30 甘い昼食と、禁書の記憶
「わぁ!フィリアのお弁当、すごーい!」
様々な料理が彩りよく一つの箱に収まっており、
どれも美味しそうに輝いて見える。
「これ全部自分で作ったんでしょ?本当に器用ね!」
ヴェルナはじーっとお弁当の中身を眺める。
その時。
「さすが、僕のフィリアだね」
当たり前のようにトレイを持って、
フィリアの隣にエルヴィンが座る。
「なんで、あんたがここに座るのよ」
ヴェルナはジト目でエルヴィンを見る。
今までフィリアと二人で話していても、
近づいてこなかったくせに。
闇の魔力事件以来、さも前からそうだったかのように、近くに寄ってくる。
正直、最近ガールズトークもしっかりと出来ず、
ヴェルナの苛立ちが強くなっていく。
「それは、お友達だからだよ」
と微笑みつつ、
「フィリア、口を開けて?」
と流れるように指示を出す。
フィリアもフィリアで、あまりにも自然に言うエルヴィンに疑問も持たず、素直に口を開ける。
ぱくっ!
フィリアの口の中に、
一口サイズのケーキが入れられる。
一噛みすると、濃厚でいてしつこさのないマロンペーストと共に、じわりととろけるメレンゲが、口の中に広がっていく。
……これは……蕩けちゃう。
あまりの美味しさに、自然に瞳が大きく開かれる。
「パレ・ド・フリュイの新作だよ。
フィリアのお口にあったようで嬉しいよ」
フィリアの素直な反応に、微笑むエルヴィン。
その様子をヴェルナがむっとした表情で見ている。
パレ・ド・フリュイですって。
前にフィリアと食べたパフェのお店。
そして、フィリアが欲しがってた飴のお店。
新鮮な果実を使い、上質な菓子を作り上げる店で、
王都で今一番人気であり、侯爵家の令嬢であるヴェルナでさえ、そのほとんどを食べることができていない。
あんの、男。
ついに公爵家の力まで使い始めてきたじゃない。
いとも簡単に新作のケーキを手に入れてくるその手腕に、ヴェルナは静かに恐怖する。
美味しそうにもぐもぐゆっくりと味わっているフィリアを、嬉しそうに見つめるエルヴィン。
そして、少し遠慮がちに、恥ずかしそうにしながらお願いをする。
「ねぇ、フィリアのお弁当、一口もらってもいい?」
さっきまでの余裕ある態度とは打って変わって、
子犬のような瞳でフィリアに訴える。
あいつ……フィリアのお弁当が食べたいから、等価値のものを用意したっていうの?
しかも、断れないように先に食べさせて……。
そんなことしないでも、フィリアは優しいから一口くらいくれるのに。
ヴェルナは成り行きを静かに観察する。
「えっと、エルヴィン様のお口に合うかわからないんですけど……」
申し訳なさそうに言うフィリア。
「フィリアが作ったものならなんでも美味しいよ」
そう微笑むエルヴィン。
何をあげていいか困っているフィリアをみて、
はやる気持ちを抑えきれず、エルヴィンは思いついたように提案する。
「そしたら、何を食べたか当てるゲームをしない?
僕は目を閉じて口を開けるから、そこにいれて?」
と目を閉じて口を開け始める。
なるほど。
目を閉じているとはいえ、あーんしてもらう口実を見事に作りあげる手腕に、ヴェルナは素直に感心する。
「なんですか、それ?」
とフィリアは笑いながら選び始める。
「果物はダメだよ。味がわかりやすいから」
しっかりと禁止事項を忍ばせるエルヴィン。
そのちゃっかりとした、
“フィリアの手作り”だけを食べさせる誘導方法に、ヴェルナは身震いする。
フィリアがエルヴィンの口に、
そっと小さなオムレツを入れる。
エルヴィンはゆっくりと口を閉じ、
両唇でスプーン全体を余すことなく包み、
一片もこぼさないように、丁寧に受け止める。
そして。
歯を使わず、舌でそっと押しつぶすように、ゆっくりと味わう。
外側の薄く包んでいる卵と、中から出てくるトロリとした滑らかな食感と、しっかり炒めて甘みのある刻み野菜が見事に調和しており、押しつぶすたびに味や食感が変わっていく。
(……これが、フィリアの手作り)
公爵家で食べる極上の料理よりも、この一口は美味しい。
これをどうにかして保存できないだろうかと思案する。
「何を食べたと思いますか?」
フィリアの無垢な質問でハッとなる。
そうだ、今はクイズで遊んでいたのだった。
「そうだな、卵の味がする。オムレツかな?」
そう言ってエルヴィンが目を開けると、
「当たりです!こんなの簡単すぎますよね?」
と笑うフィリアがいた。
“お友達”というのはこう言うものだったっけ?
ヴェルナは目の前で見せつけられる光景を、
ただカフェテリアの背景として見つめるのであった。
◆
コツコツ……。
レオニスは王宮の禁書庫にきていた。
王族でさえ、容易に立ち入りを許されていない場所だ。
クラウスと開発した光魔法で、
移動しながらも姿が見えないようになった。
そのおかげで、驚くほど容易に潜り込むことができた。
(音だけが隠せないのが問題だな……)
そう魔法の問題点と改善点を考えながら、
最奥まで到達する。
建国神話に関する資料。
今起こっている闇の門について、
何が封印されているのか、
しっかりと知る必要がある。
ふと目を落とすと、
タイトル表記のない、
黒革の手帳のようなものが目につく。
薄く光の魔力を帯びており、
興味をそそられる。
手を取り、外表紙を見渡すと、
古代文字で名前らしきものが記されていた。
ーールクシオン。
それは建国の祖であり、
神話での光の聖者の名前。
その名を、指先でなぞる。
「……これは」
レオニスの瞳が、わずかに細められた。
――世界の根幹に触れる予感が、した。




