

歴史ではなく――


後悔と――祈りだった。


ヒトの言葉に惑わされ、

仲間を疑い、

そして、愛する者を失った聖者の記録。


(闇は……悪じゃない)


ふと、フィリアの姿が脳裏をよぎる。


闇を受け入れ、

変換し、

救いへと昇華させた少女。


(……なら)


封印された“闇”は、

本当に排除すべきものなのか?


それとも――


「受け入れるべきもの、なのか」


無意識に、言葉が零れた。


静寂の中に、その声だけが落ちる。


もし、この記録が真実なら。


かつて世界は、

闇を拒絶したことで、歪んだ。


そして今――


再び、同じ過ちを繰り返そうとしているのかもしれない。


レオニスは顔を上げる。


禁書庫の奥、

誰もいないはずの闇の中を、まっすぐに見据えた。


(……確かめる必要がある)


「ルクシオン」


その名を、静かに口にする。


「あなたは……何を、残したんだ?」


答えは、返ってこない。


だが。


わずかに。


ほんのわずかに――


手帳が、淡く光を帯びた気がした。


お話しをお読みいただきありがとうございます。


ノクトとルクシオンとルルティアのイメージイラストをそっと置いておきます。

※AIが画像作成してくれました。


挿絵(By みてみん)

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