表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/38

20.5 喪失と執着 〜ラグナの追憶〜

これはおまけ話です。

本編とは少し離れたお話のため、

飛ばしていただいても大丈夫です(*´꒳`*)


19話後のお話。ラグナ様のエルヴィンへの想い。

おまけエピソード書いてみました。


呼吸すら忘れる静寂の中で――

ラグナは、ふっと笑った。


「……見事だ」


実に愉しかった。

あれほど心が躍る闘いは、未だかつてない。


子供の頃に抱いた確信は、間違っていなかった。

エルヴィンには、どこまでも伸びていく才がある。


……精神は、まだ幼いがな。


静かに瞼を閉じた。



「なぜ母様が虐げられなければならないのです!」


黄金の瞳が怒りに震え、

灼紅の髪が熱を孕んで揺れている。


紫がかった淡紅の髪の女性は、諭すように微笑んだ。


「ラグナ、大丈夫よ。いつかわかってくれるから」


今にも消えてしまいそうな、儚い微笑みだった。


怒りの矛先を誤ったと悟った瞬間、

悔しさと悲しみが胸を満たす。

そのすべてを理解したように、母は優しく抱きしめてくれた。


……父様が憎い。


母様と父様は恋愛結婚だったらしい。


学園の高嶺の花だった母様を、やっと手に入れたのだと――

父様は誇らしげに語っていた。


その言葉に嘘偽りは感じられないが、

愛も感じられなかった。


ただの戦利品。


母様は、一度たりとも愛されたことなどなかったのだろう。


貴族とは、そういうものだ。


それでも母は言った。


「今の生活は幸せだ」と。


日を追うごとに、髪はより灼紅に染まり、黄金の瞳は輝きを増した。

本来は中等学院前に行う属性検査を、四歳で受けることになった。


結果は――凄まじかった。


屋敷中を眩い光と熱で染め上げる魔力量。

誰もが息を呑んだ。


父様だけが、怯えた目でこちらを見ていた。


そして始まった。


母の不貞の疑い。


学園時代に親しかった王弟殿下の子ではないかと。


ーー


黄金の瞳が嫌いだった。


これがなければ、母様が疑われることはなかったかもしれない。


いくら正妻の子だろうが、

いくら魔力量が多く次期当主の器に相応しかろうが、

現当主の権力の前に、子供が勝てるものなどない。


腫れ物のように扱われ、存在は無きものとされた。


母様の存在は――消えた。


……間に合わなかった。


守る力がなかった。


あの時すべてを持っていたなら、奪われなかった。


復讐は、あっさりと終わった。

驚くほどつまらなかった。


心は晴れず、残ったのは空虚だけ。


失ったものは戻らない。


いらない地位と、権力と、金と――

どうでもいいものばかりだ。


手にした以上、責任は果たす。

あの男と同じになるのは御免だ。


あまりにもつまらない日々が始まった。


……幸せとは、なんなのだろうな。



「嫌な記憶を思い出したものだ……」


ラグナはゆっくりと身を起こす。


周囲では学生たちが興奮気味に語り合っている。


エルヴィンは――いない。

循環の小娘も、レオニスも。


「……ふっ」


笑いがこみ上げた。


誰も俺の心配をしないとは。


あいつとは、正反対だな。


あれほど愛されているのに。

なぜ、人形のように生きていたのか。



初めて会ったのは、四歳頃だったか。


レオニスの後ろに隠れて震えていた。


何度か遊ぶうちに慣れ、後ろをついて回るようになった。


すべてが初めてのように、無垢な瞳を輝かせて。


ある日、レオニスと木に登ると、下から泣き声がした。


「レオニスもラグ兄様もずるい!!」


“ずるい”とは何事か。


力も魔力もある。

物理でも魔法でも、登る方法はいくらでもある。

少し努力すればいいだけなのに、何もしない。


こっぴどく叱った。


あの日は大泣きして、


「ラグ兄様のバカー!」と去っていったが、


次に会った時には木に登れるようになっていた。


エルヴィンの成長が、純粋に嬉しかった。


だが同時に――怖かった。


すべてを持つ者が、すべてを奪われる危うさを。


この世界は、純粋なままでは生きられない。


誰も教えないなら――

俺が教えてやろう。


奪われてからでは、遅いのだと。


何度か会ううちに、骨のあるやつになった――

そう思っていたのに。


久々に再会したエルヴィンは変わっていた。

大切なものを失った目。


気づいてやれなかった。


言葉は届かず、壁だけが残った。

昔の呼び名は消え、公爵家として接するようになった。


時が経っても変わらない。


つまらない男になったものだ。


――会うこともなくなった。



学園で見かけた時、驚いた。


たった一人の少女のために怒りを見せていた。


フィリア・リヴァリエ。

あれが、変えたのか。


オーロラの髪からふわりと香った甘い果実の匂い。


あれの魔力は“美味しい”らしい。

思わず笑みがこぼれた。


まだ――誰のものでもない。


そして思い出す。

エルヴィンの真剣な顔。


――ヴォイド・テンペスト。


真空のドーム。

炎龍の消滅。

そして窒息。


詠唱は遅い。次は対処できる。


熱膨張による圧力爆発。

爆風対策の減圧シールドも必要だ。


……あの黒い雨。


魔力そのものを分解していた。

魔法そのものが消える可能性。


一体、あれは何だ。


口元が歪む。


……面白い。


次に相まみえる時が、楽しみでならない。


夕闇の中、静かに燃える焔が溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ