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21 刻まれた痕と、気づかない恋

お気に入りの木の下。


木漏れ日が気持ちよくて、

少しだけ心が落ち着く。


それでも——


みんなに言われた言葉を思い出してしまい、

胸の奥が重くなる。


「僕のせいじゃないのに……」


ぽつりと、ひとり呟いた。


「ノクト!こんなところにいた!」


ひょいっと木の影から、白髪の少女が顔を覗かせる。


「ルルティア!」


ノクトの顔がぱっと明るくなる。

けれど、すぐに曇ってしまった。


ルルティアはノクトの隣に座り、

遠くを見つめる。


「ノクトのせいじゃないよ」


やさしく、そう言った。


「みんなが黒い感情を持つようになったのはね。

ヒトと交わって、心を知ってしまったから」


少しだけ寂しそうに笑う。


「でもね」


ルルティアはノクトの頭を撫でた。


「それは、悪いことじゃないんだよ」


さらさらと白い髪が揺れる。


「いつかみんな気づくよ。

だから、手を出して」


ルルティアはノクトの手を取り、

そこから溢れそうになっている魔力を吸い取っていく。


「私は、ノクトに溜まっちゃったみんなの悪いものを流してくるね」


そう言って立ち上がる。


「待って、ルルティア!」


思わず叫ぶ。


もっと一緒にいたいのに。

他の人のところに行ってほしくないのに。


遠くへ行ってしまう彼女の背中を、

何度も呼び続けた——。




「ルルティア!!」


叫びながら、エルヴィンは目を覚ました。


目の前には、驚いた表情のフィリア。


気まずい沈黙が落ちる。


エルヴィンはゆっくりと状況を思い出した。


「ラグナと戦って、それで……」


「それで魔力切れを起こしてしまって……。

その、治すのに魔力が足りなくて。エルヴィン様の魔石を使ってしまって……ごめんなさい」


フィリアは申し訳なさそうに、

空っぽになった魔石を差し出す。


エルヴィンは首を振った。


「僕のためにしてくれたんでしょ」


そう言って、優しく抱きしめる。


「本当にありがとう」


ふわりと甘い香りがした。

フィリアの落ち着く香り。


その時。


フィリアの首筋に、赤紫の傷跡を見つける。


「これは……」


指でそっとなぞる。


「っ!」


フィリアの体がぴくりと震えた。


その反応に、エルヴィンの背筋が震える。


フィリアに、痛みとして僕を記憶に残せた。


それが、この上なく嬉しい。


「痛い?」


悟られないように、静かに聞く。


フィリアは小さく頷いた。


「少し……」


——あぁ。いけない。


どうしようもなく、興奮してしまう。


「ごめんね」


そう言いながら抱きしめる。


けれど。


自分のものだと主張する印が、

愛おしくてたまらない。


ずっと刻み込んでいたい。


僕のものだと、

誰もが分かればいい。


フィリアを大切に思うほど、

側に置いて守りたい。


誰にも触れさせたくない。


たとえそれが、

フィリアの自由を奪うことになったとしても。


フィリアへの黒い想いが止まらない。


まるで——


開けてはいけない蓋を、

開けてしまったように。



(……ルルティア)


フィリアはエルヴィンに抱きしめられながら、

なぜか心が落ち着かなかった。


聞いたことがある名前。


でも、どこで聞いたのか思い出せない。


そして——


女の人の名前……だよね?


夢の中とはいえ、

行かないでと呼び続けていた。


エルヴィン様の好きな人なのかな。


そう思った瞬間、

胸の奥がきゅっと痛んだ。


——どうして?


聞けばいいだけなのに。


そうすれば、きっと心は晴れるのに。


なぜか怖くて、聞けない。


「っ!」


首筋に、ピリッと痛みが走る。


エルヴィン様が噛んだ傷跡。


あの時の、オオカミのような瞳。


逃がさないと、

真っ直ぐ私だけを見ていた。


思い出すだけで震える。


でもそれは、

恐怖だけじゃない。


どこか——


嬉しさにも似た、不思議な気持ち。


触れると走る痛みが、

恥ずかしさと、少しの喜びを思い出させる。


「痛い?」


エルヴィンの言葉に、

どう答えるか迷う。


痛いと言ったら、

この傷は回復魔法で消されてしまうのだろうか。


「少し……」


もう少しだけ。


この痛みを味わっていたい。


思い出として、

ちゃんと記憶に残すまで。


「ごめんね」


エルヴィンの言葉に首を振る。


元はと言えば、

私が悪いのだ。


ボロボロになっても守ってくれたエルヴィン。


「ありがとう」


小さく、呟いた。



「で!あの後どうなったわけ!?」


休み時間に入るなり、

ヴェルナがフィリアに詰め寄った。


「あの時、私一人残されて寂しかったんだからね!

行き先も教えてくれなかったから追いかけられなかったし、それに——」


と、あの時の恨みをぐちぐち語り始める。


「あの時はごめんね。

私も転移魔法で移動したから、何が何だかわからなくって……」


そう謝ると、

今度は転移魔法の話題に変わった。


そんな中——


「エルヴィン様!ラグナ様に勝った勇姿、素敵でした〜♡」


黄色い声と共に、

エルヴィンが女生徒達に囲まれていた。


あの対決のせいで、

エルヴィンの株が一気に上がり、


今まで遠慮していた女生徒達も

「話す口実ができた」と押し寄せている。


「ねぇ、フィリア。

あれ、ほっといていいの?」


エルヴィンが困ったような顔で

こちらを見ている気がする。


「どうして?」


フィリアはきょとんとした。


「え?いや?だって……」


ヴェルナは当たり前のように言う。


「付き合ってるんでしょ?」


「え?」


「へ?」


しばしの沈黙。


先に口を開いたのはヴェルナだった。


「だって!

魔力共有もしてるし!

抱きしめたりとかしてたし!

付き合ってるんじゃないの!?」


「えっと……」


フィリアは困った顔で言う。


「好きって言われたこともないし。

魔力もゼロだから入れてくれただけだし……」


少し考えて、


「たぶん、違うんじゃないかな?」


「んなっ……」


あまりの衝撃にヴェルナが固まる。


「可愛いって言われたことは?」


「ない」


「愛してるって言われたことは?」


「ない」


「結婚しようとか!婚約者になってとか!」


「ないよ〜」


フィリアはあっさり言う。


「だから違うんだよ」


「……」


ヴェルナは頭を抱えた。


それでも諦めず、


「じゃあ、フィリアは彼をどう思ってるの?」


直球を投げる。


フィリアは少し考えて——


「…………お母さん、かな?

かなり過保護な」


知らない人についていくなとか。


色々思い出すと、

心配ばかりされている気がする。


ヴェルナは完全に固まった。


そして。


遠くから、無言で助けを求めてくるエルヴィンに


ゆっくりと——


首を振ってみせた。


お話お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)


お気に入りの木の下で。

ノクトとルルティアのイメージイラストを置いておきます。

※AIが画像作成してくれました。

挿絵(By みてみん)

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