19.5 困った幼なじみと、獲物を狙う男〜レオニスとラグナの思惑〜
これはおまけ話です。
本編とは少し離れたお話のため、
飛ばしていただいても大丈夫です(*´꒳`*)
ラグナとレオニスの
おまけエピソード書いてみました。
「それで、エルヴィンったら、すごく変わっててさ」
旧友を前に、レオニスは楽しげに言葉を弾ませる。
公式の場にしかほとんど姿を見せなかったエルヴィン。
穏やかな表情の裏で、他者へ一切の興味も感情も向けていなかったことを――
友であったからこそ、レオニスは知っている。
「あのエルヴィンがね、女の子を夢中で追いかけてるんだよ」
すごくない? と、心底面白そうに笑う。
「ほぅ」
ラグナは、先日のマリエッタの一件を思い出す。
ふと中庭へ視線を向ければ、エルヴィンが感情を露わに立っていた。
そして――上位魔法にも匹敵する竜巻が、黒い風によって一瞬で霧散する。
魔力量の高さは昔から評価していた。
だが、それだけではない。
(技術も、磨いているか……)
興味が、芽生える。
「でね、その女の子がまたすごくてさ。
四属性適性な上に、魔力を吸収、変換、そして譲渡できるんだ」
レオニスは肩をすくめる。
「譲渡された魔力って、“美味しい”らしいよ?
人によって味も違うみたいだし……」
「一度味わってみたくない?」
意味深に、笑う。
「王家としても、目が離せなくてね。
エルヴィンの恋は応援したいけど、他に流出はさせたくないし……何より、存在が知られたら危ないでしょ?」
困ったように言いながらも、その声音はどこか楽しげだった。
――魔力の味、か。
初めて耳にする概念に、そしてこの状況そのものに、ラグナの口元が自然と歪む。
久しく感じていなかった高揚が、胸の奥でじわりと広がった。
戦場でも政争でも得られなかった、
飢えた獣が獲物を見つけた時のような、
どろりとした期待が喉の奥に絡みつく。
(あの弱虫だったエルヴィンが――どこまでしがみついてこれるか)
ラグナは、揺らめく黄金の瞳に隠しきれない所有欲を滲ませた。
「その女は、すでにエルヴィンのものなのか?」
ラグナは、短く問う。
「うーん……どうだろうね」
レオニスは軽く首を傾げる。
「きっと、まだ時間がかかると思うよ?」
その答えを聞いた瞬間、ラグナは愉しげに笑った。
――まだ、落としていない。
ならば。
囲おうとして失敗しているか、あるいは外堀を埋めるつもりで手間取っているのだろう。
何度も奪われることを教えてやっているというのに、まるで学ばない。
「大切なものは、手にした瞬間から――二度と離さない覚悟でいなければ意味がない」
ぽつりと呟く。
「奪われる程度のものを、“大切”とは呼ばん」
静かな断言だった。
「うわっ、こんな時間!」
レオニスは時計を見て、わざとらしく声を上げる。
「これから例の彼女に会いに行くんだ。じゃあね――」
軽やかに立ち去ろうとした、その肩を。
ラグナが掴んだ。
「連れて行け」
短い命令。
ラグナの黄金の瞳には、獲物を定める猛獣のような鋭い光が宿っていた。
レオニスは、やれやれと大袈裟に肩をすくめて見せる。
「やっぱり、そうなるよね〜」
だが、その口元には隠しきれない愉悦が浮かんでいた。
レオニスの星屑のような瞳が、計算通りに動く旧友を映して、満足げに細められる。
その光は慈愛ではなく、
チェス盤上の駒を見つめるプレイヤーのそれだった。
すべては、想定の内。
最初から、こうなることは分かっていたのだ。
独占欲の強いエルヴィン、略奪を厭わぬラグナ。
その中心に「循環の乙女」であるフィリアを置く。
何もしなくとも事は起きていた。
ならば、舞台を用意してあげた方がいい。
「あいつが囲うのに失敗するくらいなら。
奪っても――構わんのだろう?」
当然のように問いかけるラグナ。
「……お手柔らかに頼むよ」
レオニスは聖者のような笑みを浮かべた。
その一言に、わずかな静寂が落ちる。
自身の手は汚さず、人の興味をくすぐり、望む結果へと盤面を誘導する。
ラグナは、その手のひらの上で踊らされている感覚に、微かな不快感を覚えた。
だが――。
エルヴィンも、その女も。
どちらも、興味深い。
面白くなりそうだ――
誰が奪い、誰が壊れ、誰が残るのか。
自然と口元が吊り上がる。
ーー今は舞台の上で踊ってやろう。
レオニスとラグナは、サロンへと足を向けた。
その先に待つ、まだ見ぬ“獲物”の甘い味を思い描きながら――。




